「建物を買うと消費税が戻ってくる」。かつて、不動産投資の世界ではこうした話がよく聞かれました。しかし、不動産の消費税還付は、平成22年から令和6年まで、繰り返し制度改正で封じ込められてきた分野です。
この記事では、まず還付がなぜ生じるのかという仕組みを押さえ、その後の改正の流れと、還付申告が否認された公表裁決を紹介します。そのうえで、現在も正当に還付があり得る場面と、決算書・銀行からの見え方を整理します。個々の手法と改正の詳細は自販機スキーム・金地金スキームと平成22年・28年・令和2年改正で掘り下げます。
- 還付は「その課税期間の仕入れに係る消費税額が、売上げに係る消費税額を上回る」ときに生じる。住宅家賃は非課税なので、本来は住宅の取得で還付は生じにくい
- かつては、課税売上割合を一時的に高める手法で住宅用建物の還付を受ける例があった。これに対し、平成22年(課税事業者選択後の3年縛り)、平成28年(高額特定資産の3年縛り)、令和2年(居住用賃貸建物の控除制限)、令和6年(金地金等)の改正が重ねられた
- 公表裁決でも、自販機手数料・引渡日・転貸契約などを根拠にした還付申告が否認されている
- いまでも、店舗・事務所・ホテルなど住宅の貸付けに使わない建物では還付があり得る。ただし3年縛りなどの影響を見込む必要がある
- 未収還付消費税は流動資産。銀行は一時的な資産として見る
消費税還付の仕組み
仕入税額控除と還付
消費税の納付額は、原則として「売上げに係る消費税額 − 仕入れに係る消費税額」で計算します。建物の取得のように大きな仕入れがあった課税期間に、仕入れに係る消費税額が売上げに係る消費税額を上回れば、その差額が還付されます。
ただし、還付を受けられるのは、課税事業者が一般課税(本則課税)で申告する場合に限られます。免税事業者や簡易課税・2割特例を使う事業者は、仕入れの消費税が大きくても還付は受けられません。
課税売上割合が鍵になる
課税売上高が5億円を超えるか、課税売上割合(売上全体のうち課税売上げの割合)が95%未満の場合、仕入れの消費税は全額は控除できません。個別対応方式なら、課税売上げにだけ対応する仕入れは全額、非課税売上げにだけ対応する仕入れはゼロ、共通の仕入れは課税売上割合を掛けた額が控除されます。
住宅の家賃は非課税です。住宅を貸すための建物の消費税は、本来、控除できないか、ごく一部しか控除できない性質のものです。
| 建物の用途 | 売上げの性質 | 取得時の消費税 |
|---|---|---|
| 店舗・事務所として貸す | 課税売上げ | 控除できる(還付があり得る) |
| ホテル・旅館として貸す・運営する | 課税売上げ | 控除できる(還付があり得る) |
| 住宅として貸す | 非課税売上げ | 令和2年10月以後、税抜1,000万円以上の居住用賃貸建物は原則控除不可 |
| 販売用(転売目的)だが入居者付き | 売却は課税、家賃は非課税 | 共通対応(最高裁令和5年3月6日判決)。1,000万円以上なら居住用賃貸建物の制限が先にかかる |
封じ込められてきた歴史
還付を生み出していた構造
住宅用建物で還付を受けるには、取得した課税期間の課税売上割合を高くし、かつ課税事業者である必要があります。そこで、次のような組合せが用いられてきました。
- 課税事業者選択届出書を出して、あえて課税事業者になる
- 課税期間を1か月や3か月に短縮し、建物を取得する課税期間には家賃(非課税)がほとんど入らないようにする
- その課税期間に、自販機の手数料や金地金の売買などで課税売上げをつくり、課税売上割合を高める
こうして取得時に還付を受け、その後は免税事業者に戻れば、取得から数年後に課税売上割合が大きく下がったときの調整(消費税法33条)を受けずに済む、という構造でした。
改正の流れ
| 改正 | 適用 | 内容 |
|---|---|---|
| 平成22年度改正 | 平成22年4月1日以後開始する課税期間から課税事業者を選択した事業者、同日以後に設立された資本金1,000万円以上の新設法人 | 課税事業者となった初日から2年以内(新設法人は基準期間がない期間)に調整対象固定資産(税抜100万円以上)を取得し一般課税で申告すると、取得した課税期間の初日から原則3年間、免税事業者に戻れず簡易課税も選べない |
