民泊を始める方からよく受けるのが、「民泊の収入は、家賃収入と同じ不動産所得でいいのか」という質問です。結論から言うと、民泊収入の所得区分は、原則として雑所得で、一定の場合に不動産所得や事業所得になります。区分によって、赤字を給与と相殺できるか、青色申告特別控除を使えるかが変わります。
一般向けの解説は民泊の税金と確定申告にまとめています。この記事では、そこから一歩進めて、区分の判断基準を最高裁判決と裁決事例で確認し、法人で行う場合の違い、決算書の表示、銀行からの見え方まで扱います。
- 国税庁の公表情報では、自宅で行う住宅宿泊事業(民泊)の所得は原則として雑所得。空室期間の一時的な民泊は不動産所得に含めてよく、事業として明らかなら事業所得
- 事業所得かどうかは「社会通念上事業と称するに至る程度」かどうか。最高裁昭和56年4月24日判決の基準と、帳簿の有無が判断材料になる
- 雑所得の赤字は損益通算できない。小規模な取組みが事業と認められなかった裁決事例もある
- 法人で行えば所得区分の問題はないが、消費税・許認可・物件取得時の消費税の論点は残る
- 決算書では、民泊が本業の一部かどうかで表示区分を検討する。銀行は収入の安定性と許認可を確認する
民泊の所得区分:国税庁の公表情報の整理
原則は雑所得とされている理由
国税庁は、住宅宿泊事業法の施行にあわせて、平成30年6月13日に「住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業により生じる所得の課税関係等について(情報)」を公表しました。この中で、自己が居住する住宅を使って行う住宅宿泊事業の所得は、原則として雑所得に区分されるとしています。
理由として挙げられているのは、次の2点です。
- 宿泊者の安全確保や一定の宿泊サービスの提供が義務付けられ、宿泊料には部屋の使用料のほか、寝具の賃貸料、クリーニング代、水道光熱費、清掃費、日用品費などの対価が含まれる。この点で一般的な不動産の貸付けとは異なる
- 住宅宿泊事業に使える家屋が限定され、宿泊日数も制限されている
つまり、「部屋を貸しているから不動産所得」とは考えず、サービスを伴う宿泊の提供として位置付けているわけです。
不動産所得・事業所得になる場合
同じ情報の中で、次の2つの例外が示されています。
| 区分 | 該当する場合(国税庁の公表情報) | 損益通算 | 青色申告特別控除 |
|---|---|---|---|
| 雑所得(原則) | 自己が居住する住宅で住宅宿泊事業を行う | できない | なし |
| 不動産所得 | 不動産賃貸業を営む人が、前の賃貸契約の終了後、次の契約までの間に一時的に民泊を行う | できる(土地等の負債利子など制限あり) | 事業的規模なら最高55万円(一定の要件で65万円) |
| 事業所得 | 専ら民泊の所得で生計を立てているなど、事業として行われていることが明らか | できる | 最高55万円(一定の要件で65万円) |
不動産所得の例外は、あくまで「賃貸業の空室期間に一時的に行う」場合です。最初から民泊専用として運営する物件にそのまま当てはまるわけではありません。
なお、旅館業法の許可を受けて簡易宿所として営業する場合も、部屋の提供に宿泊サービスが伴う点は同じです。所得税基本通達26-4は、食事を提供する下宿の所得を事業所得または雑所得としており、サービスの度合いが強いほど不動産所得から離れていく、という考え方が読み取れます。
事業所得になるかどうかの判断基準
最高裁が示した「事業」の基準
所得税基本通達35-2の注は、事業所得と認められるかどうかは、その活動が社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するとしています。
この「事業」の意味について、よく引用されるのが最高裁判所第二小法廷 昭和56年4月24日判決(昭和52年(行ツ)第12号、民集35巻3号672頁)です。弁護士の顧問料が事業所得か給与所得かが争われた事件で、最高裁は、事業所得を「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」と述べました。
民泊に当てはめると、たとえば次のような事情が判断材料になります。
- 物件数や客室数、年間の稼働日数、売上の規模
- 清掃・予約対応などの人的体制、運営のための設備
- 継続して利益を見込める収支計画か、実際に利益が出ているか
- 生計の中での比重(給与など他の収入との関係)
帳簿がない場合は原則雑所得
令和4年10月に改正された所得税基本通達35-2の注では、さらに、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合を除く)は、業務に係る雑所得に該当することに留意するとされています。
事業所得として申告したいのであれば、少なくとも日々の取引を帳簿に記録し、証憑を保存していることが前提になります。
事業と認められなかった裁決事例
民泊そのものの公表裁決は見当たりませんが、副業的な取組みが「事業」に当たるかが争われた事例は参考になります。
- 国税不服審判所 令和4年12月14日裁決:自宅屋根の太陽光発電設備による売電について、売電収入が減価償却費に満たない小規模なもので、営利性や物的設備に乏しく、人的設備もないとして、事業所得を生ずべき事業には当たらないと判断しました。
- 国税不服審判所 平成12年9月19日裁決(裁決事例集No.60):主に給与収入で生活している人の金銭貸付けについて、事業規模に達していないとして雑所得とし、その損失は損益通算できないとしました。
