賃貸物件の多くは借入金で取得するため、借入金利子は経費の中でも大きな割合を占めます。法人では支払利息は原則として損金、個人では不動産所得の必要経費です。ここまではシンプルですが、個人には「土地を取得するために要した負債の利子」に相当する赤字は、他の所得と損益通算できないという制限があります。
この制限は、新築の初年度や、減価償却費が大きい物件で赤字が出たときに効いてきます。この記事では、借入金利子の基本的な処理と、土地部分の利子の損益通算制限の計算方法、法人との違い、会計上の表示と銀行の見方、公表裁決事例をまとめます。
- 借入金利子は、法人は損金、個人は不動産所得の必要経費。土地部分の利子も必要経費にはなる
- 個人で不動産所得が赤字のとき、赤字のうち土地取得の負債利子に相当する部分は、給与などと損益通算できない(租税特別措置法第41条の4)
- 土地と建物を一つの契約で同じ売主から買い、借入金を区分できない場合は、借入金をまず建物に充てたものとして計算できる
- 業務開始前の期間の利子は、個人は資産の取得価額に入る。法人は建設中の利子を取得価額に入れるか費用にするかを選べる
- 会計上、支払利息は営業外費用。銀行はICRや債務償還年数で利息の重さを見る
借入金利子の基本的な処理
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 賃貸中の物件の利子 | 損金(営業外費用) | 不動産所得の必要経費 |
| 土地部分の利子 | 損金。特別な制限なし | 必要経費。ただし赤字の損益通算に制限 |
| 建設中・使用開始前の利子 | 取得価額に算入しないことができる(法人税基本通達7-3-1の2) | 業務を営んでいれば必要経費。使用開始日までの分は取得価額に入れることもできる(所得税基本通達37-27) |
| 業務開始前(1棟目)の利子 | 設立後なら上と同じ | 資産の取得価額に算入(所得税基本通達37-27注、38-8) |
| 元金の返済 | 費用にならない | 必要経費にならない |
| 赤字の扱い | 青色申告なら欠損金を繰越控除 | 損益通算。ただし土地取得の負債利子相当部分は除く |
個人の場合:業務開始前と開始後で扱いが違う
所得税基本通達37-27では、業務を営んでいる人が業務用資産の取得のために借り入れた資金の利子は必要経費とし、その資産の使用開始の日までの期間に対応する部分は取得価額に算入することもできるとしています。一方、不動産所得を生ずべき業務を開始する前に資産を取得している場合は、業務開始前の期間に対応する利子は、所得税基本通達38-8により資産の取得価額に算入されます。
つまり、すでに賃貸業をしている人が2棟目を建てる場合と、1棟目を建てる場合で、建築中の利子の扱いが変わります。建築中の利子の選択と銀行の見え方は建築中の借入利息は取得価額か期間費用かで詳しく解説しています。
法人の場合:建設中の利子は選べる
法人税基本通達7-3-1の2では、固定資産を取得するために借り入れた借入金の利子は、使用開始前の期間に係るものであっても、取得価額に算入しないことができるとしています。ただし国税庁のタックスアンサー(No.5400)では、建設中の借入金利息を建設仮勘定に含めて経理した場合は取得価額に含めたことになり、完成時に損金に振り替えることはできないとされています。会計処理の段階で方針を決めておく必要があります。
個人の土地部分の利子の損益通算制限
制度の内容
租税特別措置法第41条の4第1項は、不動産所得の金額の計算上生じた損失がある場合に、必要経費に算入した金額のうちに不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地等を取得するために要した負債の利子があるときは、損失のうちその利子に相当する部分は、損益通算などの規定の適用上「生じなかったもの」とみなすと定めています。国税庁のタックスアンサー(No.1391)でも、損益通算の対象とならない損失として、別荘等の貸付けによるものとあわせて挙げられています。
通算できない金額は、租税特別措置法施行令第26条の6第1項で次のように決まります。
| ケース | 損益通算できない金額 |
|---|---|
| 土地等の負債利子 > 不動産所得の損失 | 損失の全額 |
| 土地等の負債利子 ≦ 不動産所得の損失 | 損失のうち土地等の負債利子に相当する金額 |
