ホテルや旅館の建物を取得するとき、消費税の扱いは賃貸マンションとは大きく変わります。宿泊料は消費税の課税対象で、旅館業の施設は居住用賃貸建物の制限を受けないからです。建物価格が大きいほど、仕入税額控除ができるかどうかで、必要な自己資金や融資額が数千万円単位で変わります。
一方で、「ホテルとして使う予定」というだけで控除が認められるわけではありません。この記事では、旅館・ホテルの建物を取得したときの仕入税額控除について、判定の基準と時期、転用予定の建物、引渡し日が争われたビジネスホテルの裁決事例、還付とその後の制約を整理します。
- 旅館業法の旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物は、居住用賃貸建物に当たらない(基本通達11-7-1(2))
- 判定は課税仕入れを行った日の状況。マンションを買ってホテルに転用する予定でも、取得時に住宅として貸せる状態なら原則として居住用賃貸建物
- ホテルと住宅が混在する建物は、合理的に区分して住宅部分だけが制限される
- 仕入税額控除の時期は引渡しの日。代金決済や登記の状況で判断され、契約上の引渡日が通るとは限らない(平成19年2月8日裁決)
- 還付を受けられる場合でも、高額特定資産の3年縛りなどの制約がかかる
旅館業の施設は「住宅の貸付け」ではない
旅館業の範囲
旅館業法2条は、旅館業を「旅館・ホテル営業、簡易宿所営業及び下宿営業」と定めています。消費税では、住宅の貸付けは非課税ですが、旅館業に係る施設の貸付けは非課税となる住宅の貸付けから除かれています(消費税法施行令16条の2)。
基本通達6-13-4は、ホテル・旅館のほか、旅館業法の適用を受けるリゾートマンションや貸別荘なども、利用期間が1か月以上であっても非課税にならないとしています。また、注書きでは、住宅宿泊事業法の住宅宿泊事業(いわゆる民泊)も非課税とならないことが示されています。
一方で、学生などが利用するいわゆる「下宿」は、旅館業法上の下宿営業には当たらず、部屋代は住宅の貸付けとして非課税になります(国税庁質疑応答事例「下宿の取扱い」)。名称だけで判断せず、旅館業の許可を受けて営業する施設かどうかを確認します。
居住用賃貸建物の判定
居住用賃貸建物は、住宅の貸付けに使わないことが明らかな建物以外の、税抜1,000万円以上の建物です(消費税法30条10項)。基本通達11-7-1は、住宅の貸付けに使わないことが明らかな建物の例として、「旅館又はホテルなど、旅館業法第2条第1項に規定する旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物」を挙げています。
| 取得する建物 | 居住用賃貸建物か | 考え方 |
|---|---|---|
| 営業中のホテルを取得して自ら営業 | 該当しない | 旅館業の施設に供することが明らか |
| ホテルを取得して運営会社に一棟貸し | 該当しない(契約・用途で確認) | 賃貸借の用途がホテルなら住宅の貸付けではない |
| 簡易宿所として新築 | 該当しない | 旅館業の施設として建築・許可 |
| 賃貸マンションを買い、ホテルに転用予定 | 原則として該当 | 取得時は住宅として貸せる状態(通達11-7-2) |
| 下層階ホテル・上層階賃貸住宅 | 住宅部分のみ制限 | 合理的区分(施行令50条の2) |
| 学生向け下宿 | 該当(税抜1,000万円以上なら) | 旅館業法上の下宿営業に当たらない |
判定の時期と転用の考え方は、居住用賃貸建物の判定実務で詳しく解説しています。
転用予定と併用のときの考え方
マンションをホテルに転用する場合
判定は課税仕入れを行った日の状況で行います(通達11-7-2)。入居者がいる賃貸マンションを買い、退去後にホテルへ転用する計画では、取得の日に住宅の貸付けに使わないことが明らかとはいえません。税抜1,000万円以上なら居住用賃貸建物に該当するのが原則です。
ただし、取得した課税期間の末日までに住宅に使わないことが明らかにされたときは、該当しないものとして差し支えないとされています。それ以後に転用した場合は、第3年度の課税期間の末日までに課税賃貸用に使えば、控除できなかった税額に課税賃貸割合を掛けた金額を加算する調整があります(消費税法35条の2)。
また、入居者付きで取得した段階の建物は、転売までの家賃(非課税)にも対応するため、1,000万円未満の物件でも用途区分は共通対応になるのが原則です。この点はムゲンエステート事件の解説をご覧ください。
ホテルと住宅の併用
1棟の中にホテルと賃貸住宅がある場合は、構造・設備の状況などで合理的に区分していれば、住宅部分に対応する消費税だけが制限されます。区分の基準は、使用面積割合や使用面積に対する建設原価の割合などです(通達11-7-3)。共用のエントランスやエレベーターも、同じ基準で按分します。
引渡し日が争われたビジネスホテルの裁決事例
平成19年2月8日裁決(裁決事例集No.73・519頁)
ビジネスホテル業を営む請求人が、ホテルの建物・附属設備・構築物などを取得し、その消費税を、ある課税期間の仕入控除税額に含めて申告した事例です(裁決の全文)。
契約書とは別に交わした確認書・合意書には、引渡しの期日を後の日付とする記載がありました。請求人は、旅館業の営業許可を得てから引き渡す約束だったとして、後の日付が引渡日だと主張しました。
審判所は次のように判断しました。
- 課税仕入れの日は資産の譲渡等の時期に準じて判断し、引渡しという具体的事実を重視する。権利証の交付、登記の有無、代金の受領状況などの客観的な取引実態で判断すべきで、契約形式上の当事者の意思だけで判断するのは妥当でない
- 売買契約を締結した日に、代金の全額を支払い、所有権移転登記をし、根抵当権の設定登記も行っていたから、引渡しはその日に完了している
- 保健所への照会によれば、旅館業の営業許可は建物の所有形態にかかわらず申請でき、契約も営業許可を停止条件とするものとは認められない
