管理会社から毎月メールで届く送金明細、工事会社から届く見積書・請求書のPDF、ポータルサイトの広告費の請求書、電子契約で締結した売買契約書。不動産事業でも、紙を使わない取引は確実に増えています。
こうした電子取引データは、令和6年1月から、紙に印刷して保存するのではなく、電子データのまま保存することが求められています。この記事では、電子帳簿保存法の全体像と不動産業で多い電子取引の例、保存の要件と猶予措置、要件を満たさないときの税務上のリスク、銀行からの見え方を整理します。
- 電子帳簿保存法には「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つがあり、所得税・法人税の保存義務者に義務として課されるのは電子取引データ保存
- メール・Web・電子契約・ネットバンキングなどで授受した取引情報は、データのまま保存。令和6年1月1日以後の電子取引は、印刷した書面での代用不可
- 保存要件は「真実性(改ざん防止)」と「可視性(見読性・検索)」。事務処理規程の制定や、売上高5,000万円以下なら検索要件不要などの緩和がある
- 要件を満たせない「相当の理由」があれば、ダウンロード等の求めに応じることを条件に猶予措置
- 要件どおりに保存していないと青色申告の承認取消しの対象になり得る。データの改ざん等による不正は重加算税が10%加重
電子帳簿保存法の3つの区分
電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存するためのルールです。大きく3つに分かれます。
| 区分 | 内容 | 義務か任意か |
|---|---|---|
| 電子帳簿等保存 | 会計ソフトなどで作成した帳簿・決算書類を、データのまま保存する | 任意 |
| スキャナ保存 | 紙で受け取った領収書・請求書などを、スキャンして保存する | 任意 |
| 電子取引データ保存 | メール・Web・電子契約などで授受した取引情報を、データのまま保存する | 所得税・法人税の保存義務者は義務 |
不動産事業者がまず対応しなければならないのは、3つ目の電子取引データ保存です。個人の不動産投資家も、所得税の保存義務者として対象になります。
不動産業で多い電子取引の例
電子取引とは、取引情報(取引に関して受け取ったり渡したりする注文書、契約書、送り状、領収書、見積書、請求書などに通常記載される事項)を、電磁的方式で授受する取引をいいます。不動産事業でよくあるものを挙げると、次のとおりです。
| 取引の場面 | 電子取引データの例 |
|---|---|
| 賃貸管理 | 管理会社からメールやWebで届く送金明細書・管理費の請求書のPDF |
| 修繕・原状回復 | 工事会社からメールで届く見積書・請求書・領収書 |
| 入居者募集 | ポータルサイトや広告会社のWeb上の請求書、AD(広告料)の請求データ |
| 契約 | 電子契約サービスで締結した売買契約書・工事請負契約書・賃貸借契約書 |
| 支払・入金 | インターネットバンキングによる振込等(国税庁の一問一答でも電子取引に該当するとされている) |
| 経費 | ネット通販の購入履歴・領収書、クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードの利用データ |
電子契約の印紙税の扱いは電子契約なら印紙税はかからない?で解説していますが、印紙税がかからない代わりに、データの保存義務がかかってくると考えてください。
保存要件:真実性と可視性
電子取引データは、次の要件を満たして保存します(国税庁パンフレット「令和6年1月からの電子取引データの保存方法」など)。
真実性の確保(改ざん防止)
次のいずれかの措置をとります。
- タイムスタンプが付された後にデータを授受する、または受領後に速やかにタイムスタンプを付す
- 訂正・削除の履歴が残る(または訂正・削除できない)システムで授受・保存する
- 不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程を定めて、守る
専用システムを導入していなくても、事務処理規程を定めて運用すれば要件を満たせます。国税庁のホームページに事務処理規程のサンプルが掲載されています。
可視性の確保(見読性・検索)
- パソコン・ディスプレイ・プリンタと、その操作説明書を備え付ける
- 「取引年月日・取引金額・取引先」で検索できるようにする
検索要件は、2課税年度前の売上高が5,000万円以下の方、または電子取引データを印刷した書面を日付・取引先ごとに整理している方であれば、税務職員からのデータの「ダウンロードの求め」に応じられるようにしておくことで不要になります。小規模な不動産投資家の多くは、この緩和を使えるはずです。
検索要件を満たす簡単な方法として、ファイル名を「20261015_〇〇工務店_550000.pdf」のように「日付_取引先_金額」の形式で統一し、物件ごと・年ごとのフォルダに保存するやり方があります。あわせて事務処理規程を定めておけば、専用システムがなくても対応できます。
準備が間に合わない場合の猶予措置
令和6年1月1日以後の電子取引について、次の2つを満たす場合は、保存要件にかかわらず、電子取引データを保存しておくだけでよいとされています。
- 保存要件に従って電子取引データを保存できなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認める場合(事前の申請等は不要)
