不動産投資を続けていると、物件ごと、銀行ごと、あるいは家族ごとに法人が増えていきます。気づけば毎月どこかの法人の決算があり、顧問料と均等割だけが積み上がっていく。そこで検討に上がるのが不動産会社のホールディングス化(持株会社化)です。
ただ、ホールディングス化は「つくれば得をする」仕組みではありません。税務・相続・融資のそれぞれに効果がある一方、順番と設計を誤ると課税が発生したり、銀行との関係を損ねたりします。2026年5月に当事務所の「不動産経営財務研究会」で取り上げた内容をもとに、制度の数字は最新の法令で確認し直して解説します。
- ホールディングス化の主なメリットは、グループ内の資金移動、株価評価の抑制、事業会社のBSを軽くして融資で資金化できることの3つ
- 法人が増えすぎているなら、先に適格合併で法人数を減らし、その後に持株会社をつくる2段階が現実的
- 配当の益金不算入には保有期間の要件があり、株価の控除割合は2026年4月以後の相続・贈与で38%に変わっている
- 「節税目的だけ」の再編は否認リスクがあり、銀行の信頼も損なう。目的と資金繰りを先に銀行と共有する
不動産会社のホールディングス化とは
ホールディングス化とは、個人が直接持っている会社の株式を、新しくつくる持株会社(HD)に持たせ、「個人 → HD → 事業会社・資産管理会社」という階層に組み替えることです。
不動産投資家の場合、たとえば次のような形になります。
- HDの下に、売買や開発を行う会社と、長期保有物件を持つ会社をぶら下げる
- 個人や家族がばらばらに持っていた法人を、HDの下に集める
HDをつくる方法は、実務では主に2つです。
| 方法 | 個人が受け取る対価 | 課税 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 株式移転 | HDの株式 | 適格要件を満たせば課税なし | 既存の法人をまとめるだけで、現金は必要ない |
| 株式譲渡 | 現金 | 個人の譲渡益に約20%(所得税・住民税等) | オーナーが現金を受け取りたい、後継者のHDが買い取る |
株式譲渡の場合、HDは株式の購入資金を金融機関から借りることになります。オーナーは現金化でき、後継者側のHDは事業会社からの配当で借入を返していく。事業承継と資金化を同時に進められる方法です。
ホールディングス化の3つのメリット
1. グループ内でお金を動かしやすくなる
HDが事業会社の株式を100%持っていれば、事業会社からHDへの配当は、HD側で全額が益金不算入(法人税がかからない)になります。個人が配当を受け取ると総合課税の対象ですが、HDで受ければ課税なしで資金を集められます。
さらに、法人がHDのもとで法人による完全支配関係にあると、グループ会社間の寄附は、出した側で損金不算入、受けた側で益金不算入となります。個人が直接持つ兄弟会社同士では、この扱いは受けられません。HDがあることで、資金の余っている会社から足りない会社へ、課税を気にせず資金を回しやすくなります。
2. 株価の上がり方を抑えられる
非上場株式の相続税評価で使う純資産価額方式では、会社が持つ資産の含み益(評価差額)から、法人税等相当額を控除できます。この割合は長く37%でしたが、2026年4月1日以後の相続・贈与からは38%に改正されています。
HDに株式を移した後、事業会社が利益を積み上げて株価が上がると、その値上がり部分はHDにとっての含み益になり、38%の控除が効きます。
| 前提 | 直接保有 | HD経由で保有 |
|---|---|---|
| 譲渡時の事業会社の純資産 | 1億円 | 1億円(HDの取得価額) |
| 10年後の事業会社の純資産 | 4億円 | 4億円 |
| 相続税評価の目安 | 4億円 | 4億円 −(4億円 − 1億円)× 38% = 2億8,600万円 |
※HDが株式を時価で買い取った場合の単純化した計算です。HDの借入やほかの資産は考慮していません。
ポイントは、会社の純資産を削らずに評価だけを抑えられることです。退職金や過度な経費で純資産を減らして株価を下げる方法は、銀行の格付けを下げ、後継者が承継を嫌がる原因にもなります。会社を強くすることと承継の準備を両立できるのが、HDの価値です。自社株の評価方法そのものについては、不動産を法人で持つと相続税はどう変わるかも参考にしてください。
3. 事業会社のBSを軽くし、融資で資金化できる
売買や開発を行う事業会社が、長期保有の物件まで抱えていると、総資産と借入が膨らみ、ROAや自己資本比率が下がります。長期保有物件をHDや資産管理会社へ移すと、事業会社のBSは軽くなり、格付けの面で有利になります。
ここで大きいのは、HDが金融機関から融資を受けて物件を買い取れば、事業会社に現金が入ることです。100%グループ内の譲渡であれば、帳簿価額1,000万円以上の土地・建物などの譲渡損益は、グループ法人税制により繰り延べられます。一方で消費税にはグループ内の特例がないため、建物部分の譲渡には消費税がかかります(土地は非課税)。古くから持っている土地の比重が大きいほど、資金化しやすい構造です。
