中古の区分マンションや一棟アパートを買い、決済後すぐに内装を一新してから募集をかける。いわゆる「買ってリノベーション」は、賃料を上げ、空室を埋めるための定番の手法です。このとき多くの方が迷うのが、購入直後の改修費用は、その期の修繕費にできるのかという点です。
結論からいえば、貸し出す前に行う改修は、修繕費ではなく取得価額や資本的支出になることが多いと考えておくべきです。修繕費は、事業に使っている資産を通常の状態に維持するための費用だからです。この記事では、税務上の考え方、中古資産の耐用年数との関係、個人と法人の違い、公表裁決、会計上の表示、銀行からの見え方を整理します。
- 購入した資産の取得価額には、事業の用に供するために直接要した費用が含まれる。貸し出す前の改修は取得価額や資本的支出になりやすい
- 修繕費は、事業に使っている資産の通常の維持管理や原状回復のための費用。購入直後の改修にそのまま当てはめにくい
- 改修が大きいと、中古の耐用年数(簡便法)が使えなくなることがある(再取得価額の50%基準)
- 全面的な設備の入れ替えは資本的支出とされた裁決がある。工事の明細ごとに判断する
- 一度に費用にすると取得年度の営業利益が大きく落ちる。税務上の正しい処理と、決算書の見え方を両方確認する
修繕費は「事業に使っている資産」を前提にした考え方
修繕費と資本的支出の区分は、所得税では所得税法施行令181条と所得税基本通達37-10・37-11、法人税では法人税法施行令132条と法人税基本通達7-8-1・7-8-2で定められています。所得税基本通達37-11は、修繕費を「業務の用に供されている固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち、その固定資産の通常の維持管理のため、又は災害等によりき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額」としています。
一方、購入した資産の取得価額は、購入の代価に、その資産を事業の用に供するために直接要した費用を加えた金額です(法人税法施行令54条1項1号、個人は所得税法施行令126条1項1号で「業務の用に供するために直接要した費用」)。
購入直後、まだ貸し出す前に行う改修は、この「事業の用に供するために直接要した費用」に当たりやすい性格を持っています。とくに、次のような事情があれば、取得価額として扱うのが自然です。
- 売買価格が、改修が必要な状態を前提に安く決まっている
- 購入前から改修の見積りを取り、改修後の賃料で収支計画を立てている
- 改修しなければ、そもそも貸せる状態ではない
| 工事の例 | 購入直後(貸し出す前) | 貸し出した後の通常の維持管理 |
|---|---|---|
| 間取りの変更、内装の全面刷新 | 取得価額(資本的支出) | 資本的支出 |
| キッチン・浴室・トイレの全面入替え | 取得価額(資本的支出) | 資本的支出とされやすい |
| 外壁・屋上防水など前所有者の時代からの劣化の補修 | 取得価額とされやすい | 周期的な修繕なら修繕費 |
| 退去後の壁紙の張替え・クリーニング | 内容と規模により判断 | 修繕費 |
| 10万円未満の器具備品の購入 | 少額減価償却資産として扱える場合あり | 同左 |
貸し出した後の工事の判断は修繕費と資本的支出、退去時の原状回復とリノベーションの違いを参照してください。表の区分は典型例で、実際は工事の内容、金額、物件の状態によって判断が分かれます。
中古資産の耐用年数との関係
購入直後の改修は、中古資産の耐用年数の計算にも影響します。
| 改修(資本的支出)の規模 | 耐用年数 | 根拠 |
|---|---|---|
| 取得価額の50%以下 | 見積法・簡便法が使える | 耐用年数省令3条1項 |
| 取得価額の50%超、再取得価額の50%以下 | 簡便法は使えないが、資本的支出を区分して計算する簡便計算が認められる | 同項ただし書、耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-6 |
| 再取得価額の50%超 | 法定耐用年数(新品と同じ) | 同通達1-5-2 |
