1棟アパートやマンションを持つと、廊下・階段の照明、エレベーターや給水ポンプの電気代、共用部の清掃、ゴミ置き場の管理、植栽の剪定など、入居者の専有部分以外にかかる費用が毎月発生します。1件あたりの金額は小さくても、年間では家賃収入の一定割合を占め、物件の収益性と銀行の評価に直接響く費用です。
共用部の電気代・清掃費・植栽管理の処理は、経費にする時期そのものは難しくありません。論点になりやすいのは、植栽の新設を資産に計上すべきか、消費税の仕入税額控除ができるか、入居者から受け取る共益費をどう扱うか、そして決算書のどこに表示するかです。この記事では、税務・会計・銀行の3つの視点で整理します。
- 共用部の電気代・清掃費・植栽の手入れ費用は、役務の提供を受けた期の経費が基本。期末に未払いの分も、債務が確定していればその期に計上する
- 植栽を新たに整備した費用は構築物(緑化施設)として資産計上し減価償却(工場緑化施設以外は耐用年数20年)。剪定・除草・消毒などの維持管理費は経費
- 住宅の共益費は家賃に含まれ非課税(消費税法基本通達6-13-9)。住宅のみの建物の共用部コストは、個別対応方式では非課税売上対応となり、原則として仕入税額控除できない
- 区分所有者が管理組合に払う管理費は、課税仕入れに当たらないとした公表裁決がある(平成24年11月29日裁決)
- 決算書では、共益費収入は賃料と同じく売上高、共用部コストは賃貸原価または販管費。銀行はNOI(賃料から運営費を引いた収益)と経費率を見ている
共用部にかかる費用の種類と税務上の扱い
共用部の費用は、毎月の運営費として発生するものと、資産の取得・改良に当たるものに分かれます。
| 費用 | 主な内容 | 税務上の扱い |
|---|---|---|
| 共用部の電気代 | 廊下・階段・外灯の照明、エレベーター、給水ポンプ、オートロック | 使用した期の経費 |
| 共用部の水道代 | 清掃用水、植栽への散水、共用トイレ | 使用した期の経費 |
| 日常清掃・定期清掃 | 廊下・階段の清掃、ゴミ置き場の管理、ワックスがけ、高圧洗浄 | 役務の提供を受けた期の経費 |
| 植栽の維持管理 | 剪定、除草、消毒、施肥、枯れた木の同程度の植替え | 役務の提供を受けた期の経費 |
| 植栽の新設・大幅な拡張 | 植栽のない場所に樹木・芝生・花壇を整備 | 構築物(緑化施設)として資産計上 |
| 照明器具の取替え | 共用灯のLED化など | 内容により修繕費または資本的支出 |
| 区分所有の管理費 | 管理組合が行う共用部の清掃・光熱費・保守 | 支払った期の経費(修繕積立金は別) |
経費にする時期
法人税でも所得税でも、費用は債務が確定した期(年)に計上します。共用部の電気代は検針日と請求日がずれるため、12月分の使用量を翌年1月に請求・引落しされることがよくあります。期末時点で使用が終わり金額が確定している分は、その期の経費として未払金(未払費用)に計上します。清掃や植栽管理も、作業が終わった月の費用です。
年払いの清掃契約や保守契約を前払いした場合は、期末時点で役務の提供を受けていない部分は前払費用になります。支払日から1年以内に提供を受ける役務に係る前払費用を継続して支払時の費用としている場合は、短期前払費用の取扱い(法人税基本通達2-2-14、所得税基本通達37-30の2)が使えます。
植栽の新設は「緑化施設」
耐用年数通達2-3-8の2では、構築物の「緑化施設」とは、植栽された樹木、芝生等が一体となって緑化の用に供されている場合のその樹木、芝生等をいい、庭園のうち花壇・植樹等植物を主体として構成されているものも含むとしています。並木、生垣や、緑化のための散水用配管・排水溝なども緑化施設に含まれます(耐用年数の適用等に関する取扱通達 第3節 構築物)。
耐用年数省令の別表第一では、「緑化施設及び庭園」のうち工場緑化施設は7年、その他の緑化施設及び庭園は20年です。賃貸マンションのエントランスに植栽を整備した場合は、通常20年で償却することになります。一方、すでにある植栽の剪定・除草・消毒や、枯れた木を同程度のものに植え替える費用は、維持管理のための支出として経費にするのが一般的です。植栽の規模を大きく広げる工事や、外構全体のリニューアルと一体で行う工事は、資本的支出に当たらないか検討が必要です。駐車場の舗装やフェンスなどの構築物については構築物(駐車場・フェンス・外構)の耐用年数と処理で解説しています。
法人と個人の違い
共用部の費用は、法人・個人とも経費になる点は同じですが、周辺の論点で違いがあります。
| 項目 | 法人 | 個人(不動産所得) |
|---|---|---|
| 共用部の運営費 | 損金 | 必要経費 |
| オーナーが同じ建物に住んでいる場合 | 役員の居住部分は社宅として家賃設定を検討 | 自宅部分に対応する額は家事費として除く |
| 入居者から受け取る共益費 | 益金(売上) | 不動産所得の総収入金額 |
