建替えや再開発で、借りている建物から退去を求められ、立退料を受け取ることがあります。自宅を借りている個人、店舗や事務所を借りて事業をしている個人事業者、法人、そしてサブリースなどで建物を借りて他人に転貸している事業者。受け取る側の立場はさまざまです。
立退料を受け取った側の課税は、誰が受け取ったか、そして立退料の中身が何の補償かで、所得区分が変わります。立退料を払う側の処理は立退料を払った場合の処理で解説しましたので、この記事では受け取る側に絞って、個人と法人の違い、転貸している貸主の扱い、公表裁決、会計上の表示と銀行の見え方を整理します。
- 個人の借家人が受け取る立退料は、原則として一時所得(所得税基本通達34-1(7))
- そのうち、休業による収入の減少や必要経費の補てんに当たる部分は、事業所得・不動産所得の収入(所得税法施行令94条1項2号)
- 借家権の消滅の対価に当たる部分は譲渡所得(所得税基本通達33-6)
- 法人が受け取る立退料は、内訳にかかわらず全額益金
- 転貸している個人が受け取った立退料は、転借人への補償金を補てんする部分が不動産所得、残りは一時所得とした裁決がある(平成24年3月21日裁決)
- 賃貸人から受け取る立退料は消費税の不課税(消費税法基本通達5-2-7)。賃借人の地位を第三者に譲渡した対価は課税
個人が受け取る立退料の所得区分
3つに分かれる
個人の借家人が受け取る立退料は、その中身によって次の3つに分かれます。
| 立退料の中身 | 所得区分 | 根拠 |
|---|---|---|
| 休業による収入の減少の補償、休業中の給与など必要経費の補てん | 事業所得・不動産所得など(その業務の所得) | 所得税法施行令94条1項2号、所得税基本通達34-1(7)かっこ書 |
| 借家権の消滅の対価 | 譲渡所得(総合課税) | 所得税基本通達33-6、所得税法施行令95条 |
| 上記以外(移転の不便さへの補償など、性質が特定されないもの) | 一時所得 | 所得税基本通達34-1(7) |
所得税基本通達34-1(7)は、借家人が家屋の立退きに際し受ける立退料のうち、立退きに伴う業務の休止等により減少することとなる収入金額や、休業期間中に使用人に支払う給与など各種所得の必要経費に算入される金額を補てんするための金額、そして譲渡所得の収入金額に当たる部分を除いたものを一時所得の例として挙げています。所得税基本通達33-6は、借家権の消滅の対価の額に相当する部分は譲渡所得の収入金額に当たるとしています(所得税基本通達 第33条関係、同 第34条関係)。
自宅の立退料
自宅として借りていた住まいの立退料は、多くの場合、全額が一時所得です。一時所得の金額は「総収入金額−収入を得るために支出した金額−特別控除額(最高50万円)」で計算し、その2分の1が総所得金額に算入されます。引越し費用や新居の仲介手数料のうち、立退きのために直接要した費用は差し引けると考えられますが、新居の家賃そのものは生活費です。
借家権の価値が大きい物件で、合意書上も借家権の消滅の対価として算定されている場合は、その部分が譲渡所得になります。借家権は土地・建物ではないため分離課税ではなく総合課税の譲渡所得で、所有期間が5年を超えれば長期譲渡所得として2分の1が課税対象です。
店舗・事務所の立退料
事業に使っていた店舗・事務所の立退料は、内訳の整理がより重要になります。移転に伴う休業期間の売上減少の補償、休業中の従業員給与、移転費用の補てんなどは事業所得の収入金額です。移転費用を必要経費にしたうえで、その補てんを受け取ったなら、受取額も事業所得の収入にしなければ二重に控除したことになります。
| 合意書の内訳の例 | 所得区分 |
|---|---|
| 休業補償(売上の減少分) | 事業所得 |
| 移転費用・内装工事費の補償 | 事業所得(その費用を必要経費にする場合) |
| 借家権の対価 | 譲渡所得 |
| 解決金・迷惑料など | 一時所得 |
合意書で内訳を定めていない場合は、交渉の経緯や算定根拠から判断されることになります。
法人が受け取る立退料