再取得価額とは、その建物を新品で取得するとした場合の価額です。古い物件を安く買って大規模に改修すると、改修費が再取得価額の50%を超えて、建物全体に法定耐用年数が適用されることがあります。短い耐用年数を前提に収支計画を立てていた場合は、計画が狂います。
さらに、見積法・簡便法による耐用年数の算定は、事業の用に供した最初の年(事業年度)にしかできません(同通達1-5-1)。国税不服審判所の平成25年12月17日裁決も、取得年度に法定耐用年数を使っていた法人が、後から見積法等に変更することは許されないとしています(国税不服審判所)。改修の規模と耐用年数は、購入前に一緒に試算しておく必要があります。簡便法の計算は中古建物の耐用年数と否認された事例で解説しています。
個人と法人の違い
考え方は個人も法人も同じですが、次の点で違いが出ます。
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 取得価額の根拠 | 所得税法施行令126条1項1号 | 法人税法施行令54条1項1号 |
| 修繕費と資本的支出の区分 | 所得税法施行令181条、所得税基本通達37-10〜37-14 | 法人税法施行令132条、法人税基本通達7-8-1〜7-8-6 |
| 1棟目を買う場合 | 業務開始前の改修は取得価額。開業費にもならない | 設立後の支出は通常の取扱い |
| 赤字になった場合 | 不動産所得の赤字は給与所得などと損益通算できる場合があるが、制限もある | 欠損金として繰り越し |
個人が初めて物件を買う場合、開業前の改修費を開業費として繰延資産にできないかという相談があります。しかし、開業費は「資産の取得に要した金額とされるべき費用」を除くと定義されているため(所得税法施行令7条)、建物の取得価額や資本的支出になる改修費は開業費になりません(新築の竣工前後に出る費用の扱い)。
消費税の課税事業者で本則課税の場合、改修費は課税仕入れになりますが、住宅として貸す物件では仕入税額控除が制限されることがあります。高額な改修では、居住用賃貸建物の消費税の論点もあわせて確認してください。
公表裁決に見る判断
平成26年4月21日裁決:キッチン・浴室の全面入替えは資本的支出
築17年の賃貸用マンションを営む個人が、一部の住戸の台所と浴室を取り壊し、新たにシステムキッチンとユニットバスを設置した費用の全額を、修繕費として必要経費にした事案です。請求人は、居住用機能を回復させるための工事で、建物全体の規模からすれば価値を高めるものではないと主張しました。
審判所は、修繕費か資本的支出かは、建物の規模との比較ではなく、支出の内容と支出効果の実質で判断するとしたうえで、既存の台所と浴室を全面的に取り壊して新設した工事は、通常の維持管理のための費用とは認められず、建物の価値を高め、耐久性を増すものとして全額が資本的支出に当たると判断しました。全額が資本的支出である以上、資本的支出か修繕費か明らかでない金額を前提とする形式基準(所得税基本通達37-13)も適用されないとしています。一方で、取り壊した既存の台所・浴室部分の未償却残額は除却損失として、建築単価と床面積から合理的に算定して必要経費に認めています(国税不服審判所)。
取得後の工事ですが、購入直後の改修でよく行われる「水回りの全面入替え」の判断として参考になります。設備交換の考え方は給湯器・エアコン・設備交換は修繕費か資本的支出かでも扱います。
平成24年2月6日裁決:使い始める前の工事は明細ごとに分ける
印刷業を営む法人が、新工場として使うために賃借した建物にエレベーター設置、高圧受電設備、内装などの工事を行い、その費用を雑損失として損金にした事案です。法人は、移転前の工場と同等に稼働させるための機能復旧の工事だと主張しました。
審判所は、立退きに伴う解約金の受領は機能復旧の補償金を受けた場合に当たらず、工事も機能の低下した資産を従前の状態に戻すためのものではないとして、修繕費とする主張を退けました。そのうえで、工事の明細ごとに、内装の造作は建物、ミニキッチンや便器の設置は給排水・衛生設備、エレベーターは昇降機設備、高圧受電設備は機械及び装置の取得価額とし、機械の搬入のための撤去工事費は損金、10万円未満の換気扇などは少額減価償却資産として損金に算入すべきとしています(国税不服審判所)。