| 個別メーターの電気・水道代を入居者に請求 | 収益と費用を計上(立替金処理にできるかは契約と実態次第) | 同左 |
| 青色申告の現金主義 | なし | 一定の小規模事業者は届出により選択可(所得税法67条) |
| 消費税の仕入税額控除 | 課税事業者なら住宅・非住宅の区分が必要 | 同左 |
個人のオーナーが自分の所有するアパートの1室に住んでいる場合、共用部の電気代のうち自宅部分に対応する額は家事費になります。床面積の比などで合理的に按分し、計算方法を毎年同じにしておくことが大切です。自宅兼用の按分の考え方は自宅兼事務所の家事按分も参考になります。
消費税:共益費収入と、共用部コストの仕入税額控除
住宅の共益費は非課税
消費税法基本通達6-13-9は、家賃には月決めの家賃のほか、返還しない敷金・保証金等や、共同住宅における共用部分に係る費用を入居者が応分に負担するいわゆる共益費も含まれるとしています(消費税法基本通達 第13節 住宅の貸付け関係)。住宅の貸付けは非課税なので、住宅の共益費も非課税です。事務所・店舗の共益費は、賃料と同じく課税です。
一方、入居者から家賃とは別に受け取る専有部分の電気・ガス・水道等の利用料は、非課税とされる家賃に含まれません(国税庁 タックスアンサーNo.6226 住宅の貸付け)。国税庁の質疑応答事例でも、別建てで請求する各種料金は、共益費に該当するもの以外は課税対象になるとしています(集合住宅の家賃、共益費、管理料等の課税・非課税の判定)。「共益費」という名目でも、中身が専有部分の使用料であれば非課税にはなりません。
住宅のみの建物では、共用部コストの仕入税額控除は原則できない
課税事業者が個別対応方式で仕入税額控除を計算する場合、共用部の電気代・清掃費は、その建物が何の売上げに使われているかで区分します。
| 建物の用途 | 共用部コストの区分(個別対応方式) | 仕入税額控除 |
|---|---|---|
| 住宅のみ | 非課税売上げにのみ要するもの | できない |
| 事務所・店舗のみ | 課税売上げにのみ要するもの | 全額できる |
| 住宅と店舗の混在 | 共通して要するもの | 課税売上割合(承認を受ければ合理的な割合)で控除 |
一括比例配分方式の場合は、全体の課税売上割合で控除します。住宅と店舗が混在する建物では、共用部分を床面積の比で按分する考え方が実務で使われます。有料老人ホームの事案ですが、平成22年6月25日裁決(裁決事例集No.79)では、利用者が一定でない共用部分について、非課税対象部分と課税対象部分の合計面積の比で按分するのが最も合理的と判断しています(国税不服審判所 平成22年6月25日裁決)。課税売上割合と2つの方式の違いは個別対応方式と一括比例配分方式の選び方で詳しく解説しています。
インボイスと経過措置
清掃や植栽管理を個人事業者に頼んでいる場合、相手が適格請求書発行事業者でないことがあります。免税事業者等からの課税仕入れについては、経過措置により一定割合を控除できます。令和8年度税制改正で見直され、令和8年10月1日から令和10年9月30日までの課税仕入れは70%、その後は50%、30%と段階的に下がります。また、一の免税事業者等からの課税仕入れが年間(事業年度)で1億円を超える部分は、令和8年10月1日以後に開始する課税期間から経過措置の対象外になります(国税庁 令和8年度税制改正特集)。住宅のみの建物ではそもそも控除できないため影響は小さいものの、店舗・事務所の建物では委託先の登録状況を確認しておきます。
裁決事例:区分所有の管理費は課税仕入れに当たらない
平成24年11月29日裁決(消費税)
- 事案:複合商業施設の区分所有者で、建物の管理・運営・賃貸を営む法人が、区分所有者として管理組合に支払った共同管理費(管理費・修繕積立金)を課税仕入れとして申告した。共同管理費は共用部分の設備保守、清掃業務の委託費、共用部の水道光熱費などに充てられていた
- 判断:管理組合が行う管理業務は、構成員である区分所有者の共同の利益のための業務であり、区分所有者の管理費の支払は、組合員たる地位に基づいて費用を負担するにすぎない。資産の譲渡等の反対給付としての対価ではないため不課税取引となり、区分所有者がこれを課税仕入れとすることはできないとした。一方、テナントから受け取る共同管理費相当額は賃料の一部として課税売上げであり、他の区分所有者から賃借して転貸している部分について支払う共同管理費相当額を含めた賃借料は課税仕入れに当たるとした
- 確認先:国税不服審判所 平成24年11月29日裁決
区分所有マンションの1室を賃貸している場合、管理組合に払う管理費には共用部の電気代や清掃費が含まれていますが、消費税の計算上は課税仕入れになりません。所得税・法人税では、管理費は支払った期の経費になります。修繕積立金の扱いは区分マンションの修繕積立金の処理をご覧ください。
