個人で賃貸物件を持つオーナーが、家族が役員を務める法人(不動産管理会社)に物件の管理を委託し、管理料を支払う。いわゆる不動産管理会社方式は、長く使われてきた形です。一方で、同族会社への管理料は、税務調査で必要経費になるかどうかが争われやすい支出でもあります。
この記事では、国税不服審判所の公表裁決事例から、同族会社への管理料が否認された事例と、認められた事例を並べて紹介します。結論を先にいえば、勝敗を分けたのは料率の高低よりも、管理会社が実際に何をしていたか、それを記録で示せたかでした。
- 同族会社への管理料は、①管理業務の実態や必要性がなければ所得税法37条で全額、②実態があっても過大なら157条で適正額を超える部分が否認される
- 否認された裁決では、外部の管理会社と業務が重複していた、看板や窓口に管理会社の名前がない、業務の記録がない、といった事実が重視された
- 認められた裁決では、契約名義・入金口座・業者対応・業務記録などから、同族会社が自ら業務を行っていたことが認定された
- 「何%なら安全」という料率はない。157条では、同規模・同地域の非同族の管理委託との比較で適正額が算定されている
- 管理会社方式は所得を分ける仕組みとして考えるのではなく、実際の管理業務・契約・対価の相当性を整えるものとして設計する
不動産管理会社方式とは:3つの形と、この記事の対象
個人オーナーと同族法人の関係には、主に次の3つの形があります。
| 方式 | 仕組み | 主な論点 | 関連記事 |
|---|---|---|---|
| 管理委託方式 | 個人が物件を所有し、入居者と直接契約。同族法人に管理を委託し管理料を払う | 管理業務の実態、管理料の相当性 | この記事 |
| サブリース(転貸)方式 | 同族法人が個人から一括で借り上げ、入居者に転貸する | 個人が受け取る賃料の相当性 | サブリース方式の仕組みと適正賃料 |
| 所有方式 | 物件そのものを法人が所有する | 個人から移すときの譲渡所得・流通税など | 個人から法人へ物件を移すときの税金 |
この記事で扱うのは、管理委託方式で個人が支払う管理料です。
管理委託方式では、管理料は個人の不動産所得の必要経費になり、管理会社の収益になります。法人に入った管理料から家族に役員報酬を支払う形をとることが多いため、課税庁からは「実態のない管理料で所得を家族に移しているのではないか」という目で見られます。管理会社方式を検討するなら、まずこの点を理解しておく必要があります。
税務上の扱い:否認のルートは37条と157条の2つ
同族会社への管理料が否認されるルートは、大きく2つあります。
| ルート | 根拠 | 何が問われるか | 否認される範囲 |
|---|---|---|---|
| 必要経費性の否定 | 所得税法37条1項 | その業務を委託する必要があったか、同族会社が実際に業務を行ったか | 原則として全額(業務の実態がない部分) |
| 同族会社等の行為計算否認 | 所得税法157条1項 | 業務の実態はあるとして、対価が通常の経済取引として合理的か。容認すると所得税の負担を不当に減少させる結果になるか | 適正な管理料を超える部分 |
37条は「そもそも経費か」、157条は「経費だとしても高すぎないか」の問題です。157条が使われる場面では、課税庁が比準同業者(同じ地域で同程度の規模の賃貸業を営み、同族関係のない管理会社に管理を委託している個人)の管理料割合を調べ、その平均から適正管理料を算定する方法がとられています。
なお、管理料は管理会社にとって役務提供の対価であり、消費税の課税取引でもあります。管理料が必要経費として否認された裁決のなかには、消費税の課税仕入れの扱いもあわせて争われたものがあります。法人側で収益に計上した管理料や、消費税の処理にどう影響するかは、事案ごとに顧問税理士と確認してください。
裁決事例:否認された事例と、認められた事例
ここからは、国税不服審判所の公表裁決事例要旨「必要経費/不動産所得/不動産管理料」と「同族会社の行為又は計算の否認」に掲載された事例を紹介します(出典:不動産管理料、同族会社の行為又は計算の否認)。
否認①:管理料が過大として157条で超過部分を否認(平成4年11月19日裁決、裁決事例集No.44・198頁)
