消費税

自販機スキーム・金地金スキームと平成22年・28年・令和2年改正|消費税還付の手法はどう封じられたか(令和6年改正・裁決事例つき)

かつて、賃貸アパートやマンションを買うと建物の消費税が戻ってくる、という手法が広く出回っていました。代表的なものが、自販機の手数料で課税売上げをつくる自販機スキームと、金の売買で課税売上げをつくる金地金スキームです。

これらは、平成22年、平成28年、令和2年、そして令和6年の改正で段階的に封じられてきました。この記事では、公表裁決の事実関係から手法の構造を確認し、各改正が何をふさいだのかを順に整理します。消費税還付の仕組みと全体像は不動産の消費税還付の仕組みと歴史で解説しています。本記事は、その中でも手法と改正の中身に焦点を当てます。

この記事の結論
  • 両スキームは、課税事業者の選択+課税期間の短縮+一時的な課税売上げで、建物を取得した課税期間の課税売上割合を高め、住宅用建物の消費税の還付を受ける構造だった
  • その後免税事業者に戻れば、数年後の課税売上割合の変動による調整(消費税法33条)を受けずに済む点が要だった
  • 平成22年改正は課税事業者選択後・新設法人の3年縛り、平成28年改正は高額特定資産の3年縛り、令和2年改正は居住用賃貸建物の控除そのものを否定、令和6年改正は金地金等の3年縛りを追加した
  • 公表裁決では、自販機手数料の計上時期(平成20年7月4日裁決)、免税事業者になる直前の金地金の取得(令和6年4月25日裁決)を理由に、控除が否定されている
  • 今は、控除できないのに3年縛りだけはかかることに注意。取得前の試算が欠かせない

スキームの基本構造

なぜ課税売上割合を上げたかったのか

住宅の家賃は非課税です。住宅を貸すための建物の消費税は、個別対応方式なら非課税売上げに対応する仕入れとして控除できず、一括比例配分方式でも課税売上割合を掛けた分しか控除できません。

ところが、建物を取得した課税期間に限っては、家賃がまだほとんど入っていません。その課税期間に少額でも課税売上げだけがあれば、課税売上割合は100%近くになり、建物の消費税の大部分を控除できる、という発想です。

組み合わされた3つの要素

要素手段目的
課税事業者になる消費税課税事業者選択届出書を提出免税事業者のままでは還付を受けられないため
課税期間を短くする消費税課税期間特例選択届出書で1か月・3か月に短縮建物を取得する課税期間に家賃(非課税)をほとんど入れないため
課税売上げをつくる自販機の手数料、金地金の売買などその課税期間の課税売上割合を高めるため

そして、還付を受けた後に免税事業者へ戻れば、調整対象固定資産を取得した課税期間から3年目に課税売上割合が著しく変動したときの調整(消費税法33条、タックスアンサーNo.6421)を受けずに済みます。この調整は、第3年度の課税期間に、比例配分法で控除した税額を通算課税売上割合で見直すものです。免税事業者になってしまえば、見直しの機会がなくなります。

自販機スキーム:平成20年7月4日裁決

事実関係

自販機スキームの構造がよくわかるのが、国税不服審判所 平成20年7月4日裁決(裁決事例集No.76 465頁)です。

日付出来事
平成18年2月26日土地と建築予定の賃貸アパートを5,420万円(うち建物2,436万円、消費税等116万円)で購入する契約
平成18年5月22日課税事業者選択届出書と、課税期間を1か月に短縮する届出書を提出
平成18年5月27日別のマンションを4,200万円(建物等の消費税等120万円)で購入する契約
平成18年6月23日飲料メーカーと、アパート敷地への自販機設置協定書を締結
平成18年6月29日アパートの引渡し。同日、自販機を設置
平成18年6月30日マンションの引渡し

審査請求人は、平成18年6月の1か月の課税期間について、6月30日の販売分(4本・480円)に料率25%を掛けた手数料の税抜114円を課税売上げとし、課税売上割合100%として、アパートとマンションの取得の消費税の還付を申告しました。