数値例
説明のための仮の数字です。ある年の不動産所得が600万円の赤字で、必要経費に含まれる借入金利子のうち、土地取得のための負債の利子が250万円だったとします。
- 損益通算できない金額:250万円(土地等の負債利子 ≦ 損失なので、利子相当額)
- 給与所得などと損益通算できる金額:600万円−250万円=350万円
同じ年の土地等の負債利子が800万円なら、600万円の赤字は全額が損益通算できません。
なお、この制限は他の所得との損益通算を制限するものです。土地部分の利子も必要経費であることに変わりはなく、同じ年の他の物件の不動産所得の黒字とは相殺されます。また、「生じなかったもの」とみなされた部分は、青色申告の純損失の繰越しの対象にもなりません。不動産所得の赤字と給与の損益通算の全体像は不動産投資の赤字と損益通算、不動産所得の赤字と給与所得の損益通算で解説しています。
土地と建物を一括取得した場合の「建物先充当」
中古の一棟物件のように、土地と建物を一つの契約で同じ売主から取得し、借入金が土地と建物に区分されていない場合、どこまでが土地取得のための負債かが問題になります。
租税特別措置法施行令第26条の6第2項は、これらの資産を一の契約により同一の者から譲り受けた場合で、負債の額を資産ごとに区分することが困難なときは、負債の額がまず建物の取得の対価に充てられ、次に土地等の取得の対価に充てられたものとして計算することができるとしています。
たとえば、土地4,000万円・建物6,000万円の物件を、借入金8,000万円と自己資金2,000万円で取得した場合、建物先充当なら借入金のうち6,000万円が建物、2,000万円が土地に充てられたことになります。土地取得の負債は2,000万円で、利子の4分の1が土地部分です。按分で計算する場合(借入金の40%が土地)よりも、土地部分が小さくなります。
土地等の負債利子の具体的な計算は、措置法通達41の4-3で、建物と土地等を取得するために要した負債の利子の額に、負債の額のうち土地等の取得の対価に充てられたとされる負債の額の割合を乗じて計算すると示されています。
建物先充当は、土地と建物を「一の契約により同一の者から」取得した場合の特例です。土地を購入し、建物を建築会社に発注する新築では、土地の購入資金と建築資金が別の取引になるため使えません。土地の購入資金の借入れの利子は、そのまま土地等の負債利子になります。新築で初年度に赤字が見込まれるときは、この点を織り込んで資金計画と申告の見通しを立ててください。
会計上の扱いと表示
支払利息は、企業会計上、金融取引のコストとして営業外費用に表示します。融資手数料や保証料も、期間に対応する部分を営業外費用とするのが一般的です(銀行に払う費用の処理と期間按分を参照)。
建設中の利子については、会計上も、自家建設の固定資産について稼働前の期間に属する借入金利子を取得原価に算入することができると解されています。取得原価に算入すれば、その期の営業外費用は小さくなりますが、減価償却を通じて将来の費用になります。
税務上は、借入金利子がいつ損金・必要経費に算入されるか(取得価額に入れるか、その期の費用か)が論点になります。一方、決算書の表示区分(営業外費用か、取得原価に含めるか)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どちらが認められるかは取引の実態次第です。支払利息を販管費に入れたり、建物の取得原価に入れる理由のない利息を資産計上したりすることはできません。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る銀行からの見え方:ICRと債務償還年数
借入金利子は、銀行が最も気にする費用のひとつです。
- ICR:著書のモデルでは、営業利益÷支払利息で計算します。利息が営業外費用にあるため、営業利益を確保したうえで、それが利息の何倍あるかが見られます。ICRの考え方はICRとはで解説しています
- 債務償還年数:著書のモデルでは、(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で計算し、10年以内が健全の目安です。支払利息は経常利益を通じて分母を小さくします
