証憑・印紙・税務調査

通帳の動きと税務調査|家賃・敷金・借入・親族からの入金をどう説明するか(個人と法人、裁決事例つき)

税務調査では、帳簿だけでなく預金通帳の動きが確認されます。帳簿に載っていない入金があれば「これは何の入金ですか」と聞かれ、説明できなければ収入の計上漏れや贈与を疑われることになります。不動産賃貸業は、家賃のほかに敷金、借入金、売却代金、保険金、親族や役員からの資金など、性質の違う入金が同じ口座に入りやすい業種です。

この記事では、通帳の入金の種類ごとに、何を記録し、どう説明できるようにしておくかを整理します。入金の帰属や贈与が争われた公表裁決も紹介し、個人と法人の違い、会計上の扱い、銀行からの見え方まで解説します。目的は調査をやり過ごすことではなく、取引を正しく記帳し、根拠を示せる状態にしておくことです。

この記事の結論
  • 調査では、帳簿と通帳の突合が基本。帳簿に対応のない入金が説明を求められる
  • 入金は「収入」「預り金」「借入」「資本・贈与」「資産の売却」などに分けて記帳し、契約書・明細とひも付ける
  • 管理会社からの送金は差引後の金額。総額の家賃と管理料を両建てで記帳する
  • 親族・役員からの入金は、借入なら契約書と返済記録、立替えの精算なら明細を残す。入金だけで贈与と決まるわけではないが、説明資料がなければ不利になる
  • 口座に入った資金でも、実質の帰属で判断される。通過した資金はその流れを説明できるようにする

税務調査で通帳はどう見られるか

調査で求められる「帳簿書類その他の物件」

国税通則法の質問検査権の対象となる「帳簿書類その他の物件」には、法令で保存が義務づけられた帳簿書類のほか、調査の目的を達成するために必要と認められる帳簿書類その他の物件も含まれるとされています(国税庁:国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達 1-5)。国税庁の「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問7も、法人税の調査で、代表者名義の個人預金に事業との関連が疑われる場合に、その通帳の提示・提出を求めることは質問検査等の範囲に含まれると説明しています(国税庁:税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け))。

調査で通帳を見る目的は、大きく次の3つです。

  • 収入の網羅性:家賃、礼金、更新料、駐車場、付帯収入などがすべて帳簿に計上されているか
  • 支出の実在性:経費として計上した支払が、実際に口座から出ているか(現金払いはその出金元)
  • 資金の出所:物件の購入資金や大きな入金がどこから来たか。借入、自己資金、贈与、売却代金のどれか

説明を求められやすい通帳の動き

通帳の動き確認されやすい点
帳簿にない入金収入の計上漏れではないか。誰からの何の入金か
端数のない大きな入金借入、親族からの資金、売却代金、保険金のどれか。契約書はあるか
個人口座と法人口座の間の移動役員借入金・貸付金・給与・配当のどれか。帳簿の科目と一致するか
現金の入金現金で受け取った家賃や手付金ではないか。出所はどこか
定期的な出金で帳簿にないもの家事費か、計上漏れの経費か、他の物件・口座への移動か

入金の種類ごとの記帳と記録

家賃と管理会社からの送金

管理会社からの送金は、家賃・共益費から管理料や修繕費などを差し引いた後の金額です。通帳の入金額をそのまま売上にすると、収入も経費も少なく計上され、収入の総額が帳簿と合わなくなります。

  • 管理会社の送金明細(収支報告書)を保存し、家賃・共益費の総額を収入に、管理料・修繕費を経費に、両建てで記帳する
  • 入居者から直接振り込まれる家賃は、賃貸借契約書の金額・支払日と対応させる
  • 現金で受け取る家賃は、領収書の控えと入金の記録を残す(現金払い・手渡しのリスク)

計上時期は、個人は契約上の支払日、法人は期間対応が基本です(家賃収入の計上時期)。

敷金・保証金・礼金

入金税務上の扱い残すもの
返還する敷金・保証金預り金(負債)。受け取った時の収入ではない賃貸借契約書、入居者ごとの預り金の一覧
返還しない部分(償却)返還しないことが確定した時の収入契約書の償却条項、精算書
礼金・更新料収入契約書、入金記録

敷金を収入にしてしまう誤りも、償却部分を退去まで預り金のままにしておく誤りもあります。処理の詳細は礼金・敷金・保証金・更新料の処理で解説しています。物件を買ったときに引き継ぐ敷金の扱いは入居者付き物件の購入と敷金の承継で扱います。