| 平成28年度改正 | 平成28年4月1日以後の高額特定資産の仕入れ等(平成27年12月31日までの契約には経過措置) | 一般課税の課税事業者が高額特定資産(税抜1,000万円以上の棚卸資産・調整対象固定資産)を取得すると、取得した課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで、免税事業者に戻れず簡易課税も選べない |
| 令和2年度改正 | 令和2年10月1日以後の課税仕入れ(令和2年3月31日までの契約には経過措置) | 居住用賃貸建物の仕入税額控除を認めない。第3年度までに課税賃貸用に転用・売却した場合は一部を加算調整 |
| 令和6年度改正 | 令和6年4月1日以後の仕入れ等 | 課税期間中の金・白金の地金等の仕入れが税抜200万円以上なら、高額特定資産と同じく3年間免税・簡易課税を制限 |
平成22年・28年の改正は、「還付を受けたら3年間は課税事業者のまま」とすることで、33条の調整を確実に働かせる仕組みです。令和2年の改正は、そもそも住宅用建物の消費税を控除させないという、より直接的な手当てです。令和6年の改正について、財務省の税制改正の解説は、金地金等の取引による高額特定資産の特例の恣意的な潜脱を防止するためと説明しています。
否認された還付申告:公表裁決に見る典型例
改正と並行して、個別の還付申告も国税不服審判所で否認されてきました。代表的な公表裁決を3つ紹介します。
| 裁決 | 事案 | 判断 |
|---|---|---|
| 平成20年7月4日(裁決事例集No.76) | 賃貸アパートを取得した月に敷地へ自販機を設置させ、その月の販売手数料を課税売上げとして課税売上割合100%で還付申告(課税期間は1か月に短縮) | 販売手数料は場所の提供・役務・電気供給の対価で、毎月の締日に収入が確定する。その課税期間の課税売上げはなく、還付不可 |
| 平成22年11月8日(裁決事例集No.81) | 賃借人付きの店舗・事務所・住宅併用建物を「販売目的」で取得し、課税事業者を選択し課税期間を3か月に短縮して、取得の消費税を全額控除して申告 | 課税仕入れの日は引渡しのあった日で、実際の引渡しは短縮した課税期間の開始前だった。仮に開始日の取得としても、住宅家賃にも対応するので共通対応 |
| 平成28年9月7日(裁決事例集No.104) | マンションの1室を売主会社に賃貸(会社が転貸)し、課税取引として還付申告 | 住宅として転貸することが契約書等で明らかで、住宅の貸付け(非課税) |
平成22年11月8日の裁決は、課税期間を短縮しても、不動産の課税仕入れの日は登記・代金支払・鍵の引渡しなどの客観的な事実で判断されることを示しています。契約書上の引渡日を短縮後の課税期間の初日にしていても、実際の引渡しがそれより前なら、その課税期間の仕入れにはなりません。
転売目的で取得した入居者付きの建物の用途区分は、最高裁が令和5年3月6日に、売却と家賃の両方に対応する課税仕入れは共通対応に当たると判断しました。詳しくはエー・ディー・ワークス事件とムゲンエステート事件で解説しています。
国税不服審判所 公表裁決事例:平成20年7月4日裁決/平成22年11月8日裁決/平成28年9月7日裁決
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見るいまでも還付があり得る場面
制度の封じ込めは、住宅の貸付けに使う建物を対象にしたものです。消費税の仕組みどおり、課税売上げのための建物なら、還付は正当に生じます。
住宅に使わないことが明らかな建物
消費税法基本通達11-7-1は、居住用賃貸建物に当たらない「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」として、次の例を挙げています。
- 建物の全てが店舗等の事業用施設である建物など
- 旅館・ホテルなど、旅館業法の旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物
