取引先の葬儀に包んだ香典、現地の業者に手渡しした少額の作業代、急な出張で乗ったバスの運賃。不動産事業を営んでいると、領収書がない支出はどうしても出てきます。
「領収書がないから経費にできない」と思い込んで申告から外している方もいれば、逆に「メモがあれば何でも経費になる」と考えている方もいます。実際には、法人税・所得税と消費税とで、求められる証拠が違います。この記事では、それぞれの扱いを整理し、出金伝票の書き方、公表裁決事例から見える「認められる・認められない」の分かれ目、銀行からの見え方を解説します。
- 法人税・所得税では、領収書がなくても支出の事実と業務との関係を説明できれば、損金・必要経費になり得る
- 説明の材料は、出金伝票、振込記録、案内状・会葬礼状、購入履歴、メモ。作るのは支出の都度
- 消費税の仕入税額控除は、原則として帳簿と適格請求書等の両方の保存が必要。ただし帳簿のみで控除できる取引と、1万円未満の少額特例(令和11年9月30日まで)がある
- 香典・祝儀は消費税の課税対象外。法人では交際費等に当たるかどうかも検討する
- 「何に使ったか言えない支出」は経費にならない。使途を説明しない法人の支出には、別の重い課税もある
法人税・所得税:領収書は「証拠のひとつ」
法人税では損金、所得税では必要経費に算入できるかどうかが論点になります。いずれも、法律が「領収書がなければ経費にならない」と定めているわけではありません。問われるのは次の2点です。
- 支出の事実:本当にその金額を、その相手に支払ったか
- 業務との関係:その支出が事業(不動産賃貸業など)のために必要なものか
領収書は、この2点を証明するための最も分かりやすい証拠です。領収書がない場合は、別の資料で同じことを説明する必要があります。
| 項目 | 法人 | 個人(不動産所得など) |
|---|---|---|
| 判断の基準 | 損金算入の要件(事業との関連、支出の事実) | 業務と直接の関係があり、業務の遂行上必要か |
| 領収書がない場合 | 出金伝票・振込記録などで説明できれば損金になり得る | 同左。家事関連費との区別がより厳しく見られる |
| 慶弔費(取引先への香典・祝儀) | 原則として交際費等に該当し、交際費等の損金不算入の規定を確認 | 業務上の関係があれば必要経費になり得る。私的な付き合いは不可 |
| 使途を説明できない支出 | 損金不算入。使途を秘匿した支出には、通常の法人税に加えて追加の課税(使途秘匿金課税)がある | 必要経費不算入 |
個人の場合、特に注意したいのが家事関連費との区別です。個人の財布から出た支出は、事業用か私用かが外から見て分かりにくいため、業務との関係を説明できる資料がより重要になります。経費にできるものの全体像は不動産所得の確定申告|経費にできるもの・できないものを参照してください。
法人の慶弔費と交際費
法人が取引先の葬儀に包む香典や、結婚式の祝儀は、得意先などへの慰安・贈答のための支出として、原則として交際費等に当たります。交際費等の損金算入には限度額があるため、他の交際費とあわせて計算が必要です。香典や祝儀の扱いの詳細は取引先の葬儀・結婚式の香典・祝儀で解説しています。
出金伝票とメモの作り方
領収書の代わりになる資料として、実務で最も使われるのが出金伝票です。出金伝票は自分で作る書類なので、それだけで支出の事実が証明されるわけではありません。支出の都度、具体的に書き、関連資料と組み合わせることで、説明力が上がります。
| 記載する項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 日付 | 実際に支払った日 |
| 支払先 | 会社名・屋号・個人名(「〇〇様」だけでなく関係も) |
| 金額 | 実際に支払った金額 |
| 内容 | 「〇〇不動産 代表者 ご尊父 葬儀 香典」「〇〇ハイツ 共用部 電球交換 作業代」など |
| 関係する物件・取引 | 物件名、取引の内容 |
| 添付資料 | 会葬礼状、案内状、招待状、作業の写真、やり取りのメッセージなど |
逆に、月末にまとめて「雑費 5万円」と書いただけの出金伝票は、ほとんど証拠になりません。
出金伝票は「領収書がもらえない場合」の補完手段です。もらえるのにもらわなかった支出を出金伝票で処理するのは、それだけで説明の負担が増えます。少額の作業代でも、振込にする、レシートや手書きの領収書を受け取るなど、記録が残る方法を選びましょう。
公表裁決事例:何があれば認められ、何がなければ否認されるか
領収書がない支出がどう判断されたかを、国税不服審判所の公表裁決事例で見てみます。
平成26年5月22日裁決:購入履歴で支出の事実が裏付けられた
国税不服審判所 平成26年5月22日裁決は、インターネットを使った業務の報酬について無申告だった個人が、必要経費の算入を求めた事案です(不動産所得の事案ではありません)。
審判所は、ウェブカメラの購入について、インターネットショッピングサイトの購入履歴を出力したものに購入日と購入金額が記載されており、購入した事実を客観的に裏付けるものだとして、その合計額を必要経費(備品費)に算入するのが相当と判断しました。領収証そのものがなくても、第三者が作成した記録で支出の事実が確認できれば、認められる余地があることを示しています。
平成28年11月1日裁決:業務との関係を説明しない支出は否認
国税不服審判所 平成28年11月1日裁決は、不動産所得の必要経費として計上した支出の一部が否認された事案です。調査では領収書等が提示されましたが、家事関連費と認められる支出が多く含まれていました。
