賃貸物件に入れる家電や家具、共用部の防犯カメラ、空室対策の備品。1つあたりの金額が小さい資産は、少額減価償却資産や一括償却資産の制度で、取得した年に費用にできることがあります。
ただし、令和4年度の税制改正で「貸付けの用に供した資産」はこれらの制度から原則として除かれました。不動産賃貸業はまさに「貸付け」の事業です。どこまでが除外の対象で、どこからが従来どおり使えるのか。この記事では制度の全体像と改正の仕組み、判定でつまずきやすい点、裁決事例と銀行からの見え方を整理します。
- 取得価額10万円未満は全額損金(必要経費)、20万円未満は3年で均等償却、中小企業者等は40万円未満(令和8年4月1日以後の取得。年300万円まで)を全額損金にできる
- 令和4年4月1日以後に取得し、貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供した資産は、これらの制度の対象外
- 不動産貸付業者が入居者に家具・家電を貸すことは「主要な事業として行われる貸付け」の例として通達に挙げられている
- 金額は「通常1単位として取引される単位」で判定する。税込・税抜は経理方式による
- 一度に多額を費用にすると、その期の営業利益は下がる。銀行への見え方も含めて使い方を決める
3つの制度の違い
取得価額の小さい減価償却資産には、次の3つの制度があります(国税庁タックスアンサーNo.5403、No.5408、No.2100)。
| 制度 | 対象 | 処理 | 主な要件 |
|---|---|---|---|
| 少額の減価償却資産 | 取得価額10万円未満、または使用可能期間1年未満 | 事業の用に供した年度に全額を損金(必要経費) | 法人は損金経理が必要 |
| 一括償却資産 | 取得価額20万円未満 | 合計額を3年間で均等に損金(必要経費) | 法人は損金経理と明細書の添付 |
| 中小企業者等の少額減価償却資産の特例 | 取得価額40万円未満(令和8年3月31日までの取得は30万円未満) | 全額を損金(必要経費)。年300万円まで | 青色申告。法人は常時使用する従業員400人以下などの中小企業者等 |
中小企業者等の特例は、令和8年度の税制改正で、令和8年4月1日以後に取得などをしたものについて取得価額の基準が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、法人の従業員数の基準は400人以下(改正前500人以下)に引き下げられました。適用期限は令和11年3月31日までの取得です。
法人と個人での違いをまとめると、次のとおりです。
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 根拠 | 法人税法施行令133条・133条の2、租税特別措置法67条の5 | 所得税法施行令138条・139条、租税特別措置法28条の2 |
| 処理の要件 | 損金経理(いったん資産計上したものを後の年度に一時に費用にしても認められない) | 必要経費に算入して申告 |
| 中小特例の対象者 | 青色申告の中小企業者等 | 一定の要件を満たす青色申告者 |
| 貸付けの用の除外 | 主要な事業として行われる貸付けを除き対象外 | 主要な業務として行う貸付けを除き対象外 |
令和4年改正:貸付けの用に供した資産の除外
令和4年4月1日以後に取得などをした減価償却資産のうち、貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供したものは、少額減価償却資産・一括償却資産・中小企業者等の特例のいずれからも除かれました。少額の資産を取得して貸し付けることで、取得した年度に多額の費用を計上する、といった使い方を抑える趣旨の改正と考えられます。
「主要な事業として行われる貸付け」とは
法人税基本通達7-1-11の3は、主要な事業として行われる貸付けの例として、次の4つを挙げています。
- 企業グループ内の事業の管理運営を行う法人が、グループ各社で使う資産を一括調達して貸し付ける行為
- 委託先に対して、もっぱら自社のための製品の加工等に使う資産を貸し付ける行為
- 小売業の法人が、店舗駐車場の遊休スペースを活用して自転車などを貸し付ける行為
- 不動産貸付業を営む法人が、貸し付ける建物の賃借人に対して、家具、電気機器その他の減価償却資産を貸し付ける行為
不動産賃貸業にとって重要なのは4つ目です。賃貸物件の入居者に家具・家電を備え付けて貸すことは、主要な事業として行われる貸付けの例とされており、この場合は除外の対象になりません。ただし、同通達の注書きでは、これらの行為であっても規則で定める一定の場合には主要な事業として行われる貸付けに該当しないとされています。事業の実態に照らして確認が必要です。
一時的な貸付けは、それだけで「貸付けの用」とはいえない
法人税基本通達7-1-11の2は、貸付けの用に供したかどうかは、その資産の使用目的、使用状況等を総合勘案して判定するとしています。一時的に貸し付けたという事実だけで、除外の対象になるわけではありません。
個人の場合
個人についても、所得税法施行令で同様に「貸付け(主要な業務として行われるものを除く)」の用に供したものが除かれています。国税庁のタックスアンサーNo.2100にも、令和4年4月1日以後に取得した減価償却資産で貸付けの用に供したもの(主要な業務として行う貸付けに供するものを除く)には、少額・一括・中小特例の適用がない旨が記載されています。個人の不動産賃貸での具体的な当てはめは、規模や貸付けの内容によって判断が分かれうるため、顧問税理士と確認してください。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る判定でつまずきやすい2つの点
「1単位」で判定する
