個人と法人・損益通算

個人から法人へ物件を移すときの税金|譲渡所得・消費税・登録免許税・不動産取得税と借入の引継ぎ

「個人で持っている物件を、自分の法人に移したい」。法人化を考える不動産投資家から、よくいただくご相談です。ただ、自分の会社に売るといっても、税務上は第三者に売るのと同じ不動産の売買です。個人には譲渡所得税と(課税事業者であれば)消費税が、法人には登録免許税と不動産取得税がかかります。

しかも、相手が自分の会社なので、価格は自由に決められてしまいます。その分、時価から外れた価格で取引すると、税務上は時価で引き直されるルールがあります。この記事では、個人から法人へ物件を移すときの税金を一覧にし、価格の決め方、建物だけ移す場合の注意点、そして一番の実務上の壁になりやすい借入の引継ぎと銀行の見え方まで整理します。

この記事の結論
  • 個人から自分の法人への移転も通常の売買。個人に譲渡所得税と消費税(課税事業者の場合の建物部分)、法人に登録免許税・不動産取得税がかかる
  • 法人に時価の2分の1未満で売ると、時価で売ったものとみなされる(所得税法59条1項2号)。2分の1以上でも所得税法157条の適用はあり得る
  • 移転価格は鑑定評価など根拠のある時価で決め、土地と建物の内訳も合理的に区分する
  • 建物だけ移す場合は、法人が個人の土地を使うことになるため、借地権の扱い(無償返還の届出など)を決めておく
  • 借入の引継ぎ・借換えには銀行の承諾が必要。法人の純資産や債務償還年数がどう見えるかまで、売買契約の前に設計する

個人から法人へ物件を移すときにかかる税金の全体像

自分の法人に物件を売る場合にかかる主な税金は、次のとおりです。

誰に税金内容主な根拠・数字(2026年10月時点で確認)
個人(売主)譲渡所得税・住民税譲渡価額 -(取得費+譲渡費用)に分離課税所有期間5年超:所得税15%・住民税5%、5年以下:所得税30%・住民税9%(ほかに復興特別所得税)
個人(売主)消費税課税事業者なら建物部分の譲渡が課税売上。土地は非課税事業用の建物の売却は課税対象(国税庁タックスアンサーNo.3240)
法人(買主)登録免許税所有権移転登記。課税標準は固定資産税評価額土地の売買:本則2%、令和11年3月31日までは1.5%。建物の売買:2%
法人(買主)不動産取得税取得した不動産に課税。課税標準は固定資産税評価額令和9年3月31日まで:土地・住宅3%、住宅以外の家屋4%。宅地等は課税標準を2分の1
双方印紙税不動産売買契約書不動産売買契約書・工事請負契約書の印紙税を参照

所有期間は、譲渡した年の1月1日現在で判定します。登録免許税の住宅用家屋の軽減税率は、個人が自己の居住用に取得する場合の措置なので、法人が賃貸住宅を買う場合には使えません。不動産取得税・登録免許税を法人でどう処理するかは、不動産取得税・登録免許税は経費か取得価額かで詳しく扱います。

個人側の税金:譲渡所得と「時価の2分の1」基準

原則:実際の売買価額で譲渡所得を計算する

個人が法人に物件を売ったときの譲渡所得は、原則として実際の売買価額をもとに計算します。

譲渡所得 = 譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)取得費(建物)= 購入代金など - 減価償却費の累計額

賃貸用の建物は、持っている間に減価償却が進んでいるため、取得費は購入時より小さくなっています。築古の建物を短い耐用年数で償却してきた場合はなおさらで、時価で売ると思った以上に譲渡益が出ることがあります。逆に譲渡損が出ても、土地・建物の譲渡損失は、原則として給与所得や不動産所得など他の所得と損益通算できません。

例外:法人に時価の2分の1未満で売ると、時価で売ったとみなされる

所得税法59条1項2号と所得税法施行令169条により、個人が法人に対して時価の2分の1に満たない価額で譲渡した場合は、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得を計算します。国税庁のタックスアンサー(No.3217)では、同族会社の代表者が時価1億円の土地を4,000万円で自分の会社に売った場合、収入金額は1億円になるという例が示されています。