法人には所得区分がないため、受け取った立退料は内訳にかかわらず全額が益金です。益金に算入する時期は、明渡しの合意が成立して受け取るべき金額が確定した日、または明渡しの日など、契約の内容に応じて判断します。
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 立退料の課税 | 全額益金 | 中身により一時所得・事業所得等・譲渡所得 |
| 一時所得の特別控除・2分の1課税 | なし | あり |
| 借家権の帳簿価額 | 権利金等を資産計上していれば取り崩して損金 | 譲渡所得の取得費 |
| 移転に伴う旧事務所の内装等の除却 | 除却損として損金 | 事業所得の必要経費(資産損失) |
| 消費税 | 不課税(賃貸人から受け取る場合) | 同左 |
法人が入居時に支払った権利金などを繰延資産や借家権として計上している場合、立退きによってその権利が消滅するときは、未償却の残高を損金に算入します。旧事務所の内装など建物附属設備の除却損も同じ期に生じることが多いため、立退料の益金と除却損を合わせて、その期の損益への影響を見ておきます。
転貸している貸主が受け取る立退料
サブリースや転貸で建物を借り、それを他人に貸していた事業者が、建物所有者から明渡しを求められて立退料を受け取ることがあります。この場合、受け取る側は「借家人」であると同時に、転借人との関係では「貸主」です。転借人に明渡しの補償金を支払い、その原資として所有者から立退料を受け取るという構造になります。
平成24年3月21日裁決:補てん部分は不動産所得、残りは一時所得
- 事案:建物の一部を賃借して転貸していた個人が、賃借部分の明渡しに際し、建物所有者から金員を受け取った。原処分庁は、全額が不動産所得に係る業務の収益の補償であり不動産所得の収入金額だと主張し、請求人は単なる明渡し料であり一時所得だと主張した
- 判断:受け取った金員のうち、転借人に明渡し補償金として支払った金員に相当する部分は、不動産所得の必要経費を補てんする金員であるから不動産所得の収入金額となる。一方、その差額は、不動産所得に係る業務の収益やそれ以外の必要経費の補償等ではなく、性質及び使途が特定されていない金員であり、一時所得の収入金額に該当するとした
- 確認先:国税不服審判所 平成24年3月21日裁決
所有者から受け取った立退料の全額が不動産所得になるとは限らず、また全額を一時所得にすることもできない、という事例です。転借人への補償金を不動産所得の必要経費にするなら、その補てん部分は不動産所得の収入になります。
平成23年7月21日裁決:事務所移転の受領金は、経費補てん部分が事業所得
- 事案:弁護士業を営む個人が、事務所の移転に伴い受け取った金員の全額を一時所得として申告した
- 判断:所得税法は、必要経費に算入される金額について補てんの有無にかかわらず必要経費として控除できるとしていることに照らすと、事業所得に係る必要経費の補てん金を受けた場合には、その金額を事業所得の総収入金額に算入しなければ公平な課税を損なう。受け取った金員の一部は事業所得の必要経費を補てんする金額であり、その余の部分は継続性・対価性がないため一時所得とした
- 確認先:国税不服審判所 平成23年7月21日裁決
2つの裁決に共通するのは、経費を補てんする部分はその業務の収入、それ以外で性質が特定されない部分は一時所得という整理です。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る消費税の扱い
消費税法基本通達5-2-7は、建物等の賃借人が賃貸借の目的とされている建物等の契約の解除に伴い賃貸人から収受する立退料は、賃貸借の権利が消滅することに対する補償、営業上の損失または移転等に要する実費補償などに伴い授受されるものであり、資産の譲渡等の対価に該当しないとしています(消費税法基本通達 第5章第2節)。
ただし、同通達の注は、建物等の賃借人たる地位を賃貸人以外の第三者に譲渡し、その対価を立退料等として受け取った場合は、建物等の賃借権の譲渡の対価であり、資産の譲渡等の対価に該当するとしています。店舗の居抜き譲渡などで、次の借主から受け取る金銭は課税になり得ます。
| 受け取り方 | 消費税 |
