減価償却・設備

法人の任意償却と償却不足|税務上は認められても、会計と銀行の目線では何が起きるか

「今期は赤字になりそうなので、減価償却を少なめにしておきましょう」。法人の決算で、こうした提案を受けたことがある方もいるかもしれません。

法人税では、減価償却費を償却限度額の範囲内でいくら計上するかを法人が選べます。いわゆる任意償却です。税務上は誤りではありません。しかし、会計の考え方、そして銀行の評価の目線から見ると、話は別です。この記事では、任意償却の仕組みと限界、損金経理をめぐる裁決事例、そして銀行が償却不足をどう扱うかを整理します。

この記事の結論
  • 法人税では、損金経理した金額のうち償却限度額までが損金。限度額以下なら計上額は任意
  • 償却不足額は翌期に取り戻せない(限度額は増えない)。償却超過額は翌期以降に繰り越して扱われる
  • 損金経理は確定した決算で行う必要があり、後から決算を変えても認められなかった裁決がある
  • 会社計算規則は「相当の償却」を求めており、会計上は毎期規則的な償却が原則
  • 銀行は申告書の明細から償却不足を把握できる。実質利益・実質純資産で見られることを前提に判断する

任意償却とは:法人税法31条の仕組み

法人税法31条1項は、減価償却資産の償却費として損金の額に算入される金額を、その事業年度に償却費として損金経理をした金額のうち、償却限度額に達するまでの金額としています。

ここから、次の3つのことがいえます。

  1. 償却費を損金経理しなければ、損金にはならない(申告書の上だけで減算することは原則としてできない)
  2. 損金経理した金額が限度額以下なら、その金額がそのまま損金になる(=計上額を選べる)
  3. 限度額を超えた部分は損金にならない(償却超過額)

償却不足と償却超過の違い

区分内容翌期以降の扱い
償却不足額償却限度額に対して、損金経理した額が少ない部分繰り越されない。限度額が増えるわけではなく、残った帳簿価額を以後償却していく
償却超過額償却限度額を超えて損金経理した部分翌期以降の損金経理額に含めて扱われ、限度額に余裕がある期に損金算入される(法人税法31条4項)

定額法の場合、償却限度額は「取得価額×償却率」で毎期ほぼ一定です。償却不足があった年の分は、その後の年に上乗せされるのではなく、償却の期間が後ろに延びる形になります。

個人との違い

個人の不動産所得では、減価償却費は計算どおりに必要経費に算入するのが原則で、法人のように計上額を選ぶことはできません。

項目法人個人
償却費の計上損金経理した額のうち償却限度額まで(任意)計算した償却費を必要経費に算入(強制)
償却しなかった場合償却不足。以後の償却期間が延びる償却したものとして扱われる。譲渡時の取得費の計算でも毎年の償却費を合計する
要件確定した決算での損金経理確定申告での必要経費算入
根拠法人税法31条所得税法49条、国税庁タックスアンサーNo.3261

裁決事例:損金経理をしていない償却費は認められない

任意償却の裏返しとして、「損金経理をしていなかった償却費を後から認めてほしい」という主張は、公表裁決事例でも退けられています。

決算を後から変更しても、確定決算で損金経理していなければ不算入(平成元年4月28日裁決)

  • 出典:国税不服審判所 平成元年4月28日裁決(裁決事例集No.37・165頁)[公表裁決事例要旨(法人税・減価償却資産の損金処理)]
  • 事案:定時株主総会に報告された決算書には減価償却費が計上されておらず、法人はこれに基づいて確定申告をしました。その後、臨時株主総会で減価償却費を計上した新しい決算書が承認されたとして、修正申告で償却費の損金算入を求めました。
  • 判断:定時株主総会の承認を受けた旧決算書が「確定した決算」と認められ、確定申告が無効となるような特別の事情がない限り、確定した決算を変更することは認められないとして、損金経理されていない償却費の損金算入を否定しました。
  • 示唆:償却費をいくら計上するかは、決算を確定させる前に決めなければなりません。

財務諸表に載っていない建物の償却費も不算入(平成3年3月20日裁決)

  • 出典:国税不服審判所 平成3年3月20日裁決(裁決事例集No.41・193頁)[同上]
  • 判断:減価償却費の損金算入は、簿外資産であるかどうかを問わず損金経理が要件であるとし、財務諸表に記載されておらず償却費の損金経理もされていない土地信託に係る建物の償却費は、損金算入を認めませんでした。

損金経理した額は、償却限度額までは認められる(平成24年6月19日裁決)

  • 出典:国税不服審判所 平成24年6月19日裁決[裁決全文]
  • 判断:青色申告の承認取消しにより、中小企業者等の少額減価償却資産の特例は使えないとしても、償却費として損金経理した金額のうち償却限度額に達するまでの金額は、損金に算入されるとしました。
  • 示唆:損金経理という形式を満たしていれば、限度額の範囲では損金算入が認められます。反対に、形式を欠くと、後から実質を主張しても認められにくいということです。
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会計上の扱い:「相当の償却」が原則

