古いビルやアパートの改修・解体では、アスベスト(石綿)の調査と除去が必要になることがあります。工場跡地や事業用地を貸している、あるいは買う場面では、土壌汚染の対策費用が問題になることもあります。どちらも数百万円から億円単位になりうる支出で、処理を誤ると税務と決算書の両方に大きく影響します。
この記事では、アスベスト除去費用と土壌汚染対策費用について、修繕費か資本的支出か(または取得価額か)の考え方、国税局の文書回答と国税不服審判所の裁決事例、法人と個人の違い、資産除去債務の会計、銀行からの見え方を整理します。
- 処理は場面で分かれる。使い続ける建物の改修での除去、建替えのための解体での除去、取得時から汚染がある土地の対策では、それぞれ扱いが違う
- 汚染土壌の掘削除去・埋戻しは、汚染前の状態への回復として修繕費とした国税局の文書回答がある(法人:福岡国税局、個人:東京国税局)。浄化設備は資産計上
- アスベスト除去費用を直接扱った国税庁の公表資料は見当たらない。除去と改修を分けて、修繕費・資本的支出の一般基準で判断する
- 会計では資産除去債務や減損の論点がある。銀行は担保評価と資金負担を見るため、調査結果と対策の計画を示せるようにしておく
場面ごとの処理の整理
アスベストや土壌汚染の対策費用は、どの場面で支出したかで考え方が変わります。
| 場面 | 主な処理の方向 | 関連する考え方 |
|---|---|---|
| 使い続ける建物の改修でアスベストを除去 | 除去部分は修繕費の検討、性能を高める改修部分は資本的支出 | 法人税基本通達7-8-1・7-8-2、所得税基本通達37-10・37-11 |
| 建替えのために所有建物を解体し、その際に除去 | 取壊し費用として、その期の費用(建物の簿価は除却損) | 法人税基本通達7-7-1 |
| 取り壊す目的で建物付きの土地を買い、解体時に除去 | 土地の取得価額 | 法人税基本通達7-3-6 |
| 所有地で後から汚染が判明し、掘削除去・埋戻し | 汚染前の状態への回復として修繕費(国税局の文書回答) | 福岡国税局・東京国税局の文書回答 |
| 汚染を知って土地を取得し、取得後すぐに対策 | 取得価額になる可能性を検討 | 法人税基本通達7-8-2(3)の「取得後直ちに地盛り」の除外 |
| 対策のための浄化設備・観測設備を取得 | 減価償却資産 | 国税局の文書回答 |
取壊し前提で取得した建物の扱いは取り壊し前提で買った建物の取得費・取壊費用、所有建物の取壊しによる除却損は建物の取壊し・除却損失の処理と特別損失で解説しています。
アスベスト除去費用:修繕費か資本的支出か
アスベストの除去費用について、国税庁が直接取り扱いを示した公表資料は、確認した範囲では見当たりませんでした。そこで、修繕費と資本的支出の一般的な基準に当てはめて考えます。
- 修繕費:固定資産の通常の維持管理、またはき損した固定資産の原状回復のための支出(法人税基本通達7-8-2、所得税基本通達37-11)
- 資本的支出:固定資産の使用可能期間を延長させる部分、または価額を増加させる部分(法人税法施行令132条、所得税法施行令181条)
アスベストを含む吹付け材や建材を取り除くこと自体は、建物の使用可能期間を延ばしたり価値を高めたりするというより、安全に使い続けるための措置という性格があります。一方で、除去と同時に断熱・耐火の仕様を高めた新しい材料に替えたり、内装を一新したりする部分は、資本的支出に当たる可能性があります。実務では次のように分けて考えるのが基本です。
| 工事の内容 | 判断の方向 |
|---|---|
| 事前調査・分析費用 | 除去工事と一体の費用として、工事の処理に合わせる |
| アスベスト含有建材の除去・飛散防止の養生・廃棄物処理 | 修繕費として検討 |
| 除去後に従来と同程度の材料で復旧 | 修繕費として検討 |
| 除去にあわせて性能の高い材料に替える、間取りや用途を変える | 性能向上・用途変更の部分は資本的支出 |
判断に迷う金額については、形式基準(60万円未満、前期末取得価額のおおむね10%以下)や、30%と10%の区分の特例の適用も検討します。判定の流れは修繕費と資本的支出の違いと判定フロー、裁決事例は修繕費と資本的支出:判例・裁決事例で見る判断の分かれ目を参照してください。耐震改修や用途変更工事とあわせて行う場合は耐震改修・用途変更工事は修繕費か資本的支出かも参考になります。
土壌汚染対策費用:国税局の文書回答
法人:福岡国税局の文書回答(平成22年3月26日)