審判所の判断

審判所は、自販機設置協定書の内容から、販売手数料は設置場所の提供、故障時の連絡などの人的役務、電気の供給の対価であり、毎月20日の締日に収入すべき金額が確定すると認定しました。7月分の手数料は7月20日に確定するため、6月の課税期間には課税売上げがなく、課税売上割合は0%で、控除できる消費税額はゼロとされました。過少申告加算税も維持されています。

この裁決は、手法そのものの是非ではなく、課税売上げの計上時期で決着した事例です。当時は、こうした手法を正面から封じる規定はまだなく、その後の制度改正で段階的に手当てされていきます。

平成22年・28年改正:3年縛りの導入と拡大

平成22年度改正:課税事業者選択後の3年縛り

国税庁の「消費税法改正のお知らせ(平成22年4月)」によれば、改正の内容は次のとおりです。

  • 対象:課税事業者選択届出書を提出し、平成22年4月1日以後開始する課税期間から課税事業者となる場合、または資本金1,000万円以上の法人を設立した場合
  • 要件:課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間(新設法人は基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間)中に、調整対象固定資産(税抜100万円以上の建物・附属設備・構築物・機械・車両・器具備品など)の課税仕入れを行い、その課税期間の確定申告を一般課税で行う
  • 効果:調整対象固定資産の課税仕入れを行った課税期間の初日から原則3年間は、免税事業者になれず、簡易課税も選べない

これにより、還付を受けた事業者は第3年度まで課税事業者・一般課税にとどまることになり、33条の調整が働くようになりました。住宅を貸して非課税売上げばかりになれば、第3年度に通算課税売上割合が大きく下がり、取得時に控除した税額の多くを戻すことになります。

平成28年度改正:高額特定資産の3年縛り

平成22年の改正は、課税事業者を選択した事業者と資本金1,000万円以上の新設法人が対象でした。平成28年度改正では、対象を広げ、一般課税の課税事業者が高額特定資産を取得した場合一般に3年縛りをかけました(消費税法12条の4)。

  • 高額特定資産:一の取引の単位につき税抜1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産
  • 効果:取得した課税期間の翌課税期間から、取得した課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで、免税事業者になれず、簡易課税も選べない
  • 適用:平成28年4月1日以後の高額特定資産の仕入れ等(平成27年12月31日までに締結した契約に基づくものは除く)

財務省の令和6年度税制改正の解説は、この特例の趣旨を、事業者免税点制度と簡易課税制度の恣意的な制度選択を通じた租税回避的な行為を防ぐためと説明しています。

金地金スキームと令和2年度改正

金地金の売買で課税売上割合を上げる

自販機の手数料は金額が小さく、計上時期の問題もありました。そこで、売買の金額そのものが課税売上げになる金地金を短期間に売買し、課税売上割合を引き上げる手法が用いられるようになりました。金地金の売買は、仕入れも売上げも課税取引なので、売買を繰り返すほど課税売上高が膨らみます。

令和2年度改正:控除そのものを否定

令和2年度改正は、こうした「課税売上割合をどう高めるか」という次元ではなく、居住用賃貸建物の仕入税額控除そのものを認めないという手当てをしました(消費税法30条10項)。

  • 居住用賃貸建物:住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物で、高額特定資産または調整対象自己建設高額資産に当たるもの
  • 適用:令和2年10月1日以後の課税仕入れ等(令和2年3月31日までに締結した契約に基づくものは除く)
  • 調整:第3年度の課税期間の末日までに課税賃貸用に転用、または売却した場合は、控除できなかった税額の一部を加算(35条の2)

