賃貸借契約では、毎月の家賃のほかに、礼金・敷金・保証金・更新料・償却敷金(敷引)といった一時金が動きます。名前は似ていても、返還するかどうかで税務上の扱いはまったく違います。礼金・更新料は収入、敷金・保証金は預り金、そのうち返還しないことが確定した部分だけが収入です。
この記事では、それぞれの一時金について、収入にする時期(個人と法人の違い)、消費税、借りる側の処理、会計上の表示と銀行の見方を整理し、敷引金の計上時期が争われた公表裁決と、更新料・敷引特約の有効性に関する最高裁判決を紹介します。
- 礼金・更新料など返還しない一時金は、引渡し時(または契約の効力発生日)の収入。期間按分は原則できない
- 敷金・保証金は預り金。収入になるのは返還を要しないことが確定した部分だけで、確定した時期に計上する
- 契約時から返還しないことが決まっている償却敷金・敷引は、契約・引渡し時に全額収入になる
- 消費税は、住宅なら非課税、店舗・事務所なら課税。返還しない敷金・保証金も同じ
- 預り敷金は返還義務のある負債。銀行は預り敷金と現預金のバランスも見ている
一時金の種類と、収入にする時期
| 一時金 | 性質 | 個人の収入時期 | 法人の益金の時期 |
|---|---|---|---|
| 礼金・権利金 | 返還しない一時金 | 引渡しの日(契約の効力発生日も可) | 取引開始の日が原則 |
| 更新料 | 契約更新の対価 | 更新契約の効力発生日 | 更新の日 |
| 敷金・保証金(返還分) | 預り金 | 収入にならない | 益金にならない |
| 償却敷金・敷引(契約時に確定) | 返還しない部分 | 引渡しの日など(礼金と同じ) | 返還しないことが確定した日(契約時) |
| 期間の経過で返還不要になる部分 | 段階的に確定 | 返還不要となった日 | 返還しないこととなった日 |
| 退去時に原状回復費等と相殺した部分 | 退去時に確定 | 貸付けが終了した日 | 確定した日 |
個人:所得税基本通達36-6・36-7
所得税基本通達36-6は、不動産の貸付け(契約の更新を含む)に伴い一時に収受する頭金、権利金、名義書換料、更新料などは、資産の引渡しを要するものは引渡しのあった日、引渡しを要しないものは契約の効力発生の日の収入とし、引渡しを要するものでも契約の効力発生の日で申告すればそれを認めるとしています。
敷金・保証金については、所得税基本通達36-7が次の3つに分けています。
- 貸付期間の経過に関係なく返還を要しない部分:36-6と同じく引渡しの日など
- 貸付期間の経過に応じて返還を要しなくなる部分:契約に定められたところにより返還を要しないこととなった日
- 貸付期間が終了しなければ返還を要しないことが確定しない部分:貸付けが終了した日
国税庁のタックスアンサー(No.1370)でも、不動産所得の総収入金額には、更新料や頭金のほか、敷金や保証金などのうち返還を要しないものが含まれるとされています。なお、家賃を貸付期間に対応して計上する取扱い(昭和48年の個別通達)は、頭金・権利金・更新料・礼金などの一時金を対象から除いています。家賃の計上時期は家賃収入の計上時期で解説しています。
法人:法人税基本通達2-1-40の2・2-1-41
法人税基本通達2-1-41は、保証金・敷金等として受け入れた金額でも、期間の経過その他賃貸借契約の終了前の一定の事由の発生により返還しないこととなる部分は、返還しないこととなった日の属する事業年度の益金に算入するとしています。賃貸借の開始当初から返還が不要なものは、この通達の対象から除かれています。
返金が不要な一時金については、法人税基本通達2-1-40の2で、取引の開始に際して中途解約のいかんにかかわらず開始当初から返金が不要な支払を受ける場合は、原則として取引の開始の日の属する事業年度の益金とする考え方が示されています。特定期間の役務提供ごとに具体的な対応関係をもつ前受けと認められる場合に限り、期間の経過に応じた計上が認められます。
消費税:住宅は非課税、店舗・事務所は課税
住宅の貸付けは非課税ですが、店舗・事務所の貸付けは課税です。一時金も、この区分に従います。
