管理会社の社長の葬儀に香典を包んだ、付き合いの長い工務店の担当者の結婚式に祝儀を出した。不動産賃貸業を続けていると、取引先の香典・祝儀を出す場面は必ずあります。ところが、香典や祝儀には領収書が出ません。「経費にしていいのか」「何を残せばいいのか」と迷う方も多いはずです。
法人では、取引先への香典・祝儀は原則として交際費等です。個人では、不動産所得の業務との関係が明らかな範囲で必要経費になり得ます。いずれの場合も、領収書の代わりになる記録を残すことが大切です。この記事では、法人と個人の違い、従業員への慶弔金との区別、受け取った側の課税、消費税、そして記録の残し方まで整理します。
- 取引先の慶弔に出す香典・祝儀は、法人では交際費等(措置法通達61の4(1)-15(3))。資本金1億円以下等の法人は年800万円の定額控除限度額の範囲で損金に算入できる
- 自社の従業員・その親族の慶弔に、一定の基準に従って支給する金品は交際費等に含まれず、福利厚生費として扱える(同61の4(1)-10(2))
- 個人は、業務との関係が明らかなものに限り必要経費。親族や私的な付き合いの香典は家事費
- 受け取った個人は、社会通念上相当な香典なら非課税。法人から受ける祝儀は原則一時所得の対象
- 香典・祝儀は消費税の課税仕入れにならない。供花・弔電などはインボイスを保存
- 領収書がない分は、会葬礼状・招待状と出金伝票で、相手・日付・金額・関係を記録する
香典・祝儀の税務上の区分:法人と個人の違い
法人:取引先への慶弔費は交際費等
措置法通達61の4(1)-15は、交際費等に含まれる費用の例として、「得意先、仕入先等社外の者の慶弔、禍福に際し支出する金品等の費用」を挙げています(同(3))。管理会社、仲介会社、工務店、金融機関の担当者など、事業に関係のある社外の人の葬儀の香典や結婚式の祝儀は、ここに当たります。
交際費等の損金不算入制度では、期末の資本金が1億円以下等の法人は、交際費等のうち年800万円(定額控除限度額)までを損金に算入できます。接待飲食費の50%を損金に算入する方法との選択になります(国税庁タックスアンサーNo.5265)。
法人:従業員の慶弔金は福利厚生費になり得る
一方、社内の行事に関する費用のうち、従業員等(従業員等であった者を含む)やその親族等の慶弔、禍福に際し一定の基準に従って支給される金品は、交際費等に含まれないとされています(措置法通達61の4(1)-10(2))。慶弔見舞金規程を作り、その基準どおりに支給していれば、福利厚生費として扱えます。
受け取る従業員の側でも、雇用契約等に基づく結婚・出産等の祝金品は給与等とされますが、地位等に照らして社会通念上相当なものは課税しなくて差し支えないとされています(所得税基本通達28-5)。
社葬の場合
役員や従業員が亡くなって法人が社葬を行う場合、社葬が社会通念上相当と認められるときは、社葬のために通常要する費用を損金に算入できます。会葬者が持参した香典は、法人の収入とせず遺族の収入とすることができます(国税庁タックスアンサーNo.5389)。
個人:業務との関係が明らかな範囲で必要経費
個人の不動産所得には交際費等の損金不算入制度がなく、業務との関係で判断します。取引先の慶弔に業務上の付き合いとして出す香典・祝儀は必要経費になり得ますが、親族や友人など私的な関係のものは家事費です。業務と私的な付き合いが重なる相手の場合は家事関連費となり、主たる部分が業務上必要で、その部分を明らかに区分できる場合に限って必要経費になります(所得税法45条、所得税法施行令96条)。
| 支出の相手 | 法人 | 個人(不動産所得) |
|---|---|---|
| 取引先(管理会社・工務店・仲介会社など)の慶弔 | 交際費等(800万円枠などの範囲で損金) | 業務との関係が明らかなら必要経費 |
| 自社の従業員・その親族の慶弔(規程に基づく) | 福利厚生費 | 従業員を雇っていれば必要経費になり得る |
| 役員・従業員の社葬 | 通常要する費用は損金 | (該当なし) |
| 親族・友人など私的な関係 | 役員個人の負担とすべきもの | 家事費(必要経費にならない) |
公表裁決事例:香典が必要経費と認められなかった例