- 税務調査等の際に、電子取引データのダウンロードの求めと、印刷した書面の提示・提出の求めに、それぞれ応じることができるようにしている場合
国税庁のパンフレットでは、「人手不足」「システム整備が間に合わない」「資金不足」など、幅広い理由で相当の理由が認められると説明されています。ただし、猶予措置を使う場合でも、データを消さずに保存することは必要です。印刷した後にデータを削除するのは不可です。
税務上の扱い:要件を満たさないとどうなるか
| 状況 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 要件どおりに保存 | 問題なし | 問題なし |
| 印刷した書面だけを保存(令和6年1月1日以後の電子取引) | 保存すべきデータの保存がなかったものとして、青色申告の承認取消しの対象となり得る | 同左 |
| データの削除・改ざんによる売上除外・経費の水増し、架空取引 | 重加算税が10%加重(電子帳簿保存法8条5項) | 同左 |
| 優良な電子帳簿を一定の要件で備え付け、あらかじめ届出 | 申告漏れがあった場合の過少申告加算税が5%軽減される措置がある | 同左 |
国税庁の電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)は、要件に従った保存をしていない場合は青色申告の承認の取消対象となり得るとしつつ、承認の取消しは、違反の程度等を総合勘案し、真に青色申告書を提出するにふさわしくないかどうかを検討して判断するとしています。また、データが要件どおりに保存されていない事実だけで、直ちに金銭の支出がなかったと判断されるものではないとも説明しています。
保存要件を守ることは、損金・必要経費の判断そのものではなく、帳簿書類の保存義務を果たしているかの問題です。経費の証明については領収書がない支出の扱い、保存期間は領収書・帳簿の保存期間をご覧ください。
判例から読む「保存」の意味
電子帳簿保存法そのものの裁判例ではありませんが、帳簿等の「保存」の意味については、最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決が参考になります。消費税の仕入税額控除に関して、帳簿等を税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、「保存しない場合」に当たると判断しました。
電子取引データの保存でも、猶予措置の条件として「ダウンロードの求めに応じられること」が求められています。データがどこかにあるだけでは足りず、求められたときにすぐ出せる状態にしておくことが大切だという点は共通しています。
会計上の扱い
電子帳簿保存法は、帳簿書類を「どう保存するか」のルールで、企業会計上の処理(どの科目で、いつ計上するか)を変えるものではありません。
会計面で関係するのは、保存のためのシステム費用です。
- クラウドの保存サービスや会計ソフトの月額利用料は、通常は支払手数料や通信費などの費用
- 自社用にソフトウェアを購入・開発した場合は、無形固定資産(ソフトウェア)として計上し、償却することがある
どちらに当たるかは契約の内容によるため、金額が大きい場合は顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る銀行からの見え方
電子帳簿保存法への対応状況を、銀行が直接審査することはまずありません。ただし、間接的には次のような違いが出ます。
- 試算表を早く出せる:取引データが整理されていれば、月次の試算表を早く作れる。追加融資の相談や、決算前の業績説明がしやすくなる
- 物件ごとの資料をすぐ出せる:修繕の見積書・請求書、管理会社の送金明細を物件別に保存しておけば、融資審査で求められる収支の裏付けをすぐ提出できる
- 税務調査のリスクを下げる:保存不備で青色申告の承認取消しや加算税の問題が起きれば、決算書の信頼性に響く
試算表の提出については銀行に試算表を出すときのポイントも参考にしてください。
実務のチェックポイント
- 電子で受け取っている取引書類を洗い出す(管理会社、工事会社、広告、電子契約、ネットバンキング、ネット通販、クレジットカード)
- 保存場所を一か所に決め、物件別・年別のフォルダで整理する
- ファイル名を「日付_取引先_金額」で統一するなど、検索できる状態にする(売上高5,000万円以下なら、ダウンロードの求めに応じられる状態にすることで検索要件は不要)
- 不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程を定め、守る
- 印刷して紙で保存している場合も、元のデータを削除しない
- 準備が間に合わない場合は、猶予措置の条件(データの保存、ダウンロード・書面提示に応じられること)を満たしておく
まとめ
- 所得税・法人税の保存義務者は、電子取引データをデータのまま保存する義務がある。令和6年1月1日以後の電子取引は、印刷での代用不可
- 要件は真実性と可視性。事務処理規程や、売上高5,000万円以下の検索要件不要などの緩和を使えば、専用システムがなくても対応できる
- 要件どおりに保存していないと青色申告の承認取消しの対象となり得る。データの改ざん等による不正は重加算税が10%加重
- 取引データが整理されていれば、試算表や物件資料を銀行に早く出せる
電子取引データの保存ルールづくりから、銀行に出す資料の整え方まで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
