「先生のところのお客さんには、税務調査は来ましたか?」。経営者の方から本当によく聞かれる質問です。私自身、税理士・公認会計士として事務所を経営しながら不動産投資の会社も持っているので、自分の会社に調査が来た経験もあります。
税務調査というと「怖いもの」「来ないでほしいもの」というイメージが強いと思います。しかし、私が経営者の方にいちばん知っておいてほしいのは、税務調査の結果が、銀行融資にまで響くということです。この記事では、調査がどれくらいの頻度で行われ、どんな会社が選ばれやすいのか、そして調査が来ても困らない会社をつくるために日頃から何をしておくべきかを解説します。
- 法人税等の実地調査は年間約5万4千件(令和6事務年度)。申告件数と比べると単純計算で年2%弱だが、調査必要度が高いと判断された会社に集中する
- 選ばれやすいとされるのは「売上の急増」「赤字・所得ゼロの継続」「同業と比べて不自然な数字」「現金取引が多い」など、数字に説明が必要な会社
- 修正申告になると、追徴税額で純資産が減るだけでなく、経営管理の姿勢を疑われて融資が止まることがある
- 最大の備えは、取引の実態がわかる記録を残し、正しく申告すること。それは銀行に信頼される会社の条件でもある
税務調査はどれくらいの頻度で来るのか
国税庁の公表データで見る法人調査の件数
国税庁は毎年、法人税等の調査の実績を公表しています。令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の公表資料によると、実績は次のとおりです。
| 項目 | 令和6事務年度 |
|---|---|
| 法人税・消費税の実地調査件数 | 約5万4千件(前年比 −7.4%) |
| 実地調査による追徴税額 | 3,407億円(直近10年で最高) |
| 調査1件あたりの追徴税額 | 634万2千円 |
| 簡易な接触(書面照会・電話など)の件数 | 約8万5千件 |
(出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」)
一方、同じ年度の法人税の申告件数は約322万件です。単純に割り算すると、実地調査を受ける法人は年に2%弱ということになります。数字だけを見れば、「何十年も調査が来ない会社」があっても不思議ではありません。
件数は減っても、1件あたりの追徴は増えている
注目したいのは、調査件数が減っている一方で、追徴税額は過去10年で最高になっていることです。国税庁は、AIを活用した予測モデルや、さまざまな資料情報を組み合わせて「調査必要度の高い法人を的確に抽出している」と説明しています。
つまり、調査は全体にまんべんなく来るのではなく、選ばれやすい会社に集中するということです。確率が低いから安心、とはいえません。
また、実地調査に至らなくても、申告内容に誤りが想定される会社には、書面での照会や電話連絡といった「簡易な接触」で申告の見直しを求められることがあります。
調査先に選ばれやすい会社の4つの特徴
調査先をどう選ぶかの具体的な基準は公表されていません。ただ、調査の現場や公表事例から、一般に「数字に説明が必要な会社」が選ばれやすいと考えられています。代表的なものを4つ挙げます。
1. 売上が急増しているのに、利益が伸びていない
売上の急増自体は良いことです。しかし「売上が倍になったのに利益がほとんど変わらない」となると、税務署から見れば「経費が実態以上に膨らんでいないか」という疑問が生まれます。成長期の会社は、増えた経費の内訳を説明できるようにしておく必要があります。
2. 赤字や所得ゼロの申告が続いている
赤字が続いている会社は、むしろ調査の対象になりにくいと思われがちです。しかし、何年も黒字にならないのに事業が続いていると「本当は利益が出ているのではないか」と見られることがあります。国税庁の公表では、法人税の黒字申告割合は36.5%(令和6年度)ですから、赤字そのものは珍しくありません。大切なのは、赤字の理由が実態に合っているかです。
3. 同業他社と比べて、原価率や経費率が不自然
税務署は、申告書から業種ごとの傾向を把握しています。同業の会社と比べて原価率や外注費、経費の比率が大きく外れていると、その理由を確かめたくなります。国税庁の公表事例にも、AIが抽出した法人の外注費を重点的に検討し、実態のない外注費を把握した事例が紹介されています。
4. 現金での取引が多い
飲食業や小売業など、現金での売上が多い業種は、カード決済や銀行振込と比べて取引の記録が外部に残りにくくなります。そのため、申告された売上が実態と合っているかを、帳簿や現場で確認する必要性が高いと判断されやすいのです。
国税庁が公表している「重点課題」
このほか、国税庁は消費税の還付申告をする法人、海外取引のある法人、無申告の法人への対応を重点課題としています。不動産投資の法人で建物の購入時に消費税の還付を受けるケースなども、制度の要件を満たしているかが確認されやすい場面です。居住用賃貸建物の消費税の取扱いについては居住用賃貸建物と消費税の記事をご覧ください。
| 特徴 | 税務署が確かめたいこと | 日頃の備え |
|---|---|---|
| 売上が急増、利益は横ばい | 経費が実態以上に増えていないか | 増えた経費の内訳と理由を整理しておく |
| 赤字・所得ゼロが継続 | 利益が経費で消されていないか | 赤字の原因を数字と書類で説明できるようにする |
| 同業比で経費率が不自然 | 架空・過大な原価や外注費がないか | 契約書・請求書・成果物など取引の実態を残す |
| 現金取引が多い | 売上が漏れなく計上されているか | レジ記録や日々の売上記録と入金を一致させる |
| 消費税の還付申告 | 還付の要件を満たしているか | 取引の内容と根拠資料をそろえておく |
どれも「当てはまったら危ない」という話ではありません。理由を説明できれば問題にならないものばかりです。逆に言えば、説明できない数字がある会社が、調査で指摘を受けることになります。
