著書『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』では、PL(損益計算書)を整える原則として「収益は上に、費用は下に」という考え方を示しています。同じ収益でもなるべく売上高に計上できないか、同じ費用でも販管費にあるものを営業外費用や特別損失に分類できないか、を検討するという考え方です。
ただし、これは「何でも売上高に」「何でも特別損失に」という話ではありません。PLの表示区分を、取引の実態に照らして正しく選んでいるかを確認する視点です。税務上は損金算入が認められるかが論点になる一方、決算書の表示区分は企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。この記事では、できることとできないことを、不動産事業の具体例で整理します。
- 銀行格付けで重視されるのは営業利益と経常利益。著書のモデルでは、ICRの分子に営業利益、債務償還年数の分母に経常利益が入る
- 「収益は上に」:本業の一部である収入(付帯収入、宅建業の売却益など)は売上高に。本業でない収入(受取利息・保険金など)は営業外収益のまま
- 「費用は下に」:臨時・多額の損失(災害損失、除却損、臨時の大規模修繕など)が販管費に混ざっていないか確認する。毎期の費用は販管費
- 法人税の所得は表示区分で変わらない。表示区分はGAAPに沿って実態で判断し、顧問税理士・会計の専門家と検討する
PLの構造と、銀行が見る段階利益
PLは上から順に、次のように並びます。
| 段階 | 主な内容(不動産事業の例) | 銀行の見方 |
|---|---|---|
| 売上高 | 家賃収入、礼金、更新料、付帯収入、宅建業の売却代金 | 事業規模、成長性 |
| 売上原価・販管費 | 管理費、修繕費、減価償却費、租税公課、人件費 | 本業のコスト構造 |
| 営業利益 | 本業で稼いだ利益 | ICRの分子(著書のモデル)、収益性 |
| 営業外収益・費用 | 受取利息、支払利息、融資手数料 | 金融コストの重さ |
| 経常利益 | 毎期繰り返し生じる利益 | 債務償還年数の分母(著書のモデル) |
| 特別利益・損失 | 固定資産売却損益、災害損失、除却損 | 一過性として区別して見る |
| 税引前当期純利益・当期純利益 | 最終的な利益 | 純資産の増減 |
著書のモデルでは、銀行格付けは129点満点のうち返済能力が55点を占め、その中核が債務償還年数とICRです。どちらにも営業利益・経常利益が使われるため、この2つが本業の実力を正しく表しているかが格付けを左右します。
「収益は上に」:できること・できないこと
できること(実態が本業なら売上高に)
- 家賃収入、礼金、更新料:当然に売上高
- 駐車場収入、自動販売機の設置収入、アンテナ・看板の設置料など:賃貸事業に付随して継続的に得ているなら、本業の一部として売上高
- 宅建業として行う売買仲介の手数料、買取再販の売却代金:宅建業を営んでいれば売上高
これらが「雑収入」として営業外収益にまとめられていると、営業利益が実態より小さく見えます。家賃以外の収入の種類は自販機・看板・アンテナなど家賃以外の収入で整理しています。
できないこと(本業でない収入を売上高にしない)
- 受取利息、受取配当金:営業外収益
- 保険金収入:損害の補填としての性格に応じて営業外収益または特別利益
- 賃貸用の固定資産の売却益:原則として特別利益(販売用不動産ではないため売上高にはしない)
著書でも、受取利息や保険金収入は「そもそも本業ではないので下で良い」としています。上に置けるのは、本業の収益だけです。
「費用は下に」:特別損失に当たるものと当たらないもの
特別損失の考え方
企業会計原則では、臨時的に発生する損益を特別損益として区分し、例として固定資産の売却損益や災害による損失などを挙げています。一方で、特別損益に当たる項目でも、金額が僅少なものや毎期経常的に発生するものは経常損益に含めることができる、とされています。つまり、特別損失の判断のポイントは臨時性と金額の重要性です。
| 費用の例 | 区分の傾向 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 毎期の修繕費・原状回復費 | 販管費 | 経常的に発生する |
| 臨時かつ多額の大規模修繕 | 内容によって特別損失を検討 | 周期・金額・その期の事業規模に照らした臨時性 |
| 災害による損失 | 特別損失 | 臨時・異常 |
| 建物の取壊し・固定資産除却損 | 特別損失 | 臨時 |
| 固定資産売却損 | 特別損失(原則) | 保有目的が賃貸用であること |
| 支払利息、融資手数料 | 営業外費用 | 金融取引のコスト |
| 物件取得時の諸費用(税務上損金にできるもの) | 取得原価に含める、または費用処理。費用処理する場合の区分は検討が必要 | 取得の頻度(毎期取得しているなら経常的とも言える) |
物件取得時の不動産取得税や登録免許税などは、税務上は取得価額に含めずに損金にできるものがあります。著書では、これを販管費に入れるのではなく、一過性の費用として特別損失に分類できないか、あるいは取得原価に算入して減価償却で複数年に分散することも認められる、と述べています。ただし、毎期のように物件を取得している会社では、取得関連費用が「臨時」とは言いにくい場合もあります。どの区分が実態に合うかは、会社ごとの事情で判断が分かれます。