共用部の電気代や清掃費そのものを争点にした公表裁決は見当たりませんでしたが、費用の負担関係を誰と誰の間の取引として整理するかで消費税の結論が変わることを示した事例として、実務の参考になります。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと決算書の表示
税務上は、共用部の費用がその期の損金・必要経費になるか、資産に計上すべきかが論点です。一方、決算書のどこに表示するかは、企業会計の基準、つまり一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。中小企業では「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」が実務の拠り所になります。
| 項目 | 主な表示 | 考え方 |
|---|---|---|
| 共益費収入(法人) | 売上高 | 賃貸借契約に基づき入居者から受け取る、賃貸事業そのものの収益 |
| 共用部の電気代・水道代・清掃費 | 賃貸原価(売上原価)または販管費 | 賃貸事業の運営費。毎期経常的に発生する |
| 植栽の新設 | 構築物 | 減価償却費として期間配分 |
| 区分所有の管理費 | 賃貸原価または販管費 | 修繕積立金は積立時の扱いを別途検討 |
共益費収入は、家賃と同じく賃貸借契約に基づいて受け取る本業の収益なので、売上高に計上するのが自然です。著書で紹介している「収益は上に、費用は下に」は、このように本業の収益を正しく売上高に表示するという意味であり、共用部の運営費を営業外費用などに移すという話ではありません。共用部の運営費は毎期経常的に発生する費用なので、営業費用として表示します。どの区分にするかは取引の実態次第なので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
賃貸原価と販管費のどちらにするかは、会社の決算書の作り方によります。不動産賃貸を主業とする法人では、物件ごとの運営費を賃貸原価にまとめて売上総利益で物件の収益力を示す形もよく使われます。どちらの形でも、毎期同じ区分で継続することが比較のしやすさにつながります。
銀行からの見え方
銀行は、物件ごとの収益力をNOI(賃料収入から運営費を引いた純収益)や経費率で見ています。共用部の費用は運営費の中心のひとつです。
| 指標 | 共用部コストが増えた場合の影響 |
|---|---|
| NOI・物件の収益還元評価 | 減る。評価額が下がる要因になる |
| 営業利益・償却前利益 | 減る |
| ICR | 悪化 |
| 債務償還年数 | 分母(経常利益+減価償却費−法人税等)が減り、長くなる |
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で見ます。共用部の費用を削りすぎると建物の印象が悪くなり空室が増えるため、単純に減らせばよいわけではありません。ただし、共用灯のLED化による電気代の削減、清掃回数の見直し、電力契約の見直しなどは、入居者の満足度を下げずにNOIを改善できる余地があります。
銀行に物件の収支を説明するときは、共用部の費用を「管理費」に一括りにせず、電気代・清掃費・植栽管理・保守料などの内訳と推移を示すと、運営の巧拙が伝わりやすくなります。管理会社への委託料の考え方は管理委託料・BM費・PM費の処理で整理しています。
実務のチェックポイント
- 期末の未払い分を計上する:12月分の電気代・清掃費を翌期に請求されるものを拾う
- 年払い契約は期間を確認する:前払費用か、短期前払費用の取扱いを継続適用しているか
- 植栽は新設か維持管理かを分ける:新設・大幅拡張は構築物(緑化施設、20年)
- 自宅部分を除く(個人):オーナーが同じ建物に住んでいる場合は按分
- 消費税の区分を確認する:住宅のみか、店舗・事務所が混在するか。混在建物は按分の根拠を残す
- 区分所有の管理費は課税仕入れにしない:管理組合への支払は不課税
- 委託先のインボイス登録を確認する:令和8年10月以降の経過措置は70%
- 共益費収入は売上高に:運営費は営業費用として毎期同じ区分で表示する
経費全般は不動産賃貸業で経費にできるもの一覧、個人の不動産所得の経費は不動産所得の経費になるものもあわせてご覧ください。
まとめ
- 共用部の電気代・清掃費・植栽の手入れ費用は、役務の提供を受けた期の経費。期末の未払い分も計上する
- 植栽の新設は構築物(緑化施設)として資産計上し、工場緑化施設以外は20年で償却する
- 住宅の共益費は家賃に含まれ非課税。住宅のみの建物の共用部コストは、個別対応方式では原則として仕入税額控除できない
- 区分所有者が管理組合に払う管理費は課税仕入れに当たらないとした公表裁決がある(平成24年11月29日裁決)
- 共益費収入は売上高、共用部コストは営業費用として表示する。銀行はNOIと経費率で運営の巧拙を見ている
共用部の費用は、物件の収益力を左右する一方で、記帳や消費税の区分が雑になりやすい費用です。物件ごとの収支を銀行に説明できる形に整えたい場合は、不動産投資家向けサービスでご相談ください。
