減価償却・設備

減価償却方法の選定・変更の届出|建物は定額法のみ、法人の法定償却方法は定率法、届出期限と変更承認申請(裁決事例つき)

「減価償却の方法は、届出をしないとどうなるのか」「定率法に変えたいが、いつまでに何を出せばいいのか」。不動産投資の法人を作ったときや、設備の多い物件を買ったときによく出てくる質問です。

結論から言うと、建物と建物附属設備・構築物は定額法しか選べません。選択の余地があるのは、器具及び備品、機械及び装置、車両などです。この記事では、償却方法の選定と変更の手続、法人と個人の違い、届出の有無が争点になった裁決事例を整理し、会計の継続性と銀行からの見え方までを解説します。

この記事の結論
  • 建物(平成10年4月1日以後取得)と建物附属設備・構築物(平成28年4月1日以後取得)は定額法のみ。届出は不要
  • それ以外の資産は定額法と定率法を選べる。届出がなければ、法人は定率法、個人は定額法(法定償却方法)
  • 届出の期限は、法人は設立第1期(または新しい資産区分を取得した事業年度)の確定申告期限、個人は業務を始めた年の翌年3月15日
  • 変更は事前の承認申請が必要。法人は採用から3年を経過していないと原則として承認されない
  • 会計では償却方法は継続して適用するのが原則。利益を出すための変更は、銀行からも見抜かれる

選べる償却方法と、選べない資産

国税庁のタックスアンサーNo.2100によると、平成10年4月1日以後に取得した建物の償却方法は旧定額法または定額法のみ、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備と構築物は定額法となります。そして、この「取得」には、購入や自己の建設のほか、相続、遺贈、贈与によるものも含まれます。

不動産投資で出てくる資産を整理すると、次のとおりです。

資産選べる償却方法届出がない場合(法人)届出がない場合(個人)
建物(平成10年4月1日以後取得)定額法のみ定額法定額法
建物附属設備・構築物(平成28年4月1日以後取得)定額法のみ定額法定額法
器具及び備品(家具家電、インターホンなど)定額法・定率法定率法定額法
機械及び装置(機械式駐車設備など)定額法・定率法定率法定額法
車両及び運搬具定額法・定率法定率法定額法
ソフトウエアなど無形固定資産定額法定額法定額法

法人の法定償却方法は、法人税法施行令53条で定められており、平成19年4月1日以後に取得した器具及び備品などは定率法です。個人は、届出がなければ一般的に定額法(旧定額法)で計算します。

定率法の償却率は、平成24年4月1日以後に取得したものは定額法の償却率の2倍(いわゆる200%定率法)です(タックスアンサーNo.5410)。耐用年数10年なら、定額法の償却率は0.100、定率法は0.200です。

届出と変更の手続

法人の届出:設立第1期の確定申告期限まで

国税庁の手続案内「減価償却資産の償却方法の届出」によると、法人の届出期限は主に次のとおりです。

  • 普通法人を設立した場合:設立第1期の確定申告書の提出期限まで
  • 設立後に、すでに償却方法を選定している資産以外の区分の資産を取得した場合:その資産を取得した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで
  • 新たに事業所を設け、既存と異なる償却方法を選定する場合:その事業所を設けた日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで

償却方法は、耐用年数省令の資産の種類ごと(機械及び装置は設備の種類ごと)に選定します。たとえば「器具及び備品は定額法、車両は定率法」のように区分ごとに選べます。

個人の届出:翌年3月15日まで

タックスアンサーNo.2100によると、個人が新たに業務を始めた場合は、償却方法を選定してその翌年の3月15日までに届け出ます。届出がなければ法定の償却方法で計算し、一般的には旧定額法または定額法です。

変更の承認申請

項目法人個人
提出書類減価償却資産の償却方法の変更承認申請書所得税の減価償却資産の償却方法の変更承認申請書
提出期限新たな償却方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日まで変更しようとする年の3月15日まで
承認されない場合現在の方法を採用してから相当期間を経過していないとき、または所得の計算が適正に行われ難いと認められるとき同様の考え方
相当期間の目安採用から3年を経過していない場合は、合併・分割に伴うなど特別な理由がない限り相当期間を経過していないものとする(法人税基本通達7-2-4)個別に確認

期限は「事業年度開始の日の前日まで」です。決算が終わってから「今期から定率法にしたい」と思っても間に合いません。変更を考えるなら、期首より前に判断する必要があります。