修正申告は銀行格付けと融資に直結する
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。税務調査で誤りが見つかり、修正申告をすることになったとき、影響は税金だけでは終わりません。
追徴税額で純資産と手元資金が減る
修正申告になると、本来の税額との差額に加えて、過少申告加算税などの加算税や延滞税がかかります。これらは法人税の計算上、損金になりません。多くの場合、追徴された税額は支払った期の決算に計上され、その分だけ現預金と純資産が減ります。
私が著書で紹介している格付けモデルでは、129点満点のうち安全性34点・収益性15点・成長性25点・返済能力55点という配分で、正常先と判断される目安は32点以上です。また、プロパー融資を受け続けるには純資産1億円がひとつの目安になると考えています。追徴の金額によっては、この純資産の目安を割り込んだり、債務償還年数が悪化したりすることもあり得ます。
本当に怖いのは「信用」が傷つくこと
ただ、金額以上に大きいのが信用への影響です。私が実際に見てきたケースをひとつ紹介します。
売上が数億円規模の会社で税務調査が入り、修正申告になりました。追徴は数百万円で、会社の規模からすればそれほど大きな金額ではありませんでした。ところが、その修正の内容を見た銀行が「経費の計上の仕方に疑問がある」と判断したのです。金額そのものより、経営管理の姿勢を疑われた結果、次の融資の審査が通らなくなりました。
銀行は、数字と同時に「この経営者は信頼できるか」を見ています。修正申告は「以前の申告が正しくなかった」ということですから、理由が何であれマイナスの印象は避けられません。
「税務と銀行は関係ない」と考えている経営者の方もいますが、決算書は一つしかありません。税務署に出す決算書と銀行に出す決算書は同じものです。銀行が決算書をどう読むかは決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェックで詳しく解説しています。
隠さずに、自分から銀行に説明しに行くことです。「何が誤っていたのか」「なぜ起きたのか」「再発しないために何を変えたのか」を整理して伝えれば、黙っていて後から知られるよりも、信頼の傷は小さく済みます。
「帳簿は嘘をつかない」:私が融資停止から学んだこと
私は2019年、複数の金融機関から「あなたには、貸せません」と言われました。2014年から不動産投資を続け、規模を広げてきた矢先のことです。そのとき友人に言われたのが「BSを見ろ」という一言でした。
自分のBSとPLを正面から見直して痛感したのは、帳簿は嘘をつかないということです。決算書は、良くも悪くも会社の現状をそのまま映しています。都合の悪い数字から目をそらさず、毀損した資産を整理し、きちんと納税して純資産を積み上げる。地道な立て直しの結果、2025年までに総投資額82億円・45プロジェクトまで積み上げ直すことができました。その経緯は2棟目・3棟目で融資が止まる理由の記事にも書いています。
税務署に対しても、銀行に対しても、正面から付き合える経営者になる。その出発点は、正直な決算書をつくることでした。
調査が来ても困らない会社が続けている当たり前の習慣
税務調査に怯えないための答えはシンプルです。取引の実態がわかる記録を残し続けること。具体的には次のような習慣です。
- 経費には必ず証拠と理由を残す:領収書や請求書だけでなく、誰と、何のために使ったのかをメモしておく。交際費や出張費は特に大切です
- 取引の実態を書類で示せるようにする:外注費なら契約書、発注の記録、成果物。業務の実態が説明できない支出は計上しない
- 現金の売上は日々記録し、入金と一致させる:レジの記録、日計表、通帳への入金を突き合わせる習慣をつける
- 「とりあえず経費に」をやめる:判断に迷う支出は、計上する前に顧問税理士に相談する。この「とりあえず」の積み重ねが、調査で一気に崩れる原因になります
- 大きな取引や制度の適用は、事前に根拠を確認する:消費税の還付、中古資産の耐用年数、役員への支出など、判断が分かれやすいものは、検討した内容を記録に残す
どれも特別なことではありません。ただ、現金取引の多い会社や、急成長で経理が追いついていない会社ほど、これができていないことが多いのも事実です。
クレフティには、元大阪国税局の査察部・調査部に在籍し、統括国税調査官(税務署長待遇)で退職した税理士の平井信行が相談役顧問として加わっています。調査する側の視点も踏まえて、日頃の記録の整え方や、調査が入ったときの対応をサポートしています。
「払った税金の2倍、会社は強くなる」
私がよくお伝えしているのが「払った税金の2倍、会社は強くなる」という言葉です。法人の実効税率をおおまかに3割強とすると、100万円の税金を払う会社は税引前でおよそ300万円の利益を出しており、税金を払った後の約200万円が純資産に積み上がります。
無理な経費で税金を減らそうとすれば、純資産は増えず、調査のリスクも抱えることになります。正しく申告して納税し、純資産を積み上げていく会社は、税務調査が来ても困らず、銀行からも継続的に融資を受けられます。税務調査への備えと、銀行への備えは、同じ一つのことなのです。
まとめ
- 法人税等の実地調査は年約5万4千件。単純計算では年2%弱だが、調査必要度が高い会社に集中する
- 選ばれやすいのは、売上急増、赤字の継続、同業比で不自然な経費率、現金取引の多さなど「説明が必要な数字」がある会社
- 修正申告は追徴税額で純資産を減らすだけでなく、経営管理の姿勢を疑われて融資が止まることがある
- 最大の備えは、取引の実態がわかる記録を残し、正しく申告すること
決算書は一つしかありません。だからこそ、誠実につくることが一番の戦略です。クレフティでは、日頃の記帳や決算の段階から、税務と銀行の両方の目線で決算書を整えるお手伝いをしています。