- 消費税法基本通達6-13-9:住宅の貸付けの「家賃」には、月決めの家賃のほか、敷金、保証金、一時金等のうち返還しない部分や共益費も含まれる。つまり、住宅の礼金・更新料・償却敷金は非課税
- 消費税法基本通達9-1-23:保証金・敷金等のうち、期間の経過など契約終了前の一定の事由により返還しないこととなる部分は、返還しないこととなった日の属する課税期間の資産の譲渡等の対価になる
| 一時金 | 住宅の貸付け | 店舗・事務所の貸付け |
|---|---|---|
| 礼金・権利金・更新料 | 非課税 | 課税 |
| 返還する敷金・保証金 | 対象外(預り金) | 対象外(預り金) |
| 償却敷金・敷引・返還しない保証金 | 非課税 | 課税 |
| 退去時の原状回復費用との相殺 | 内容により判断 | 内容により判断 |
住宅と店舗の区分そのものは住宅家賃(非課税)と店舗・事務所家賃(課税)の違いで詳しく解説しています。
借りる側の処理(法人が事務所・店舗・社宅を借りる場合)
自社が事務所や店舗を借りる側になる場合の処理も整理しておきます。
- 敷金・保証金(返還分):資産(差入保証金)。費用にならない
- 返還されない部分・礼金・権利金・更新料:建物を賃借するための権利金等として繰延資産(法人税法施行令第14条第1項第6号ロ、法人税基本通達8-1-5)
- 償却期間:国税庁のタックスアンサー(No.5460)によれば、通常は5年。ただし契約期間が5年未満で、更新時に再び権利金等の支払が必要なことが明らかなときはその契約期間
- 少額の場合:支出額が20万円未満の繰延資産は、支出時に損金にできる
- 仲介手数料:支払った日の事業年度の損金にできる
貸す側と借りる側で、同じ「礼金」の処理が逆向きの時間軸になる点に注意してください。
会計上の扱いと表示
会計上も、返還義務のある敷金・保証金は負債(預り敷金・預り保証金)です。返済期限が長期のものは固定負債、退去が決まって1年以内に返還するものは流動負債として表示するのが実態に合います。
礼金・更新料・償却敷金の収入は、賃貸事業の本業の収入なので、売上高(賃貸収入)に含めて表示するのが一般的です。著書の「収益は上に、費用は下に」の考え方でいえば、これらが「雑収入」として営業外収益に入っていると、営業利益が実態より小さく見えます。
税務上は、一時金がいつ収入(益金)になるかが論点です。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、流動負債か固定負債か)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。本業である賃貸の一時金は売上高に含めるのが実態に合うことが多い一方、返還義務のある預り金を収益に計上したり、本業と関係のない収入を売上高に含めたりすることはできません。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
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預り敷金と現預金のバランス
預り敷金・預り保証金は、将来返還する義務のある負債です。とくに店舗・事務所の保証金は家賃の数か月分から十数か月分になることもあり、物件の売却時やテナントの退去時にまとまった返還が発生します。銀行は、預り敷金に見合う現預金が残っているかを見ています。受け取った敷金を物件の取得資金や返済に使ってしまうと、BS上は現預金が薄く、負債が重い会社に見えます。
一時金の売上は「毎期続くか」で見られる
礼金・更新料・償却敷金の収入は、入退去や更新のタイミングで年ごとに大きく変動します。銀行は、家賃収入と一時金を分けて、毎期安定して入る収入がどれだけあるかを見ます。レントロールとあわせて、一時金の内訳を示せるようにしておくと、収益力の説明がしやすくなります。
物件取得時の敷金の承継
中古物件の取得時には、売主が預かっていた敷金を買主が承継し、その分を売買代金から差し引く精算が一般的です。この場合、取得した期のBSに預り敷金が負債として計上されます。承継した敷金の明細をテナントごとに確認しておかないと、退去時の返還額で揉める原因になります。