取得価額が10万円未満かどうかは、通常1単位として取引されるその単位ごとに判定します。国税庁は、応接セットはテーブルと椅子の1組で、カーテンは1部屋で数枚が組み合わされて機能するので部屋ごとの合計で判定する、という例を示しています(タックスアンサーNo.5403、法人税基本通達7-1-11)。
この「1単位」については、最高裁の判決があります。
- 出典:最高裁判所第三小法廷 平成20年9月16日判決(平成18年(行ヒ)第234号、法人税更正処分等取消請求事件、民集62巻8号2089頁)[裁判所 裁判例検索]
- 争点:PHS事業者が大量に保有したエントランス回線利用権を、全体で1つの資産とみるか、1回線ごとに1つの資産とみるか
- 判断:1回線に係る権利一つを1単位として取引されており、1回線でも本来の機能を発揮して収益の獲得に寄与できるなどの事実関係の下では、1回線に係る権利をもって一つの減価償却資産とみるのが相当とし、少額減価償却資産に当たるとしました。
- 示唆:1単位かどうかは、取引の単位と、それ単独で機能を発揮できるかで判断されます。逆に、1つで機能しないものを分けて買っても、組み合わせた単位で判定されることになります。
税込か税抜かは経理方式で決まる
取得価額に消費税を含めるかどうかは、経理方式によるとされています。税抜経理なら税抜金額、税込経理なら税込金額で判定し、免税事業者は税込経理です(タックスアンサーNo.2100)。
- 出典:国税不服審判所 平成4年3月31日裁決(裁決事例集No.43・232頁)[公表裁決事例要旨(法人税・減価償却資産の取得価額)]
- 判断:期末に納付すべき消費税額を計算しただけでは税抜経理方式を採用したことにはならず、収益について税込経理している以上、他の科目だけ税抜経理とすることは認められないとして、固定資産が20万円未満かどうかは税込価額で判断するとしました。
そのほかの裁決事例
青色申告の承認が取り消されても、償却限度額までは損金(平成24年6月19日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成24年6月19日裁決[裁決全文]
- 判断:青色申告の承認が取り消されたため、青色申告を要件とする中小企業者等の少額減価償却資産の特例は適用できないとしても、償却費として損金経理した金額のうち、その資産の償却限度額に達するまでの金額は損金の額に算入されるとしました。
- 示唆:特例が使えない場合でも、通常の減価償却としての損金算入までは否定されません。資産の取得と事業供用の事実を示す資料を残しておくことが前提です。
工事費用の中の少額資産は損金に(平成24年2月6日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成24年2月6日裁決[裁決全文]
- 判断:原処分庁は新工場の各工事費用を機械装置・建物附属設備・建物の取得価額としましたが、審判所は、その中に既存設備の移転費用や少額の減価償却資産の取得価額として損金算入が相当な金額があると判断しました。
- 示唆:工事一式の請求でも、内訳を見れば少額資産として扱えるものが含まれていることがあります。内訳が分かる見積書・請求書が判断の前提になります。
会計上の扱いと、銀行からの見え方
企業会計でも、重要性の乏しいものは簡便な処理が認められるという重要性の原則があり、少額の資産を取得時に費用処理することは実務上広く行われています。ただし、税務で費用にできる上限まで使うことと、会計上それが適切な表示であることは別の問題です。
銀行からの見え方としては、次の点に注意が必要です。
| 処理 | 決算書への影響 |
|---|---|
| 少額資産として全額費用(消耗品費など) | その期の販管費が増え、営業利益が下がる。資産には残らない |
| 一括償却資産(3年均等) | 費用が3年に分散し、利益の変動が小さくなる |
| 通常の減価償却資産として計上 | 耐用年数にわたって費用化。資産として貸借対照表に残る |
家具・家電付き物件を一度に多数仕込んだ年に、中小企業者等の特例で300万円近くを一度に費用にすると、その期の営業利益はその分だけ下がります。営業利益はICR(利息の支払能力)の分子にもなる数字です。特例を使うかどうかは、税負担だけでなくその期の決算書がどう見えるかとあわせて判断してください。
なお、少額減価償却資産(10万円未満)や一括償却資産として処理したものは固定資産税(償却資産)の申告対象外とされる一方、中小企業者等の特例で費用にしたものは償却資産の申告対象になるとされています。申告漏れに注意してください。
実務のチェックポイント
- 取得日が令和4年4月1日以後か。貸付けの用に供するものか
- 入居者への家具・家電の貸付けなど、主要な事業として行われる貸付けに当たるか。例外に当たらないか
- 金額は1単位(組で取引されるものは組、部屋で機能するものは部屋ごと)で判定したか
- 経理方式(税込・税抜)に沿った金額で判定したか
- 中小特例は、取得日に応じた基準額(30万円未満・40万円未満)と年300万円の上限を確認したか
- 法人は損金経理をし、必要な明細書を申告書に添付したか
- 償却資産(固定資産税)の申告対象を整理したか
不動産賃貸業で経費になるものの全体像は不動産所得の経費にできるもの・できないものも参考にしてください。
まとめ
- 10万円未満は全額、20万円未満は3年均等、中小企業者等は40万円未満(令和8年4月1日以後の取得)を年300万円まで全額費用にできる
- 令和4年4月1日以後に取得して貸付けの用に供した資産は、主要な事業として行われる貸付けを除き、これらの制度の対象外
- 不動産貸付業者が入居者に家具・家電を貸すことは、主要な事業として行われる貸付けの例とされている
- 判定は1単位ごと、金額は経理方式に沿って。最高裁や裁決でもこの考え方が示されている
- 一度に費用にすると営業利益が下がる。税負担と決算書の見え方の両方で判断する
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