「これは経費にできますか?」は、不動産投資家からいただく質問の中でも特に多いものです。答えは、個人か法人かによって違い、さらに同じ個人でも事業的規模かどうかで変わる部分があります。
この記事では、不動産賃貸業で経費にできる主な費用を一覧にし、個人(不動産所得の必要経費)と法人(損金)の違いを比較します。あわせて、国税不服審判所が必要経費を否認した事例・認めた事例から、経費になるかどうかの判断基準を確認し、決算書と銀行の見え方まで整理します。
- 個人は「不動産所得を生ずべき業務について生じた費用」が必要経費(所得税法37条)。業務との直接の関係と、業務遂行上の必要性が求められる
- 法人は原則として費用・損失が損金になるが、交際費等・役員給与・寄附金などの別段の定めで制限される
- 個人は事業的規模かどうかで、青色事業専従者給与、資産損失、貸倒損失、青色申告特別控除の扱いが変わる
- 裁決では、テナントや銀行関係者への接待と主張したゴルフ代、業務部分を示せない自動車関係費が否認された一方、土地の返還を受けるための建物収去費は必要経費と認められた
- 経費は「多く計上する」より「説明できる」ことが大切。銀行は償却前利益と経費の中身を見る
経費になるための基本ルール
個人:業務との直接の関係と必要性
個人の不動産所得の必要経費は、総収入金額を得るために直接要した費用と、その年の販売費・一般管理費その他不動産所得を生ずべき業務について生じた費用です(所得税法37条1項)。家事上の経費と、これに関連する経費(家事関連費)は、原則として必要経費になりません(同法45条1項1号)。家事関連費は、業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合などに限り、その部分が必要経費になります(所得税法施行令96条)。
国税不服審判所の令和元年9月20日裁決は、不動産所得の必要経費に当たるためには、客観的にみて、その支出が不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要であることを要し、その判断は業務を行う者の主観ではなく、個別具体的な事情に即して社会通念に従って客観的に行うべきだとしています(国税不服審判所 令和元年9月20日裁決)。
法人:原則損金、ただし別段の定め
法人の損金は、収益に対応する原価、販売費・一般管理費その他の費用、損失の額です(法人税法22条3項)。個人のような「家事費」という考え方はありませんが、私的な支出を法人が負担すれば、役員給与や寄附金として損金算入が制限されることがあります。交際費等には損金不算入の制度があります。詳しくは個人と法人で経費にできる範囲の違いで解説しています。
経費にできる主な費用の一覧(個人と法人の比較)
| 費用 | 個人(不動産所得) | 法人 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 賃貸用部分は必要経費 | 損金 | 自宅部分や、貸付けの用に供していない土地は対象外 |
| 不動産取得税・登録免許税 | 業務用資産の取得に伴うものは必要経費 | 取得価額に算入しないことができる | 不動産取得税・登録免許税は経費か取得価額か |
| 所得税・住民税・法人税等 | 必要経費にならない | 法人税・住民税は損金不算入 | 法人の事業税は損金 |
| 減価償却費 | 強制償却(毎年償却限度額を計上) | 償却限度額の範囲で任意 | 法人の任意償却と償却不足を銀行はどう見るか |
| 修繕費 | 必要経費 | 損金 | 資本的支出は資産計上して償却 |
| 借入金利子 | 必要経費。ただし赤字のうち土地取得のための借入金利子部分は損益通算できない | 損金 | 元本返済は経費にならない |
| 管理委託料・BM費 | 必要経費 | 損金 | 管理委託料・BM費・PM費の処理と相場 |
| 損害保険料 | 賃貸用部分は必要経費 | 損金 | 長期契約は期間按分。積立部分は資産 |
| 入居者募集の広告料・仲介手数料 | 必要経費 | 損金 | 取得時の仲介手数料は取得価額 |
| 税理士・弁護士報酬 | 業務に関するものは必要経費 | 損金 | 取得や紛争の内容で取得費になるものがある |
| 旅費交通費・車両費 | 業務に必要な部分 | 業務に必要な部分 | 私用部分は個人は不算入、法人は役員給与の問題 |
| 通信費・事務用品 | 業務用部分 | 損金 | 家事按分の根拠を残す |
