減価償却・設備

中古建物の耐用年数(簡便法)の計算と、認められなかった裁決事例|見積りは最初の年だけ

中古の一棟アパートやマンションを買うと、「築年数が古いほど耐用年数が短くなり、償却費を大きく取れる」と説明されることがあります。これは中古資産の耐用年数の簡便法の話です。

ただし簡便法には、「使えるのは事業に使った最初の年だけ」「相続で取得した建物には使えない」「大きな改修をした場合は使えない」といった制限があり、実際に国税不服審判所で納税者の主張が退けられた事例もあります。この記事では、簡便法の計算と制限、裁決事例、そして短い耐用年数が決算書と銀行評価にどう映るかを整理します。

この記事の結論
  • 中古建物は、法定耐用年数の代わりに見積法か簡便法で耐用年数を決められる(耐用年数省令3条)
  • 簡便法は「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%」。全部経過していれば法定耐用年数×20%。2年未満は2年
  • 選べるのは事業に使った最初の年(事業年度)だけ。あとから変更はできないとした裁決がある
  • 相続で取得した建物には使えない。取得価額の50%を超える資本的支出をした場合も簡便法は使えない
  • 耐用年数が短いと、経常利益と簿価が早く減る。債務超過に近づかないかを取得前に試算する

中古建物の耐用年数:見積法と簡便法

中古資産を取得して事業に使う場合、耐用年数は法定耐用年数ではなく、事業に使った時以後の使用可能期間として見積もった年数(見積法)によることができます。見積もりが困難なときは、次の簡便法で計算した年数を使えます(耐用年数省令3条1項、国税庁タックスアンサーNo.5404)。

法定耐用年数の全部を経過した資産:法定耐用年数 × 20%法定耐用年数の一部を経過した資産:(法定耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 × 20%※1年未満の端数は切り捨て。計算結果が2年未満なら2年

賃貸用建物に当てはめると、次のようになります。

構造(住宅用)法定耐用年数築年数簡便法の耐用年数
木造22年25年(全部経過)22×20%=4.4 → 4年
木造22年15年(22-15)+15×20%=10年
金属造(肉厚4mm超)34年35年(全部経過)34×20%=6.8 → 6年
鉄筋コンクリート造47年20年(47-20)+20×20%=31年
鉄筋コンクリート造47年50年(全部経過)47×20%=9.4 → 9年

建物附属設備も、それぞれの法定耐用年数をもとに同じように計算します。

簡便法が使えない・法定耐用年数になる場合

中古資産を事業に使うために資本的支出(改修など)をした場合は、金額によって扱いが変わります(耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-2など、国税庁タックスアンサーNo.5404)。

資本的支出の金額耐用年数の扱い
取得価額の50%以下簡便法を使える
取得価額の50%超、再取得価額(同じ新品を買う場合の価額)の50%以下簡便法は使えない。見積法、または通達の算式による年数
再取得価額の50%超法定耐用年数

購入直後の改修と耐用年数の関係は、購入直後のリノベーション費用は取得価額か修繕費かで詳しく扱います。

法人と個人で違うところ

簡便法の計算式そのものは、法人も個人も同じです。違いが出るのは次の点です。

項目法人個人
根拠法人税法31条、耐用年数省令3条所得税法49条、耐用年数省令3条
簡便法を選べる時期中古資産を事業の用に供した事業年度のみ業務の用に供した年分のみ
相続・贈与による取得(法人では通常生じない)取得価額を引き継ぐため、簡便法は使えない
償却費の計上償却限度額の範囲内で任意(損金経理が要件)計算した償却費を必要経費に算入
国外の中古建物簡便法による損失の制限はない令和3年分以後、簡便法などによる償却費相当の損失は生じなかったものとみなされる

国外の中古建物については、個人に特有の制限があります。詳しくは国外中古建物の減価償却損失の制限(令和2年改正)をご覧ください。

裁決事例:簡便法・見積法が認められなかったケース

国税不服審判所の公表裁決事例から、中古建物の耐用年数に関するものを3つ紹介します。

最初の事業年度に選ばなければ、あとから変えられない(平成25年12月17日裁決)

  • 出典:国税不服審判所 平成25年12月17日裁決[裁決全文]
  • 事案:不動産賃貸業を営む法人が、取得した複数の中古建物について、取得した事業年度以降、用途にかかわらず一律に法定耐用年数39年で償却していました。その後、法定耐用年数を適用していたのは誤りだったとして、後の事業年度から見積法等による短い耐用年数に変更しました。
  • 争点:中古建物を取得して事業に使った事業年度に適用した耐用年数を、後の事業年度に見積法等で変更できるか
  • 判断:見積法等による耐用年数の算定は、中古資産を取得して事業の用に供した最初の事業年度に限ってできるもので、その事業年度に算定しなかった場合は、その後の事業年度に算定することはできないとして、請求を棄却しました(耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-1と同旨)。
  • 示唆:簡便法を使うかどうかは、取得した年の決算・申告で決める必要があります。「とりあえず法定耐用年数で」とした判断は、あとで取り消せません。

相続で取得した建物には使えない(平成24年3月1日裁決)

