「いい物件を回してくれた担当者に、個人的にお礼をしたい」。不動産投資を続けていると、こうした場面は少なくありません。ただ、不動産業者の担当者への謝礼を現金や商品券で渡したとき、それが交際費になるのか情報提供料になるのか、帳簿に何を書けばいいのかは、意外と整理されていません。
結論からいうと、取引先の従業員個人への謝礼は、法人では原則として交際費等です。そのうえで、相手の氏名・住所・理由を記録しておかないと、損金にならないだけでなく、使途秘匿金として追加の法人税がかかります。この記事では、税務上の区分、源泉徴収と支払調書、受け取った側の申告、消費税、記録の残し方まで順に整理します。
- 不動産業者の担当者個人に渡す現金・商品券の謝礼は、法人では原則として交際費等(措置法通達61の4(1)-15(9))
- 情報提供料として交際費等から外せるのは、情報提供を業としない人に、事前の契約に基づき、相当な額を払う場合など(同61の4(1)-8)。取引の相手方の従業員等は対象外
- 相手の氏名・住所・事由を帳簿に書かないと、使途秘匿金として支出額の40%が法人税に加算される(措置法62条)
- 謝礼は通常、源泉徴収は不要。実質があっせんの対価なら支払調書(年15万円超)を確認
- 受け取った担当者は雑所得。会社員で20万円以下なら所得税の申告は原則不要だが、住民税の申告は必要
謝礼は「交際費等」か「情報提供料」か
取引先の従業員への謝礼は交際費等の典型
措置法通達61の4(1)-15は、交際費等に含まれる費用の例として、「得意先、仕入先等の従業員等に対して取引の謝礼等として支出する金品の費用」を挙げています(同(9))。物件の売買や賃貸の仲介を頼んでいる不動産会社は、法人にとって事業に関係のある取引先です。その営業担当者個人に渡す謝礼は、現金でも商品券でも、この類型に当たると考えるのが自然です。
情報提供料として交際費等から外せる場合
一方、措置法通達61の4(1)-8は、情報の提供や取引の媒介・あっせんを業としていない者に、その対価として金品を渡した場合でも、例えば次の要件をすべて満たすなど正当な対価の支払と認められるときは、交際費等に当たらないとしています。
- あらかじめ締結された契約に基づくこと
- 提供を受ける役務の内容が契約で具体的に明らかにされ、実際にその役務の提供を受けていること
- 支払った金品の額が、提供を受けた役務の内容に照らして相当であること
ここで注意したいのは、この通達が「当該取引に係る相手方の従業員等」を対象から除いていることです。また、不動産会社そのものは情報提供や媒介を業としています。仲介に関わる担当者個人への謝礼を、この通達で情報提供料として扱うのは難しいといえます。
| ケース | 税務上の区分の目安 | ポイント |
|---|---|---|
| 不動産会社の担当者個人に現金・商品券の謝礼 | 交際費等(61の4(1)-15(9)) | 契約がなく、金額も任意に決めている |
| 不動産会社(法人)に、契約に基づく仲介手数料を払う | 仲介手数料(取得価額・必要経費など) | 宅建業法の報酬上限の範囲で請求書・領収書あり |
| 業者ではない知人に、事前の紹介契約に基づき紹介料を払う | 要件を満たせば情報提供料(61の4(1)-8) | 契約書、紹介の実績、金額の相当性が必要 |
| 取引先の担当者へのお中元・お歳暮 | 交際費等 | 贈答の相手と内容を記録 |
個人の場合は「業務との関係」で判断
個人の不動産所得には、法人のような交際費等の損金不算入制度はありません。謝礼は、不動産所得を生ずべき業務との関係が明らかであれば必要経費になり得ます(所得税法37条)。ただし、物件の購入に関する謝礼は、購入のために要した費用として取得費(取得価額)に含める方向で検討することになります。法人でも、物件の取得に関する費用であれば取得価額に含まれるかが論点になり、取得価額に含めた交際費等は、損金不算入額の計算で調整する取扱いがあります(措置法通達61の4(2)-7)。
宅建業法との関係も確認する
宅地建物取引業者は、国土交通大臣が定める額を超えて報酬を受けてはならないとされています(宅地建物取引業法46条2項)。担当者個人への謝礼が実質的に仲介報酬の上乗せと見られれば、業者側の問題になり得ます。勤務先の規程で、担当者が個人で金品を受け取ることが禁止されていることも多いため、お礼をするなら会社宛ての正式な手数料にする、といった形を検討するほうが安全です。