借入金の実行と返済

借入金の実行は収入ではありませんが、金額が大きいため必ず確認されます。金銭消費貸借契約書と返済予定表を保存し、元本の返済(経費にならない)と利息(経費)を分けて記帳します。返済予定表の残高と帳簿の借入金残高を、毎期一致させておくことが基本です。

親族・役員からの入金

最も説明が難しいのが、家族や役員からの入金です。

入金の性質必要な記録記録がない場合のリスク
親族からの借入金銭消費貸借契約書、返済の振込記録、利息の取決め贈与と認定されるおそれ
親族への立替金の精算立て替えた支出の明細、領収書贈与や収入と疑われる
贈与贈与契約書、贈与税の申告(基礎控除を超える場合)申告漏れ
役員から法人への貸付け(役員借入金)金銭消費貸借契約書、取締役会等の記録売上の除外や、資金の出所の説明不足
役員からの出資増資の登記、株主総会の議事録借入か資本かの区別がつかない

法人の役員借入金は、銀行が実質的な自己資本とみることもある科目です。性質と金額を明確にしておくことは、税務だけでなく融資の場面でも意味があります(役員借入金は融資でどう見られるか)。

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公表裁決に見る「入金の説明」

父の口座から子の口座への資金移動:贈与ではないとされた例

国税不服審判所 令和元年6月27日裁決は、父の預金口座から出金され子(請求人)の口座に入金された金銭について、原処分庁が父からの贈与と認定し、贈与税の決定処分等をした事案です。原処分庁は、金銭消費貸借契約や立替費用の精算の事実が認められない以上、贈与の黙示の合意があったと主張しました。

審判所は、出金と入金の手続は父母が金融機関の窓口で同時に行っていたこと、請求人は入金先の口座をクレジットカードの決済口座にしており、父の指示で月1〜2回出席していた医療専門団体の会議の交通費等にそのカードを使っていたことなどから、資金移動は会議出席の交通費等を支弁する目的だったとみるのが自然とし、贈与と同様の経済的利益は生じていないとして処分の全部を取り消しました。審判所は、金銭消費貸借契約がなかったことだけで贈与の合意があったとは認められないとも述べています。なお、請求人は、基礎控除を超える贈与を受けた年には別途贈与税の申告をしていました。

実務への示唆:入金の性質は、口座の使われ方や資金の流れなどの事実から判断されます。ただし、この事案でも、口座の利用状況や本人の申述といった具体的な事実があったからこそ認められたものです。親族間の資金移動は、目的と精算の記録を残しておくことが前提です。

自分の口座に入った協力金が、自分の収入ではないとされた例

国税不服審判所 平成24年6月28日裁決は、土地を事業用借地として出店企業に貸した個人が、その土地にあった同族会社の建物の立退き費用を、出店企業から「協力金」の名目で無利息で借り入れる形で受け取っていた事案です。原処分庁は、協力金は請求人の不動産所得の収入に当たるとして更正処分と重加算税の賦課決定をしました。

審判所は、協力金の額が立退き費用の見積りで決められ、受け取った協力金が同族会社に渡されていたことなどから、その実質は出店企業が同族会社に支払う立退き費用を、請求人を介して支払ったもので、協力金は同族会社に帰属し請求人には帰属しないと判断しました。一方、請求人が受け取った賃料の一部について別の計上漏れがあり、その部分は過少申告加算税の対象として残されています。

実務への示唆:口座に入ったお金がすべて本人の収入になるわけではなく、実質の帰属で判断されます。逆に言えば、通過しただけの資金であることを示すには、合意書面、見積書、送金先への支払記録といった資金の流れを示す資料が必要です。

個人と法人で違うところ

項目個人法人
口座の範囲生活用口座と兼ねていると、生活費の入出金も含めて確認されやすい法人名義の口座が中心。役員個人の口座との間の資金移動も確認される
家族・役員との資金移動贈与税、生計を一にする親族への支払の扱い役員借入金・役員貸付金、役員給与、寄附金の問題
説明できない入金不動産所得・雑所得などの収入、贈与と認定されるおそれ売上の計上漏れと認定されるおそれ
説明できない出金家事費として必要経費から外れる役員への貸付金や役員給与(賞与)と認定されるおそれ