| 交際費 | 業務と直接関係する部分 | 交際費等の損金不算入制度あり | 交際費の扱い |
| 家族への給与 | 事業的規模で青色事業専従者給与の届出が必要 | 勤務実態に応じた給与は損金 | 過大な部分は否認されうる |
| 役員報酬・退職金 | 該当なし(事業主本人の給与は経費にならない) | 要件を満たせば損金 | 定期同額給与など |
| 立退料 | 賃借人を立ち退かせる立退料は原則必要経費 | 原則損金 | 取得時・売却時は取得価額・譲渡費用 |
借入金利子と土地部分の関係は借入金利子の処理と土地部分の利子の損益通算制限、家事按分は自宅兼事務所・家事按分の考え方で詳しく扱っています。
個人は「事業的規模」で変わるもの
個人の不動産貸付けは、おおむね5棟10室以上という形式基準を目安に、事業的規模かどうかを実質で判断します(国税庁タックスアンサーNo.1373)。事業的規模かどうかで、次のような違いがあります。
| 項目 | 事業的規模 | 事業的規模でない |
|---|---|---|
| 青色事業専従者給与 | 届出により必要経費にできる | できない |
| 青色申告特別控除 | 要件を満たせば最高65万円 | 最高10万円 |
| 賃貸用建物の取壊し・除却損 | 全額を必要経費 | 損失を差し引く前の不動産所得の金額が限度 |
| 未収家賃の貸倒れ | 必要経費 | 収入がなかったものとして計算(所得税法64条) |
青色申告特別控除の65万円は、事業的規模で正規の簿記の原則により記帳していることなどの55万円の要件に加え、e-Taxによる申告または優良な電子帳簿の保存を行う場合の金額です。e-Tax等の要件を満たさない場合は55万円になります(国税庁タックスアンサーNo.2072)。
否認された事例・認められた事例
平成22年4月22日裁決(裁決事例集No.79):テナント・銀行関係者へのゴルフ接待
- 事案:個人で不動産貸付業を営む請求人が、ゴルフクラブでのプレー代等を接待交際費として不動産所得の必要経費に算入した。請求人は、賃貸物件の補修の必要性やクレームを把握するためのテナント代表者等への接待、不動産購入や融資で有利になるための元勤務先銀行の後輩等への接待であると主張した
- 判断:要旨は「不動産貸付業務遂行上、直接関連のないゴルフ接待費用は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない」とした事例。調査では、接待の相手方とされた者から一緒にゴルフをしたことはないとの申述が得られるなどしており、重加算税の賦課も争われた
- 確認先:国税不服審判所 平成22年4月22日裁決
平成30年2月1日裁決:自動車関係費・接待交際費
- 事案:会社役員で不動産貸付業も営む請求人が、固定資産税、自動車関係費、接待交際費を不動産所得の必要経費に算入した。調査で根拠の記載を求められた際、当初は「業務上必要と判断したため」「実態に基づき判断」などの記載にとどまっていた
- 判断:これらの費用を必要経費に算入するには、客観的にみて、業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要な支出であると認められることが必要であるとし、自動車関係費等は不動産貸付業務の遂行上必要であった部分を明らかにできないとして必要経費算入を認めなかった
- 確認先:国税不服審判所 平成30年2月1日裁決
令和元年9月20日裁決:土地の返還を受けるための建物収去費
- 事案:土地を貸していた賃借人が死亡し、相続人が全員相続放棄。地代の未払いが続いたため、請求人らは相続財産管理人の選任申立て、契約解除、訴訟、和解、代替執行を経て、賃借人所有の建物を自らの費用で収去した。原処分庁は家事上の経費だとした
- 判断:不動産の貸付業務は、貸し付けてから返還を受けるまでが一連の業務であり、請求人らは明渡しと並行して新たな賃借人(駐車場)への貸付けに取りかかっていた。建物を収去しなければ土地を新たに貸し付けることができず、相続財産からの回収も見込めない状況だったことから、収去費は業務と直接関係し、業務の遂行上必要なものとして必要経費に算入できるとし、処分の全部を取り消した
- 確認先:国税不服審判所 令和元年9月20日裁決
平成7年1月17日裁決(裁決事例集No.49・23頁):貸付けが客観的に明らかでない土地