注意したいのは、2分の1以上なら何でもよいわけではないことです。所得税基本通達59-3では、時価の2分の1以上の対価による法人への譲渡には59条1項2号は適用されないとしつつ、同族会社との取引で所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認)に該当する場合には、時価で計算し直すことがあり得るとしています。

法人側でも、時価との差額は問題になる

時価より低い価格で買った法人の側では、時価との差額が受贈益として益金に算入されるかが問題になります。反対に、時価より高い価格で買えば、高すぎる部分は売主である役員への利益の移転と見られるおそれがあります。安すぎても高すぎても、個人・法人の両方で問題が起きるため、価格は時価で決めるのが基本です。

消費税:個人が課税事業者かどうかで変わる

売主(個人)の消費税

個人事業者が、賃貸用の建物を売ることは事業として行う資産の譲渡に当たり、消費税の課税対象です(国税庁タックスアンサーNo.3240)。個人が課税事業者であれば、売買代金のうち建物部分に消費税がかかります。土地は非課税です。

  • 売買代金を土地と建物に分けて契約書に記載する。区分がない場合は、合理的な方法で按分する必要がある
  • 建物の譲渡代金は、その年の課税売上高に入る。個人がほかにも賃貸業を続ける場合、その年を基準期間とする2年後の納税義務の判定に影響する
  • 個人が免税事業者なら、建物を売っても消費税の納税は生じない

買主(法人)の消費税

法人が取得する建物が居住用賃貸建物(住宅の貸付けに使わないことが明らかな建物以外で、税抜1,000万円以上のもの)に当たる場合、取得時の消費税は原則として仕入税額控除できません。テナント用の建物なら控除の対象になり得ますが、売主の個人が適格請求書発行事業者でなければ、控除できる範囲は経過措置の範囲に限られます。判定の実務は居住用賃貸建物の判定実務を参照してください。

土地と建物の按分は、個人の消費税(建物が多いほど増える)と、法人の減価償却(建物が多いほど増える)に逆方向で効きます。身内同士の取引なので、固定資産税評価額の比や鑑定評価など、第三者に説明できる方法で区分することが大切です。争いになった事例は土地と建物の按分方法と争いになった裁決事例で扱います。

裁決事例:法人への土地の譲渡に低額譲渡の特例が適用された事例

平成16年3月8日裁決(裁決事例集No.67 350頁)

事案:相続で土地を共有していた5人が、うち2人が取締役を務める法人にその土地を総額700万円(1平方メートル当たり約4,383円)で売りました。税務署は、時価の2分の1に満たない価額による譲渡だとして、所得税法59条1項2号(低額譲渡の特例)を適用して更正処分をしました。

請求人の主張:近くの土地が仲介業者を介して売れた価格と比べれば、2分の1以上であり、低額譲渡には当たらない。

審判所の判断:

  • 時価とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額で、主観的な要素を除いた客観的な交換価値をいう
  • 請求人が比べた近くの土地は、立地条件や利用価値が大きく異なり、その取引価額を時価とみることはできない
  • 不動産鑑定士による鑑定評価額(取引事例比較法、1平方メートル当たり15,900円、総額2,540万円)は、売買実例に基づく価額とも同程度で、時価として相当
  • この土地を担保に法人が信用金庫から受けた融資の担保評価(査定時価3,039万円余り)も、評価に見合うものとして確認されている
  • 低額譲渡の特例は、当事者の意図・目的や恣意性の有無を問わず、譲渡価額が時価の2分の1に満たないかどうかで適用される

結論として、700万円は時価2,540万円の2分の1に満たないことが明らかであり、特例の適用は相当とされ、更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分は適法とされました。

確認先:国税不服審判所 公表裁決事例(平16.3.8裁決、裁決事例集No.67 350頁)