法人で使途の分からない出金を「仮払金」のまま残すと、税務上は役員給与などの問題になり、銀行からは資産価値のない勘定とみられます。

会計上の扱いと、銀行からの見え方

預金残高と帳簿の一致が出発点

法人の決算書は、会社法431条の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」、すなわち一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従って作ります。預金は期末の残高で計上するのが基本で、通帳の残高(または残高証明書)と帳簿の預金残高が一致していることが、決算書の数字が正しいことの最初の確認になります。入金を「収入」「預り金」「借入金」に分けることは、損益計算書と貸借対照表の両方の正しさに直結します。

銀行も通帳を見ている

融資の審査でも、銀行は通帳の写しや資金繰り表の提出を求めることがあります。

銀行が見る点通帳と帳簿が整っているとできること
自己資金の出所物件購入の頭金がどこから来たかを、預金の推移で説明できる
家賃の実入金レントロールの家賃が実際に入っていることを示せる
資金使途融資金が契約どおりの使途に使われたことを示せる
役員との資金移動役員借入金・貸付金の性質と残高を説明できる
現預金の厚み著書のモデルで使う債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))の現預金が正確になる

税務調査で入金の説明ができずに修正申告や重加算税につながれば、その決算書を前提にした格付けの信頼も揺らぎます。日頃から通帳と帳簿を合わせておくことは、融資を受け続けるための準備でもあります。

実務のチェックポイント

  • 賃貸用の口座を生活用口座と分けているか。法人と個人の口座を混同していないか
  • 毎月、通帳の残高と帳簿の預金残高を照合しているか
  • 管理会社の送金明細を保存し、総額で収入と経費を両建てしているか
  • 敷金・保証金を入居者ごとに預り金として管理し、償却部分を収入にしているか
  • 借入の契約書・返済予定表と、帳簿の借入金残高が一致しているか
  • 親族・役員との資金移動に、契約書・精算明細・議事録などの記録があるか
  • 大きな入出金に、メモや資料のファイル名を付けて帳簿とひも付けているか
  • 電子取引のデータ(ネットバンキングの明細、管理会社のPDF)を保存しているか(電子帳簿保存法と不動産業)

調査の全体の流れは不動産業の税務調査で見られるポイント、個人の大家の調査の準備は個人大家の税務調査の流れと準備で解説しています。

まとめ

  • 税務調査では、帳簿と通帳の突合が基本。帳簿に対応のない入金は説明を求められる
  • 入金は収入・預り金・借入・資本や贈与・売却代金などに分けて記帳し、契約書や明細とひも付ける
  • 管理会社の送金は総額で両建て。敷金は預り金、償却部分は収入
  • 親族間の資金移動は、入金だけで贈与と決まるわけではないが、目的と精算の記録がなければ不利になる
  • 口座に入った資金でも実質の帰属で判断される。資金の流れを示す資料を残すことが、税務調査でも銀行でも説明の土台になる

通帳と帳簿の照合や、親族・役員との資金移動の整理は、取引の時点で記録しておくのが一番の近道です。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、日々の記帳体制づくりから税務調査への対応、融資を見据えた決算書づくりまでご相談をお受けしています。

よくある質問

税務調査では、事業用以外の個人の通帳も見られますか?
国税庁の通達では、質問検査の対象となる「帳簿書類その他の物件」には、調査の目的を達成するために必要と認められるものも含まれるとされています。国税庁のFAQも、法人税の調査で代表者名義の個人預金に事業との関連が疑われる場合に通帳の提示・提出を求めることは、質問検査等の範囲に含まれると説明しています。賃貸の入金口座を生活用口座と兼ねていると、生活費の入出金も含めて確認されやすくなるため、事業用の口座を分けておくと説明の範囲も絞りやすくなります。
家族からの入金はすべて贈与と見られますか?
入金があったことだけで贈与と決まるわけではありません。公表裁決には、父の口座から子の口座への資金移動について、子が父の指示で出席した会議の交通費等を支弁する目的だったとして、贈与税の処分を全部取り消したものがあります。一方、説明できる資料がなければ贈与や収入と認定されるおそれがあるため、借入であれば金銭消費貸借契約書と返済の記録、立替えの精算であれば明細を残しておくことが大切です。
敷金や保証金の入金は収入になりますか?
退去時に返還する敷金・保証金は預り金で、受け取った時の収入にはなりません。ただし、契約上返還しない部分(償却部分)は、返還しないことが確定した時の収入になります。通帳の入金と賃貸借契約書の条件を対応させ、預り金の残高を入居者ごとに管理しておくと、調査でも説明しやすくなります。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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