決算書と銀行格付け

関連当事者との取引と決算書の注記、銀行の見方|役員・同族会社との貸借・売買・賃貸を税務と会計で整理

社長からの借入、社長への立替え、社長所有の土地を会社が借りる、家族が経営する管理会社に管理を任せる、社長個人の物件を会社に売る――不動産会社では、こうした関連当事者との取引が日常的に発生します。

関連当事者との取引は、条件を自由に決めやすいぶん、税務では時価との差が問題になり、銀行からは「お金や利益が会社の外に流れていないか」と見られます。この記事では、注記が必要な会社の範囲、税務上の扱い(法人と個人)、最高裁判決、銀行の見方を解説します。

この記事の結論
  • 関連当事者とは、役員とその近親者、役員などが支配する会社、親会社・子会社、主要株主など。会計監査人を設置していない非公開の株式会社は、関連当事者との取引の注記を要しない
  • 税務上は、関連当事者との取引も時価が基準。低額譲渡・無償の利益供与は、益金・寄附金・役員給与・同族会社の行為計算否認の問題になる
  • 最高裁平成18年1月24日判決(オウブンシャホールディング事件)は、関連会社への資産価値の移転も法人税法22条2項の「取引」に当たるとした
  • 銀行は勘定科目内訳明細書で関連当事者との貸借を見る。役員貸付金はゼロ評価されやすい。税務上の扱いと決算書の表示を、顧問税理士と検討する

関連当事者との取引とは

会計で「関連当事者」というのは、会社と特別な関係にある相手のことです。会社計算規則が範囲を定めており、主に次の者が含まれます。

  • 親会社、子会社、同じ親会社を持つ会社
  • 主要株主(個人・法人)とその近親者
  • 役員とその近親者
  • 役員や主要株主、その近親者が議決権の過半数を持つ会社

不動産会社でよくある取引は次のとおりです。

取引よくある例
資金の貸借社長からの借入(役員借入金)、社長への貸付け・立替え(役員貸付金・仮払金)
不動産の賃貸借社長所有の土地を会社が借りる、会社の物件を役員社宅として貸す
業務の委託家族が経営する管理会社への管理委託、サブリース
資産の売買社長個人の物件を会社に売る、会社の物件を社長に売る
保証会社の借入に対する社長の個人保証と保証料

決算書の注記:必要な会社と不要な会社

会計の判断は、企業会計原則や中小企業の会計に関する指針・要領など、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って行います。

中小企業の会計に関する指針(令和7年9月19日修正版)は、会社計算規則に基づく個別注記表の項目を整理しています。それによると、関連当事者との取引に関する注記は次のとおりです。

会社の形態関連当事者との取引に関する注記
会計監査人を設置していない株式会社のうち、公開会社でないもの要しない
会計監査人を設置していない公開会社必要

資産管理会社や中小の不動産会社の多くは、株式の譲渡に会社の承認が必要な非公開会社で、注記は要しないことが多いでしょう。ただし、注記がないからといって銀行に見えないわけではありません。

銀行は勘定科目内訳明細書を見る

法人税の申告書には勘定科目内訳明細書を添付します。ここには、貸付金・借入金の相手先と金額、地代家賃の支払先、役員報酬の内訳などが記載されます。銀行は決算書と一緒にこの明細を受け取り、関連当事者との取引を一つずつ確認します。

不動産投資の税務と融資、まとめて相談できます

代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。

不動産投資家向け税務・融資支援を見る

税務上の扱い:時価が基準になる

関連当事者との取引でも、税務上は時価(通常の取引で成立する価額)が基準です。法人と個人で、適用される規定が違います。

取引法人側の主な論点個人(役員)側の主な論点
会社の物件を社長に時価より安く売る時価との差額は益金。差額は役員給与として扱われることがある(法人税法22条2項・34条)差額が給与所得として課税されることがある
社長の物件を会社に時価より安く売る時価との差額は受贈益時価の2分の1未満の対価なら、時価で譲渡したものとみなされる(所得税法59条)
役員社宅を低額で貸す適正な賃料との差額は役員給与になりうる経済的利益として給与所得になりうる
社長への無利息の貸付け適正な利息との差額は役員給与になりうる経済的利益として給与所得になりうる
同族の管理会社に高い管理料を払う法人間なら寄附金(法人税法37条)、同族会社の行為計算否認(同132条)の論点個人の大家が払う場合は必要経費の否認(所得税法37条・157条)の論点