これにより、課税売上割合をどれだけ高めても、税抜1,000万円以上の住宅用建物の消費税は控除できなくなりました。

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令和6年4月25日裁決と令和6年度改正

令和2年改正の後も、金地金をめぐる争いは続いています。国税不服審判所 令和6年4月25日裁決は、免税事業者になる直前の金地金の取得が争われた一例です。

事実関係

裁決によれば、審査請求人は不動産管理・賃貸業などを目的とする合同会社です。

時期出来事
平成30年11月8日課税事業者選択届出書と、課税期間を3か月に短縮する届出書を提出(同年12月1日から適用)
平成30年12月3日銀行借入3億5,000万円を原資に、RC造の共同住宅を4億3,500万円で取得
平成30年12月5日〜11日金地金の売買を7日間で4回(取得価額合計約8,267万円、売却金額合計約8,216万円)。この期間の申告で共同住宅と金地金の取得の消費税を控除し、還付を受けた
令和4年2月28日課税事業者選択不適用届出書を提出(翌課税期間から免税事業者)。同日、関係会社からの借入を原資に金地金67kgを約5億2,364万円で取得
令和4年3月3日免税事業者となった課税期間に、金地金を約5億2,474万円で売却し、借入を返済

審査請求人は、令和4年2月期(課税事業者として最後の課税期間)に金地金の取得の消費税を控除して申告しました。なお、平成30年12月の課税期間の還付申告は、この裁決の争点ではありません。

審判所の判断

消費税法36条5項は、課税事業者が免税事業者となる課税期間の前日に、その課税期間に仕入れた棚卸資産を持っている場合、その消費税は控除できないと定めています。免税事業者になってから売却されれば、売上げに消費税がかからないためです。

審査請求人は、金地金の売買を反復継続していないので棚卸資産ではない(投資目的だ)と主張しましたが、審判所は、事業規模に比べて突出した取引額であること、取得資金の98%超を借入で調達し売却代金で返済していること、取得の2日後に売却を申し込んでいること、金地金を受け取る前から買取り用の梱包キットの交付を求めていたことなどから、事業目的に係る業務の過程で売却することを目的として保有していたとして棚卸資産に当たると判断し、控除を認めませんでした。過少申告加算税の「正当な理由」も否定されています。

裁決の確認先

国税不服審判所 公表裁決事例:平成20年7月4日裁決/令和6年4月25日裁決

令和6年度改正:金地金等も3年縛りの対象に

高額特定資産の判定は「一の取引の単位」で行うため、金地金を1,000万円未満に分けて買えば、3年縛りを回避できる余地がありました。財務省の解説は、令和6年度改正の趣旨を、金地金等の取引による高額特定資産の特例の恣意的な潜脱を防止するためと説明しています。

  • 対象:課税期間中の金または白金の地金、金貨・白金貨、一定の金製品・白金製品の仕入れ等の税抜合計額が200万円以上
  • 効果:その課税期間の翌課税期間から、その課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで、免税事業者になれず、簡易課税も選べない(消費税法12条の4第3項、37条3項5号)
  • 適用:令和6年4月1日以後の仕入れ等

改正の全体像と、いま残る影響

改正ふさいだもの主な条文
平成22年度課税事業者を選択して還付を受け、すぐ免税に戻る消費税法9条7項、12条の2第2項、37条
平成28年度選択届出によらない課税事業者が高額な資産で還付を受け、免税・簡易課税に戻る消費税法12条の4
令和2年度課税売上割合を高めて住宅用建物の消費税を控除する消費税法30条10項、35条の2
令和6年度金地金を分割購入して3年縛りを回避する消費税法12条の4第3項

控除できないのに3年縛りはかかる

いま特に注意したいのは、居住用賃貸建物を取得した場合です。国税庁のタックスアンサーNo.6502は、居住用賃貸建物として仕入税額控除が制限される場合でも、高額特定資産の3年縛りは適用されると説明しています。一般課税の課税事業者が税抜1,000万円以上の賃貸住宅を取得すると、消費税は控除できないのに、約3年間は免税にも簡易課税にも戻れないことになります。

住宅家賃中心で課税売上高が小さい法人ほど、この影響は大きくなります。取得のタイミングや、取得する課税期間の申告方法を、事前に確認する必要があります。詳しくは高額特定資産・自己建設高額特定資産の3年縛りで解説します。