いずれも、「本人が事業だと思っているか」ではなく、規模・設備・収支・生計との関係という客観的な事情で判断されています。開業初年度の赤字を給与所得と通算する前提で民泊を始めるのは、慎重に考える必要があります。
国税不服審判所「公表裁決事例要旨 所得税法関係 所得の区分」 kfs.go.jp/最高裁昭和56年4月24日判決は裁判所ウェブサイトの判決原文(PDF)
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所得区分の有無
法人税には所得区分がありません。民泊の宿泊料も、家賃収入や売却益と同じく益金として合算されます。雑所得で問題になる「赤字を他と通算できない」という制約は、法人では生じません。
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 所得区分 | 雑・不動産・事業のいずれか | なし(すべて益金) |
| 赤字の扱い | 雑所得の赤字は損益通算不可 | 他の事業の利益と合算 |
| 家事関連費 | 床面積や宿泊日数などで按分が必要 | 法人の物件なら按分の問題は通常生じない |
| 青色申告特別控除 | 事業所得・事業的規模の不動産所得のみ | なし |
| 宿泊料の消費税 | 課税(免税事業者でなければ申告) | 課税(同左) |
国税庁の情報でも、自宅で行う民泊の水道光熱費や減価償却費は、床面積の割合や宿泊日数などの合理的な方法で按分する計算例が示されています。自宅の一部で行う個人の民泊は、この按分の記録をきちんと残すことが前提になります。
法人でも残る論点:消費税と許認可
民泊の宿泊料は、ホテルや旅館と同じく消費税の課税対象です(同じ国税庁情報)。住宅の家賃が非課税であるのとは扱いが違います。住宅宿泊事業は消費税法基本通達6-13-4の注で旅館業に該当するとされており、住宅の貸付けの非課税にはなりません。
また、民泊用に建物を取得したときの仕入税額控除や、居住用賃貸建物の制限との関係は別の論点です。賃貸住宅として取得し、後から民泊に転用した場合の調整は、民泊物件を取得したときの仕入税額控除と居住用賃貸建物の消費税で扱います。
会計上の扱いと決算書の表示
税務の所得区分と、決算書のどこに表示するかは別の問題です。
法人の決算書では、民泊を継続的な事業として営んでいるなら、宿泊料は売上高に計上し、清掃費やリネン代、予約サイトの手数料は売上原価または販管費として表示するのが自然です。一方、本業とは別に一時的・付随的に得た収入であれば、営業外収益とする考え方もあります。
税務上は益金・損金になるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。定款の事業目的に宿泊事業が入っているか、許認可を取っているかは、その実態を説明する材料になります。表示区分の考え方は「収益は上に、費用は下に」の正しい使い方でも整理しています。
銀行からの見え方
銀行は、民泊の収入を普通の賃貸収入より変動が大きい収入として見るのが一般的です。決算書を説明するときは、次の点を準備しておくと話が進みやすくなります。
- 許認可と届出:住宅宿泊事業の届出番号、旅館業の許可。年間の営業日数の上限(住宅宿泊事業は180日)を前提にした収支か
- 稼働率と単価の実績:月別の稼働率、平均単価、予約サイト手数料と清掃費の比率
- 営業利益・償却前利益への寄与:民泊部門単独で利益が出ているか。赤字部門なら改善の見通し
- 借入との整合:住宅ローンやアパートローンで買った物件を民泊に使うと、資金使途や用途の制限に触れるおそれがある
銀行は、営業利益や経常利益、償却前利益から返済できるかを見ます。著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。民泊の売上が大きくても、手数料と清掃費で利益が残らなければ評価は上がりません。
実務のチェックポイント
| 確認事項 | 見るポイント |
|---|---|
| 運営形態 | 住宅宿泊事業の届出か、旅館業(簡易宿所など)の許可か |
| 所得区分(個人) | 自宅で小規模なら原則雑所得。空室期間の一時利用なら不動産所得。事業性を主張するなら規模・体制・収支・帳簿をそろえる |
| 帳簿 | 取引を記録した帳簿と証憑を保存しているか(35-2の注) |
| 按分 | 自宅利用なら床面積・宿泊日数などの按分根拠を残しているか |
| 消費税 | 宿泊料は課税。基準期間の課税売上高やインボイス登録の有無で申告要否を確認 |
| 法人化 | 法人で行う場合の定款目的、許認可の名義、物件の所有者と運営者の関係 |
| 融資 | 借入契約の資金使途・用途制限に反しないか |
まとめ
- 国税庁の公表情報では、自宅で行う民泊の所得は原則として雑所得。空室期間の一時利用は不動産所得、事業として明らかなら事業所得
- 事業かどうかは、最高裁昭和56年4月24日判決の基準のとおり、独立性・営利性・継続性・社会的地位を客観的に見て判断される。帳簿がなければ原則として雑所得
- 小規模な取組みが事業と認められなかった裁決事例があり、赤字の損益通算を前提にした計画は危うい
- 法人なら所得区分の問題はないが、消費税・許認可・物件取得時の消費税の検討は必要
- 決算書の表示区分は実態に応じて判断し、銀行には稼働実績と許認可を示して説明する
民泊を個人で続けるか、法人で行うかは、所得区分だけでなく、消費税や融資まで含めて判断するテーマです。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、運営形態の整理から決算書の見せ方までご相談をお受けしています。
