築年数が進んだ賃貸物件の建替えや、使わなくなった設備の撤去では、建物や設備の残っている簿価をどう処理するかが問題になります。金額が大きいと、その期の決算書が大きく動くため、税務と会計の両面から準備しておく必要があります。
この記事では、所有している建物を取り壊したときの除却損について、法人と個人の違い、有姿除却の要件、除却が争われた裁決事例、決算書の表示(特別損失)、借入の担保と銀行からの見え方までを整理します。なお、取り壊すつもりで建物付きの土地を買った場合は扱いが別で、建物の取得価額と取壊費用は土地の取得価額になります。こちらは取り壊し前提で買った建物の取得費・取壊費用で解説しています。
- 法人:所有建物を取り壊して建て替えたときは、取壊し直前の帳簿価額(廃材等の見積額を除く)をその事業年度の損金(法人税基本通達7-7-1)
- 個人:賃貸が事業的規模なら全額が必要経費、事業的規模に満たなければその損失を差し引く前の不動産所得の金額が限度(所得税法51条)
- 取り壊していなくても、使用を廃止し今後使う可能性がないものは有姿除却ができる。ただし所有権の放棄や使用の廃止は、外から分かる形で示す必要がある
- 臨時・多額の取壊し損失は特別損失として表示することが考えられる。経常利益は守れても純資産は減るため、担保の扱いも含めて銀行と事前に話す
税務上の扱い:法人と個人で大きく違う
法人:帳簿価額をその事業年度の損金に
法人税基本通達7-7-1は、法人がまだ使用に耐える建物や構築物を取り壊し、新たにこれに代わる建物などを取得した場合(取得時から取り壊す目的だった7-3-6の場合を除く)には、取り壊した資産の取壊し直前の帳簿価額(取り壊した時の廃材等の見積額を除く)を、取り壊した日の属する事業年度の損金に算入するとしています。
新しい建物の取得価額に、古い建物の簿価を上乗せするわけではありません。取壊しの工事費用も、所有していた建物の取壊しであれば、一般にその期の費用として処理します。
個人:事業的規模かどうかで範囲が変わる
個人の不動産所得では、所得税法51条により、取壊しや除却による損失の扱いが2つに分かれます。
| 区分 | 必要経費になる金額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 不動産所得を生ずべき事業(事業的規模)の用に供される固定資産 | 損失の全額 | 所得税法51条1項 |
| 不動産所得を生ずべき業務(事業的規模に満たない)の用に供される資産 | その損失を差し引く前の、その年の不動産所得の金額が限度 | 所得税法51条4項 |
事業的規模に満たない場合、取壊し損失で不動産所得を赤字にして、給与所得などと損益通算することはできません。事業的規模の判定(いわゆる5棟10室基準と実質判断)は不動産所得の事業的規模とはで解説しています。
損失の金額は、所得税基本通達51-2により、資産の未償却残額などから、損失の発生直後のその資産の価額と発生資材の価額の合計額を控除した残額とされています。
法人と個人の比較
| 項目 | 法人 | 個人(事業的規模) | 個人(業務的規模) |
|---|---|---|---|
| 除却損の範囲 | 帳簿価額(廃材等の見積額を除く)の全額 | 未償却残額などから資材の価額などを控除した全額 | 不動産所得の金額が限度 |
| 赤字の扱い | 欠損金として繰越し(青色申告など) | 損益通算・純損失の繰越し(青色申告) | 損失で不動産所得を赤字にできない |
| 有姿除却 | 法人税基本通達7-7-2 | 所得税基本通達51-2の2 | 同左 |
有姿除却:取り壊していなくても除却できる場合
法人税基本通達7-7-2は、次のような固定資産について、解撤・破砕・廃棄などをしていなくても、帳簿価額から処分見込価額を控除した金額を除却損として損金に算入できるとしています。個人にも、未償却残額から処分見込価額を控除した金額を必要経費に算入できるとする同じ趣旨の通達(所得税基本通達51-2の2)があります。
- その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
- 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、生産中止により将来使用される可能性のほとんどないことが明らかなもの