役員社宅や役員への貸付けの適正額には、国税庁が定める計算方法があります。具体的な金額は個別の条件で変わるため、取引の前に顧問税理士と確認してください。同族の管理会社への管理料をめぐる裁決は不動産管理会社方式と管理料率の争い、同族会社へのサブリースはサブリース方式(一括借上げ)の仕組みと適正賃料で取り上げています。

取引条件を決めるときの手順

関連当事者との取引は、条件を決める段階で根拠を残しておくことが、税務にも銀行にも効きます。

  1. 取引の目的を書面にする(なぜ第三者ではなく関連当事者と取引するのか)
  2. 時価の根拠を取る(物件は鑑定評価・査定書、賃料は近隣の賃料相場、管理料は外部の管理会社の見積り)
  3. 契約書を作り、条件を第三者との取引と同じ水準で定める
  4. 取締役会・株主総会など、会社として必要な承認の手続をとる(取締役と会社の取引には会社法上の手続が必要な場合がある)
  5. 契約どおりに支払・受取を行い、通帳で追えるようにする

条件の根拠が残っていれば、税務調査でも銀行の審査でも、「なぜこの金額なのか」に答えられます。

判例:オウブンシャホールディング事件(最高裁平成18年1月24日 第三小法廷判決)

関連会社との取引による価値の移転が、法人税法上どう扱われるかを示した代表的な判決です。

  • 事件番号:平成16年(行ヒ)第128号 法人税更正処分等取消請求事件
  • 事案:子会社の唯一の株主であった会社が、子会社に発行済株式総数の15倍の新株を、著しく有利な価額で関連会社に割り当てさせた。その結果、親会社の持株割合は16分の1に下がり、親会社が保有する子会社株式に表章された資産価値の相当部分が、関連会社に移転した
  • 判断(判示事項):親会社が子会社に新株の有利発行をさせて、保有する子会社株式の資産価値を関連会社に移転させたことは、親会社の益金の額の計算上、法人税法22条2項にいう「取引」に当たる(原判決を破棄し差戻し)
  • 一次情報:裁判所 裁判例検索(平成16年(行ヒ)第128号)

実務への示唆

この判決は、形式上は「子会社が新株を発行しただけ」で、親会社自身は何も売っていないように見える場面でも、関連会社の間で価値が移転していれば、税務上の「取引」として収益が認識されうることを示しています。不動産会社のグループでも、増資・株式の移動・物件の移転などで、関連会社の間に価値が動く場面があります。形式ではなく、誰から誰に価値が移ったかが問われると考えておくべきです。事案の事実関係に即した判断であり、関連会社間の新株発行がすべて課税されるという意味ではありません。

会計上の表示と銀行からの見え方

役員貸付金・役員借入金の見られ方

勘定会計上の表示銀行の見方
役員貸付金・仮払金流動資産または固定資産実態BSでゼロ評価されることが多い。資金の社外流出を疑われる
役員借入金負債(返済条件により流動か固定か)返済を求めない確認があれば、自己資本に近いものとして見られることがある
関連会社への貸付金資産相手先の財務内容次第で減額される
関連当事者への売上売上高取引条件が通常と違えば、利益の水増しと見られることがある

著書では、役員貸付金や仮払金は銀行から「資産として認められない」とゼロ評価される代表的な勘定で、早めに精算して解消すべきだとしています。一方、役員借入金は実質的に自己資本に近い性格を持つにもかかわらず、短期借入金として計上していると流動負債が膨らみ、安全性の指標が悪化するとしています。役員借入金の見られ方は役員借入金は融資でどう見られる?、流動・固定の区分は「資産は上に、負債は下に」とはで詳しく扱っています。

税務と表示は別の問い

税務上は損金算入が認められるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。たとえば役員借入金を固定負債に表示できるのは、返済期限が1年を超える契約などの実態がある場合です。表示だけを変えて流動比率を良く見せることはできません。

銀行は「グループ全体」で見る

関連当事者との取引で利益を移しても、銀行はグループや代表者個人を合わせて返済能力を見ます。会社の利益を管理会社に移せば、会社の格付けは下がり、管理会社の側でも返済の原資にはなりません。グループ全体の見られ方は銀行はグループ会社を合算して見るをご覧ください。

