決算書と銀行格付け

銀行はグループ会社を合算して見る|複数法人の不動産オーナーが知るべき合算BS・内部取引とグループ税制

物件が増えるにつれて、物件ごと、あるいは目的ごとに会社をつくり、気づけば法人が5社、10社になっていた――不動産オーナーには珍しくない話です。ところが銀行は、会社を分けてもグループ全体を合算して見ています。

この記事では、銀行がグループを合算する理由と手順、合算で見られる指標、グループ会社の間の取引の税務上の扱い(グループ法人税制)、子会社への債権放棄が寄附金とされた裁決を解説します。

この記事の結論
  • 銀行は、代表者が同じで資金の動きがある会社を一体と見て、決算書を合算し、債務償還年数・純資産・資金の流れを確認する
  • 合算では、グループ内の売上と費用、貸付金と借入金、出資と資本金を相殺する。会社の間でお金や利益を移しても、合算すれば消える
  • 税務は会社ごとの課税が原則。グループ法人税制の寄附金の全額損金不算入・受贈益の全額益金不算入は法人による完全支配関係に限られ、個人が100%持つ兄弟会社には適用されない
  • 子会社への債権放棄が寄附金とされた裁決がある。グループ内の取引は、税務上の扱いと決算書の表示の両方を顧問税理士と検討する

なぜ銀行はグループを合算するのか

銀行の関心は、貸したお金が返ってくるかどうかです。グループの会社の間で資金が自由に動くなら、一社の決算書だけを見ても返済能力はわかりません。

  • 代表者が同じ会社は、資金繰りが苦しくなれば互いに資金を融通する
  • 代表者が各社の借入を連帯保証していれば、どの会社の返済が滞っても代表者に影響する
  • 一社だけ良く見えても、他の会社に赤字や債務超過があれば、そこに資金が吸い取られる

このため銀行は、グループ図(株主と会社の関係)、各社の決算書、借入の一覧、代表者個人の確定申告書を求め、グループ全体の姿をつかもうとします。

合算の手順:内部取引を消す

中小企業に連結決算の義務はない

会社法上、連結計算書類の作成が義務づけられるのは、有価証券報告書を提出する大会社に限られます。中小の不動産会社は、各社が単体の決算書を作るだけです。ここでいう決算書は、企業会計原則や中小企業の会計に関する指針・要領など、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って作られた単体の決算書です。

そのため、銀行は自ら各社の決算書を合算するか、会社に合算表の提出を求めます。

合算表の作り方

手順内容例
1. 単純合算各社のPL・BSを勘定科目ごとに足すA社とB社の売上高・借入金を合計
2. 内部取引の相殺グループ内の売上と費用を消すA社が払う管理料と、管理会社B社の売上
3. 債権債務の相殺グループ内の貸付金と借入金を消すA社のB社への貸付金と、B社の借入金
4. 出資と資本の相殺親会社の子会社株式と、子会社の資本金を消すHD社の保有株式と、子会社の資本金
5. 実態の修正回収できない貸付金、含み損などを修正銀行の実態BSの考え方

この手順でわかるとおり、グループ内でお金や利益を移しても、合算すれば消えます。管理会社に管理料を払って利益を移しても、合算した利益は変わりません。グループ内の貸付金は、合算すれば資産にも負債にもなりません。

数値例:管理会社に利益を移しても合算は同じ

数字は説明のための仮のものです。社長が100%持つ賃貸会社A社と管理会社B社があり、A社がB社に管理料1,200万円を払っているとします。

項目A社(賃貸)B社(管理)単純合算内部取引の相殺合算後
売上高8,000万円1,200万円9,200万円−1,200万円8,000万円
管理料(費用)1,200万円0円1,200万円−1,200万円0円
その他の費用5,300万円900万円6,200万円0円6,200万円
利益1,500万円300万円1,800万円0円1,800万円

A社の利益は管理料の分だけ小さく見えますが、合算した利益1,800万円は、管理料をいくらに設定しても変わりません。銀行の目線では、利益をどの会社に置くかより、グループ全体でいくら残るかが問われます。

合算で見られる指標

指標合算で起きること
債務償還年数グループ全体の借入金・現預金・利益で計算される。一社だけ短くても意味がない
純資産債務超過の会社があれば、グループ全体の純資産を押し下げる
ICRグループ全体の営業利益と支払利息で見られる
資金の流れグループ内の貸付けが一方的に増えていれば、どこかの会社が資金を吸っていると見られる

著書のモデルでは、債務償還年数は(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいとされます。プロパー融資の目安とされる「正常先+純資産1億円」も、グループで見られる場合は合算の純資産で判断されると考えておくべきです。純資産の積み上げ方は不動産事業者が純資産1億円を目指す道筋をご覧ください。

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グループ会社間の取引の税務:法人と個人の違い

税務は、会社ごとに所得を計算して課税するのが原則です。グループ全体で損益を通算できるのは、選択によるグループ通算制度の承認を受けた場合(法人による完全支配関係が前提)に限られます。

一方、100%の資本関係がある会社の間の取引には、選択に関係なく適用されるグループ法人税制があります。国税庁の「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係)」問5は、制度ごとに対象が違うことを整理しています(国税庁の資料)。

制度法人が100%持つ親子・兄弟会社個人が100%持つ兄弟会社
一定の資産(譲渡損益調整資産)の譲渡損益の繰延べ適用あり適用あり
寄附金の全額損金不算入適用あり適用なし(一般の寄附金として損金算入限度額の範囲で損金)
受贈益の全額益金不算入適用あり適用なし(受贈益は全額益金)