- 金利上昇の感応度:変動金利の借入れが多い場合、金利が上がったときに利息がどれだけ増え、ICRがどこまで下がるかを銀行は見ています(金利上昇への備え)
| 指標 | 利息が増えたときの変化 | 銀行の見方 |
|---|---|---|
| 営業利益 | 変わらない | 本業の収益力 |
| ICR | 下がる | 利払い能力 |
| 経常利益 | 下がる | 毎期の稼ぐ力 |
| 債務償還年数 | 長くなる | 返済能力 |
個人の場合、土地部分の利子の損益通算制限は、税額の計算の話で、決算書(青色申告決算書)の見え方は変わりません。ただし、「赤字で税金が戻る」と見込んでいた資金計画が崩れると、手元の現預金が想定より少なくなります。銀行は申告書の数字だけでなく、納税後に残る現預金も見ています。
公表裁決事例
一括取得した土地部分の利子は、取得対価の区分の割合で計算(令和4年11月8日裁決)
国外で賃貸用の土地と建物を一括取得した個人について、土地と建物の購入代価の区分方法(固定資産税評価額の割合か、不動産鑑定評価額の割合か)が争われた事例です(国税不服審判所)。審判所は、固定資産税評価額の割合で区分すべきと判断したうえで、土地の取得のために要した負債の利子の額は、物件取得のための借入れに係る利子の合計額に、土地に係る評価額の割合を乗じて計算すべきとしました。その結果、一部の年分については原処分の金額を下回るとされています。
実務への示唆:土地部分の負債利子の金額は、土地と建物の取得価額の区分と連動します。区分の根拠(売買契約書の内訳、評価額、鑑定評価)を残しておくことが、減価償却費だけでなく損益通算の計算にも効いてきます。区分方法は土地と建物の按分方法と裁決事例で詳しく解説しています。
業務の用に供されていない土地の借入金利子は必要経費にならない(平成4年12月25日裁決)
病院の分院の建設や駐車場の貸付けを予定していたとする土地について、その取得のための借入金利子を必要経費に算入できるかが争われた事例です(裁決事例集No.44・108頁、国税不服審判所)。審判所は、業務の用に供する資産かどうかは、取得目的や主観的意図だけでは足りず、具体的な使用状況などから判断するとし、建築工事や貸付けが実際に行われた事実がないことから、必要経費に算入できないと判断しました。
実務への示唆:将来の賃貸を予定して先に土地を取得する場合、計画の具体性(設計の依頼、建築確認の申請、融資の申込みなど)を記録しておくことが大切です。
開業前の借入金利子は取得価額(平成11年6月28日裁決)
事業開始前に借入金で事業用の建物等を取得した個人が、開業前の利子を開業費としたところ、建物等の取得価額に算入すべきとされた事例です(裁決事例集No.57・138頁、国税不服審判所)。審判所は、固定資産の取得のための借入金の利子で事業開始前の期間に対応するものは取得価額に算入するという所得税基本通達38-8の定めは相当としています。
実務のチェックポイント
- 借入金ごとに、資金使途(土地・建物・諸費用・運転資金)を金銭消費貸借契約書や資金計画で確認したか
- 個人で不動産所得が赤字の場合、土地等の負債利子を計算したか
- 中古一括取得で借入金を区分できない場合、建物先充当を使えるか確認したか
- 新築の場合、土地の購入資金の借入れの利子が土地等の負債利子になることを資金計画に織り込んだか
- 1棟目の業務開始前の利子を、取得価額に入れているか
- 法人の建設中の利子を、取得価額に入れるか費用にするか、会計処理の段階で決めたか
- 借換えをした場合、借換え後の借入金の資金使途を説明できるか
- 金利が上がった場合のICR・債務償還年数を試算したか
まとめ
- 借入金利子は、法人は損金(営業外費用)、個人は不動産所得の必要経費。元金の返済は経費にならない
- 個人は、不動産所得の赤字のうち土地取得の負債利子に相当する部分を、他の所得と損益通算できない
- 一つの契約で同じ売主から土地と建物を取得し借入金を区分できない場合は、建物先充当で計算できる。新築では使えない
- 業務開始前の利子は個人では取得価額。法人は建設中の利子を取得価額に入れないことを選べるが、会計処理と連動する
- 銀行は、ICR・債務償還年数と、金利上昇時の感応度で利息の重さを見ている
借入れの組み方と申告の見通し、銀行への説明まで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