福岡国税局は、平成22年3月26日の文書回答「汚染土壌対策に要する費用に係る法人税法上の取扱いについて」(国税庁)で、照会のとおりの取扱いで差し支えないと回答しています。照会は、20年以上前に農薬製造をやめ、工場跡地の一部を賃貸していた法人が、土壌・地下水の汚染が判明して、県・市や地元住民と協議のうえ対策を行うというものです。
| 費用 | 照会者の処理(回答:差し支えない) |
|---|---|
| 遮水壁の埋設、汚染土壌の掘削除去、地盤補修、良質土による埋戻し、アスファルト舗装 | 修繕費。それぞれの工事の完了した日の属する事業年度の損金 |
| 汚染土壌の焼却処分の委託費用 | 修繕費。役務の提供に応じて損金 |
| 対策中の倉庫の賃借料、浄化設備の稼働費などの維持管理費 | 期末までに債務が確定したものを損金(法人税基本通達2-2-12) |
| 浄化設備の取得・設置費用 | 減価償却資産として資産計上 |
照会者は、掘削除去と埋戻しは土地を汚染前の状態に回復するもので、使用可能期間の延長や価額の増加に当たる部分がないこと、遮水壁とアスファルト舗装は新たな構築物の取得にも見えるが、被害拡大の予防のためで汚染対策の終了後もそのまま維持するものであることを理由に挙げています。また、地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復する地盛りの費用は、土地の取得後直ちに地盛りを行った場合等を除き修繕費とする通達(法人税基本通達7-8-2(3))などに準じて考えられるとしています。
個人:東京国税局の文書回答(平成26年7月2日)
個人の不動産所得についても、東京国税局が平成26年7月2日の文書回答「汚染土壌対策に要する費用に係る所得税法上の取扱いについて」(国税庁)で、同様の取扱いで差し支えないと回答しています。
照会者は事業的規模で不動産賃貸を行う個人で、鍍金工場を営む法人に貸していた土地について、借主の破産後に工場建物を競売で買い受けて取り壊したところ、土壌汚染が確認されたというものです。汚染土壌の掘削除去・埋戻し・アスファルト舗装は修繕費として工事の完了した年分の必要経費、汚染土壌の処理処分の委託費用は役務の提供を受けた年分の必要経費、地下水浄化の費用は債務が確定した年の必要経費(所得税基本通達37-2)とする処理が示されています。
文書回答を使うときの注意点
- 文書回答は、照会された事実関係を前提とするその国税局の見解で、申告内容を拘束するものではないと明記されています
- 2つの事例は、いずれも所有していた土地で後から汚染が判明したケースです。汚染を知りながら土地を取得し、取得後すぐに対策した場合は、地盛りの通達が「取得後直ちに」行った場合を除いているのと同様に、土地の取得価額になる可能性を検討する必要があります
- 浄化設備のように、対策の終了後に処分できる設備は資産計上とされています。費用の内訳を、工事・処理委託・維持管理・設備に分けておくことが前提です
裁決事例:アスベスト除去費用と雑損控除(平成21年2月16日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成21年2月16日裁決(裁決事例集No.77・125頁)[裁決全文]
- 事案:個人が自宅建物の解体工事に着手したところ、建材の一部にアスベストが含まれていることが分かり、市から石綿障害予防規則等に基づく除去工事を指示された。専門業者による除去費用と分析検査費用を、雑損控除の対象として確定申告した
- 判断:雑損控除の対象となる災害は、自然界に生じた天災、またはそれと同視すべき事象をいうとし、法令に基づいて除去作業の費用負担が生じたこと自体を、人為による異常な災害とみることはできないとして、雑損控除の対象とならないと判断した
- 示唆:この事案は自宅(生活用の資産)なので雑損控除が争点になりました。賃貸物件の場合は、雑損控除ではなく、不動産所得の必要経費(修繕費や取壊し費用など)として処理を検討します。「予想外の出費」がすべて災害の特例の対象になるわけではありません。災害の扱いは災害による修繕費・災害損失の処理と特別損失で解説しています
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る法人と個人の違い
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 修繕費の計上時期 | 工事の完了した日の属する事業年度 | 工事の完了した日の属する年分 |
| 処理委託・維持管理費 | 役務の提供・債務の確定に応じて損金 | 債務が確定した年の必要経費 |
| 解体に伴う建物の簿価 | 帳簿価額を除却損として損金 | 事業的規模なら全額、事業的規模に満たなければ不動産所得の金額が限度 |