法人と個人の違いのまとめ

項目法人個人
法定償却方法(選べる資産)定率法定額法
届出の期限設立第1期などの確定申告期限業務開始年の翌年3月15日
償却費の計上償却限度額の範囲で損金経理した額(任意償却が可能)計算した償却費を必要経費に算入(任意に減らせない)
根拠法人税法31条、法人税法施行令48条の2・51条・53条所得税法49条、所得税法施行令120条の2・123条・125条

法人は、償却方法とは別に、償却限度額の範囲内でいくら償却するかを選べます(任意償却)。償却方法の選択と任意償却を混同しないようにしてください。任意償却については法人の任意償却と償却不足で解説しています。

裁決事例:届出の有無と相続による取得

届出のある資産区分だけが定率法になる(平成27年11月4日裁決)

  • 出典:国税不服審判所 平成27年11月4日裁決[裁決全文]
  • 事案:不動産貸付業を営む個人が、減価償却費の計算に誤りがあったとして修正申告し、その後の更正処分なども争った事案。複数の賃貸物件のうち、1つの物件の建物については平成7年に旧定率法の届出を出していたが、他の物件の建物と、各物件の建物附属設備については届出をしていなかった
  • 判断:届出のあった建物は、所得税法施行令123条2項により届出の年分以後は旧定率法で計算する。届出のない建物附属設備は法定の償却方法により、平成10年4月1日以後に取得した建物は旧定額法または定額法になるとして、物件・資産ごとに償却方法を整理した。また、建物と建物附属設備の区分は、固定資産評価基準の部分別の再建築費評点数(電気設備・衛生設備・空調設備・防災設備・運搬設備)をもとに、取得時までの損耗を見込んで算定するのが合理的とし、不動産鑑定士の評価額によるべきとする請求人の主張を退けた
  • 示唆:償却方法は資産の種類ごとに、届出の有無と取得時期で決まります。物件ごとに届出の状況と取得日を固定資産台帳で管理しておくことが大切です

相続で取得した建物は定額法(平成16年3月8日裁決)

  • 出典:国税不服審判所 平成16年3月8日裁決(裁決事例集No.67・299頁)[裁決全文]
  • 事案:被相続人は建物の償却方法を定率法に変更する承認申請をし、定率法を適用していた。相続人は平成14年1月の相続で取得した建物について、定率法で計算し直すよう更正の請求をした
  • 判断:不動産の取得とは所有権の取得であり、民法上、相続も取得原因の一つとされていることなどから、施行令120条の「取得」には相続による取得が含まれるとした。平成10年4月1日以後に相続で取得した建物は定額法となり、更正の請求を認めなかった(棄却)
  • 示唆:同じ趣旨の判断は平成18年3月30日裁決(裁決事例集No.71・192頁)でも示されています。相続や贈与で物件を引き継いだときは、引き継いだ日を取得日として償却方法を判定します
不動産投資の税務と融資、まとめて相談できます

代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。

不動産投資家向け税務・融資支援を見る

会計上の扱い:継続性の原則

会計処理は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って行います。法人税法22条4項は、収益・費用の額は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算するとしており、会社法431条も「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従うことを求めています。

企業会計原則は、一般原則の一つとして継続性の原則(その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない)を掲げています。減価償却方法は会計方針の一つで、正当な理由がある場合に限って変更するのが原則です。変更した場合は、変更の内容と影響を注記などで明らかにすることが求められます。

税務上の届出と会計方針は、実務ではそろえるのが普通です。税務上だけ定率法、会計上は定額法、といった処理にすると、申告書で調整が必要になるうえ、決算書を読む側にも分かりにくくなります。

銀行からの見え方

定率法と定額法は、資産の取得額の合計を何年で費用にするかは同じで、どの年に多く費用にするかが違います。

指標定率法を選んだ場合(定額法と比べて)
取得後数年の営業利益・経常利益償却費が多いぶん低くなる
後半の営業利益・経常利益償却費が少なくなり高くなる
償却前利益(経常利益+減価償却費)変わらない(税額の差を除く)
取得後数年の純資産簿価が早く減り、純資産の積み上がりは遅くなる

著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)」で見ています。償却方法で償却前利益は変わらないため、返済能力の評価は大きく崩れません。ただ、格付けでは経常利益や純資産も見られるため、設備の多い物件を取得した直後に定率法で経常利益が赤字になると、説明が必要になります。

注意したいのは、利益を出すために償却方法を変えることです。定率法から定額法に変えれば、その期の経常利益は増えますが、銀行は決算書の注記や償却費の推移を見て変更に気づきます。正当な理由のない変更は、かえって決算書の信頼を損ないます。償却費と返済能力の関係は減価償却費と銀行の見方、銀行の評価の上げ方は銀行格付けを上げる方法を参照してください。