実務への示唆

この事例で目を引くのは、法人がその土地を担保に借りた際の銀行の担保評価も、時価の検討の中で確認されている点です。身内の法人への売買では、「売るときは安く、銀行には高く評価してもらう」という説明は通りません。移転価格は、鑑定評価や売買実例など、後から第三者に説明できる根拠で決めておくことが大切です。

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法人側の処理と決算書:取得価額・減価償却・流通税

取得価額と減価償却

法人の取得価額は、時価で決めた購入代金に、仲介手数料などの付随費用を加えた額です。中古の建物を取得するので、耐用年数は中古資産の見積り(簡便法など)を使うことができます。個人のときの未償却残高や耐用年数は引き継がれず、法人が時価で買い直した建物として、新たに減価償却が始まります。中古建物の耐用年数については中古建物の耐用年数(簡便法)と否認された事例を参照してください。

登録免許税・不動産取得税の処理と表示

法人税では、不動産取得税や登録免許税などは、固定資産の取得価額に算入せず損金にすることが認められています(法人税基本通達7-3-3の2)。一方、企業会計では、資産の取得に直接要した付随費用は取得原価に含めるのが原則的な考え方です。

税務上は損金算入が認められるかが論点になりますが、決算書でどの区分に表示するか(取得原価に含めるか、費用とするなら販売費及び一般管理費か、臨時・多額のものとして別の区分にできるか)は、企業会計の基準に沿って、取引の実態から判断する必要があります。物件を移した期は流通税が大きくなるため、営業利益への影響も含めて顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

建物だけ移す場合:土地の扱いと借地権

法人の資金負担や、個人に残したい資産の事情から、建物だけを法人に移し、土地は個人に残すという方法がとられることもあります。この場合、法人が個人の土地の上に建物を持つことになるため、借地権の扱いを決めておかなければなりません。

方法内容注意点
権利金を払う借地権の設定の対価として、法人が個人に権利金を払う個人側で課税が生じ得る。法人の資金負担が大きい
相当の地代を払う権利金の代わりに、土地の価額に応じた高い水準の地代を払う地代の水準を定期的に見直す必要がある
無償返還の届出将来土地を無償で返還する旨を契約に定め、連名で「土地の無償返還に関する届出書」を出す届出がないまま権利金も相当の地代もないと、借地権の認定課税が問題になり得る

「土地の無償返還に関する届出書」(法人税基本通達13-1-7)は、土地所有者が個人の場合でも提出できます。提出先は土地所有者の納税地の所轄税務署です。地代の水準は個人の不動産所得になり、低すぎれば先に述べた所得税法157条の問題になり得ます。同族会社に土地を貸した賃料が否認された事例は、サブリース方式の仕組みと適正賃料でも紹介しています。

建物だけ移す方法は、土地と建物の所有者が分かれるため、銀行の担保の取り方にも影響します。法人の借入について、個人の土地にも担保設定を求められるのが通常で、個人の物上保証を前提にした融資構成になることが多い点も、あらかじめ想定しておきましょう。

銀行融資:借入の引継ぎ・借換えと決算書の見え方

税金以上に実務の壁になりやすいのが、個人の借入をどうするかです。個人の物件には抵当権が付いており、借入が残ったまま所有者を変えることは、通常、銀行の承諾なしにはできません。

主な方法

方法内容主な注意点
法人が新たに借りて、個人の借入を返済する法人が購入資金を借り、売買代金で個人が借入を一括返済繰上返済の手数料、抵当権の抹消と新たな設定の登記費用。法人の審査が通るか
法人が個人の債務を引き受ける銀行の承諾を得て、法人が個人の借入を引き継ぐ銀行が応じるかは個別判断。個人の連帯保証を求められることが多い
他行への借換えとあわせて移す別の銀行で法人として借り換える既存の銀行との関係への影響。融資の借り換えのメリットと注意点を参照

法人がまだ決算を迎えていない場合の審査の考え方は、新設法人で不動産を買うときの融資で解説しています。

法人の決算書はこう見える

時価で買い、購入資金をほぼ全額借入でまかなうと、法人の貸借対照表は「物件(時価)≒借入金」となり、純資産はほとんど増えません。時価が担保評価を上回っていれば、銀行の目からは実質的な債務超過に近く見えることもあります。