実務のチェックポイント

  • 関連当事者との取引を一覧にし、取引の条件(価格・賃料・利率・管理料率)と、その根拠を残しているか
  • 物件の売買は、不動産鑑定や査定書など時価の根拠を取得してから行っているか
  • 役員貸付金・仮払金が残っていないか。残っている場合、理由と返済計画を説明できるか
  • 役員借入金について、返済条件を契約書で定め、表示区分と整合させているか
  • 役員社宅・役員への貸付けの賃料・利息を、国税庁が定める方法で計算しているか
  • 勘定科目内訳明細書の記載が、決算書の勘定と一致しているか

まとめ

  • 関連当事者との取引は、役員・近親者・同族会社・親子会社などとの取引。非公開で会計監査人のいない株式会社は注記を要しないが、銀行は勘定科目内訳明細書で見る
  • 税務上は時価が基準。低額譲渡・無償の利益供与は、益金・寄附金・役員給与・行為計算否認の問題になる
  • オウブンシャホールディング事件の最高裁判決は、関連会社への資産価値の移転も法人税法22条2項の取引に当たるとした
  • 役員貸付金はゼロ評価されやすく、役員借入金は条件次第で自己資本に近く見られる。税務上の扱いと決算書の表示区分を、顧問税理士・会計の専門家と検討する

関連当事者との取引の整理と、銀行に説明できる決算書づくりは、不動産投資家向けサービスでご支援しています。

よくある質問

中小企業でも関連当事者との取引の注記は必要ですか?
会社の形態によります。中小企業の会計に関する指針が示す会社計算規則の整理では、会計監査人を設置していない株式会社のうち公開会社でない会社は、関連当事者との取引に関する注記を要しないとされ、会計監査人を設置していない公開会社は注記が必要とされています。注記が不要な会社でも、銀行は法人税申告書に添付する勘定科目内訳明細書で、役員・同族会社との貸借や賃貸借を確認します。
社長個人に物件を安く売ったら、どんな税金がかかりますか?
法人側では、時価と売却価額の差額が益金とされ、その差額は社長への給与(役員給与)として扱われることがあります。役員給与に当たる場合は損金にならないことが多く、社長側でも給与所得として課税されることがあります。逆に社長が法人に時価の2分の1未満で売った場合は、社長が時価で譲渡したものとみなされる規定があります。いずれも時価の根拠を残し、事前に顧問税理士と検討してください。
役員貸付金があると、銀行の評価にどう影響しますか?
役員貸付金や仮払金は、銀行の実態BSで資産として認められず、ゼロ評価されることが多い勘定です。その分だけ実質の純資産が減るうえ、「融資したお金が社長個人に流れているのでは」と資金使途を疑われる原因にもなります。発生した理由と返済計画を説明できるようにし、できるだけ早く精算することが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

RELATED

あわせて読みたい

決算書と銀行格付け

「資産は上に、負債は下に」とは|流動比率と長期借入、役員借入金・役員貸付金の正しい区分

著書の「資産は上に、負債は下に」は、流動比率を意識してBSの区分と中身を確認する考え方です。1年基準による流動・固定の区分、短期借入の長期への借換え、役員借入金と役員貸付金の扱い、税務上の論点と法人・個人の違い、銀行の見え方を数値例で解説します。

2026年10月18日
決算書と銀行格付け

不動産会社のキャッシュフロー計算書の読み方|営業・投資・財務CFと、銀行が見る「返せる力」

不動産会社のキャッシュフロー計算書は、賃貸と売買で読み方が変わります。営業・投資・財務の3区分、減価償却費と元本返済のずれ、販売用不動産の仕入れで営業CFがマイナスになる理由、税務と会計(GAAP)の違い、銀行が見る返済原資を解説します。

2026年10月18日
決算書と銀行格付け

DSCR・LTVと財務制限条項(コベナンツ)|計算方法、決算書とのつながり、抵触を防ぐ決算の考え方

DSCRは返済に対する収益の余裕、LTVは物件価値に対する借入の割合を示す指標で、不動産融資の財務制限条項によく使われます。計算方法と数値例、純資産維持や利益維持の条項、抵触したときの影響、税務と会計(GAAP)の違いが判定に与える影響、決算前に確認すべき点を解説します。

2026年10月18日
FREE CONSULTATION

決算書と融資のこと、
まずはお気軽にご相談ください。

初回のご相談は無料です。まずは担当者がお話を伺い、内容に応じて担当税理士や金融機関出身のコンサルタントがご提案します。