決算書と銀行格付け

「資産は上に、負債は下に」とは|流動比率と長期借入、役員借入金・役員貸付金の正しい区分

著書『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』では、BS(貸借対照表)を整える原則として「資産は上に、負債は下に」という考え方を示しています。資産は流動性の高いもの(現預金や回収見込みの確かな債権)が上層を占めるほど、負債は短期ではなく長期で計上されるほど、流動比率(流動資産÷流動負債)が改善する、という意味です。

ここで注意したいのは、これが「表示を動かして比率を良く見せる」話ではないことです。流動・固定の区分は、会計の基準と契約の中身で決まります。比率を変えたければ、契約や資産の中身そのものを変える必要があります。この記事では、BSの区分のルール、実際に効く打ち手、税務上の論点、銀行の見え方を整理します。

この記事の結論
  • 流動・固定の区分は、企業会計原則の正常営業循環基準と1年基準で決まる。決算日の翌日から1年以内に返済・回収期限が来るものは流動
  • 流動比率を改善する本当の打ち手は、短期借入の長期借入への借換え(契約の変更)や、現預金の積み増し、滞留債権の回収。表示だけを変えることはできない
  • 役員借入金は、返済期限を定めた契約と実態があれば固定負債。役員貸付金・仮払金は銀行から資産として認められにくい
  • BSの区分は法人税の所得に直接影響しないが、役員貸付金の利息や貸倒れなど、中身には税務上の論点がある

BSの構造と流動・固定の区分

BSは、資産側が上から「流動資産 → 固定資産」、負債側が上から「流動負債 → 固定負債 → 純資産」の順に並びます。どちらに入るかは、次の2つの基準で決まります。

基準内容不動産事業での例
正常営業循環基準本業の営業サイクルの中で生じる資産・負債は流動未収家賃、販売用不動産、預り金の一部
1年基準それ以外は、決算日の翌日から1年以内に回収・返済期限が来るものを流動、1年を超えるものを固定短期借入金、1年以内返済予定の長期借入金、長期借入金

企業会計原則でも、この考え方が示されています。たとえば長期借入金のうち、翌期中に返済する予定の元本部分は「1年以内返済予定の長期借入金」として流動負債に表示します。これは正しい区分であって、恣意的に固定負債のまま残すことはできません。

流動比率と銀行の見方

流動比率は、短期の支払い能力を測る指標です。著書では、100%を超えていれば向こう1年間の支払いに問題がないことを示す、と説明しています。著書のモデルでは、流動比率は自己資本比率、固定長期適合率、ギアリング比率などとともに、安全性(34点)のカテゴリーで評価されます。

不動産賃貸業は、資産の大半が固定資産(土地・建物)で、借入の多くが長期です。そのため、流動比率は次のような要因で大きく動きます。

  • 現預金の厚み
  • 短期借入金(つなぎ融資や短期の運転資金)の残高
  • 1年以内に返済する長期借入金の元本の大きさ
  • 役員借入金を流動負債・固定負債のどちらに計上しているか

資産側:上層を「本当に流動性のある資産」で厚くする

項目確認すること銀行の見え方
現預金月々の支出の数か月分を目安に確保しているか流動資産の最上層。最も評価される
未収家賃・売掛金滞留しているものを早めに回収しているか。回収見込みのないものは貸倒れ・引当を検討回収不能なものは割り引いて見られる
販売用不動産長期滞留していないか売れない在庫は流動資産として評価されにくい
役員貸付金・仮払金決算前に精算しているか資産として認められず、実質純資産から差し引かれやすい

著書では、役員貸付金や仮払金を、銀行から「資産として認められない」とゼロ評価される代表勘定として挙げ、早めの精算を勧めています。決算書のこうした勘定が銀行からどう見えるかは役員貸付金・役員借入金と銀行の評価でも解説しています。

負債側:短期ではなく長期で借りる

短期借入金は、実際に長期へ借り換える

物件の取得資金をつなぎで短期借入している場合や、運転資金を短期で借りている場合、それは流動負債として流動比率を押し下げます。著書では、可能であれば長期借入金に借り換えることで流動比率が改善する、としています。

ここで必要なのは、銀行との契約を実際に長期に変えることです。期末に科目だけ付け替えても、契約上の返済期限が1年以内なら流動負債です。借換えの進め方は借り換え融資の進め方を参照してください。

なお、短期の借入を期日ごとに書き換えて継続する「短期継続融資」は、BS上は流動負債ですが、銀行によっては実質的に運転資金として扱うことがあります。仕組みは短期継続融資とはで解説しています。

役員借入金は、契約と実態に合わせて区分する

社長が会社に貸したお金(役員借入金)は、実質的には自己資本に近い性格を持つことがあります。それにもかかわらず短期借入金として計上していると、流動負債が膨らんで安全性の指標が悪化します。著書では、長期借入金(固定負債)として計上することで、安全性の指標が実態に近い形で評価される、としています。

ただし、固定負債にできるのは、返済期限を1年超と定めた契約があり、実際にその条件で運用されている場合です。契約書がなく、いつでも返済できる状態のままでは、流動負債と判断されることもあります。銀行に対して「当面返済しない資金」と説明したい場合は、金銭消費貸借契約を整え、場合によっては劣後化の取決めも検討します。劣後ローンの考え方は劣後ローンとはを参照してください。