一方、個人には売買代金から借入の返済と譲渡所得税を差し引いた資金が残ります。この資金を法人に長期で貸し付ける場合、役員借入金の扱いが銀行の評価に影響します。長期の固定負債として整理し、銀行と自己資本に近い性格であることを確認しておくと、実態に近い評価を受けやすくなります(役員借入金は融資でどう見られる?)。

著書のモデルでは、債務償還年数は「(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。物件を移した初年度は流通税で利益が薄くなりやすく、借入金は増えるため、年数は一時的に悪化しがちです。移す時期と物件の順番を、銀行の評価が落ち込まないよう計画することが大切です。

実務のチェックポイント

  1. 時価の根拠:鑑定評価、売買実例、固定資産税評価額などで、移転価格を第三者に説明できるか
  2. 土地と建物の内訳:契約書に区分して記載したか。按分方法は合理的か
  3. 個人の譲渡所得:取得費(減価償却後)を計算し、譲渡所得税の額と納税資金を見込んだか
  4. 個人の消費税:課税事業者か。建物部分の消費税と、今後の基準期間への影響を確認したか
  5. 法人の流通税:登録免許税・不動産取得税の額と、損金算入・表示の方針を決めたか
  6. 建物だけ移す場合:借地権の扱い(権利金・相当の地代・無償返還の届出)を決めたか
  7. 借入:取引銀行に事前に相談し、引継ぎか借換えか、抵当権の手続と費用を確認したか
  8. 決算書の見え方:移転後の法人の純資産・債務償還年数を試算したか

法人化の時期そのものの考え方は不動産投資の法人化はいつがベスト?を、個人と法人の税率の比較は不動産所得は個人と法人どちらが得?をあわせてご覧ください。

まとめ

  • 自分の法人への移転も通常の売買。個人に譲渡所得税と消費税、法人に登録免許税(土地1.5%〈令和11年3月31日まで〉、建物2%)と不動産取得税(令和9年3月31日まで土地・住宅3%など)がかかる
  • 法人に時価の2分の1未満で売ると時価で譲渡したとみなされる。2分の1以上でも所得税法157条の適用はあり得る
  • 平成16年3月8日裁決では、鑑定評価額をもとに時価が認定され、低額譲渡の特例が適用された
  • 建物だけ移す場合は、借地権の扱いを必ず決める
  • 借入の引継ぎ・借換えは銀行の承諾が前提。移転後の決算書の見え方まで、売買契約の前に設計する

物件を法人に移すかどうかは、税金の額だけでなく、その後も融資を受け続けられるかで判断すべきテーマです。クレフティでは、不動産投資家向けサポートの中で、移転価格の検討から取引銀行との調整、移転後の決算書づくりまで一貫してご相談をお受けしています。

よくある質問

個人の物件を自分の法人に安く売れば、税金を抑えられますか?
法人に対して時価の2分の1未満の価額で譲渡すると、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得が計算されます(所得税法59条1項2号、所得税法施行令169条)。2分の1以上でも、同族会社との取引で所得税の負担を不当に減少させる結果となる場合は、所得税法157条の適用があり得ます。法人側でも時価との差額が問題になるため、時価を根拠のある方法で求めて取引するのが基本です。
個人から法人に物件を移すと、借入金も法人に引き継げますか?
銀行の承諾が必要です。法人が新たに融資を受けて個人の借入を返済する方法と、銀行の承諾を得て法人が債務を引き受ける方法があり、どちらになるかは銀行の判断です。抵当権の抹消・設定や変更の登記費用、繰上返済の手数料がかかる場合もあるため、売買契約の前に取引銀行と相談してください。
建物だけを法人に移し、土地は個人のままにできますか?
できますが、法人が個人の土地を使うことになるため、借地権の扱いを決めておく必要があります。権利金の授受をせず、相当の地代も払わない場合は、将来土地を無償で返還する旨を契約に定め、法人と土地所有者の連名で「土地の無償返還に関する届出書」を出す方法があります。土地所有者が個人でも提出できます。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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