法人が増えすぎたら、先に「適格合併」で整理する
ホールディングス化の前に、法人の数そのものを減らすことを検討してください。物件を売った後に現預金だけが残った法人を、清算するか合併するかで、税金は大きく変わります。
| 項目 | 清算 | 吸収合併(適格) |
|---|---|---|
| 個人への資金の戻り方 | 残余財産の分配はみなし配当として総合課税 | 個人には戻らず、存続法人が資産を引き継ぐ |
| 繰越欠損金 | 消滅する | 要件を満たせば引き継げる |
| 過去の税務リスク | 清算後も調査の対象になり得る | 存続法人が引き継ぐ |
| 不動産の移転 | 売却なら通常の税負担 | 不動産取得税は非課税、登録免許税は0.4% |
同じ個人や親族グループが100%持っている法人同士の合併で、対価を存続法人の株式だけにするなど要件を満たせば、適格合併として資産は帳簿価額で引き継がれ、合併時の課税は生じません。売買による所有権移転の登録免許税は本則2%(土地は特例で1.5%)なので、物件を持つ法人の整理には特に効きます。
ただし、繰越欠損金を引き継げるのは、原則として支配関係が5年以上続いている場合などに限られます。設立から5年未満の法人なら、設立時から支配関係が続いていれば要件を満たせます。また合併には債権者保護手続(官報公告など)が必要で、BSの要旨が公表される点も織り込んでおく必要があります。手続き全体で4〜6か月程度を見ておくと安全です。
銀行はホールディングス化をどう見るか
計画の段階で、3つのことを説明する
組織再編は、銀行にとって「貸している相手の形が変わる」出来事です。事後報告では不信感を招きます。計画の段階で、次の3点を説明してください。
- 目的:管理の効率化、相続・事業承継の準備、グループ内の役割の整理。節税が前面に出る言い方は避ける
- 借入と保証:消滅する法人の借入や保証が、どの法人に引き継がれるか
- 資金繰り:配当や物件の移転で、グループ全体のキャッシュフローがどう変わるか
銀行はHDを含めたグループ全体を一体として見ます。グループの実態BSが強くなる説明ができれば、HDによる株式の買取資金や、グループ内の物件移転の資金も、融資の対象として検討してもらえます。
伝えていない法人があるなら、先に開示する
注意が必要なのは、特定の銀行に存在を伝えていない法人がある場合です。合併やHD化をすれば、その法人の存在は必ず表に出ます。再編の後で知られれば信用を大きく損ないます。再編の前に、すべての取引銀行へ自分から開示して関係を整えることが先です。
当事務所の支援実績から
当事務所では、持株会社を設立し、役員借入金の整理とグループ内の不動産の移転を進めた経営者を支援した実績があります。「相続・事業承継・グループ内の役割整理」という目的を銀行に正面から説明できるよう一緒に準備し、役員借入金の返済資金と物件移転の資金を金融機関から調達しました。HD化は、税金の話である前に、銀行と一緒に会社の形をつくり直す作業だと考えています。
ホールディングス化の注意点と落とし穴
配当の益金不算入には保有期間の要件がある
配当が全額益金不算入になる「完全子法人株式等」は、配当の計算期間を通じて完全支配関係が続いていることが要件です。HD化した直後の配当は要件を満たさず、益金不算入の割合が下がることがあります。HD化した年は配当を急がず、保有期間を満たしてから配当する設計にしてください。
株式保有特定会社に当たると評価方法が限られる
HDの総資産のうち株式等の割合が50%以上になると「株式保有特定会社」とされ、原則として純資産価額方式で評価されます。類似業種比準方式が使えなくなるため、思ったほど株価が下がらないこともあります。
株式移転時の含み益には38%の控除が効かない
株式移転や現物出資でHDに株式を移した場合、その時点の含み益相当額には、法人税等相当額の控除が適用されません。控除が効くのは、あくまで移した後の値上がり部分です。早めに着手するほど効果が大きくなるのはこのためです。
そのほかの落とし穴
- 適格要件を外すと課税:対価に現金が混じる、支配関係が崩れるなど
- 経営者保証は自動では外れない:保証の付け替えには銀行との交渉が必要
- 節税だけが目的の再編:経済合理性がないとして否認されるリスクがある
- 役員退職金の過大支給:功績倍率などの根拠がなければ損金にならない
まとめ
- 不動産会社のホールディングス化は、資金移動・株価の抑制・BSの軽量化と資金化の3つに効く
- 法人が増えすぎているなら、先に適格合併で整理し、その後にHD化する2段階が現実的
- 配当の保有期間、株式保有特定会社、株価の控除割合(38%)など、数字の要件を確認してから設計する
- 銀行には計画段階で目的・借入と保証・資金繰りを説明し、未開示の法人は先に整理する
ホールディングス化は、個々の法人の決算書だけでなく、グループ全体のBSをどう見せるかの設計です。資産管理法人の基本は資産管理法人のメリット・デメリットで、プロパー融資の目安となる純資産については純資産1億円の壁で解説しています。複数法人の整理やHD化をご検討の方は、不動産投資家向けのサービスからご相談ください。