表示区分は「契約と実態」で決まる

「資産は上に、負債は下に」は、BSの区分を正しく選び、そのうえで中身(契約・資産の質)を改善していく考え方です。決算書の表示区分は企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。科目の付け替えだけで比率を良く見せることはできません。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

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税務上の論点:区分は所得に影響しないが、中身には論点がある

BSの流動・固定の区分そのものは、法人税の所得には影響しません。ただし、BSの中身には税務上の論点があります。

項目法人個人
役員貸付金無利息・低利なら、適正な利息相当額との差額が役員への給与等と扱われる可能性がある個人事業主には「役員貸付金」はなく、事業主貸として処理
役員借入金会社が無利息で借りても原則として課税関係は生じにくい。債務免除を受けると会社に債務免除益が生じる事業主借として処理。区分の概念は小さい
未収家賃の貸倒れ貸倒損失の要件を満たす場合に損金必要経費算入の要件を満たす場合に必要経費
短期・長期借入金区分による課税関係の違いはない(利息は損金)利息は必要経費(土地部分の利子の損益通算制限に注意)
BSの作成決算書としてBSを作成し、銀行に提出青色申告決算書の貸借対照表は簡易な様式

役員貸付金の利息の扱いや、役員借入金の債務免除の課税関係は、金額や状況によって判断が変わります。処理を変える前に顧問税理士に確認してください。滞納家賃の貸倒れは滞納家賃と貸倒損失の要件で扱います。

数値例:借換えと精算で流動比率はこう変わる

説明のための仮の数字です。

  • 現預金3,000万円、未収家賃200万円、役員貸付金800万円(流動資産に計上)
  • 短期借入金(つなぎ融資)4,000万円、1年以内返済予定の長期借入金1,500万円、役員借入金1,000万円(短期借入金として計上)
項目改善前改善後
流動資産(決算書上)4,000万円(現預金3,000+未収200+役員貸付金800)4,000万円(役員貸付金の精算で現預金3,800+未収200)
流動資産(役員貸付金をゼロ評価した銀行の見方)3,200万円4,000万円
流動負債6,500万円(短期4,000+1年内返済1,500+役員借入1,000)1,500万円(短期4,000万円を長期へ借換え、役員借入金を返済期限付きの契約にして固定負債へ)
流動比率(決算書上)約62%約267%
流動比率(銀行の見方)約49%約267%

表示の付け替えではなく、借換え・契約の整備・精算という中身の変化によって、流動比率は大きく改善します。

決算前のチェックポイント

  1. 短期借入金のうち、長期への借換えを銀行と交渉できるものはないか
  2. 長期借入金のうち、1年以内返済予定の部分を正しく流動負債に表示しているか
  3. 役員借入金に、返済期限を定めた契約書があるか。実態と区分が合っているか
  4. 役員貸付金・仮払金・仮勘定が残っていないか。決算前に精算できるか
  5. 未収家賃・売掛金に、回収見込みのない滞留分がないか
  6. 販売用不動産が長期滞留していないか。販売計画を説明できるか
  7. 現預金が、月々の支出に対して十分な水準か

PL側の整え方は「収益は上に、費用は下に」:PLの表示区分と銀行格付けで解説しています。

まとめ

  • 「資産は上に、負債は下に」は、流動比率を意識してBSの区分と中身を確認する考え方
  • 流動・固定の区分は正常営業循環基準と1年基準で決まり、表示だけを変えることはできない
  • 本当に効く打ち手は、短期借入の長期への借換え、役員借入金の契約整備、役員貸付金の精算、現預金の積み増し
  • BSの区分は法人税の所得に直接影響しないが、役員貸付金の利息や債務免除など、中身には税務上の論点がある
  • 表示区分はGAAPに沿って実態で判断する。顧問税理士・会計の専門家と検討する

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よくある質問

短期借入金を長期借入金として表示すれば、流動比率は改善しますか?
表示だけを変えることはできません。流動負債か固定負債かは、契約上の返済期限で決まります(決算日の翌日から1年以内に返済期限が来るものは流動負債)。流動比率を改善するには、銀行と交渉して実際に長期の借入へ借り換える必要があります。また、長期借入金でも、1年以内に返済する予定の部分は流動負債に表示します。
社長からの借入金(役員借入金)は、固定負債にしてよいですか?
金銭消費貸借契約などで返済期限を1年超と定めており、実際にその条件で運用されていれば、固定負債(長期借入金)として表示するのが実態に合います。契約がなく、いつでも返済を求められる状態であれば、流動負債として扱われることもあります。役員借入金を長期・劣後の扱いにしたい場合は、契約書を整え、銀行にも内容を説明できるようにしておくことが大切です。
役員貸付金があると、なぜ銀行の評価が下がるのですか?
役員貸付金は、会社のお金が役員個人に流れている状態であり、回収の見込みや使途がはっきりしないことが多いため、銀行は資産としての価値を認めず、実質的な純資産から差し引いて評価することがあります。著書でも、銀行から資産として認められずゼロ評価される代表的な勘定とされています。決算前に精算し、そもそも発生しない財務の設計にしておくことが基本です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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