取得・建築

土地と建物の按分方法と争いになった裁決事例|固定資産税評価額・路線価・鑑定評価のどれを使うか

土地付きの建物を一括で買うと、売買代金を土地と建物に分ける必要があります。建物部分は減価償却で費用になり、消費税の課税仕入れにもなりますが、土地部分は減価償却せず、消費税も非課税です。建物の比率を高くすれば、減価償却費も仕入税額控除も増える。このため、按分の方法は税務調査で必ずといってよいほど確認され、国税不服審判所でも何度も争われてきました。

この記事では、土地と建物の按分方法を整理したうえで、争いになった公表裁決を6件紹介します。あわせて、個人と法人の違い、会計上の扱い、銀行からの見え方も解説します。

この記事の結論
  • 契約書に土地・建物の金額が明記されていれば、通常はそれが基礎になる
  • 区分がない場合は、合理的な方法で売買代金を区分する。裁決で多く採用されているのは固定資産税評価額の比率による按分
  • 路線価で土地を出して残りを建物にする差引法は、複数の裁決で合理的と認められていない
  • 固定資産税評価額に改修工事が反映されていないなど特段の事情があれば、不動産鑑定評価の積算価格の比率がより合理的とされた例もある
  • 建物本体と附属設備の区分、消費税の計算も、同じ物差しで整合させる

按分方法は4つに整理できる

方法内容裁決での評価
契約書の区分売買契約書に記載された土地・建物の価額通常はこれによる。売主の区分経理が客観的・合理的なら同様に扱った例も
固定資産税評価額の比率で按分同一年度の土地・建物の評価額の比率で売買代金を按分一般的に合理的。多くの裁決で採用
不動産鑑定評価の比率で按分鑑定評価の積算価格などの比率で按分鑑定に不合理な点があれば退けられ、個別事情を反映していれば採用された例も
差引法路線価などで土地を出し、残りを建物とする合理的と認められていない

税務上の根拠は、購入した減価償却資産の取得価額を「購入の代価」とする法人税法施行令54条1項1号(個人は所得税法施行令126条1項1号)です。裁決は、契約書等で建物の購入代価が明らかでない場合には、租税負担の公平や実質主義の観点から、合理的な方法によって区分する必要があるという考え方で一貫しています。

公表裁決に見る判断の分かれ目

平成12年12月28日裁決:差引法よりあん分法、売主の区分経理も尊重

会社員が賃貸用に区分マンション3室を取得した事案です。売買契約書には土地・建物の価額も消費税額も記載がありませんでした。請求人は路線価で土地を算出し、残りを建物とする方法を主張しましたが、審判所は、差引法では通常より高く(または安く)売られた場合に一方の価額が実態から大きく離れるのに対し、あん分法では差額が土地と建物の双方に反映されるとして、あん分法のほうが合理的としました。また、相続税評価額(土地は国税局の路線価、建物は市町村の評価額)よりも、土地・建物とも同じ機関が定める固定資産税評価額を基礎とする方がより合理的としています。

一方、1室については、実質的な売主の前所有者が同時期の販売価額を土地と建物に区分経理しており、それを不相当とする理由がないとして、その区分を基に按分しています。さらに、建物本体と建物附属設備も、建築主が保存する工事請負契約書の工事費割合を、取得時までの損耗を見込んで補正して区分すべきとし、附属設備を区分しなかった原処分庁の計算も採用しませんでした(裁決事例集No.60・157頁、国税不服審判所)。

平成24年7月5日裁決:建物と附属設備も固定資産税評価額の割合で

信託受益権の形で土地建物を取得した法人の事案で、主な争点は固定資産税等の精算金の扱いでした。審判所は、契約書に建物と各償却資産の価額の区分がないことから、同一時期・同一の評価基準で評価された固定資産税評価額の割合で、建物の購入代価と付随費用を按分して各資産の取得価額を算出し直し、原処分の一部を取り消しています(国税不服審判所)。

