「物件は満室で、家賃もきちんと入っている。なのに、銀行の反応が鈍い」。不動産投資の法人を経営している方から、よく聞く悩みです。その答えは、多くの場合銀行格付けにあります。
銀行は、決算書を一定のルールで点数化し、融資先を格付けしています。そして不動産投資・賃貸業の法人は、この格付けで点を取りにくい構造を持っています。この記事では、私の著書『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』で紹介している129点満点のモデルに沿って、賃貸業の決算書がどう採点されるかと、格付けを上げる手順を解説します。
- 著書のモデルでは、格付けは129点満点(安全性34・収益性15・成長性25・返済能力55)。32点以上が正常先の目安
- 不動産賃貸業は、借入が大きく利益が小さいため、安全性と返済能力で点を落としやすい
- 銀行は物件を路線価などで評価し直した実態BSで見る。帳簿上は黒字でも実質債務超過と判断されることがある
- 最初に目指すのは「正常先+純資産1億円」。そのために債務償還年数とICRを物件購入前から管理する
銀行格付けの仕組み|著書の129点満点モデル
銀行の格付けの方法は公表されておらず、銀行ごとに異なります。かつては金融庁の金融検査マニュアルを背景に各行が体系をつくっていましたが、このマニュアルは2019年12月に廃止され、現在は各行が独自に運用しています。それでも、安全性・収益性・成長性・返済能力の4分野で決算書を点数化するという骨格は、大きくは変わっていません。
著書では、この骨格を次のような129点満点のモデルで解説しています。
| 分野 | 配点 | 主な指標 |
|---|---|---|
| 安全性 | 34点 | 自己資本比率、流動比率、固定長期適合率、ギアリング比率 など |
| 収益性 | 15点 | 売上高経常利益率、総資本経常利益率、売上高営業利益率 など |
| 成長性 | 25点 | 売上高増加率、経常利益増加率、自己資本増加率 など |
| 返済能力 | 55点 | 債務償還年数(20点)、ICR(15点)、償却前営業利益(20点) |
合計点によって、融資先は「正常先」「要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」に区分されます。著書のモデルでは、正常先の中にもさらに段階があり、点数との対応は次のとおりです。
| 格付け | 点数 | イメージ |
|---|---|---|
| 1 | 116点以上 | リスクなし。大企業や政府系機関 |
| 2 | 103〜115点 | ほとんどリスクなし。財務優良な上場企業 |
| 3 | 82〜102点 | リスクはわずか。業績の安定した中堅企業 |
| 4 | 65〜81点 | リスクはあるが良好な水準 |
| 5 | 52〜64点 | リスクはあるが平均的な水準 |
| 6 | 32〜51点 | リスクはやや高いが許容範囲。正常先の最下位 |
| 7以下 | 31点以下 | 要注意先以下。融資が止まる世界 |
※点数の範囲は著書のモデルにもとづく目安で、実際の基準は金融機関によって異なります。
この表は大企業も含めた全法人を同じ物差しで並べたものなので、中小の不動産投資の法人がいきなり格付け4や5を狙うのは現実的ではありません。まずは格付け6、つまり正常先にとどまり続けることが最初のゴールです。ここを下回ると要注意先となり、銀行は貸倒れに備えた引当金を多く積む必要が出るため、新規の融資は事実上難しくなります。
不動産賃貸業の決算書は、どこで点を落とすか
不動産賃貸業の法人の決算書を、このモデルに当てはめてみると、点を取りやすい項目と取りにくい項目がはっきり分かれます。
| 分野 | 賃貸業の典型的な姿 | 点の取りやすさ |
|---|---|---|
| 安全性 | 物件を借入で買うため総資産も負債も大きく、自己資本比率が低くなりやすい | 取りにくい |
| 収益性 | 売上高に対する利益率は比較的高い。ただし修繕費の増加や空室で徐々に悪化しやすい | 比較的取りやすい |
| 成長性 | 物件を買い増さない限り売上が伸びにくい | 買い増しを続ければ取れる |
| 返済能力 | 借入の大きさに比べて年間の利益が小さく、債務償還年数が長くなりがち | 取りにくい |
特に注意したいのが、安全性と返済能力が連動して悪化することです。フルローンに近い買い方を続けると、自己資本比率が下がり(安全性)、借入が増えて債務償還年数も延びる(返済能力)。この2分野の合計は89点と全体の約7割を占めるため、ここで同時に点を落とすと、収益性や成長性でいくら稼いでも正常先のラインを維持するのが難しくなります。
