「民泊は宿泊料に消費税がかかる。だから民泊用に買う建物の消費税は控除できるはず」。こう考えて物件を買う方は少なくありません。たしかに民泊の売上は課税売上です。しかし、取得時の消費税を控除できるかどうかは、別のルールで判定されます。
税抜1,000万円以上の建物は、住宅の貸付けに使わないことが明らかでない限り、居住用賃貸建物として仕入税額控除が制限されます。そして住宅宿泊事業(いわゆる民泊新法の民泊)に使う建物は、法律上「住宅」です。この記事では、民泊物件の取得時の消費税について、旅館業との違い、取得後に民泊を始めた場合の調整、法人と個人の処理を整理します。民泊の所得区分そのものは民泊の税金と確定申告で解説しています。
- 民泊の宿泊料は課税。住宅宿泊事業は消費税上、旅館業に該当するものとして非課税にならない(基本通達6-13-4注)
- ただし取得時の控除は居住用賃貸建物かどうかで決まる。住宅宿泊事業の建物は法律上の「住宅」で、取得時に「住宅に使わないことが明らか」と言い切れるかは慎重に判断する
- 旅館業(簡易宿所)の許可を受けた施設として取得するなら、通達11-7-1(2)により居住用賃貸建物に当たらない
- 控除できなかった建物で第3年度の課税期間の末日までに民泊を始めれば、35条の2の調整で一部を加算できる(国税庁質疑応答事例)
- 建物が税抜1,000万円未満なら居住用賃貸建物の制限はなく、通常の用途区分(課税対応・共通対応)で考える
民泊の3つの形と消費税
一口に民泊といっても、法律上の枠組みは一つではありません。
| 形態 | 根拠法 | 宿泊料の消費税 | 年間の営業日数 |
|---|---|---|---|
| 簡易宿所など旅館業の許可 | 旅館業法 | 課税 | 制限なし |
| 住宅宿泊事業(民泊新法) | 住宅宿泊事業法 | 課税(通達6-13-4注) | 年間180日以内 |
| 国家戦略特区の民泊など | 特区法令 | 個別に確認 | 制度ごとに異なる |
住宅宿泊事業法2条3項は、住宅宿泊事業を、旅館業法の営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業で、宿泊させる日数が1年間で180日を超えないものと定めています。そして同条1項の「住宅」は、台所・浴室・便所・洗面設備など生活の本拠として使うための設備があり、人の居住の用に供されていると認められる家屋をいいます。
つまり、住宅宿泊事業の建物は、住宅として使える設備を備えた家屋であることが前提の制度です。ここが、居住用賃貸建物の判定で問題になります。
取得時の判定:住宅宿泊事業の建物は「明らか」といえるか
判定の基準
居住用賃貸建物は、住宅の貸付けに使わないことが明らかな建物以外の、税抜1,000万円以上の建物です(消費税法30条10項)。「明らか」とは、建物の構造及び設備の状況その他の状況により、住宅の貸付けに使わないことが客観的に明らかなものをいいます(基本通達11-7-1)。
通達は例として「旅館又はホテルなど、旅館業法第2条第1項に規定する旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物」を挙げています。旅館業(簡易宿所など)の許可を受ける施設として取得・建築する建物は、この例に当たりやすいといえます。
住宅宿泊事業の場合
一方、住宅宿泊事業の建物について、取得時に居住用賃貸建物に当たるかどうかを正面から示した国税庁の公表資料は、本稿執筆時点で確認した範囲では見当たりませんでした。そのうえで、次の点を踏まえると、慎重に考えるべきだといえます。
- 通達11-7-1は、構造や設備の状況で客観的に判断するとしている
- 住宅宿泊事業の建物は、住宅宿泊事業法上の「住宅」として、台所・浴室などの設備を備えていることが前提
- 営業日数は年間180日以内で、残りの期間に住宅として貸すことも物理的には妨げられない
通達6-13-4の注書きは、宿泊料が非課税にならないことを示したものです。これをもって、取得した建物が居住用賃貸建物に当たらないとまで読めるかは、別の問題です。税抜1,000万円以上の建物を住宅宿泊事業のために取得するなら、居住用賃貸建物として控除できない前提で資金計画を立て、後述の調整で取り戻せる部分を見込む、という考え方が安全です。
| 取得のしかた | 居住用賃貸建物か(税抜1,000万円以上) | 取得後の扱い |
|---|---|---|
| 簡易宿所の許可を受ける施設として取得・建築 | 該当しない方向(通達11-7-1(2)) | 取得時に控除 |
| 住宅宿泊事業の届出住宅として取得 | 慎重に判断。該当する前提で計画するのが安全 | 該当すれば35条の2の調整 |
| 入居者付きのアパートを買い、一部を民泊に転用 | 該当 | 35条の2の調整(国税庁質疑応答事例) |
判定の時期や用途未定の建物の考え方は、居住用賃貸建物の判定実務で整理しています。
取得後に民泊を始めた場合の調整
国税庁の質疑応答事例
国税庁は質疑応答事例「居住用賃貸建物を取得後一定期間内に民泊サービスの用に供した場合」で、次のケースを取り上げています。
- 3月決算の法人が、3階建てアパートを取得した。居住用賃貸建物として、取得に係る消費税は取得した課税期間で控除できなかった
- その後、アパートの1階部分で住宅宿泊事業による民泊サービスを始める計画がある
回答は、民泊サービスは非課税となる住宅の貸付け以外の貸付けである「施設の貸付け」に当たるから、居住用賃貸建物の一部を民泊サービスに供した場合は「課税賃貸用に供した場合」に該当し、第3年度の課税期間の末日までに開始すれば、居住用賃貸建物の取得等に係る消費税額の調整(消費税法35条の2)の対象になる、というものです。
