「減価償却で赤字だけど、お金は残っている。銀行はどう見るのか」。不動産投資家から最も多く受ける質問の一つです。
減価償却費は、建物の取得に払ったお金を耐用年数にわたって費用に配分するもので、その年に現金が出ていく費用ではありません。そのため銀行は、決算書の利益に減価償却費を足し戻して返済能力を見るのが一般的です。一方で、減価償却が積み重なると建物の簿価が減り、純資産の見え方が悪くなっていきます。この記事では、税務・会計・銀行の3つの目線から、減価償却費の扱いを整理します。
- 銀行は、経常利益に減価償却費を足し戻した償却前利益や、債務償還年数で返済能力を見る
- 著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)。10年以内が健全、20年超は厳しい
- 法人は償却限度額の範囲で任意、個人は計算どおりに必要経費に入れる。事業に使う前の資産は償却できない
- 償却前利益が十分でも、簿価が負債を下回る債務超過は格付けを大きく下げる
- 決算書では、償却費を減らして見せるのではなく、償却前利益と純資産の両方を説明できる状態にする
減価償却費は「お金の出ない費用」
建物を1億円で買って耐用年数で償却すると、毎年の償却費が損益計算書に費用として計上されます。しかし、その年に1億円の一部が改めて支払われるわけではありません。お金は取得時(あるいは借入金の返済時)に出ていきます。
このため、不動産賃貸業の損益計算書では、利益と手元に残るお金が大きくずれることがよくあります。簡単な例で見てみます。
| 項目 | 金額(年間) |
|---|---|
| 家賃収入(売上高) | 3,000万円 |
| 管理費・修繕費・租税公課など | 900万円 |
| 減価償却費 | 1,200万円 |
| 営業利益 | 900万円 |
| 支払利息 | 300万円 |
| 経常利益 | 600万円 |
| 償却前利益(経常利益+減価償却費) | 1,800万円 |
経常利益は600万円でも、償却前利益は1,800万円あります。借入金の元本返済は損益計算書の費用ではないため、返済の原資はこの償却前利益(から税金を差し引いたもの)で考えるのが基本です。
銀行が見る指標:償却前利益と債務償還年数
債務償還年数
著書のモデルでは、債務償還年数を次の式で計算します。
上の例で、借入金3億円、現預金3,000万円、法人税等150万円とすると、
(3億円-3,000万円)÷(600万円+1,200万円-150万円)= 2億7,000万円 ÷ 1,650万円 ≒ 16.4年
となります。著書のモデルでは10年以内が健全、20年超は厳しい水準です。不動産賃貸業は借入が大きいため年数が長くなりがちですが、分母に減価償却費が足し戻されていることがポイントです。会計上の利益が小さくても、償却前の稼ぐ力があれば年数は抑えられます。
ICRと格付け
ICR(インタレスト・カバレッジ・レシオ)は、営業利益などで支払利息を何倍まかなえるかを見る指標です。こちらは償却費を差し引いた営業利益が分子になるため、償却費が大きいと低く出ます。著書のモデルの銀行格付けは129点満点(安全性34・収益性15・成長性25・返済能力55)で、正常先の目安は32点以上です。返済能力の配点が大きい一方、安全性(自己資本比率・純資産)や収益性(利益率)も見られます。ICRの考え方はICRと不動産融資で解説しています。
税務上の扱い:法人と個人の違い
減価償却費の計上のしかたは、法人と個人で大きく違います。
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 計上の考え方 | 損金経理した金額のうち償却限度額までが損金(任意償却) | 計算した償却費を必要経費に算入(強制償却) |
| 償却しなかった場合 | 償却不足額は翌期に繰り越して限度額が増えるわけではない(残った簿価を以後償却) | 必要経費に入れなくても、償却したものとして扱われる(譲渡時の取得費計算でも償却費を累計) |
| 建物の償却方法 | 平成10年4月1日以後取得分は定額法 | 同左 |
| 根拠 | 法人税法31条 | 所得税法49条 |
個人の場合、国税庁のタックスアンサーNo.3261は、事業に使っていた建物の取得費を計算するとき、毎年の減価償却費を必要経費にしていない部分があったとしても、毎年の減価償却費の額を合計することに変わりはないとしています。「今年は償却しないでおく」という調整はできません。
法人の任意償却と銀行の見方は、法人の任意償却と償却不足を銀行はどう見るかで詳しく扱います。
裁決事例:事業に使う前の資産は償却できない
減価償却は、資産を事業の用に供した時から始まります。この点が争われた公表裁決事例を紹介します。