貸ビルを所有する個人が、出資者となっている同族の有限会社に建物の総合管理を委託し、年1,080万円(平成元年分は1,104万3,000円)の管理料を支払っていました。管理会社の本業は電気器具等の修理販売で、役員は請求人の親族だけでした。
原処分庁は、県内に貸ビルを持ち、同族関係のない管理会社に管理を委託している青色申告の個人で、賃貸料収入が請求人の0.5倍以上2倍以内の者を比準同業者として選び、その管理料割合の平均を請求人の賃貸料収入に掛けて適正管理料を算定しました。審判所は、この比準の方法を合理的と認めたうえで、管理内容からみて比準同業者として相当でない者を除いて再計算し、適正管理料割合を約5.8〜6.1%、適正管理料を各年180万円前後と認定しました。そのうえで、所得税の負担を不当に減少させる結果になっているとして、適正額を超える部分の否認を相当としています。
請求人は、親族が専ら賃貸業務に従事しており、管理料がなければ管理会社の経営が成り立たないとも主張しました。審判所は、管理料がそのような管理会社側の都合で決められるなら、請求人にとって必要経費として適正とはいえない、としています。また、適正管理料を計算する際、更新料などの臨時的な収入や共益費は基礎に含めないとした原処分庁の計算も相当とされました。(裁決全文)
※約5.8〜6.1%という数字は、この事案の地域・規模・管理内容で比準同業者から算定されたものです。一般的な「適正料率」ではありません。
否認②:外部管理会社と重複し、履行の証拠もないとして37条で全額否認(平成10年2月26日裁決、裁決事例集No.55・43頁)
請求人は、建物の管理を不動産管理専門の会社(家賃・共益費の10%の管理料)に委託する一方、自らが株式の50%以上を持つ同族会社(本業は繊維縫製業)とも契約を結び、年600万円の管理料を支払っていました。契約上の業務は、週1回の見回り点検、商店街・近隣との外交、外部管理会社との交渉、資金管理や経営全般の判断などです。
審判所は、経営全般の判断は請求人自身の責任と判断で行うべき性質のものであること、その他の業務は外部管理会社への委託で十分可能であり同族会社に委託する必要性がないこと、業務を行ったことを示す資料がなく、報告もすべて口頭で、同族会社に業務のための費用の計上もないことから、管理料は必要経費に算入されないと判断しました。一部でも経費に入れるべきだという主張も退けられています。(裁決全文)
否認③:一律10%の管理料を、37条で全額否認(平成18年6月13日裁決、裁決事例集No.71・205頁)
請求人は、アパート、マンション、駐車場、貸地を、同族の不動産管理会社に管理委託し、すべての物件について一律に年間賃貸料の10%を管理料としていました。アパートはサブリース会社に一括で借り上げられ、マンションも別の管理会社に管理を委託していました。
原処分庁は157条を適用して、アパート・マンションについて比準同業者の管理料割合(2.75〜4.4%)を超える部分を否認しました。これに対し審判所は、157条ではなく37条の問題として判断しています。決め手になった事実は次のとおりです。
- 定期清掃などは外部の管理会社が本来の業務として行っており、同族会社に委託する客観的必要性がない
- 物件の看板には外部管理会社の社名が表示され、同族会社が入居者や第三者の窓口になっている事実がない
- 賃料は入居者や外部管理会社から請求人名義の口座に直接振り込まれており、同族会社が入金管理をした事実がない
- 同族会社には、管理業務を行った記録がない
審判所は、必要経費に算入すべき管理料は零円とするのが相当とし、その範囲内でされた更正処分を適法としました。(裁決全文)
認容①:子が代表の法人の管理業務を認定(平成23年6月7日裁決、裁決事例集No.83)
店舗用建物の共有持分と土地について、請求人の子が代表取締役を務める法人に支払った管理費が争われました。原処分庁は、管理全般は別の会社が行っており、子の法人は金銭の支払いをしているだけだと主張しました。審判所は、子の法人が契約更新や補修工事に関する連絡を受けて賃借人や管理会社と協議し、法人名義で各種の支払いを行うなどしていた事実から、管理業務を行っていたと認め、管理費の必要経費算入と課税仕入れを認めました。(裁決全文)