税務上は、その支出が損金に算入できるか(いつ算入するか)が論点です。一方、決算書の表示区分(販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。法人税の金額は区分で変わりませんが、銀行から見た段階利益は大きく変わります。決算の前に、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
税務上の扱い:法人と個人の違い
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 表示区分と税額 | 所得は一本で計算するため、区分で税額は変わらない | 不動産所得は一本で計算。区分の概念自体が小さい |
| 決算書の様式 | 損益計算書で営業利益・経常利益・特別損益を区分 | 青色申告決算書の様式に沿う |
| 臨時・多額の支出の伝え方 | 特別損失として表示し、本業の利益と分けて見せられる | 決算書上は区別しにくく、別資料での説明が必要 |
| 取得時の諸費用 | 不動産取得税・登録免許税などは損金にできるものがある | 必要経費にできるものと、取得費に含めるものがある |
個人の場合、PLの段階利益で「本業は稼げている」と示す手段が限られます。大きな支出があった年は、工事の見積書や今後の計画など、別の資料で説明する準備が必要です。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る数値例:同じ損金でも、営業利益とICRはこう変わる
説明のための仮の数字で比べます。家賃収入1億円、通常の経費(減価償却費を含む)6,000万円、支払利息1,500万円の会社で、臨時の外壁・屋上の大規模修繕2,500万円(税務上は修繕費として損金)が発生した年です。
| 項目 | 修繕を販管費に表示 | 実態が臨時・多額で特別損失に表示 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1億円 | 1億円 |
| 販管費 | 8,500万円 | 6,000万円 |
| 営業利益 | 1,500万円 | 4,000万円 |
| ICR(営業利益÷支払利息、受取利息は0と仮定) | 1.0倍 | 約2.7倍 |
| 経常利益 | 0円 | 2,500万円 |
| 特別損失 | ― | 2,500万円 |
| 税引前当期純利益 | 0円 | 0円 |
| 法人税の所得 | 同じ | 同じ |
税引前当期純利益も法人税も同じですが、営業利益とICRの見え方は大きく違います。著書では、税務上は正しい処理でも、修繕を販管費に入れた結果、営業利益が赤字になりICRが1.0を割り、格付けが下がって翌年の融資が引けなくなる、という事態が起きうると指摘しています。
ただし、右の列が使えるのは、その修繕が本当に臨時かつ多額と言える場合だけです。毎年同じ程度の修繕をしている会社が、ある年だけ特別損失にすることはできません。大規模修繕の判断は大規模修繕と特別損失で詳しく解説しています。
やってはいけない処理
- 毎期の通常の修繕費や管理費を、特別損失に回す
- 本業でない収入(受取利息、保険金、補助金など)を売上高に入れる
- 賃貸用の固定資産の売却益を、売上高に入れて営業利益を大きく見せる
- 前期と同じ性質の取引を、期ごとに都合よく違う区分に表示する
これらは「表示の工夫」ではなく、実態と違う決算書です。銀行は決算書を3期分並べて見るため、区分の不自然な変化はすぐに気づかれます。継続性のない区分変更は、かえって信頼を損ないます。
決算前のチェックポイント
- 付帯収入(駐車場、自販機、看板など)が、雑収入として営業外収益に埋もれていないか
- 受取利息・保険金などの本業でない収入を、売上高に入れていないか
- その期に臨時・多額の支出(災害、取壊し、大規模修繕、売却損)がなかったか
- 臨時・多額の支出について、特別損失に当たるかを根拠(周期、金額、内容)とともに検討したか
- 前期との区分の継続性を確認したか
- 区分の判断を、決算書を銀行に出す前に顧問税理士・会計の専門家と確認したか
BS側の整え方は「資産は上に、負債は下に」:流動比率と長期借入の考え方、銀行に出す前の決算書の確認は銀行に出す前の決算書チェックもあわせてご覧ください。
まとめ
- 「収益は上に、費用は下に」は、PLの表示区分を実態に即して確認する考え方であり、何でも当てはめる原則ではない
- 本業の一部である収入は売上高に、本業でない収入は営業外収益のまま
- 臨時・多額の損失が販管費に混ざっていないか確認する。特別損失に当たるかは臨時性と金額の重要性で判断する
- 法人税は区分で変わらないが、営業利益・経常利益・ICRの見え方は大きく変わる
- 表示区分はGAAPに沿って実態で判断するもの。顧問税理士・会計の専門家と検討する
決算書の表示区分の検討から銀行への説明まで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