不動産では、たとえば空き区画が増えて使用を停止した機械式駐車場や、閉鎖したまま再開の予定がない附属施設などが検討の対象になります。ただし、「今は使っていない」だけでは足りません。使用を廃止した決定(取締役会の議事録や社内の決裁)、電源の遮断や撤去の見積り、再開しない理由などを記録として残してください。
裁決事例:除却損が認められるための事実
事業的規模に満たない貸付けの取壊し損失は限度あり(平成13年4月26日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成13年4月26日裁決(裁決事例集No.61・118頁)[裁決全文]
- 事案:個人が、自分が代表取締役を務める会社に建物(作業所・事務所)と土地を貸していた。建物を取り壊して生じた損失約675万円を、所得税法51条1項(事業用資産の損失)として全額必要経費に算入した
- 判断:不動産の貸付けが事業に当たるかは、営利性・継続性、企業としての遂行性、人的・物的設備の有無、職歴や生活状況などを総合して社会通念で判断するとした。貸付けは1物件を自分の会社1社に貸すだけで、賃料の受領などの役務もわずか、生活資金の大部分は会社からの給与で賄われていたことなどから、事業ではなく業務と認定し、51条4項により、損失を差し引く前の不動産所得の金額(約143万円)を限度とした
- 示唆:借り手の会社が建物を事業用に使っていても、貸す側の貸付けが事業かどうかは別に判断されます。同族会社への1物件の貸付けで建替えを考えるときは、損失がどこまで必要経費になるかを先に試算しておきましょう
所有権の放棄は外から分かる形で(平成28年2月8日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成28年2月8日裁決[裁決全文]
- 事案:法人が、代表者が転借していた建物内に設置して貸し付けていた内装設備について、建物の賃貸借の解消に伴い所有権を放棄したとして固定資産除却損を計上した。根拠は、訴訟上の和解条項の「現状有姿のまま明け渡した」という文言だった
- 判断:除却損が認められるには、まず所有権の放棄が必要であり、所有権の放棄は相手方のない単独行為なので、少なくともその意思が一般に外部から認識できる程度になされる必要があるとした。和解条項の文言に設備の所有権の放棄が含まれるとは読み取れず、設備は和解後も法人が所有して賃貸に使っていたとして、除却損の損金算入を認めなかった
- 示唆:賃貸借の終了で造作や設備を残して明け渡す場合は、所有権を放棄する(または譲渡する)ことを合意書に明記し、相手方にも書面で伝えておくことが大切です
除却損は建物を売った日の事業年度(平成27年11月30日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成27年11月30日裁決[公表裁決事例要旨(法人税・雑損失)][裁決全文]
- 事案:法人がある建物について行った造作(建物附属設備)を固定資産除却損として計上した。原処分庁は、その造作は前の事業年度に別の建物の売却とともに売却されていたとして、計上した事業年度の損金にはできないと主張した
- 判断:造作は原処分庁が主張する建物とは別の建物の造作であり、その建物が売却された日に法人が所有権を放棄して処分を委ねたものと認められるとして、計上した事業年度の損金算入を認め、処分の全部を取り消した
- 示唆:除却損はどの日に何が起きたかで事業年度が決まります。売却や明渡しの日付、対象となる資産の特定を、契約書と固定資産台帳で一致させておきましょう
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱い:特別損失として表示するか
ここで、税務とは別の問いとして、決算書のどこに出すかを考えます。決算書の表示は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。会社法431条は「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従うことを求め、法人税法22条4項も、収益・費用の額は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算するとしています。