不動産オーナーに多いのは、社長個人が各社の株式を100%持つ形です。この場合、A社がB社に返済を求めない資金を渡すと、A社では寄附金(損金算入には限度額あり)、B社では受贈益として全額が益金になります。親子会社の形とは結果がまったく違います。

個人の場合

個人の大家が自分の会社と取引する場合は、法人税のグループ法人税制ではなく、所得税の規定(同族会社の行為計算否認を定める所得税法157条など)が問題になります。個人と法人を合わせた見え方は、資産管理法人のメリット・デメリットもご覧ください。

裁決事例:子会社への債権放棄が寄附金とされた例

  • 国税不服審判所 平成14年6月28日裁決(裁決事例集No.63・341頁)
  • 事案:法人が、子会社に対する貸付金債権を放棄し、その損失を「子会社支援損」として損金に算入した。法人は、子会社が倒産の危機にあり、放棄しなければグループ全体がより大きな損失を被ると主張した
  • 判断:債権放棄が子会社の倒産を防止するためにやむを得ず行われたものとも、合理的な再建計画に基づくものとも認められないとして、寄附金に当たるとした。審判所は、元本の返済猶予と金利の棚上げでも子会社にとっての資金効果は同じであること、銀行から債務超過の解消を求められていた形跡がないこと、再建案が過剰支援であることを指摘した
  • 一次情報:国税不服審判所 公表裁決事例

実務への示唆

子会社などへの支援が寄附金に当たらないのは、法人税基本通達9-4-1・9-4-2が示すように、倒産を防ぐためにやむを得ず行う、合理的な再建計画に基づく、といった相当な理由がある場合です。この裁決は、「グループの信用のため」という理由だけでは足りず、他の手段との比較や資金計画の裏付けが求められることを示しています。グループ会社の支援は、実行の前に、計画の合理性を数字で示せるかを顧問税理士と確認すべきです。

会計上の表示と銀行への伝え方

グループ内の取引は、表示も実態で判断する

グループ会社への貸付金を流動資産にするか固定資産にするか、管理会社から受け取る収入を売上高にするか営業外収益にするかは、それぞれの会社で、取引の実態から判断します。税務上は損金算入が認められるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。グループ内の取引で見かけの売上や利益をつくっても、銀行の合算で消えるうえ、信頼を失います。

伝えていない会社をつくらない

銀行への説明では、次の資料をそろえておくと伝わりやすくなります。

  • グループ図(株主、各社の役割、保有物件)
  • 各社の決算書と、内部取引を相殺した合算表
  • グループ全体の借入一覧(銀行・残高・返済額・保証人)
  • 代表者個人の資産と借入の一覧

当事務所がホールディングス化を支援する場面でも、銀行に伝えていない法人があれば先に開示することを重視しています。ホールディングス化と銀行への説明は不動産会社のホールディングス化、関連当事者との取引の見られ方は関連当事者との取引と決算書の注記、銀行の見方で扱っています。

実務のチェックポイント

  • グループ全体の会社・株主・役割を、1枚のグループ図にまとめているか
  • グループ内の貸付金・借入金に、契約書・返済条件・利息を定めているか
  • 内部取引を相殺した合算表で、債務償還年数と純資産を試算しているか
  • 株主が個人か法人かで、グループ内の資金移転の税務が変わることを確認したか
  • 子会社などの支援を行う場合、再建計画の合理性を資料で示せるか
  • 銀行に伝えていない会社や借入がないか

まとめ

  • 銀行は代表者を軸にグループを合算して、債務償還年数・純資産・資金の流れを見る。会社を分けても借入の大きさは変わらない
  • 合算ではグループ内の売上・費用、貸付金・借入金、出資・資本を相殺する。グループ内で利益を移しても消える
  • 税務は会社ごとの課税が原則。寄附金の全額損金不算入・受贈益の全額益金不算入は法人による完全支配関係に限られ、個人が100%持つ兄弟会社には適用されない
  • 子会社への債権放棄が寄附金とされた裁決がある。グループ内の取引は、税務上の扱いと決算書の表示区分を顧問税理士・会計の専門家と検討する

グループ全体の財務の整理と、銀行への説明資料づくりは、不動産投資家向けサービスでご支援しています。

よくある質問

物件ごとに会社を分ければ、銀行には別々に見てもらえますか?
多くの場合、別々には見てもらえません。銀行は代表者が同じで資金のやり取りがある会社を一体として捉え、決算書を合算して債務償還年数や純資産を確認します。会社を分けると、一社ごとの決算書は小さく見えても、合算すると借入の大きさは変わりません。銀行に伝えていない会社があると、後でわかったときに信頼を大きく損ないます。
社長が100%持っている会社同士でお金を融通すると、税務上どうなりますか?
貸し借りとして返済条件を決めて行う分には、利息の設定などに注意すれば通常の取引です。返済を求めない資金の移転や債権放棄は、寄附金・受贈益の問題になります。法人が100%持つ親子会社の間なら、寄附金は全額損金不算入、受贈益は全額益金不算入になりますが、個人が100%持つ兄弟会社の間では、寄附金には損金算入限度額があり、受贈益は全額益金に算入されます。
グループで合算した決算書は、どう作ればよいですか?
中小企業に連結決算の義務はありませんが、銀行に説明するなら、各社の決算書を横に並べて合計し、グループ内の売上と費用、貸付金と借入金、出資と資本金を相殺した合算表を作るのが一般的です。代表者個人の資産と借入も一覧にしておくと、銀行の見方に近い形でグループ全体を示せます。作り方は顧問税理士と相談してください。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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