平成27年6月1日裁決:競売物件、鑑定評価より固定資産税評価額

競売で土地と建物を一括取得した法人が、路線価や類似建物の価額で按分して申告し、審判所では予備的に不動産鑑定士の評価額の比率によるべきと主張した事案です。審判所は、競売は落札価格が通常の取引より低くなるのが通例で、各資産の価額比によるあん分法が取引の実態に合致し最も合理的としたうえで、提出された鑑定評価は必ずしも合理性のある価額になっていないとし、固定資産税評価額の比率によるべきと判断しました。評価替えが3年ごとであることや震災前の評価であることなどの主張も、時点修正がされている、土地と建物の双方に影響が及ぶ、などとして退けています。建物と附属設備の区分には、新築時の工事請負契約書の工事費割合を減耗で補正して用いています(国税不服審判所)。

令和4年11月8日裁決:海外物件でも現地の固定資産税評価額

米国の州で賃貸用の土地建物を一括取得した個人が、不動産鑑定評価額の割合で区分すべきと主張した事案です。審判所は、その州の固定資産税評価額は、同一の公的機関が同一時期に合理的な評価基準で所有者変更時点の市場価格を評価するもので、不服申立制度もあることから、特段の事情がない限り、固定資産税評価額の割合で区分するのが合理的としました。提出された鑑定評価書には合理性を欠く点があるとしています。また、土地の取得のために要した負債の利子(損益通算の制限の対象)も、同じ評価額の割合で計算すべきとしました。ただし一部の年分については原処分の一部が取り消されています(国税不服審判所)。

令和5年6月21日裁決:差引法は否定、改修済み物件は積算価格比

簡易宿所にする目的で3物件を一括取得した法人が、路線価で土地を出して残りを建物とする差引法で、減価償却費と消費税の課税仕入れを計算した事案です。審判所は、路線価は地価公示価格の80%程度を目途に設定され、売主の利益や販売手数料等の諸経費も反映されないため、土地が時価より低く、建物が高くなり、看過し難い不均衡が生じるとして差引法を退けました。

そのうえで、固定資産税評価額の比率は一般的には合理的としつつ、2物件については相応の規模の改修工事で時価が増加しているのに評価額に反映されていないとして、不動産鑑定評価の積算価格の比率で按分するほうがより合理的と判断しました。残る1物件は固定資産税評価額の比率です。また、区分の基準は法人税と消費税で異なるものではないとしています(国税不服審判所)。

平成25年12月17日裁決:複数の建物の区分にも固定資産税評価額

主な争点は中古建物の耐用年数でしたが、1通の契約でまとめて買った用途の異なる複数の建物について、売買価額の内訳がないため、再建築価格を基にする固定資産評価基準には一般的な合理性があるとして、固定資産税評価額の比率で各建物の取得価額を算定しています(国税不服審判所)。

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個人と法人で変わるところ

按分の考え方そのものは個人も法人も同じです。違いは、按分の結果が影響する範囲です。

影響する項目法人個人
建物の減価償却費損金の額不動産所得の必要経費
消費税の課税仕入れ(課税事業者で本則課税の場合)建物分の支払対価同左
損益通算なし土地取得のための負債の利子の計算にも同じ比率が使われる
売却時土地・建物の帳簿価額が売却原価に譲渡所得の取得費の計算に影響

令和5年の裁決が示したとおり、法人税(所得税)と消費税で別々の比率を使うことはできません。建物の比率を消費税の計算でだけ高くする、といった処理は通りません。居住用の建物の消費税は居住用賃貸建物の消費税を参照してください。

会計上の扱いと表示

企業会計でも、複数の資産を一括して取得した場合は、各資産の時価などの合理的な基準で取得原価を配分するのが一般的な考え方です。税務上の按分と会計上の配分を別々にする理由は通常ないため、同じ按分で帳簿を作り、根拠資料を残すのが実務です。