  • 出典:国税不服審判所 平成24年3月1日裁決[裁決全文]
  • 事案:配偶者が所有して賃貸していた建物を相続した個人が、中古資産として簡便法による耐用年数を適用しようとしました。
  • 判断:耐用年数省令3条1項は、取得時の取得価額をその後の効用持続期間で費用化することを前提とした規定である一方、相続等による取得では、所得税法施行令126条2項により相続人が被相続人の取得価額を引き継いで償却費を計算することとされているため、相続等による取得後の建物に耐用年数省令3条1項を適用することはできないと判断しました。
  • 示唆:相続した物件は、被相続人の耐用年数・未償却残高を引き継いで償却を続けるのが原則です。

賃貸借期間で取り壊す予定でも、耐用年数の短縮は認められない(平成7年2月27日裁決)

  • 出典:国税不服審判所 平成7年2月27日裁決(裁決事例集No.49・100頁)[裁決全文]
  • 事案:賃貸借期間が10年に限定され、期間満了後に取り壊す予定の建物について、法定耐用年数40年ではなく10年への短縮を求めました。
  • 判断:耐用年数の短縮は、使用可能期間が物理的・客観的に短くなる事由が現に発生している場合に限って認める趣旨と解され、将来の取壊し予定という当事者間の取決めはこれに当たらないとしました。
  • 示唆:「早く取り壊すから」「出口が決まっているから」といった事情だけでは、耐用年数は短くなりません。
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会計上の扱い:簡便法の年数は「税法の年数」

企業会計では、減価償却は資産の使用実態に応じて規則的に行うものとされ、会社計算規則5条2項も、償却すべき資産について「相当の償却」を求めています。中小企業の実務では、税法の耐用年数(簡便法を含む)を会計上もそのまま使うのが一般的です。

ただし、簡便法の年数は、あくまで税法が定めた計算方法です。たとえば築古の木造で耐用年数を4年とした場合、4年後には帳簿上の建物の価値がほぼゼロになりますが、実際にはその後も賃貸に使い続けることが多いはずです。決算書の簿価と、物件が実際に生み出す収益力とがずれることを、経営者自身が理解しておく必要があります。

銀行からの見え方:短い耐用年数の「副作用」

耐用年数が短いほど、毎年の償却費は大きくなります。銀行が見る数字には、次のように表れます。

見られる数字短い耐用年数の影響
経常利益償却費の分だけ小さくなる。取得直後に赤字になることもある
償却前利益変わらない(返済能力そのものは同じ)
建物の簿価早く減る。借入金の残高より簿価が先に減っていく
純資産利益が小さい分、積み上がりが遅い。簿価が負債を下回ると債務超過に近づく

借入金の返済期間より耐用年数が短い物件を多く持つと、簿価が借入残高より早く減り、貸借対照表で資産より負債が大きい状態になりやすくなります。債務超過は、銀行の格付けで大きなマイナスになります。償却費の構造と返済能力の関係は減価償却費と銀行の見方、減価償却が速い物件のリスクは減価償却が速い物件の落とし穴もご覧ください。

実務のチェックポイント

  1. 取得した年の申告で、法定耐用年数・見積法・簡便法のどれを使うかを決めたか(あとから変更できない)
  2. 簡便法の経過年数は、建築時期を登記事項証明書や検査済証などで確認したか
  3. 取得価額の50%を超える改修をしていないか(している場合は簡便法を使えない)
  4. 相続・贈与で取得した建物に、誤って簡便法を使っていないか
  5. 建物附属設備も、それぞれの法定耐用年数から計算したか
  6. 短い耐用年数を使った場合の、数年分の経常利益・簿価・純資産を試算したか

まとめ

  • 中古建物は見積法か簡便法で耐用年数を決められる。簡便法は「(法定-経過)+経過×20%」
  • 選べるのは事業に使った最初の年だけ。後の年に変更できないとした裁決がある
  • 相続で取得した建物には簡便法は使えず、取得価額の50%を超える改修をした場合も使えない
  • 将来の取壊し予定だけでは、耐用年数の短縮は認められない
  • 短い耐用年数は経常利益と簿価を早く減らす。債務超過に近づかないかを取得前に確認する

中古物件の取得時の耐用年数の判断と、取得後の決算書の見え方の試算は、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。

よくある質問

購入した年に法定耐用年数で償却してしまいました。翌年から簡便法に変えられますか?
変えられません。国税庁の通達(耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-1)では、見積法や簡便法による耐用年数の算定は、中古資産を事業の用に供した事業年度(個人は年分)に限ってできるとされています。平成25年12月17日の裁決でも、後の事業年度に見積法等へ変更することは認められませんでした。購入した年の申告で判断することが大切です。
相続した中古アパートにも簡便法を使えますか?
使えません。平成24年3月1日の裁決では、相続により取得した建物は、被相続人の取得価額や償却の状況を引き継ぐ仕組みであることから、中古資産の耐用年数(耐用年数省令3条)は適用できないと判断されています。相続人は被相続人が使っていた耐用年数を引き継いで償却を続けます。
簡便法で耐用年数を短くすると、銀行の評価は下がりますか?
償却費が大きくなるため、経常利益は小さく、建物の簿価は早く減ります。償却前利益で見れば返済能力は変わりませんが、債務超過に近づくと格付けに響きます。取得前に、数年分の決算書の見え方を試算しておくことをおすすめします。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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