実務のチェックポイント

  1. 法人設立時に、資産区分ごとに定額法・定率法のどちらを使うかを決め、設立第1期の確定申告期限までに届け出たか
  2. 新しい資産区分(機械及び装置、車両など)を初めて取得した事業年度に、届出の要否を確認したか
  3. 建物・建物附属設備・構築物を、取得時期に応じて定額法で計算しているか
  4. 相続・贈与・法人への移転で取得した物件は、引き継いだ日を取得日として償却方法を判定したか
  5. 変更する場合は、事業年度開始の日の前日(個人は3月15日)までに承認申請したか。採用から3年を経過しているか
  6. 固定資産台帳に、資産ごとの取得日・償却方法・届出の有無を記録しているか
  7. 会計方針と税務上の届出をそろえ、変更する場合は理由と影響を説明できるようにしたか

まとめ

  • 建物(平成10年4月1日以後取得)と建物附属設備・構築物(平成28年4月1日以後取得)は定額法のみ
  • 選べる資産で届出がなければ、法人は定率法、個人は定額法
  • 届出は法人なら設立第1期などの確定申告期限、個人は業務開始年の翌年3月15日まで。変更は事前の承認申請が必要で、法人は3年経過が目安
  • 相続・贈与による取得も「取得」に含まれ、被相続人の償却方法は引き継げない
  • 会計では継続性の原則があり、利益を出すための変更は銀行からも見抜かれる

償却方法の届出の確認から、決算書の見え方を踏まえた方針づくりまで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。

よくある質問

不動産賃貸の法人を設立しました。減価償却方法の届出は必要ですか?
建物(平成10年4月1日以後取得)と建物附属設備・構築物(平成28年4月1日以後取得)は定額法しか選べないため、届出をしなくても定額法です。一方、器具及び備品、機械及び装置、車両などは定額法と定率法を選べ、届出をしなければ法人は定率法(法定償却方法)になります。届出の期限は、設立第1期の確定申告書の提出期限までです。定額法を使いたい資産区分があれば、期限内に届け出てください。
償却方法はいつでも変更できますか?
変更するには、法人は新たな償却方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日まで、個人は変更しようとする年の3月15日までに、変更承認申請書を提出して承認を受ける必要があります。法人の場合、現在の方法を採用してから3年を経過していないときは、合併や分割に伴うなど特別な理由がない限り、相当期間を経過していないとして承認されないのが原則です(国税庁タックスアンサーNo.5407)。
親から相続した賃貸建物は、親が使っていた定率法を引き継げますか?
引き継げません。国税庁のタックスアンサーNo.2100は、償却方法の基準となる取得には相続・遺贈・贈与による取得も含まれるとしています。国税不服審判所の平成16年3月8日裁決でも、平成10年4月1日以後に相続で取得した建物は、被相続人が定率法を選んでいても定額法になると判断されています。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

RELATED

あわせて読みたい

減価償却・設備

建物と建物附属設備・構築物の区分|耐用年数の違い、見積書を分ける意義と裁決事例

建物・建物附属設備・構築物は耐用年数が大きく違い、区分のしかたで毎年の減価償却費が変わります。耐用年数省令の具体的な年数、法人と個人の違い、建具やユニットバスは建物とされた裁決事例、決算書の表示と銀行からの見え方まで、見積書を分ける実務とあわせて解説します。

2026年10月18日
減価償却・設備

建物の取壊し・除却損失の処理と特別損失|法人は帳簿価額を損金、個人は事業的規模で範囲が変わる(有姿除却・裁決事例・銀行の見え方)

所有する賃貸建物を建替えのために取り壊したときの除却損は、法人は取壊し直前の帳簿価額を損金に、個人は事業的規模なら全額、そうでなければ不動産所得の金額が限度です。有姿除却の要件、所有権放棄の立証、除却の時期をめぐる裁決事例、特別損失の表示、担保の扱いと銀行の見え方を解説します。

2026年10月18日
減価償却・設備

減価償却費と銀行の見方|償却前利益・債務償還年数で「赤字でも返せる」をどう示すか

減価償却費は現金が出ていかない費用です。銀行は経常利益に減価償却費を足し戻した償却前利益や、債務償還年数で返済能力を見ます。法人と個人の償却の違い、事業供用前の償却が否認された裁決事例、会計上の相当の償却、債務超過につながる仕組みと決算書の整え方を解説します。

2026年10月18日
FREE CONSULTATION

決算書と融資のこと、
まずはお気軽にご相談ください。

初回のご相談は無料です。まずは担当者がお話を伺い、内容に応じて担当税理士や金融機関出身のコンサルタントがご提案します。