| 赤字になった場合 | 欠損金の繰越し(青色申告など) | 損益通算・純損失の繰越し(青色申告)。土地の負債利子などの制限に注意 |
| 自宅など生活用資産 | 該当なし | 雑損控除の対象にはならないとした裁決あり |
会計上の扱い:資産除去債務と減損
税務上の処理と、決算書の表示は別の問いです。会計処理は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って行います。法人税法22条4項も、収益・費用の額は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算するとしています。
- 資産除去債務:企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」は、有形固定資産の除去に関して法令や契約で要求される法律上の義務などを、資産除去債務として負債に計上するとしています。建物の解体時に法令で求められるアスベストの除去は、その例としてよく挙げられます。上場会社などこの基準を適用する会社では、除去費用の見積りを資産と負債に計上し、減価償却を通じて費用配分します
- 税務との関係:資産除去債務の計上額や、それに対応して資産計上した除去費用の償却費は、税務上は損金になりません。実際に除去を行い、債務が確定したときに損金になります
- 中小企業:中小企業の会計に関する指針や要領を使う会社での扱いは、会社の会計方針と重要性によります。顧問税理士・会計の専門家と確認してください
- 減損:土壌汚染などで土地や建物の収益性が大きく下がった場合、減損会計を適用する会社では減損損失の検討が必要になります
表示区分については、臨時かつ多額の対策費用であれば特別損失として表示することも考えられますが、どの区分にできるかは取引の実態次第です。税務上は損金算入が認められるかが論点になる一方、決算書の表示区分(販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は会計基準に沿って判断する必要があります。考え方は税務上の損金と企業会計(GAAP)の違いを参照してください。
銀行からの見え方
| 見られる点 | 内容 |
|---|---|
| 担保評価 | 土壌汚染があると、土地の担保評価が下がる要因になりうる。対策の完了と調査結果を示せるか |
| 資金負担 | 対策費用の総額と支払時期。工事の年の資金繰りと、既存借入の返済への影響 |
| 損益 | 修繕費として一度に計上すると営業利益が大きく落ちる。特別損失とした場合も純資産は減る |
| 将来の負担 | 古い建物でアスベストの除去が将来必要になる場合、解体時の費用が見込まれているか |
銀行は、古い建物や工場跡地などの融資では、アスベストの使用状況や土壌の調査結果を確認することがあります。取得前に調査を行い、対策費用を購入価格や資金計画に織り込んでおくことが、融資を受け続けるための前提になります。対策で一時的に利益が大きく落ちる年は、「臨時の対策費用で、物件の収益力は変わっていない」と説明できる資料を準備しておきましょう。銀行への説明の組み立ては銀行の融資審査で見られるポイントも参考にしてください。
実務のチェックポイント
- 支出の場面(改修・建替えの解体・取得前提の解体・所有地の汚染判明・汚染を知った取得)を確認したか
- 見積書を、調査・除去・廃棄物処理・復旧・性能向上の改修・設備の取得に分けてもらったか
- アスベスト除去にあわせた改修で、性能向上や用途変更に当たる部分を資本的支出として区分したか
- 土壌汚染対策は、工事・処理委託・維持管理・浄化設備に分け、それぞれの計上時期を決めたか
- 文書回答を参考にする場合、照会の事実関係(所有地で後から判明した汚染か)と自分のケースを比べたか
- 会計上、資産除去債務や減損の検討が必要か、会計方針を確認したか
- 銀行に、調査結果・対策の内容と費用・資金計画を示せるようにしたか
まとめ
- アスベスト除去費用・土壌汚染対策費用は、改修か解体か、取得前から汚染があったかで処理が変わる
- 汚染土壌の掘削除去・埋戻しは、汚染前の状態への回復として修繕費とした国税局の文書回答がある(法人・個人)。浄化設備は資産計上
- アスベスト除去は、除去と性能向上の改修を分けて、修繕費・資本的支出の一般基準で判断する
- 自宅の解体に伴うアスベスト除去費用は、雑損控除の対象となる災害に当たらないとした裁決がある
- 会計では資産除去債務・減損の論点がある。銀行には調査結果と対策・資金の計画を示せるようにしておく
アスベスト・土壌汚染の対策費用の処理から、資金計画と銀行への説明まで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