- 出典:国税不服審判所 平成30年3月27日裁決[裁決全文]
- 事案:法人が太陽光発電設備を取得した事業年度に償却費を損金算入して申告し、その後、その事業年度内には事業の用に供していなかったとして償却超過額とする修正申告をしました。翌事業年度に電力の供給を開始したため、その償却費を翌事業年度に損金算入すべきと主張しました。
- 判断:事業年度終了時に事業の用に供していない設備は法人税法上の減価償却資産に当たらず、その事業年度に償却費として損金経理した金額は「償却超過額」にも当たらない。したがって、翌事業年度の損金経理額に含めて損金算入することはできないとしました。
- 示唆:竣工・引渡しが期末をまたぐ新築物件などでは、いつ事業の用に供したか(賃貸を開始した、または入居募集を始めて貸付けできる状態になったか)を資料で示せるようにしておく必要があります。
もう一つ、耐用年数の性格について示した裁決もあります。平成13年10月23日裁決(裁決事例集No.62・49頁)[裁決全文]は、税法の耐用年数は「その期間内で償却を完了させる」という意味ではなく、償却費を算定するための償却率を算出する基礎にすぎないと述べています。耐用年数は、物件が実際に使える年数そのものではないということです。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱い:「相当の償却」と決算書の表示
会社計算規則5条2項は、償却すべき資産について、事業年度の末日において「相当の償却」をしなければならないと定めています。中小企業の会計に関する基本要領の公表時に金融庁が示した意見への対応でも、要領の「相当の減価償却」は会社計算規則の「相当の償却」を踏まえたもので、一般的に、耐用年数にわたって毎期規則的に減価償却を行うことが考えられる、と説明されています[金融庁 公表資料]。
つまり、税務上は法人に任意償却が認められていても、会計上は毎期規則的に償却するのが原則です。税務上の処理と会計上の考え方は別物であり、決算書は会計の基準に沿って作る必要があります。
銀行からの見え方:償却前利益だけでは足りない理由
償却前利益で返済できていれば十分か、というと、そうではありません。減価償却が積み重なると、建物の簿価が毎年減っていきます。借入金の返済が償却のペースより遅いと、資産(簿価)より負債のほうが大きい債務超過の状態に近づきます。
私自身、2019年に複数の銀行から「あなたには、貸せません」と言われました。原因は、減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の価格(簿価)よりも負債の金額のほうが大きくなる、債務超過の状態に陥っていたことです。償却前のキャッシュフローは回っていても、貸借対照表の見え方で融資は止まります。
| 状態 | 銀行の見え方 |
|---|---|
| 償却前利益が厚く、純資産もプラスで増えている | 返済能力・安全性ともに評価されやすい |
| 償却前利益は厚いが、経常赤字が続き純資産が減っている | 返済能力は説明できるが、安全性の評価が下がる |
| 償却前利益は厚いが、債務超過 | 格付けが大きく下がり、新規融資が難しくなる |
| 償却前利益も薄い | 返済能力そのものが問われる |
償却が速い物件の特徴は減価償却が速い物件の落とし穴、債務超過の解消は債務超過の解消方法、元本返済が償却費を上回る局面はデッドクロスで解説しています。
実務のチェックポイント
- 決算書とあわせて、償却前利益と債務償還年数を自分で計算しているか
- 物件ごとに、減価償却費・元本返済額・税引後キャッシュフローを一覧にしているか
- 簿価と借入残高を物件ごとに比べ、債務超過に近づいていないか確認しているか
- 新築・取得物件の事業供用日を、賃貸開始や募集開始の資料で示せるか
- 法人で償却を抑える場合、会計上の考え方と銀行の見方(償却不足の把握)を理解しているか
- 銀行に提出する際、償却前利益で返済できることを示す補足資料を用意したか
まとめ
- 減価償却費は現金が出ない費用。銀行は償却前利益や債務償還年数で返済能力を見る
- 債務償還年数(著書のモデル)は分母に減価償却費を足し戻す。10年以内が健全、20年超は厳しい
- 法人は任意償却、個人は強制償却。事業に使う前の資産は償却できず、翌期にも持ち越せない
- 会計上は毎期規則的な「相当の償却」が原則。税務と会計は別物
- 償却前利益が厚くても、簿価が負債を下回る債務超過は格付けを大きく下げる。純資産の推移もあわせて管理する
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