審判所は、ある支出が必要経費に算入されるためには、所得を生ずべき業務と直接の関係を持ち、かつ業務の遂行上必要であることが必要だとしたうえで、否認された支出について、請求人が業務と直接の関係を持ち、業務の遂行上必要である旨を説明していないことなどから、必要経費に算入できないと判断しました。一方で、審判所に提出された資料で業務に係るものと確認できた水道光熱費の一部は、追加で必要経費に算入しています。
2つの事例から言えること
- 領収書の有無より、支出の事実と業務との関係を説明できるかが問われる
- 第三者が作成した記録(購入履歴、振込記録、取引先の書類)は、自分で作ったメモより説得力がある
- 領収書があっても、業務との関係を説明できなければ認められない
消費税:インボイス制度で求められる証拠
消費税の仕入税額控除は、法人税・所得税よりも形式的な要件が厳しくなっています。国税庁タックスアンサーNo.6496によると、仕入税額控除には、原則として帳簿と、適格請求書等の請求書等の両方の保存が必要です。保存期間は7年です。
帳簿のみの保存で控除できる取引
請求書等の交付を受けることが困難な一定の取引は、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。不動産事業で関係しそうなものは次のとおりです。
| 取引 | 内容 |
|---|---|
| 公共交通機関の運賃 | 適格請求書の交付義務が免除される税込3万円未満の旅客運送 |
| 自動販売機・自動サービス機 | 税込3万円未満の自動販売機等からの購入 |
| 郵便ポストに差し出す郵便 | 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス |
| 出張旅費等 | 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当 |
| 宅建業者の建物購入 | 宅地建物取引業を営む者が、適格請求書発行事業者でない者から棚卸資産として建物を購入する場合 |
1万円未満の少額特例
基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までに行う課税仕入れのうち、税込1万円未満のものについて、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除ができます(少額特例)。
そもそも課税対象外のもの
香典、祝儀、見舞金などの金銭の贈与は、消費税の課税対象外です。仕入税額控除の対象にならないので、消費税の観点では領収書の有無は問題になりません。インボイス制度と不動産賃貸の関係はインボイス制度と賃貸業も参考にしてください。
会計上の扱いと決算書の表示
会計上は、領収書の有無にかかわらず、実際に発生した支出は内容に応じた科目で費用に計上します。問題になるのは、内容が分からないまま「雑費」「仮払金」に入れてしまうケースです。
- 内容が説明できる支出は、交際費、修繕費、旅費交通費など、実態に合った科目で処理する
- 支払先や使途が確認できない支出を「仮払金」のまま残すと、BSに実体の分からない資産が残る
- 税務上の否認が見込まれる支出でも、会計上は費用処理したうえで、申告で加算するという整理になることがある
科目の選び方や、税務上の処理と会計上の表示が異なる場合の扱いは、取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る銀行からの見え方
領収書のない少額の支出そのものが、銀行の評価を大きく左右することはありません。気をつけたいのは、それが積み重なったときの決算書の見え方です。
- 雑費・その他経費が大きい:PLの販管費のうち、内容の分からない雑費が膨らんでいると、担当者は「何に使っているのか」を必ず質問する
- 仮払金・役員貸付金:使途不明の支出を仮払金や役員貸付金で処理すると、銀行の格付けでは資産として認めない(ゼロ評価する)扱いを受けやすい。純資産を実質的に減らして見られる
- 税務調査での否認:使途の説明できない支出が調査で否認され、重加算税の対象になれば、決算書全体の信頼性が問われる
支出の記録をきちんと残すことは、税務調査への備えであると同時に、銀行に「数字を信用してもらう」ための土台です。決算書を銀行目線で見直すポイントは不動産投資の銀行格付けでも解説しています。
実務のチェックポイント
- 領収書をもらえる取引は必ずもらう。少額でも振込など記録の残る方法を選ぶ
- 領収書がない支出は、その日のうちに出金伝票を作り、支払先・内容・物件名を具体的に書く
- 会葬礼状、案内状、写真、メッセージなど関連資料を出金伝票と一緒に保存する
- 消費税は、帳簿のみで控除できる取引か、少額特例の対象かを確認し、帳簿に必要事項を記載する
- 法人の慶弔費は交際費等として集計し、損金算入の限度額を確認する
- 使途を説明できない支出は経費にしない。仮払金のまま放置しない
現金での支払い全般に伴うリスクは、現金払い・手渡しのリスクで詳しく解説しています。
まとめ
- 法人税・所得税では、領収書がなくても支出の事実と業務との関係を説明できれば、損金・必要経費になり得る
- 公表裁決事例では、購入履歴のような客観的な記録で裏付けられた支出は認められ、業務との関係を説明しない支出は否認されている
- 消費税は原則としてインボイスの保存が必要。帳簿のみで控除できる取引と、1万円未満の少額特例を確認する
- 使途の分からない支出は、税務でも銀行の評価でもマイナスになる
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