個人と法人、会計と銀行からの見え方

個人と法人

これらの制度は、個人事業者と法人に共通です。違いは課税期間(個人は暦年、法人は事業年度)と、控除できなかった消費税の所得計算上の扱いです。税抜経理の場合、資産に係る控除対象外消費税額等は、一定の要件のもとで損金・必要経費または繰延消費税額等として処理します。

決算書の表示

金地金を短期売買した場合、その取得・売却をどう表示するかは、令和6年4月25日裁決の事案でも期によって処理が分かれていました(ある期は売上高・売上原価、ある期は投資等と営業外収益)。表示区分は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って、取引の実態で判断する必要があります。税務上の処理と会計上の表示は別物であり、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

銀行の見方

  • 還付を前提にした資金計画は、否認されれば一度に崩れる。追徴税額と加算税は現預金を減らし、債務償還年数を悪化させる
  • 本業と関係の薄い多額の取引(金地金の短期売買など)が売上高に計上されると、銀行は本業の収益力を読み取りにくくなる
  • 借入で一時的に多額の取引をした痕跡は、資金使途の説明を求められる

著書のモデルでは、正常先の目安を129点満点中32点以上としています。税務リスクの高い取引は、点数以前に、銀行との信頼関係を損ないます。

まとめ

  • 自販機・金地金スキームは、課税事業者の選択・課税期間の短縮・一時的な課税売上げで、住宅用建物の消費税の還付を受ける構造だった
  • 平成22年(課税事業者選択後・新設法人の3年縛り)、平成28年(高額特定資産の3年縛り)、令和2年(居住用賃貸建物の控除否定)、令和6年(金地金等の3年縛り)で段階的に封じられた
  • 平成20年7月4日裁決は自販機手数料の締日計上、令和6年4月25日裁決は免税事業者になる直前の金地金を棚卸資産として、控除を否定した
  • いまは、居住用賃貸建物を取得すると控除できないのに3年縛りがかかる。取得前の試算が欠かせない

消費税の制度は、還付の手法とその封じ込めの繰り返しで複雑になってきました。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、取得前の消費税の試算と、銀行に説明しやすい決算書づくりをご相談いただけます。居住用賃貸建物の基本は居住用賃貸建物の消費税もご覧ください。

よくある質問

自販機スキームとは、どんな仕組みだったのですか?
賃貸住宅を取得する課税期間に、課税事業者を選択し、課税期間を短縮したうえで、自販機の手数料などの課税売上げだけを計上して課税売上割合を高め、建物の消費税の還付を受けようとする手法です。平成20年7月4日の国税不服審判所の裁決では、自販機の販売手数料は毎月の締日に収入が確定するとして、取得した課税期間に課税売上げはないと判断され、還付は認められませんでした。
平成22年、平成28年、令和2年の改正は、それぞれ何を変えたのですか?
平成22年度改正は、課税事業者を選択した事業者や資本金1,000万円以上の新設法人が、一定期間内に調整対象固定資産を取得して一般課税で申告すると、原則3年間は免税事業者に戻れず簡易課税も選べないとしました。平成28年度改正は、一般課税の課税事業者が高額特定資産を取得した場合に、同様の制限を広く課しました。令和2年度改正は、居住用賃貸建物の仕入税額控除そのものを認めないこととしました。さらに令和6年度改正で、金・白金の地金等の仕入れが合計200万円以上の場合も同様の制限の対象となりました。
いま居住用賃貸建物を取得すると、3年縛りはかかりますか?
かかります。国税庁のタックスアンサーNo.6502は、居住用賃貸建物として仕入税額控除が制限される場合でも、高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例は適用されると説明しています。一般課税の課税事業者が税抜1,000万円以上の建物を取得すれば、控除はできないのに、取得した課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までは免税事業者にも簡易課税にも戻れない、という点に注意が必要です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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