加算額の計算
調整期間は、建物の仕入れ等の日から第3年度の課税期間の末日までです。第3年度の課税期間は、取得した課税期間の開始の日から3年を経過する日の属する課税期間です。
民泊の売上が大きく、住宅としての家賃が少ないほど、加算額は大きくなります。ただし次の前提があります。
- 第3年度の課税期間の末日にその建物を持っていること(調整期間中に売却した場合は、売却した課税期間で別の計算)
- その課税期間に課税事業者であること(35条の2は免税事業者を除いている)
- 第3年度を過ぎてから民泊を始めても、この調整はない
本則課税で税抜1,000万円以上の建物を取得すると、居住用賃貸建物であっても高額特定資産の3年縛りがかかり、第3年度までは免税事業者にも簡易課税にもなれません(国税庁タックスアンサーNo.6502)。結果として、調整を受けられる状態が続くことになります。
1,000万円未満の物件は用途区分で考える
区分マンション1戸など、建物部分が税抜1,000万円未満なら、居住用賃貸建物の制限はかかりません。この場合は、課税売上割合が95%未満などで個別対応方式を使うとき、通常の用途区分で考えます。
- 取得時から民泊専用で使う → 課税売上(宿泊料)にのみ対応する課税対応が考えられる
- 入居者付きで買い、退去後に民泊にする → 取得時点で住宅家賃(非課税)にも対応するため共通対応が原則
用途区分は取得の日の状況で判定され、目的だけで課税対応にはできません。最高裁令和5年3月6日判決(令和4年(行ヒ)第10号、エー・ディー・ワークス事件)は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れは、事業者の意図等にかかわらず共通対応に当たると判断しました(判決原文(PDF))。用途区分と計算方法の選び方は個別対応方式と一括比例配分方式で解説しています。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る税務上の扱い:法人と個人の違い
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 民泊の宿泊料の消費税 | 課税 | 課税 |
| 所得の区分 | 法人の所得 | 住宅宿泊事業は原則として雑所得(国税庁の情報)。実態により不動産所得・事業所得 |
| 課税期間と第3年度 | 事業年度で数える | 暦年で数える |
| 控除できなかった消費税(税抜経理) | 資産に係る控除対象外消費税額等。取得価額算入か、60か月で損金算入(損金経理が要件) | 取得価額算入か、60か月で必要経費算入 |
| 35条の2で加算されたとき(税抜経理) | 差額を第3年度の益金に算入(国税庁質疑応答事例) | 調整があった年の処理になる。個別に確認 |
個人の民泊は、所得区分によって赤字の損益通算の可否も変わります。詳しくは民泊収入の所得区分で整理しています。
会計上の扱いと銀行からの見え方
決算書の表示
控除できなかった消費税を建物の取得価額に含めるか、繰延消費税額等として別に計上するかで、貸借対照表の科目と毎期の費用の出方が変わります。第3年度に35条の2の調整で加算された税額は、本業の売上ではありません。
税務上は損金算入が認められるかが論点になる一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行が見るポイント
- 民泊は住宅賃貸より稼働率と単価の振れが大きい。銀行は保守的な稼働率で返済力を見る
- 取得時に控除できない消費税は自己資金か借入れで負担する。第3年度の加算はあくまで将来の見込みで、資金計画の前提にしすぎない
- 住宅宿泊事業の180日の上限は、収支計画の売上の上限にも直結する
- 用途を変える場合は、融資契約の資金使途や物件の用途に関する条項にも注意する(用途転用と融資契約)
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。控除できない消費税の分だけ借入れが増えれば、この指標は悪化します。
実務のチェックポイント
- 建物部分(附属設備を含む)は税抜1,000万円以上か
- 旅館業(簡易宿所)の許可を取る施設か、住宅宿泊事業の届出住宅か
- 取得の日に、住宅に使わないことが構造・設備・契約から明らかといえる資料があるか
- 控除できない前提で自己資金と借入額を組んだか
- 民泊を始める時期は第3年度の課税期間の末日より前か。その時点で建物を持ち、課税事業者である見込みか
- 1,000万円未満の物件なら、取得時の用途区分(課税対応か共通対応か)を確認したか
まとめ
- 民泊の宿泊料は課税だが、取得時の控除は居住用賃貸建物かどうかで決まる
- 住宅宿泊事業の建物は法律上の「住宅」。取得時に「住宅に使わないことが明らか」と言い切れるかは慎重に判断し、控除できない前提で計画するのが安全
- 旅館業(簡易宿所)の施設として取得するなら、居住用賃貸建物に当たらない方向で考えられる
- 控除できなかった建物でも、第3年度の課税期間の末日までに民泊を始めれば35条の2の調整がある
- 1,000万円未満の物件は、取得時の用途区分(課税対応・共通対応)で判断する
民泊は、許可・届出の形と消費税の判定が密接につながっています。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、取得前の消費税の判定から、融資を見据えた収支計画と決算書づくりまでご相談をお受けしています。