- 棚卸資産として取得した建物で、所有している間、住宅の貸付けに使わないことが明らかなもの
店舗・事務所ビル、倉庫、ホテルの新築や取得では、取得した課税期間の課税売上げより仕入れの消費税が大きければ還付になります。店舗併用住宅は、住宅に使わないことが明らかな部分を合理的に区分すれば、その部分は控除できます(通達11-7-3)。
還付の前に確認すること
- 課税事業者か、一般課税か:免税事業者が還付を受けるには課税事業者の選択が必要。選択すると原則2年間は免税に戻れず、調整対象固定資産を取得すれば3年縛りがかかる
- 3年縛りの影響:高額特定資産を取得すると、その後の課税期間も一般課税で申告することになる
- 33条の調整:調整対象固定資産を取得した後、第3年度に課税売上割合が著しく変動すれば、控除額が調整される
- 用途の変更:課税業務用から非課税業務用に転用した場合の調整(34条・35条)もある
還付は「得をする手法」ではなく、課税売上げのための仕入れの消費税を、仕組みどおり精算するものと理解しておくのが適切です。
法人と個人の違い、会計上の表示
個人と法人
消費税の還付の仕組みは、個人事業者も法人も同じです。違いは課税期間(個人は暦年、法人は事業年度)と、控除できなかった消費税の所得計算上の扱いです。
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 課税期間 | 1月1日〜12月31日(短縮の特例あり) | 事業年度(短縮の特例あり) |
| 還付金の扱い(税抜経理) | 未収金として処理し、所得に影響しない | 未収還付消費税等として処理し、所得に影響しない |
| 還付金の扱い(税込経理) | 還付が確定した年などの総収入金額 | 益金 |
| 控除できなかった消費税(税抜経理) | 資産に係るものは一定の要件で必要経費または繰延消費税額等 | 資産に係るものは一定の要件で損金または繰延消費税額等 |
決算書の表示
税抜経理では、決算時点で申告前の還付見込額は未収還付消費税等(または未収入金)として流動資産に計上するのが一般的です。税込経理では、還付額は収益として計上し、その表示区分は実態に応じて判断します。
税務上の処理と、決算書の表示区分は別の問題です。どの勘定・区分で表示するかは、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
- 未収還付消費税:還付されれば現預金になるが、一時的な資産であり、銀行は返済原資とは区別して見る
- 資金繰り:建物の取得時には消費税分の資金が一時的に必要になる。還付までの期間をつなぐ資金を融資で手当てするなら、返済の見通しを説明する
- 否認リスク:還付申告は税務署の確認が入りやすい。否認されれば追徴と加算税で現預金が減り、債務償還年数や純資産に影響する
公表裁決のように否認された場合、加算税も課されています。著書のモデルでは、債務償還年数10年以内を健全の目安としています。リスクの高い還付申告は、銀行評価の面でも割に合いません。
まとめ
- 消費税の還付は、仕入れの消費税が売上げの消費税を上回るときに生じる。住宅家賃は非課税なので、住宅用建物の還付は本来生じにくい
- 課税売上割合を一時的に高める手法に対し、平成22年・28年・令和2年・令和6年の改正で封じ込めが進んだ
- 自販機手数料、課税期間の短縮、転貸契約などを使った還付申告は、公表裁決でも否認されている
- 店舗・事務所・ホテルなど住宅に使わない建物なら、いまも仕組みどおり還付があり得る。3年縛りや調整を見込んで判断する
- 未収還付消費税は一時的な資産。否認リスクのある処理は、銀行評価も損なう
建物の取得前に、消費税の納税義務と還付の可否、その後3年間の影響まで試算しておくことが大切です。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、取得時の消費税の試算から決算書の見せ方までご相談をお受けしています。居住用賃貸建物の基本は居住用賃貸建物の消費税もご覧ください。