認容②:再委託部分以外の業務を同族会社が自ら行っていたと認定(平成23年9月2日裁決、裁決事例集No.84)
同族会社が建物の設備点検・清掃・警備を外部に再委託していた事例です。原処分庁は、必要経費は再委託料の一部に限られると主張しました。審判所は、入居者の賃料が同族会社名義の口座に入金され、同族会社が管理料を差し引いて請求人に納入していたこと、賃借人との契約を同族会社名義で締結していたこと、点検業者の報告を受けて履行確認をしていたこと、修繕の発注と支払いを同族会社が行い同社の費用に計上していたことなどから、再委託業務以外の管理業務を同族会社が自ら行っていたと認め、請求人が主張する管理費の全額を必要経費としました。(裁決全文)
認容③:業務記録のノートなどから管理業務を認定(平成25年3月4日裁決、裁決事例集No.90)
原処分庁は、他に管理業務を網羅的に委託している法人があり重複して委託する必要がないこと、調査段階で業務を示す資料が提示されなかったことを理由に、同族会社への管理委託料を否認しました。審判所は、同族会社が消防・防災設備の点検や給湯設備の修理・取替工事を発注し、業者から実施内容の報告を受けていたこと、同社の取締役だった請求人の亡妻が業務の出来事を記録したノートから、随時業者からの連絡を受けて対応していたと認められることなどを総合し、管理業務の対価として必要経費算入を認めました。(裁決全文)
裁判例:適正な委託料は同業者比準方式で(福岡地裁平成4年2月20日判決)
賃貸業ではなく病院の事例ですが、個人で病院を開業した納税者が同族会社に建物管理・給食管理・事務管理を委託した事案で、福岡地方裁判所は、適正委託料の算定は同業者比準方式によるのが最も合理的とし、一括して受託する適切な比準同業者がいない場合には、個々の業務ごとに委託料を算出して積み上げる方法も合理的な推計方法として許されるとしました(平成元年(行ウ)第19号。裁判所 裁判例検索)。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る管理料率をどう考えるか:「料率」より「業務と対価の説明」
裁決を並べると、管理料率についての考え方が見えてきます。
| 事例 | 管理料の決め方 | 結果 | 分かれ目 |
|---|---|---|---|
| 平成4年11月19日 | 年1,080万円(賃貸料収入の3割超) | 適正額(約5.8〜6.1%)超を否認 | 比準同業者と比べて過大 |
| 平成10年2月26日 | 年600万円(従業員1人分の人件費を目安) | 全額否認 | 外部管理会社と重複、履行の証拠なし |
| 平成18年6月13日 | 全物件一律で賃貸料の10% | 全額否認 | 業務の重複、窓口・入金管理・記録の実態なし |
| 平成23年6月7日 | 管理費 | 容認 | 協議・支払いなど業務の実態 |
| 平成23年9月2日 | 管理費 | 容認(全額) | 入金・契約・修繕発注を同族会社が担当 |
| 平成25年3月4日 | 管理委託料 | 容認 | 業者対応と業務記録のノート |
※平成4年の「3割超」は、裁決に記載された管理料と賃貸料収入から計算した概算です。
ここから言えるのは次の3点です。
- 料率が低くても、業務の実態がなければ全額否認される(平成18年の事例は10%でも零円とされた)
- 業務の実態があっても、根拠のない料率は157条の対象になりうる。物件ごとに業務の程度が違うのに一律の料率にしていた点は、平成18年の事例で原処分庁から「算定根拠が明らかでない」と指摘されている
- 適正額は、比較対象(非同族の管理委託)との比較で決まる。説明の材料として、委託する業務ごとに、外部に頼んだらいくらかかるかを積み上げておく考え方が有効
会計上の扱いと表示、銀行からの見え方
会計上の扱い:個人の経費、管理会社の売上
個人オーナー側では、管理料は不動産所得の必要経費(管理費・管理委託料)として処理します。管理会社側では、管理の受託が本業であれば売上高として計上するのが自然です。平成10年の事例では、本業が繊維縫製業の同族会社が管理料を雑収入に計上しており、定款に不動産管理業の記載もありませんでした。管理会社として業務をしているなら、定款の目的、売上の計上、業務のための費用の計上が、その実態と一致しているかを確認しておきましょう。