国税不服審判所の公表裁決事例要旨(所得税法関係・家事費、家事関連費)に、香典の必要経費性が争われた事例があります。
従業員である母親の葬儀の弔慰金・香典(平成9年12月10日裁決、裁決事例集No.54・141頁)
- 事案:請求人は、従業員でもあった母親が亡くなった際に支出した弔慰金と香典を、必要経費に算入すべきだと主張しました
- 判断:弔慰金は、理由があいまいで、金額の計算方法も不動産所得の基因となる建物の管理等の労務の対価や建築後の経過年数を用いるなど合理性・整合性がないとして、事業と直接関連する通常かつ必要な費用とは認められないとされました。香典は、葬儀費用の負担者が喪主である請求人自身で、香典を手向けた者と受取人がいずれも請求人であるとして、香典として経理処理したことをもって事業上必要な費用とは認められないとされました。仮に業務関連部分があるとしても家事関連費で、業務上必要な部分を明らかに区分できないとして、全額が必要経費に算入できないと判断されています
- 示唆:家族従業員の葬儀のように、私的な関係と業務が重なる支出は、名目を「香典」「弔慰金」にしても必要経費になりにくいということです。従業員向けの慶弔金を経費にするなら、事前に規程を作り、他の従業員と同じ基準で支給できる形にしておく必要があります
葬儀後の会食費用(昭和60年2月27日裁決、裁決事例集No.29・111頁)
法人の事例です。交際費等の他の支出との区別の要旨によると、前代表者の社葬費用を損金とすること自体は妥当とされましたが、葬儀の後に場所をホテルに移して行った「おとき」は追善供養の法会の一環で、主に取引先に飲食を供したものだとされました。そのため社葬費用には当たらないと判断され、取引先を対象とする部分は交際費等、現代表者の親族・友人を対象とする部分は現代表者個人の負担とするのが相当とされています。同じ葬儀に関する支出でも、相手ごとに区分が変わることがわかる事例です。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る受け取った側の課税
香典や祝儀を受け取った側の扱いも整理しておきます。
| 受け取ったもの | 贈った人 | 受け取った個人の課税 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 香典・弔慰金 | 個人 | 社交上必要で社会通念上相当なら贈与税なし | 相続税法基本通達21の3-10 |
| 香典・弔慰金 | 法人 | 社会通念上相当なら所得税なし | 所得税基本通達9-23 |
| 結婚祝などの祝物 | 個人 | 社交上必要で社会通念上相当なら贈与税なし | 相続税法基本通達21の3-10 |
| 祝儀 | 法人(勤務先以外) | 原則として一時所得(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除く) | 所得税基本通達34-1(5) |
| 結婚・出産の祝金品 | 勤務先 | 社会通念上相当なら課税しなくて差し支えない | 所得税基本通達28-5 |
国税庁の質疑応答事例「贈与税の対象とならない弔慰金等」は、法人または個人からの弔慰金で社会通念上相当と認められるものには所得税も贈与税も課されないことを、所得税基本通達9-23と相続税法基本通達の香典等の非課税の取扱いを挙げて説明しています(この香典等の通達は、令和8年の改正で番号が21の3-9から21の3-10に変わっています)。法人から受ける祝儀は一時所得の対象ですが、一時所得には最高50万円の特別控除があります(国税庁タックスアンサーNo.1490)。
消費税:香典・祝儀は課税仕入れにならない
国税庁は、祝金・餞別・弔慰金などの支出や得意先への商品券の交付は課税仕入れにならないとしています(タックスアンサーNo.6463)。香典・祝儀は対価を得て行う取引ではないため、消費税の計算には関係しません。
一方、慶弔に関連して物品やサービスを購入した場合は課税仕入れになります。
- 供花・花輪・弔電・祝電:課税仕入れ。花屋や通信会社のインボイスを保存する
- 贈答品(香典返しの品を除く、自社が取引先に贈るもの):課税仕入れ。購入先のインボイスを保存する