会社計算規則5条2項は、償却すべき資産について、事業年度の末日において相当の償却をしなければならないと定めています。中小企業の会計に関する基本要領の公表時に示された意見への対応でも、「相当の減価償却」は会社計算規則の「相当の償却」を踏まえたもので、一般的に、耐用年数にわたって、毎期、規則的に減価償却を行うことが考えられる、と説明されています[金融庁 公表資料]。

つまり、

  • 税務:償却限度額の範囲で計上額を選べる(損金になるかどうかの問題)
  • 会計:毎期規則的に償却するのが原則(決算書が実態を表しているかどうかの問題)

という関係です。税務上認められることと、会計上適切であることは別物です。利益の調整のために償却を止めることは、会計の考え方からは説明が難しい処理になります。償却の方針を変える場合も、会計方針として合理的な理由があるかを、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

銀行からの見え方:償却不足は「見えている」

法人税申告書には、減価償却資産ごとの償却限度額と、実際に損金経理した償却額の明細を添付します。銀行は決算書と申告書一式を受け取るため、償却不足があることは把握できると考えてください。

金融機関の評価では、次のような修正が行われることがあります。

項目決算書の数字銀行が修正して見る可能性がある数字
経常利益償却を抑えた分だけ大きい償却不足額を差し引いた実質経常利益
純資産償却を抑えた分だけ大きい過去の償却不足累計を差し引いた実質純資産
償却前利益変わらない変わらない
債務償還年数(著書のモデル)分母は経常利益+減価償却費なので、税額の差を除き大きくは変わらない同左

著書のモデルの債務償還年数は「(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)」です。償却を抑えて経常利益を増やしても、その分だけ減価償却費が減るので、分母はほとんど変わりません。つまり、償却を止めて返済能力が良く見えるわけではないのです。

それでも経常利益や純資産が見かけ上大きくなるため、格付けの収益性・安全性の項目には影響しうる、というのが任意償却の位置づけです。ただし上のように実質で修正されれば、その効果も消えます。著書のモデルでは、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」としていますが、ここでいう純資産は、銀行が実質で見たときにも残る純資産であるべきです。

任意償却を検討する前に考えたいこと

償却を抑える処理が話題になるのは、たとえば次のような場面です。

  • 単年度の赤字を避けたい
  • 繰越欠損金の期限切れが近い

いずれも、税務上の損得や見かけの数字だけで判断すると、会計上の問題と銀行からの評価の問題が残ります。本来の稼ぐ力で黒字を出すことが王道で、そのためには家賃の見直し、利回りの低い物件の入れ替え、借入条件の改善などに取り組むほうが、銀行にも説明しやすい決算書になります。決算書の整え方は銀行に出す前の決算書の整え方、格付けの改善は銀行格付けを上げる方法も参考にしてください。

実務のチェックポイント

  1. 償却費の計上額は、決算確定前に決めたか(後から変更できない)
  2. 償却限度額と実際の計上額の差(償却不足・償却超過)を、資産ごとに把握しているか
  3. 償却を抑える場合、会計方針として合理的な理由を説明できるか
  4. 銀行に提出する際、償却不足があれば実質利益・実質純資産で見られることを前提に資料を準備したか
  5. 償却を抑えても債務償還年数は改善しないことを理解したうえで判断したか
  6. 本業の収益改善や物件の入れ替えなど、実質的な改善策を優先して検討したか

まとめ

  • 法人税では、損金経理した償却費のうち償却限度額までが損金。限度額以下なら任意に計上額を選べる
  • 償却不足は翌期に取り戻せず、償却期間が後ろに延びる。償却超過は翌期以降に繰り越される
  • 損金経理は確定した決算で行う必要があり、後から決算を変更しても認められなかった裁決がある
  • 会計上は「相当の償却」が原則。税務で認められることと会計上適切であることは別物
  • 銀行は償却不足を把握でき、実質利益・実質純資産で見ることがある。償却を抑えても債務償還年数は良くならない

償却方針の検討から銀行への説明資料まで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。

よくある質問

法人が減価償却を計上しなかった年の償却不足は、翌年にまとめて取り戻せますか?
取り戻せません。法人税法31条では、損金経理した金額のうち償却限度額までが損金になります。償却不足額は翌期に繰り越されて限度額が増える仕組みではなく、残った帳簿価額を以後の期間で償却していく形になります。反対に、限度額を超えて計上した償却超過額は、翌期以降の損金経理額に含めて扱われます。
決算を確定させたあとで、減価償却費を追加して修正申告できますか?
原則としてできません。平成元年4月28日の裁決では、定時株主総会で承認された決算に減価償却費の計上がなかった場合、その後に臨時株主総会で決算を変更しても、確定した決算で損金経理されていない償却費は損金に算入されないと判断されました。損金経理は、確定した決算で行う必要があります。
償却を抑えて黒字にした決算書は、銀行にどう見られますか?
銀行は法人税申告書の減価償却の明細などから、償却限度額と実際の償却額の差(償却不足)を把握できます。金融機関によっては、償却不足額を差し引いた実質的な利益や純資産で評価することがあります。見かけの黒字だけで格付けが上がるとは考えないほうが安全です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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