税務上は損金・必要経費に算入が認められるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方:所得を移しても、返済の力は増えない
管理会社方式で管理料を払うと、個人の不動産所得は管理料の分だけ小さくなり、管理会社の売上はほぼオーナー個人からの管理料だけ、という形になります。銀行から見ると、次の点が気になります。
- 個人側:不動産所得が小さく見えるため、個人名義で追加の融資を受けるときの申告書が弱くなる
- 管理会社側:取引先が実質的にオーナー1人で、利益の大半が役員報酬として流出するため、純資産が積み上がりにくい。管理会社を物件取得の受け皿にしたくても、決算書の実績にならない
- 全体:オーナー個人と同族会社を合算してみれば、返済に回せる資金は増えていない。銀行は関係会社を含めた実態で判断することがある
さらに、管理料が否認されれば、修正申告・更正による追徴税額や過少申告加算税が発生し、その年の決算書や申告書の説明が必要になります。税務上のリスクは、そのまま融資の説明リスクにもなります。
法人で買い進めていくことを考えるなら、管理料を通じて所得を分けるよりも、物件の所有そのものを法人に移すかどうかを、融資の受け方とあわせて検討するほうが本筋です。資産管理法人の位置づけは資産管理法人のメリット・デメリット、個人と法人の経費のルールの違いは個人と法人で経費にできる範囲の違いを参照してください。
実務のチェックポイント
同族の管理会社に管理を委託している、またはこれから委託する場合は、次の点を確認してください。
| 確認項目 | 具体的に見るところ | 関係した裁決 |
|---|---|---|
| 委託の必要性 | 外部の管理会社・サブリース会社の業務と重複していないか。契約書で業務範囲を分けているか | 平成10年、平成18年 |
| 業務の実態 | 入居者対応、業者手配、点検の立会い、契約更新、入金管理などを、管理会社として実際に行っているか | 平成23年6月、平成23年9月 |
| 記録 | 業務日報、対応記録、業者とのやり取り、報告書を残しているか。口頭の報告だけになっていないか | 平成10年、平成18年、平成25年 |
| 外部からの見え方 | 看板・連絡先、賃貸借契約や業者への発注の名義に管理会社が出ているか | 平成18年、平成23年9月 |
| お金の流れ | 賃料の入金、修繕費の支払いなど、管理会社が担う業務とお金の流れが一致しているか | 平成18年、平成23年9月 |
| 対価の根拠 | 物件ごと・業務ごとに、第三者に委託した場合の金額と比べて説明できるか。一律の料率にしていないか | 平成4年、平成18年 |
| 管理会社側の体制 | 定款の目的、人員、業務のための費用が、管理会社としての実態に合っているか | 平成4年、平成10年 |
調査で問題になってから記録を作ることはできません。契約を結ぶ時点で業務範囲と対価の根拠を決め、日々の業務を記録に残すことが、管理会社方式を続けるうえでの前提です。税務調査の全体像は税務調査で選ばれやすい申告の特徴もあわせてご覧ください。
まとめ
- 同族会社への管理料は、業務の実態・必要性がなければ所得税法37条で全額、過大であれば157条で適正額を超える部分が否認される
- 否認された裁決では、外部管理会社との業務の重複、窓口や入金管理の実態がないこと、業務の記録がないことが重視された
- 認められた裁決では、契約名義・入金口座・業者対応・業務記録から、同族会社が自ら業務を行っていたことが認定された
- 安全な管理料率というものはない。157条では非同族の管理委託との比較で適正額が算定される。業務ごとの対価の根拠を用意しておく
- 管理会社方式は、所得を分ける仕組みとしてではなく、実際の管理業務・契約・対価の相当性を整えるものとして設計し、融資への影響まで含めて判断する
既存の管理会社方式の見直しや、法人での保有への移行を検討している方は、不動産投資家向けサービスでご相談ください。契約と記録の整え方から、融資を見据えた個人・法人の役割分担まで一緒に検討します。