その結果、建物等の消費税は申告した課税期間の控除対象にならないとして更正処分は適法とされ、過少申告加算税の「正当な理由」も認められませんでした。
実務への示唆
ホテルの取得では、旅館業の許可、課税事業者の選択、課税期間の区切りなどを見ながら取引の時期を組み立てることがあります。この裁決は、契約書の引渡日ではなく、代金決済や登記といった実態で引渡しの日が決まることを示しています。
反対に、平成24年7月24日裁決(裁決の全文)では、新築の賃貸用建物について、課税期間中に建物の大部分が完成し、登記や代金の支払いなども済んでいたことから、課税期間内に引渡しがあったと同視できるとして、控除が認められています。どちらも、事実関係を総合して判断されている点に注意が必要です。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る還付と「その後」の制約
開業前で売上が小さい課税期間にホテルを取得すると、仕入税額控除が売上の消費税を上回り、還付になることがあります。ただし、還付を受けるには課税事業者で本則課税である必要があり、その後の制約も伴います。
| 制度 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 課税事業者の選択 | 免税事業者が還付を受けるには、原則として取得する課税期間の開始前に届出が必要 | 消費税法9条4項 |
| 課税事業者選択+調整対象固定資産 | 選択後2年以内に100万円以上の固定資産を本則課税で取得すると、取得した課税期間の初日から3年間は免税・簡易課税に戻れない | 消費税法9条7項、37条3項 |
| 高額特定資産の取得 | 本則課税で税抜1,000万円以上の資産を取得すると、取得した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間まで免税点制度・簡易課税の適用不可 | 消費税法12条の4、37条3項 |
| 課税売上割合の著しい変動 | 取得時と3年間の通算の課税売上割合が大きく違うと、第3年度で仕入控除税額を調整 | 消費税法33条 |
3年縛りの数え方は高額特定資産の3年縛り、第3年度の調整は調整対象固定資産と課税売上割合の調整で解説しています。
税務上の扱い:法人と個人の違い
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 消費税の判定・控除 | 同じ(居住用賃貸建物に当たらなければ控除の対象) | 同じ |
| 課税期間 | 事業年度 | 暦年 |
| 宿泊業の所得区分 | 法人の所得 | 旅館業の規模や実態で事業所得などに区分 |
| 消費税還付の処理(税込経理) | 還付税額は益金 | 還付税額は総収入金額 |
| 控除できなかった消費税(税抜経理) | 資産に係る控除対象外消費税額等として処理(損金経理が要件) | 同様に必要経費に算入 |
個人で旅館業を営む場合の所得区分と消費税は、旅館業収入の所得区分と消費税で整理しています。
会計上の表示と銀行からの見え方
還付は「利益」ではない
税抜経理なら、還付される消費税は未収消費税等として流動資産に計上され、損益には出ません。税込経理なら、還付額が雑収入などとして収益に計上され、その期の経常利益を一時的に押し上げます。銀行は一過性の収益を差し引いて実力値を見るため、還付で利益が膨らんだ年は、内容を説明できるようにしておきます。
「資産は上に、負債は下に」
ホテル取得では、還付までの間の消費税相当額を短期のつなぎ資金でまかなうことがあります。このとき、貸借対照表には未収消費税等(流動資産)と短期借入金(流動負債)が並び、流動比率の見え方が変わります。
著書では、流動比率を意識して「資産は上に、負債は下に」という考え方を紹介しています。ただし、これは決算書の表示区分の話です。どの科目・区分に表示できるかは、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、取引の実態次第です。還付の時期と返済の時期を合わせた資金計画を、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。考え方は「資産は上に、負債は下に」の解説もご覧ください。
債務償還年数への影響
控除できるかどうかで、取得に必要な資金は大きく変わります。控除できない消費税が取得価額に入れば、借入金が増え、減価償却費も増えます。著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。
実務のチェックポイント
- 取得の日に、旅館業の施設に供することが明らかといえるか(営業中か、許可・設備・契約の状況)
- 運営会社に貸す場合、賃貸借契約の用途がホテルと明記されているか
- 住宅部分がある場合、合理的区分の基準と根拠資料をそろえているか
- 引渡しの日(代金決済・登記・鍵の引渡し)はどの課税期間に入るか
- 還付を受けるなら、課税事業者選択の届出時期と、その後3年間の制約を確認したか
- 還付までのつなぎ資金と返済時期を、資金計画に入れたか
まとめ
- 旅館業の施設に供することが明らかな建物は居住用賃貸建物に当たらず、取得時の消費税を控除できる
- 判定は課税仕入れを行った日の状況。マンションからの転用予定は原則として居住用賃貸建物になり、35条の2の調整で一部を取り戻す
- ホテルと住宅の併用は合理的区分。共用部分の按分まで決めておく
- 控除の時期は引渡しの日で、代金決済や登記の実態で判断される(平成19年2月8日裁決)
- 還付には3年縛りなどの制約が伴う。会計の表示と銀行への説明まで含めて計画する
ホテル・旅館の取得は、消費税の判断が資金計画を大きく左右します。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、取得前の消費税の判定から、融資を見据えた決算書づくりまでご相談をお受けしています。