|---|---|
| 賃貸人(建物所有者)から、契約の解除に伴い受け取る立退料 | 不課税 |
| 賃借人の地位を第三者に譲渡して受け取る対価 | 課税(賃借権の譲渡) |
| 内装・造作を次の借主に売却した代金 | 課税(資産の譲渡) |
会計上の扱いと決算書の表示
税務上は、受け取った立退料がどの所得になるか、法人ならいつ益金に算入するかが論点です。一方、決算書の表示区分は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。法人税法22条4項も、収益の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するとしています。
| 項目 | 主な表示 |
|---|---|
| 臨時・多額の立退料(本業の収益ではない) | 特別利益(受取立退料など) |
| 休業補償など収益の補償的な部分 | 内容により営業外収益または特別利益 |
| 移転に伴う除却損・移転費用 | 内容により販管費または特別損失 |
| 転貸事業者が受け取る立退料 | 転借人への補償金(費用)と対応させて表示を検討 |
立退料は通常、毎期発生する本業の収益ではないため、特別利益に表示することが多いと考えます。著書では「収益は上に、費用は下に」という考え方を紹介していますが、これは本業の収益を正しく売上高に表示するという意味であり、臨時の立退料を売上高に入れて営業利益を大きく見せるという意味ではありません。どの区分にできるかは取引の実態次第なので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
| 項目 | 銀行の見方 |
|---|---|
| 特別利益の立退料 | 一過性の利益として、経常的な収益力の評価からは除かれやすい |
| 純資産・現預金 | 立退料の受取り(税引後)の分だけ厚くなる |
| 移転後の事業計画 | 移転先の賃料、売上の回復見込みが返済能力の判断材料になる |
| 転貸事業の終了 | 転貸による収入がなくなる影響 |
立退料はその期の純資産と現預金を厚くしますが、銀行は経常的な収益力を重視するため、特別利益の大きさそのものは評価に直結しにくいのが通常です。むしろ、移転先での事業の見通しや、転貸事業が終わった後の収支をどう組み立てるかが問われます。著書のモデルで重視する債務償還年数「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」でいえば、受け取った立退料で現預金が増えれば分子が小さくなり、改善要因になります。
実務のチェックポイント
- 合意書で内訳を決める:休業補償、移転費用の補償、借家権の対価、解決金など
- 補てんされる経費を把握する:移転費用、転借人への補償金、休業中の給与
- 個人は所得区分ごとに申告する:事業所得・不動産所得、譲渡所得、一時所得
- 一時所得の計算で差し引ける支出を整理する:立退きのために直接要した費用
- 法人は益金の計上時期を確認する:合意の成立日、明渡しの日
- 借家権・内装の帳簿価額を処理する:権利金の未償却残高、附属設備の除却損
- 消費税の区分を確認する:賃貸人からの立退料は不課税、第三者への地位譲渡は課税
- 移転後・転貸終了後の収支計画を作る:銀行への説明材料
まとめ
- 個人の借家人の立退料は原則として一時所得。経費や収入の補てん部分は事業所得・不動産所得、借家権の消滅の対価は譲渡所得
- 法人が受け取る立退料は全額益金
- 転貸している個人が所有者から受け取った立退料は、転借人への補償金を補てんする部分が不動産所得、残りは一時所得とされた(平成24年3月21日裁決)
- 賃貸人から受け取る立退料は消費税の不課税。賃借人の地位を第三者に譲渡した対価は課税
- 会計上は特別利益とすることが多く、銀行は移転後の事業の見通しを重視する
立退きの交渉では、金額だけでなく内訳と時期をどう決めるかで税負担と決算書が変わります。合意の前にご相談いただくのが効果的です。不動産投資家向けサービスでご相談ください。サブリースの仕組みについてはサブリース会社方式の税務もご覧ください。