- 葬儀・披露宴への交通費:公共交通機関の運賃で税込3万円未満のものは、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる特例がある
インボイス制度の下でも、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるのは、税込3万円未満の公共交通機関の運賃、自動販売機での購入、従業員に支給する出張旅費や通勤手当など、消費税法施行令49条1項と消費税法施行規則15条の4などに定める場合に限られます。この特例では、帳簿に特例の対象である旨(「3万円未満の鉄道料金」など)と、原則として相手方の住所または所在地を書く必要があります。また、基準期間の課税売上高が1億円以下などの事業者は、令和11年9月30日までの税込1万円未満の課税仕入れについて、帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる「少額特例」も使えます。
香典・祝儀は、これらの特例を使うまでもなく控除の対象外です。「領収書がないから帳簿のみ保存の特例で」と考える必要はありません。
会計上の表示と銀行からの見え方
取引先への慶弔費は交際費、規程に基づく従業員への慶弔金は福利厚生費として、いずれも企業会計上は通常、販売費及び一般管理費に表示します。税務上の交際費等の損金不算入は申告書の別表で調整するもので、決算書の科目とは別に考えます。税務上の区分と会計上の表示の関係は税務上の損金と企業会計(GAAP)の違い(GAAPは「一般に公正妥当と認められる会計基準」のこと)で解説しています。
金額は通常大きくないため、慶弔費そのものが営業利益や債務償還年数を大きく動かすことはまれです。銀行から見て問題になるのは、相手や目的の分からない現金の出金が、仮払金や役員への貸付けとして決算書に残ることです。慶弔費は、出したらその月のうちに出金伝票を起こし、仮払いのまま放置しないことが、決算書をきれいに保つ基本です。
領収書がない慶弔費の記録の残し方(チェックリスト)
法人は帳簿と取引に関する書類を、確定申告書の提出期限の翌日から原則7年間(欠損金が生じた事業年度は10年間)保存します(国税庁タックスアンサーNo.5930)。個人の青色申告者も帳簿書類の保存が必要です。香典・祝儀は領収書が出ないので、次の方法で記録を残します。
- 出金伝票を作成し、支払日、相手の氏名、勤務先(会社名)、自社との関係、金額、目的(「○○社 代表取締役 ○○様 ご尊父 葬儀 香典」など)を記入した
- 会葬礼状・葬儀の案内状・結婚式の招待状を出金伝票と一緒に保存した(いつ、誰の慶弔があったかの裏付け)
- 法人は、取引先分を交際費、規程に基づく従業員分を福利厚生費に分けて記帳した
- 従業員向けの慶弔見舞金規程を整え、支給額の基準を明確にした
- 個人は、業務上の取引先と私的な付き合いを分け、私的なものは経費に入れなかった
- 供花・弔電などの購入分はインボイスを保存し、香典・祝儀とは別に記帳した
- 金額が社会通念上相当な範囲か(取引先との関係や地域の慣行に照らして)を確認した
領収書がない支出全般の扱いは領収書がない支出(出金伝票・メモ)の扱い、帳簿の保存期間は領収書・帳簿の保存期間、交際費の枠の考え方は交際費の扱いもあわせてご覧ください。税務調査で慶弔費の内容を確認されたときに説明できるかどうかは、税務調査が来る会社・来ない会社で触れている日頃の記帳の質に直結します。
まとめ
- 取引先の香典・祝儀は、法人では交際費等。個人では業務との関係が明らかな範囲で必要経費
- 従業員とその親族の慶弔に規程どおり支給する金品は福利厚生費
- 私的な関係と業務が重なる香典は、必要経費として認められなかった裁決事例がある
- 受け取った個人は、社会通念上相当な香典なら非課税。法人からの祝儀は一時所得の対象
- 香典・祝儀は消費税の課税仕入れにならない。供花・弔電などはインボイスを保存
- 領収書の代わりに、会葬礼状・招待状と出金伝票で、相手・日付・金額・関係を残す
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