按分は「合理的な根拠」を残すことがすべて

税務上は、選んだ方法が合理的かどうかが論点です。会計上の配分も、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って、取引の実態に合った合理的な基準で行う必要があります。建物比率を高くしたいという目的から方法を選ぶのではなく、契約書、固定資産税評価証明書、鑑定評価書、改修工事の資料など、根拠となる資料をそろえて判断し、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

銀行からの見え方

建物の比率は、決算書の数字を次のように動かします。

項目建物比率が高い場合建物比率が低い場合
減価償却費多い(営業利益・経常利益は小さくなる)少ない
償却前利益ほぼ変わらない(税金が減る分だけ手元資金は増える)ほぼ変わらない
建物の簿価早く減るゆっくり減る
純資産減価償却が進む分、早く薄くなりやすい残りやすい

償却前利益で見る銀行にとって、減価償却費そのものは返済能力を下げません。注意したいのは貸借対照表です。2019年、私は複数の銀行から融資を断られました。減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の価格(簿価)よりも負債の金額が大きい債務超過の状態に陥っていたことが原因でした。一般に、建物比率や耐用年数は、数年後の純資産の厚みに効いてきます。按分は「税金が減るかどうか」だけでなく、決算書が数年後にどう見えるかまで含めて判断してください。減価償却と銀行の見方は減価償却費と銀行の見方、債務超過の影響は債務超過と融資で解説しています。

実務のチェックポイント

  1. 売買契約書に土地・建物の価額(または建物の消費税額)が記載されているか
  2. 記載がない場合、取得年度の固定資産税評価証明書を取り寄せたか(評価替えの年度とのずれがあれば時点修正を検討)
  3. 路線価で土地を出して残りを建物とする差引法を使っていないか
  4. 取得前後に大規模な改修があり、評価額に反映されていない事情があるか(あれば鑑定評価の検討)
  5. 建物本体と附属設備の区分に、工事請負契約書や見積書などの根拠があるか(建物と建物附属設備の区分)
  6. 仲介手数料などの付随費用も、同じ比率で按分したか(購入時の仲介手数料)
  7. 法人税(所得税)と消費税で同じ按分を使っているか

まとめ

  • 契約書に区分があれば通常はそれによる。ない場合は合理的な方法で区分する
  • 裁決で多く採用されているのは固定資産税評価額の比率。路線価を使う差引法は認められていない
  • 改修工事が評価額に反映されていないなどの特段の事情があれば、鑑定評価の積算価格の比率がより合理的とされた例がある
  • 建物と附属設備の区分、付随費用、消費税も、同じ物差しで整合させる
  • 建物比率は減価償却と純資産の推移に効く。数年後の決算書まで見て判断する

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よくある質問

売買契約書に土地と建物の金額が書いてあれば、その金額を使ってよいですか?
通常はその金額が取得価額の基礎になります。公表裁決でも、売買契約書等により建物の売買金額が明らかであれば、通常これに基づいて建物の取得価額が算定されるとしています。ただし、時価から著しくかけ離れた区分など不合理なものは認められないことがあるため、区分の根拠を説明できるようにしておくことが大切です。
契約書に区分がない場合、路線価で土地を出して残りを建物にしてもよいですか?
公表裁決では認められていません。令和5年6月21日裁決は、路線価は地価公示価格の80%程度を目途に設定され、売主の利益や諸経費も反映されないため、土地が低く、建物が高く算定され、看過し難い不均衡が生じるとして、この差引法を合理的と認めませんでした。平成12年12月28日裁決も、差引法より価額比で按分する方法のほうが合理的としています。
固定資産税評価額の比率で按分すれば、必ず認められますか?
固定資産税評価額の比率による按分は、同一の公的機関が同一時期に評価したものとして、一般的には合理的とされています。ただし、令和5年6月21日裁決では、時価を増加させる改修工事が評価額に反映されていない物件について、不動産鑑定評価の積算価格の比率で按分するほうがより合理的と判断されました。物件の個別事情によって結論が変わります。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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