- 要旨:土地等が貸付けの用に供されることが客観的に明らかとは認められないから、不動産所得を生ずべき業務の用に供されている資産には該当せず、その取得に要した借入金利子等は不動産所得の必要経費に算入できないとした事例
- 確認先:国税不服審判所 公表裁決事例要旨(所得税法関係・借入金利子)
事例から分かること
否認された事例に共通するのは、業務との関係を客観的な記録で示せなかったことです。「賃貸業に役立つはず」という主観的な説明では足りず、相手先、目的、業務との関係、業務部分の割合を、記録と資料で示す必要があります。反対に、令和元年の裁決のように、一連の経緯を資料で示し、収益を得るために必要だったことを説明できれば、通常とは違う種類の支出でも必要経費と認められることがあります。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと決算書の表示
税務上は、その支出が損金・必要経費になるかどうかが論点です。一方、法人の決算書では、同じ損金でもどの区分に表示するか(売上原価・販管費・営業外費用・特別損失)が、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断されます。
| 費用 | 法人の決算書での一般的な表示 |
|---|---|
| 固定資産税・減価償却費・修繕費・管理委託料・保険料 | 不動産賃貸業が本業なら販管費(または売上原価) |
| 借入金利子 | 営業外費用 |
| 臨時・多額の災害損失、固定資産除却損 | 特別損失となることが多い |
| 物件取得時の諸費用(税務上即時損金にできるもの) | 実態に応じて検討(取得価額に含める処理も認められる) |
物件取得時の諸費用のように、税務上は即時損金にできても、取得価額に含めて減価償却する処理も認められるものがあります。どちらを選ぶか、どの区分に表示するかは取引の実態次第で、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。取得時の費用については物件取得時の諸費用一覧をご覧ください。
個人の青色申告決算書(不動産所得用)には、租税公課、損害保険料、修繕費、減価償却費、借入金利子、地代家賃、給料賃金などの科目が並び、法人のような営業利益・経常利益の区分はありません。
銀行からの見え方
銀行は、経費の総額よりも中身を見ます。
- 減価償却費は現金の支出を伴わないため、償却前利益(利益+減価償却費)で返済力を見るのが一般的です。著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算します
- 借入金利子は、ICR(営業利益÷支払利息)や金利上昇時の耐性を見る材料になります
- 私的な支出に近い経費(説明できない交際費、業務部分が曖昧な車両費など)が多いと、利益の実態が見えにくくなり、決算書全体の信頼性が下がります
- 税務調査で否認されると、修正申告・加算税の負担に加え、決算書の数字そのものへの信頼に影響します
経費は、節税のために増やすものではなく、正しく計上して説明できるようにしておくものです。そのほうが、結果として融資を受け続けやすい決算書になります。
実務のチェックポイント
- 支出ごとに業務との関係をメモする:相手先、目的、物件名を領収書や帳簿に残す
- 家事関連費は按分の根拠を作る:使用割合、走行記録、面積比など
- 取得時・売却時の費用を区別する:取得価額・譲渡費用に入るものは期間の経費にしない
- 事業的規模かどうかを確認する:専従者給与、資産損失、貸倒れ、特別控除が変わる
- 法人は役員給与・交際費のルールを確認する:私的支出を法人に付け替えない
- 見積書・契約書・写真を保存する:修繕・立退き・収去など金額の大きい支出ほど経緯の資料を残す
- 決算前に表示区分を確認する:販管費か営業外費用か特別損失か
経費の基本は不動産所得で経費にできるものでも解説しています。
まとめ
- 個人は業務について生じた費用が必要経費。業務との直接の関係と必要性を客観的に示せることが条件
- 法人は原則損金だが、交際費等・役員給与・寄附金などの別段の定めがある
- 個人は事業的規模かどうかで、専従者給与、資産損失、貸倒れ、青色申告特別控除の扱いが変わる
- 裁決では、主観的な説明にとどまったゴルフ接待費や自動車関係費が否認され、経緯を資料で示した建物収去費は認められた
- 銀行は償却前利益と経費の中身を見る。経費は「説明できる」形で計上する
経費の判断や、決算書を銀行に説明できる形に整える相談は、不動産投資家向けサービスで承っています。