企業会計原則の注解12は、特別損益に属する項目として臨時損益を挙げ、例として固定資産売却損益や災害による損失を示しています。そのうえで、特別損益に属する項目であっても、金額の僅少なもの、または毎期経常的に発生するものは、経常損益計算に含めることができるとしています。
| 場面 | 表示の考え方 |
|---|---|
| 建替えのための建物の取壊し(臨時・多額) | 特別損失(固定資産除却損)とすることが考えられる |
| 機械式駐車場の撤去・平面化(臨時・多額) | 同上 |
| 毎期のように行う設備の入替えに伴う少額の除却 | 販売費及び一般管理費(または営業外費用)に含めることも考えられる |
著書では「収益は上に、費用は下に」という考え方を紹介していますが、これは実態に合った区分を選ぶという意味です。税務上は損金算入が認められるかが論点になる一方、決算書の表示区分(販管費か特別損失か)はGAAPに沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。何でも特別損失にする処理は、実態と違う表示になり、銀行の信頼を損ないます。表示区分の考え方は「収益は上に、費用は下に」とはを参照し、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
経常利益は守れても、純資産は減る
| 指標 | 取壊し損失を特別損失にした場合 |
|---|---|
| 営業利益・経常利益 | 影響しない(取壊し後の家賃の減少は別に影響する) |
| 当期純利益 | 損失の分だけ減る |
| 純資産 | 減る。債務超過に近い会社は特に注意 |
| 債務償還年数 | 経常利益ベースなら直接の影響は小さいが、建替え期間の家賃減少で悪化しうる |
除却損は現金の支出を伴わない損失ですが、純資産は確実に減ります。簿価の大きい建物を取り壊すと、自己資本比率が大きく下がることもあります。私自身、2019年に複数の銀行から融資を断られたときは、減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の価格(簿価)よりも負債の金額のほうが大きくなる債務超過の状態に陥っていました。純資産の厚みは、それだけ融資の判断に効きます。純資産と格付けの関係は債務超過とは、不動産事業者が純資産1億円を目指す道筋で解説しています。
担保の建物を取り壊す前に、必ず銀行と協議する
見落とされがちなのが担保です。借入金の担保になっている建物を取り壊すと、抵当権の目的物がなくなります。金銭消費貸借契約や抵当権設定契約では、担保物件の変更に金融機関の承諾を求める条項があるのが普通です。建替えの計画段階で、既存借入の扱い(繰上返済、担保の差し替え、建替え資金の融資)を銀行と協議してください。
建替え期間中は家賃収入がなくなる一方、返済は続きます。取壊しの時期、新築の竣工時期、賃料が入り始める時期を一つの資金計画にまとめておくと、銀行の理解を得やすくなります。
実務のチェックポイント
- 取り壊す建物が、取得時から取り壊す目的だったもの(土地の取得価額になる)ではないかを確認したか
- 固定資産台帳で、取り壊す建物・附属設備・構築物の取壊し直前の帳簿価額を確認したか
- 個人の場合、賃貸が事業的規模かどうかを確認し、必要経費になる範囲を試算したか
- 有姿除却をする場合、使用廃止の決定と、今後使わないことを示す記録を残したか
- 設備を残して明け渡す場合、所有権の放棄・譲渡を合意書に明記したか
- 除却の日付(取壊し・売却・明渡し)と事業年度を契約書と台帳で一致させたか
- 表示区分(特別損失か販管費か)を、実態と過去の処理との一貫性で決めたか
- 担保になっている建物なら、取壊し前に金融機関の承諾と資金計画を確認したか
まとめ
- 法人は、所有建物の取壊し直前の帳簿価額(廃材等の見積額を除く)を取り壊した事業年度の損金にする
- 個人は、事業的規模なら全額が必要経費、事業的規模に満たなければ不動産所得の金額が限度
- 有姿除却は、使用を廃止し今後使う可能性がないことを客観的に示せる場合に限られる
- 裁決事例では、所有権の放棄が外部から認識できるか、除却がどの日に生じたかが問われている
- 臨時・多額の取壊し損失は特別損失として表示することが考えられるが、純資産は減る。担保の扱いも含め、建替え前に銀行と協議する
建替えの税務の試算から、銀行との資金計画の協議まで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