賃借建物の事案ですが、使い始める前の工事費用は、まとめて修繕費にするのではなく、資産の種類ごとに分けるという考え方は、購入直後の改修にもそのまま当てはまります。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと決算書の表示
会計上も、資産を使える状態にするための支出は取得原価に含めるのが原則です。中小企業の会計に関する指針も、固定資産の取得価額は購入代価等に付随費用を加えた金額としています。購入直後の改修を資産に計上する処理は、税務と会計で方向が一致します。
税務上は、修繕費として損金になるのか、取得価額・資本的支出として減価償却するのかが論点です。一方、決算書の表示区分(販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。購入直後の改修は、実態としては物件の取得のための支出であることが多く、金額が大きくても臨時の損失として特別損失に表示する性格のものとは限りません。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
改修費1,500万円を、購入した期に全額費用にした場合と、資産に計上した場合を比べます。
| 項目 | 全額を修繕費(販管費)に計上 | 取得価額・資本的支出として資産計上 |
|---|---|---|
| 取得年度の営業利益 | 1,500万円下がる(赤字になりやすい) | 減価償却費の分だけ下がる |
| ICR(営業利益÷支払利息) | 取得年度に大きく悪化 | ほぼ影響なし |
| 法人税等 | その期は減る(ただし否認されれば追徴) | 減らない(償却を通じて後の期に減る) |
| 純資産 | 税引後の分だけ減る | 減らない |
| 銀行の物件評価 | 改修で賃料が上がれば収益価格は上がる | 同左。簿価と評価の差が説明しやすい |
銀行の格付けでは営業利益・経常利益が重視され、ICRの分子は営業利益です。取得年度に改修費をまとめて販管費に計上すると、税務上の問題とは別に、その期の決算書が赤字になり、次の物件の融資が引きにくくなることがあります。物件を取得した期の費用が、必要以上に費用化されて営業利益を圧迫していないか。決算の前に一度確認しておきたいポイントです。
一方で、改修によって賃料や入居率が上がれば、銀行が収益還元で評価する物件の価値は上がります。改修前後の賃料、工事の内容、見積書を資料として整理しておくと、決算説明や次の融資の際に役立ちます。銀行の見方は不動産投資の銀行格付け、減価償却と償却前利益の関係は減価償却費と銀行の見方で解説しています。
実務のチェックポイント
- 改修工事が、購入時から予定されていたもの(取得の一部)か、貸し出した後の維持管理か、時系列で整理したか
- 見積書・請求書を、内装(建物)、設備(建物附属設備)、器具備品などに分けてもらったか
- 取り壊した既存設備がある場合、その未償却残額の除却損を検討したか(取得直後の場合は取得価額との関係に注意)
- 改修費が取得価額の50%、再取得価額の50%を超えないか、購入前に試算したか
- 耐用年数の決め方(見積法・簡便法・法定)を、事業の用に供した最初の年に決めたか
- 10万円未満の器具備品など、少額減価償却資産として処理できるものを区分したか(少額減価償却資産と貸付用資産の除外)
- 取得年度の決算書の営業利益・ICRが、銀行にどう映るか試算したか
まとめ
- 購入直後、貸し出す前の改修は、事業の用に供するために直接要した費用として取得価額や資本的支出になりやすい
- 修繕費は、事業に使っている資産の通常の維持管理や原状回復のための費用。購入直後の改修にはそのまま当てはめにくい
- 改修が大きいと簡便法が使えなくなることがある。改修の規模と耐用年数は購入前に一緒に試算する
- 全面的な設備の入替えは資本的支出とされた裁決がある。工事は明細ごとに資産の種類で分ける
- 一度に費用にすると取得年度の営業利益とICRが大きく落ちる。税務と決算書の見え方を両方確認する
修繕と資本的支出の判断が分かれた事例は修繕費と資本的支出:判例・裁決事例で見る判断の分かれ目で詳しく扱います。物件の取得から改修、融資を見据えた決算書づくりまで、不動産投資家向けサービスでご相談ください。