公表裁決事例と判例
敷引金は契約時に全額収益、前受家賃とは認められない(平成22年10月18日裁決)
法人が定期建物賃貸借契約(期間20年)に基づいて受け取った敷金のうち、契約で敷引とされ、契約開始後任意の方法で償却できるとされた部分を、20年で均等に収益計上した事案です(国税不服審判所)。請求人は、敷引金は実質的な前受家賃であり、契約期間に応じて収益計上すべきと主張しました。
審判所は、敷引金は契約締結の時点で、契約が期間満了まで続くか中途で終わるかを問わず返還を要しないことが確定しており、一種の権利の設定の対価として請求人の確定収入となったとして、契約締結日を含む事業年度に全額を収益計上すべきと判断しました。契約上、敷引金を前受家賃とする合意はなく、前受家賃とする合理的理由もないとされています。消費税についても、権利の設定の対価として課税資産の譲渡等に当たり、同じ課税期間の課税標準額に算入すべきとされました。
実務への示唆:一時金を期間按分したいのであれば、契約書の上で前受家賃として合意しておくことが前提になります。契約書に「敷引」「償却」と書かれた金額は、契約時の収入になると考えておくべきです。
更新料条項は原則有効(最高裁平成23年7月15日第二小法廷判決)
居住用建物の賃貸借契約の更新料条項が消費者契約法第10条により無効かが争われた事件です(平成22年(オ)第863号、民集65巻5号2269頁、裁判所 裁判例検索)。最高裁は、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項は、更新料の額が賃料の額や更新される期間などに照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法第10条により無効とはならないと判断しました。
敷引特約は高額に過ぎなければ有効(最高裁平成23年3月24日第一小法廷判決)
居住用建物の賃貸借契約の敷引特約が消費者契約法第10条により無効かが争われた事件です(平成21年(受)第1679号、民集65巻2号903頁、裁判所 裁判例検索)。最高裁は、敷引金の額が、通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等の他の一時金の有無・額などに照らして高額に過ぎると評価すべきときは、特段の事情のない限り無効となるとしたうえで、その事案の敷引金(賃料月額の2倍弱から3.5倍強)は高額に過ぎるとはいえず、無効ではないと判断しました。
実務への示唆:2つの最高裁判決は税務の判決ではありませんが、更新料・敷引の条項は、契約書への明確な記載と金額の妥当性が前提になります。契約上の定めがはっきりしていることは、税務上の計上時期を判断する前提にもなります。
実務のチェックポイント
- 賃貸借契約書で、礼金・更新料・敷金・保証金・償却(敷引)の定めを確認したか
- 礼金・更新料・契約時に確定した償却部分を、引渡し時(契約時)の収入にしているか
- 期間の経過で返還不要になる部分を、契約に従って収入にしているか
- 退去時に原状回復費用と相殺した敷金を、退去時の収入として精算しているか
- 住宅と店舗・事務所で、一時金の消費税の扱いを分けているか
- 預り敷金の明細をテナントごとに管理し、物件取得時に承継した敷金を確認したか
- 一時金を売上高に含めて表示しているか、内訳を銀行に示せるか
- 預り敷金に見合う現預金を確保しているか
まとめ
- 礼金・更新料などの返還しない一時金は、引渡し時(契約の効力発生日)の収入。期間按分は原則できない
- 敷金・保証金は預り金で、返還を要しないことが確定した部分だけが、確定した時期の収入になる
- 契約時から返還しないことが決まっている敷引金は、契約時に全額収益(平成22年10月18日裁決)
- 消費税は、住宅の一時金は非課税、店舗・事務所の一時金は課税
- 預り敷金は返還義務のある負債。銀行は現預金とのバランスと、一時金を除いた安定収入を見ている
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