償却前営業利益は、中小企業では点が取りにくい
返済能力55点のうち、償却前営業利益の20点は、利益の絶対額で評価されるため、中小企業が満点近くを取るのは現実的ではありません。そのため、債務償還年数(20点)とICR(15点)の35点が、不動産投資の法人にとっての勝負どころになります。ICRの計算方法と目安は、ICRとは?不動産投資の融資で見られる指標で解説しています。
銀行は物件を評価し直す|「実態BS」の考え方
格付けのもとになる決算書は、そのまま採点されるとは限りません。銀行は資産を独自の基準で評価し直した実態BSで判断します。不動産投資の法人で修正されやすいのは、次のような項目です。
- 土地:路線価などで評価し直される。都心ほど時価と路線価の差が大きく、帳簿価額を大きく下回ることがある
- 建物:銀行独自の再調達価格や経過年数で評価される。建築費が高騰した時期の新築は、帳簿価額より低く評価されやすい
- 太陽光などの設備:換金しにくく、ほぼゼロに近い評価になることが多い
- 海外不動産:日本の銀行には評価の手段がなく、評価の対象外になりやすい
- 役員貸付金・仮払金:資金の私的な流用を疑われ、資産から除かれやすい
私自身、銀行の担当者から「当行の基準で評価し直すと、少し数字が変わります」と言われ、帳簿上1億円を超えていた純資産が、銀行の評価では3,000万円程度まで圧縮されていた経験があります。帳簿上は純資産がプラスでも、実態BSでは債務超過ということは、不動産投資の法人では珍しくありません。
債務償還年数|不動産賃貸業はどこまで許されるか
返済能力の中心である債務償還年数は、著書では次の式で計算します。
一般の事業会社では10年以内が健全、20年超は厳しいとされます。不動産賃貸業は、物件が担保になり長期にわたって安定した賃料を生むため、銀行はもう少し長い年数を許容することもあります。それでも著書のモデルでは、法人全体で20年を超えたら赤信号です。
大切なのは、この年数を「決算が出てから知る」のではなく、物件を買う前に、購入後の数字を試算することです。新しい物件の借入額と、その物件が生む利益(償却前)を加えて、法人全体の債務償還年数が20年を超えるなら、その物件は少なくともその条件では買うべきではありません。計算の手順は決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェックでも詳しく紹介しています。
不動産投資の法人が格付けを上げる手順
1. まず「正常先+純資産1億円」を目指す
著書では、プロパー融資を受けながら買い進めるためのスタートラインを、正常先(32点以上)+純資産1億円としています。純資産1億円は法律で決まった基準ではありませんが、想定外の空室や大規模修繕、金利上昇が重なっても債務超過に転落しない厚みとして、銀行の見方が一段変わる目安です。詳しくは純資産1億円の壁で解説しています。
2. 利益を削らず、きちんと納税する
利益を圧縮すれば税金は減りますが、純資産は積み上がらず、債務償還年数も改善しません。私が繰り返しお伝えしている「払った税金の2倍、会社は強くなる」という言葉は、納税した後に残る利益こそが純資産を積み上げ、格付けを押し上げる、という意味です。
3. 実態BSを傷める資産を整理する
含み損を抱えた物件、銀行の評価がつかない資産、役員貸付金などは、実態BSを悪化させます。2019年に複数の銀行から融資を断られたとき、私が取った手は、毀損した物件の売却、納税、現預金の積み増しでした。拡大とは逆の手ですが、実態BSを立て直すことが格付けを戻す近道でした。
4. 決算書を「説明できる」状態で持っていく
格付けは決算書の数字で決まりますが、融資の判断には定性面も加わります。純資産の増減、借入の増加、大きく動いた科目について、理由と今後の計画を説明できるように準備してください。
まとめ
- 著書の129点満点モデルでは、返済能力55点と安全性34点が全体の約7割。正常先の目安は32点以上
- 不動産賃貸業は、借入が大きく利益が小さいため、安全性と返済能力で同時に点を落としやすい
- 銀行は物件を評価し直した実態BSで見る。帳簿上の純資産を過信しない
- 債務償還年数は物件を買う前に試算する。法人全体で20年を超える買い方は避ける
- 目指すのは正常先+純資産1億円。利益を削らず納税し、実態BSを傷める資産を整理する
格付けの一般的な上げ方は銀行格付けを上げる方法でも解説しています。自社の決算書が銀行にどう採点されているかを知りたい方は、不動産投資家向けのサービスからご相談ください。
