給湯器が壊れた、エアコンが冷えない、インターホンが古くなった。賃貸物件の設備は、建物よりも短いサイクルで交換の時期がやってきます。1回あたりの金額は数万円から数十万円ですが、戸数が多い物件では年間の合計が大きくなり、修繕費として処理するか、資産として計上するかで決算の数字が変わります。
設備交換の処理は、部品の修理なのか、設備一式の取替えなのか、そしてその設備が税務上どの資産に区分されるのかで決まります。この記事では、国税庁の基準と耐用年数表、公表裁決事例をもとに、法人と個人の違い、会計上の表示、銀行からの見え方までを整理します。
- 部品の修理・交換は、設備の機能を回復させる支出として修繕費になるのが基本
- 壁掛け型ルームエアコンは器具及び備品(耐用年数6年)として扱うのが一般的で、本体の買い替えは新たな資産の取得になる
- 給湯器や業務用空調などの建物附属設備の取替えは、設備の構成と金額によって修繕費か資本的支出かの判断が分かれる
- 少額減価償却資産・一括償却資産などの特例は、貸付けの用に供した資産が除外される場合がある(令和4年4月1日以後の取得等)
- 撤去した旧設備の帳簿価額は、法人は除却損、個人は資産損失として処理する。個人は事業的規模かどうかで扱いが変わる
設備はどの資産に区分されるか
設備交換の処理を考える前に、その設備が税務上どの資産に当たるかを確認します。耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第一で定められています。賃貸物件でよく出てくる設備は次のとおりです。
| 設備 | 資産の区分の例 | 耐用年数 |
|---|---|---|
| 壁掛け型ルームエアコン | 器具及び備品(冷房用・暖房用機器) | 6年 |
| ダクト式・セントラル式の冷暖房設備(冷凍機の出力22kW以下) | 建物附属設備(冷房、暖房、通風又はボイラー設備) | 13年 |
| 同上(上記以外のもの) | 建物附属設備(同上) | 15年 |
| 給湯設備、給排水・衛生設備、ガス設備 | 建物附属設備(給排水又は衛生設備及びガス設備) | 15年 |
| 冷蔵庫・洗濯機などの備付け家電 | 器具及び備品(電気冷蔵庫、電気洗濯機その他これらに類する電気・ガス機器) | 6年 |
| エレベーター | 建物附属設備(昇降機設備) | 17年 |
同じ「エアコン」でも、壁に掛けて室外機とつなぐルームエアコンは器具及び備品、建物に組み込まれたダクト式の空調は建物附属設備、と区分が異なります。区分によって耐用年数と、交換時の処理の考え方が変わります。建物と附属設備の区分の考え方は建物と建物附属設備・構築物の区分で解説しています。
交換は修繕費か、資本的支出か、新たな資産の取得か
3つのパターン
設備に関する支出は、次の3つのどれに当たるかで処理が変わります。
- 修繕費:故障した部品の交換や修理で、設備の機能を元に戻すもの
- 資本的支出:既存の設備に手を加えて、性能を高めたり耐久性を延ばしたりするもの(法人税基本通達7-8-1、所得税基本通達37-10)
- 新たな資産の取得:独立した資産を新しく買い替える、または新設するもの
ルームエアコン:本体の買い替えは「取得」
器具及び備品であるルームエアコンは、1台ごとに独立した資産です。本体を新品に買い替えると、古い資産を除却して新しい資産を取得したことになります。修繕費にはならず、原則として6年で減価償却します。一方、ガスの補充や基板の交換など、本体を使い続けるための修理は修繕費です。
給湯器・業務用空調:判断が分かれる領域
給湯器や業務用空調のような建物附属設備は、複数の機器や配管で構成されています。国税庁の通達は、形式基準を当てはめる単位について「一の設備が2以上の資産によって構成されている場合には当該一の設備を構成する個々の資産」とする考え方を示しています(法人税基本通達7-8-3注、所得税基本通達37-12注)。
実務では、給湯器本体の交換について、給排水・衛生設備の一部を同程度のものに取り替えて機能を回復する支出として修繕費とする考え方と、独立した機器の取得とみて資産計上する考え方があります。どちらになるかは、設備の構成、交換の範囲、従前の機種との性能の違い、金額によって判断します。
形式基準の確認も欠かせません。一の修理・改良等が20万円未満なら修繕費にでき、明らかでない部分が60万円未満または前期末(個人は前年末)取得価額のおおむね10%以下なら修繕費にできます(法人税基本通達7-8-3・7-8-4、所得税基本通達37-12・37-13)。
性能を高める取替えは資本的支出
従来より明らかに性能の高い機器に取り替えた場合、通常の取替えに要する費用を超える部分は資本的支出になります(法人税基本通達7-8-1(3)、所得税基本通達37-10(3))。たとえば、給湯専用機を追いだき機能つきに変える、単相の空調を大容量の業務用に変えるといった工事は、性能向上の部分を分けて検討します。
設備一式の撤去・新設を資本的支出とした裁決事例
設備の取替えについて参考になるのが、次の公表裁決です。
平成26年4月21日裁決(裁決事例集No.95)
- 事案:築17年の賃貸マンションで、一部の住戸の台所・浴室の既存設備を取り壊し、新たなシステムキッチン・ユニットバスに取り替えた費用について、請求人(個人)は居住機能を回復するための修繕費と主張した
- 判断:修繕費か資本的支出かは、支出の内容と支出効果の実質で判断する。本件は既存設備の一部を補修・交換したものではなく、物理的・機能的に一体不可分の台所・浴室の既存設備を全面的に取り壊して新設したものであり、建物の価値を高め、または耐久性を増すものとして、取替費用の全額を資本的支出と判断した
- 確認先:国税不服審判所 平成26年4月21日裁決