裁決事例:謝礼・コミッションはどう判断されてきたか
国税不服審判所の公表裁決事例の要旨(租税特別措置法関係・交際費等の他の支出との区別)には、取引先の担当者への支払に関する事例がいくつも載っています。
得意先の従業員へのコミッション(昭和48年3月19日裁決、裁決事例集No.6・65頁)
- 争点:得意先の担当者に支払ったコミッションは、仕入れや売上割戻しか、交際費等か
- 判断:支払先は取引の相手方である事業者そのものではなく担当者であり、支払先の決定や金額の算出はすべて請求人が任意に行っていて、相手方に請求する権利があったとは認められないため、交際費等とするのが相当とされました
- 示唆:契約がなく、払う側が任意に金額を決める担当者個人への謝礼は、名目を手数料にしても交際費等と判断されやすいということです
領収書等で支出の事実が確認できた手数料(昭和56年3月27日裁決、裁決事例集No.21・146頁)
- 争点:原処分で使途不明金とされた、取引先の板前等への手数料の扱い
- 判断:一部の者への手数料は、領収書等によって支出の事実が認められ、取引を円滑にする目的で支払われたものとして、販売促進費ではなく交際費等として損金算入を認めるのが相当とされました
- 示唆:記録があれば「使途不明」から「交際費等」に区分が変わり得ます。謝礼の相手と金額を記録に残す意味がここにあります
契約に基づく支払は交際費等に当たらないとした例(平成3年7月10日裁決、裁決事例集No.42・293頁)
- 判断:得意先の代表者等との間で正当に取り交わされた契約に基づいて支払ったコミッション・ロイヤリティは、交際費等に当たらないとされました
- 示唆:相手が取引先の関係者でも、契約に基づく役務の対価であることを示せれば結論は変わり得ます。ただし、これは個別の事実関係による判断です
相手方を明かさない支出は使途秘匿金(平成26年2月21日裁決)
平成26年2月21日裁決では、帳簿に支出先が記載されていない販売促進費が使途秘匿金に当たるかが争われました。請求人は「相手方を開示すれば取引を続けられなくなる」と主張しましたが、審判所は、帳簿に記載しなくてよい「相当の理由」とは、取引慣行上記載しないのが通例となっている場合や、災害等で帳簿書類を失った場合などをいうとして、主張を退けています。
使途秘匿金・源泉徴収・支払調書
使途秘匿金課税(措置法62条)
法人が金銭を支出し、相当の理由がなく、相手方の氏名又は名称、住所又は所在地、その事由を帳簿書類に記載していない場合、その支出は使途秘匿金とされ、通常の法人税額に支出額の40%が加算されます(租税特別措置法62条)。贈与などの目的で金銭以外の資産を引き渡す場合も含まれるため、商品券も対象になり得ます。
「担当者に迷惑がかかるから名前は書かない」という処理は、最も避けるべきものです。損金にならないうえに追加課税がかかり、税務調査では隠蔽を疑われる原因にもなります。
源泉徴収は原則不要
所得税の源泉徴収が必要な個人への報酬・料金は、所得税法204条に列挙されたもの(弁護士・税理士等の報酬、原稿料、講演料など)です。情報提供の謝礼や紹介料はこれらに当たらないことが多く、その場合は源泉徴収は不要です。なお、自社の役員・従業員に渡す謝礼は給与として扱われ、源泉徴収の対象になります。
支払調書は「あっせん手数料」に当たるかを確認
不動産、不動産の上に存する権利などの売買または貸付けのあっせん手数料を支払う法人と不動産業者である個人(主として建物の賃貸借の代理・仲介を営む個人を除く)は、同一人への年中の支払合計が15万円を超える場合、「不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書」を提出します(国税庁タックスアンサーNo.7443)。名目が謝礼でも、実質が売買・貸付けのあっせんの対価であれば、この調書の対象になるかを顧問税理士と確認してください。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る受け取った側の申告
謝礼を受け取った担当者の側も、課税関係が生じます。
| 受け取った人 | 所得区分 | 申告の要否の目安 |
|---|---|---|
| 不動産会社の従業員(会社員) | 雑所得(所得税基本通達35-1(11):職務に関連して使用者の取引先等から受ける金品) | 給与1か所で、給与・退職以外の所得が20万円以下なら所得税の確定申告は原則不要。住民税の申告は必要 |
| 個人で紹介業を営む人 | 事業所得または雑所得 | 収入として申告 |
| 不動産会社(法人) | 益金(売上・雑収入) | 法人の収益として計上 |
20万円以下の申告不要の扱いは、国税庁タックスアンサーNo.1900で確認できます。渡す側としては、相手の申告まで管理する義務はありませんが、こちらの帳簿に相手方を記録しているという事実は、相手にとっても隠せない取引であることを意味します。
消費税と会計上の表示、銀行からの見え方
消費税:現金・商品券の謝礼は仕入税額控除の対象外
消費税の仕入税額控除の対象は、対価を払って資産の譲渡や役務の提供を受ける課税仕入れです。
- 現金の謝礼:お礼としての金銭の贈与は対価性がなく、課税仕入れになりません
- 商品券:得意先へ商品券を交付する場合は課税仕入れになりません(国税庁タックスアンサーNo.6463)
- 菓子折りなど物品の贈答:購入時の課税仕入れになります。購入先のインボイス(適格請求書)を保存します
- 契約に基づく紹介料:役務の対価なので課税仕入れです。相手がインボイス発行事業者でない個人なら、令和8年10月1日から令和10年9月30日までの課税仕入れは、仕入税額相当額の70%を控除できる経過措置の対象です(国税庁 令和8年度税制改正特集)。経過措置の適用を受ける旨を帳簿に記載し、一定の事項が書かれた請求書等を保存する必要があります
住宅の家賃が中心の法人は、非課税売上に対応する仕入れの控除がもともと制限されることも多いため、消費税の影響は個別に確認してください。
会計上の表示
交際費は企業会計上も、通常は販売費及び一般管理費です。税務上の損金不算入は申告書の別表で調整するもので、決算書の表示区分は企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断します。謝礼を「支払手数料」などの別の科目に入れて交際費に見えないようにする処理は、税務上も会計上も実態と異なる表示になるため避けるべきです。
銀行からの見え方
謝礼の金額そのものが格付けを大きく動かすことはまれです。むしろ問題になるのは、相手先の分からない現金支出が仮払金や使途不明の支出として残ることです。役員貸付金や仮払金は、銀行の実態評価では資産として認められにくい勘定です。また、使途秘匿金課税や重加算税を受けた決算書は、金額以上に会社の管理体制への信用を損ないます。決算書を整える考え方は銀行格付けの上げ方でも解説しています。
実務のチェックポイント
謝礼を渡すと決めたら、次の記録を必ず残します。領収書がもらえない場合の考え方は領収書がない支出の記録の残し方もあわせてご覧ください。
- 相手の氏名・勤務先・住所(所在地)を記録した(使途秘匿金を避けるための必須事項)
- 支払日・金額・現金か商品券かを記録した。商品券は購入時の領収書も保存した
- 事由(どの物件の紹介に対するお礼か)を具体的に書いた
- 受領書をもらえる場合はもらった。もらえない場合は出金伝票に上記を記入し、責任者が承認した
- 法人は交際費等として処理し、損金不算入額の計算に含めた(物件取得に関するものは取得価額との関係も確認)
- 実質があっせんの対価なら、支払調書の要否を確認した
- 継続的に紹介を受けるなら、会社宛ての正式な契約・請求書に切り替えることを検討した
法人の交際費の枠そのものの考え方は交際費の扱い、現金で払うこと自体のリスクは現金払い・手渡しのリスクで解説しています。
まとめ
- 不動産業者の担当者個人への現金・商品券の謝礼は、法人では原則として交際費等。情報提供料として外せるのは、業としない人に契約に基づき相当額を払う場合などに限られる
- 相手の氏名・住所・事由を帳簿に書かないと、使途秘匿金として40%の追加課税
- 源泉徴収は通常不要。あっせんの対価なら支払調書(年15万円超)を確認
- 受け取った会社員は雑所得。20万円以下でも住民税の申告は必要
- 現金・商品券の謝礼は消費税の仕入税額控除の対象外。記録を残し、継続するなら正式な契約に
謝礼や紹介料の処理、税務調査に耐える記録の整え方は、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