この裁決が示すのは、「部品を直した」のか「設備一式を新しくした」のかが判断の分かれ目になるということです。給湯器やエアコンの交換でも、部品交換と一式の入替えでは結論が変わりえます。ただし、この裁決は台所・浴室を全面的に新設した事案であり、設備の交換がすべて資本的支出になるという意味ではありません。
少額特例・除却損と、法人・個人の違い
少額減価償却資産などの特例と「貸付け」の除外
取得価額が10万円未満の減価償却資産は、事業の用に供した年度に全額を損金(必要経費)にでき、20万円未満なら一括償却資産として3年で均等償却する方法も選べます。ただし、令和4年4月1日以後に取得等をして貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供した資産は、これらの特例から除かれます。中小企業者等の少額減価償却資産の特例(令和8年4月1日以後の取得等は取得価額40万円未満)にも、同様の除外があります(国税庁タックスアンサーNo.5403、No.5408)。
賃貸物件に備え付けるエアコンや家電が、この「貸付けの用に供した資産」に当たるのか、「主要な事業として行われる貸付け」の例外に入るのかは、事業の実態によって判断が分かれます。詳しくは少額減価償却資産・一括償却資産と貸付用資産の除外で解説しています。
法人と個人の比較
| 項目 | 法人 | 個人(不動産所得) |
|---|---|---|
| 修繕費の処理 | 損金経理が必要 | 修繕費として所得計算・申告 |
| 中小企業者等の少額特例 | 青色申告の中小企業者等が対象(貸付用の除外あり) | 青色申告の中小事業者が対象(貸付用の除外あり) |
| 旧設備の未償却残高 | 固定資産除却損として損金 | 資産損失。事業的規模なら全額、事業的規模でなければ資産損失を差し引く前の不動産所得の金額が限度 |
| 減価償却 | 償却限度額の範囲で任意(損金経理) | 強制償却(毎年必ず償却費を計上) |
個人の資産損失の扱いは、国税庁タックスアンサーNo.1373で、不動産貸付けが事業として行われているかどうかによる違いとして説明されています。おおむね5棟10室以上かどうかが形式的な目安ですが、最終的には実質で判断します。
会計上の表示と、銀行からの見え方
決算書のどこに載るか
設備の修理費は通常、販管費(または賃貸原価)の修繕費です。取り替えた旧設備の除却損は、臨時的なものとして特別損失に表示されることが多い項目ですが、金額が小さいものや毎期のように発生するものは、営業外費用などに含めることも考えられます。企業会計原則の注解12でも、臨時損益であっても金額が僅少なものや毎期経常的に発生するものは経常損益に含めることができるとされています。
ここでも、税務上の損金算入の判断と、決算書の表示区分は別の問題です。税務上は損金に算入されるかが論点になり、表示区分(販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って、取引の実態で判断します。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る銀行が見るポイント
| 処理 | 営業利益・経常利益 | 償却前利益 | 貸借対照表 |
|---|---|---|---|
| 修繕費 | その期に減る | その期に減る | 変化なし(現預金が減る) |
| 資産計上(取得・資本的支出) | 減価償却費の分だけ減る | ほぼ変わらない | 設備の簿価が増える |
| 旧設備の除却損(特別損失に表示した場合) | 影響なし | 影響なし | 簿価が減り純資産が減る |
設備交換は1件ごとの金額は小さくても、戸数の多い物件では毎年まとまった金額になります。修繕費として処理する設備交換が毎年続くと、営業利益率が構造的に低く見え、ICR(営業利益÷支払利息)にも響きます。著書のモデルでは、銀行格付けで営業利益・経常利益を重視し、ICRや債務償還年数の計算にもこれらの利益を使います。
銀行に対しては、設備の交換を「突発的な支出」ではなく計画的な更新として説明できると安心感につながります。設備ごとの設置年と交換予定を一覧にした更新計画を作っておくと、決算書の数字の変動を説明しやすくなります。
実務のチェックポイント
- 設備台帳をつくる:設備ごとに設置年、機種、取得価額、資産区分(器具備品か建物附属設備か)を記録
- 「修理」か「一式の取替え」かを請求書で明確にする:部品交換なのか、本体ごとの交換なのかを記載してもらう
- 従前機種との性能比較を残す:性能向上の有無を説明できるようにする
- 形式基準を確認:20万円未満、60万円未満、前期末取得価額の10%以下
- 少額特例の適用可否を確認:貸付けの用に供した資産の除外に当たらないか
- 旧設備の除却を記録する:撤去の事実がわかる書類・写真、未償却残高の確認
- 個人は事業的規模かどうかを確認:資産損失の扱いが変わる
- 更新計画を銀行説明に使う:設置年と交換予定の一覧を用意
修繕費と資本的支出の全体像は修繕費と資本的支出の違いと判定フロー、経費の範囲は不動産所得の確定申告|経費にできるもの・できないものもご覧ください。
まとめ
- 設備の部品の修理は修繕費、壁掛け型ルームエアコンなど独立した器具備品の買い替えは新たな資産の取得になるのが基本
- 給湯器や業務用空調などの建物附属設備の取替えは、設備の構成・範囲・性能・金額で判断が分かれる。性能向上の部分は資本的支出
- 平成26年4月21日の公表裁決は、設備一式を撤去・新設した工事を資本的支出とした。部品交換と一式の入替えは区別して考える
- 少額減価償却資産などの特例は、貸付けの用に供した資産が除外される場合がある
- 決算書の表示区分は企業会計の基準に沿って実態で判断し、銀行には計画的な更新として説明できるようにする
設備の区分や更新計画、決算書の見せ方は、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
