証憑・印紙・税務調査

電子契約なら印紙税はかからない?国会答弁・国税局の文書回答で確認する根拠と注意点

不動産の売買契約書や工事請負契約書は、契約金額が大きいほど印紙税も高くなります。軽減措置の適用後でも、契約金額1億円を超え5億円以下の売買契約書なら6万円です(国税庁タックスアンサーNo.7108)。「電子契約なら印紙税はかからない」と聞いて、切り替えを検討している方も多いでしょう。

結論からいえば、電子契約で作成した契約書には、原則として印紙税はかかりません。ただし、その根拠は「電子契約は非課税」と定めた条文ではなく、印紙税が紙の文書に課税する税金であることにあります。この記事では、政府の答弁書と国税局の文書回答事例という一次情報で根拠を確認し、印紙税がかかってしまう落とし穴、会計処理、銀行からの見え方を整理します。

この記事の結論
  • 印紙税は「文書」に課税する税金。電磁的記録で作成したものには課税されない(平成17年3月15日 政府答弁書)
  • 注文請書をPDFにして電子メールで送るだけなら課税文書の作成に当たらないとする見解が、福岡国税局の文書回答事例(平成20年10月24日)で是認されている
  • ただし、印刷して相手に渡す、電子契約の後に紙で変更契約書を作ると、その書面には印紙税がかかり得る
  • 電子契約のデータは電子帳簿保存法の電子取引データとして保存が必要
  • 印紙代が減っても、決算書への影響は小さい。銀行に対しては、契約書を確実に提出できる保存体制のほうが重要

電子契約に印紙税がかからない根拠(一次情報)

政府答弁書:電磁的記録には課税されない

国会では、平成17年に参議院議員から「印紙税に関する質問主意書」(第162回国会、質問第9号)が提出されました。これに対する平成17年3月15日付の答弁書(内閣参質162第9号)で、政府は、文書課税である印紙税において、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなることを認めています。

答弁書は、その理由として、電磁的記録は一般に改ざんやその痕跡の消去が文書に比べて容易なことが多いという特性があり、現時点では一律に文書と同等程度に法律関係の安定化に寄与し得る状況にあるとは考えていない、と説明しています。あわせて、ペーパーレス化の状況などを注視し、必要に応じて検討するとも述べています。

つまり、電子契約に印紙税がかからないのは「現行の印紙税法が紙の文書を前提にしているから」であり、将来の法改正で扱いが変わる可能性はゼロではありません。電子契約を導入するときは、その時点の法令と国税庁の情報を確認してください。

福岡国税局の文書回答事例:PDFを電子メールで送る注文請書

国税庁の事前照会に対する文書回答事例にも、この考え方を示したものがあります。福岡国税局の「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」(平成20年10月24日回答)です。

項目内容
照会の内容請負契約の成立を証する注文請書について、現物を交付せず、PDFファイル等に変換して電子メールで送信した場合、課税文書を作成したことにならないと解してよいか
照会者の見解の根拠印紙税法基本通達44条は、課税文書の「作成」を「課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使すること」としている。現物の交付がなければ、ファクシミリで送信した場合と同様、課税文書の作成にはならない
留意点として示された内容電子メールで送信した後に、注文請書の現物を持参するなどして交付すれば、課税文書の作成に当たり、印紙税が課される
回答照会に係る事実関係を前提とする限り、照会者の見解のとおりで差し支えない(福岡国税局としての見解)

照会者は参考として、国税庁の「コミットメントライン契約に関して作成する文書に対する印紙税の取扱い」も挙げています。そこでは、請求書や領収書をファクシミリや電子メールで提出する場合は、実際に文書が交付されないため印紙税の課税原因は発生しない一方、送信後に改めて正本となる文書を交付すれば、その正本は課税文書になると説明されています。

なお、文書回答事例は、照会された事実関係を前提とした回答です。自社の取引に当てはめるときは、事実関係が同じかどうかを確認する必要があります。

印紙税がかかってしまう主なケース

電子契約を導入したのに、運用の仕方によっては印紙税がかかることがあります。

ケース印紙税の扱い(考え方)
電子契約サービスで双方が電子署名し、データのみを保存紙の文書がないため、原則として課税されない
契約書をPDFにして電子メールで送るだけ現物の交付がなければ、課税文書の作成に当たらない(上記の文書回答事例)
PDFで送った後、署名した紙の正本を郵送・持参する交付した紙の正本が課税文書になり得る
電子契約で締結した後、変更契約や覚書を紙で作成紙の変更契約書・覚書が、その内容に応じて課税文書になり得る
紙の契約書に双方が署名押印し、スキャンしたデータだけを共有紙の文書が作成されているため、課税文書になり得る
社内の控えとして印刷して保管相手方に交付しない控えは、通常は課税文書の作成に当たらない

特に注意したいのが、紙の契約書をスキャンしてPDFにしたケースです。電子契約と同じに見えても、紙に双方が署名押印した時点で文書は作成されています。「PDFで共有したから印紙は不要」とはなりません。

また、印紙税は文書に記載された内容で判断されます。国税不服審判所の平成22年9月8日裁決も、課税文書に当たるかどうかは文書に記載された事項に基づいて判断すべきであると述べています。電子契約と紙の書面が混在する取引では、どの文書が紙で交付されるのかを事前に整理しておくことが大切です。紙の契約書の税額は不動産売買契約書・工事請負契約書の印紙税と軽減措置を参照してください。

不動産取引での電子契約の現状

不動産の売買や賃貸借では、宅地建物取引業法により、重要事項説明書(35条書面)や契約締結時の書面(37条書面)を交付する必要があります。国土交通省によると、デジタル社会形成整備法による改正で、令和4年5月18日から、これらの書面を相手方の承諾を得て電磁的方法で提供できるようになり、宅地建物取引士の押印も不要になりました。

これにより、不動産の売買契約も電子契約で締結しやすくなっています。ただし、実務では次の点も確認が必要です。

  • 仲介会社や売主・買主が電子契約に対応しているか
  • 金融機関の融資手続(金銭消費貸借契約や抵当権設定)が電子契約に対応しているか
  • 登記手続で必要な書類(登記原因証明情報など)の作成方法
  • 一部の書類だけ紙で交付すると、その書類が課税文書になり得ること

税務上の扱い:印紙税が減っても他の処理は変わらない

電子契約にすると、印紙税は原則としてかかりません。法人・個人とも、その分だけ租税公課が減ることになります。

項目法人個人(不動産所得など)
電子契約の印紙税原則として課税されない同左
電子契約サービスの利用料原則として支払手数料などとして損金業務に関するものは必要経費
物件取得に関する契約の手数料取得価額に含めるかどうかを、取得に要した費用の考え方で検討同左(取得費・取得価額との関係を検討)
契約データの保存電子帳簿保存法の電子取引データとして保存義務同左

見落とされやすいのが最後のデータの保存です。電子契約は電子帳簿保存法上の「電子取引」に当たり、所得税・法人税の保存義務者は、取引データを一定の要件に従って保存しなければなりません。紙に印刷して保存するだけでは、保存義務を果たしたことにはなりません。詳しくは電子帳簿保存法(電子取引データの保存)と不動産業で解説しています。

会計上の扱いと決算書の表示

電子契約に切り替えても、取引そのものの会計処理は変わりません。物件の取得であれば取得価額、工事であれば請負代金の内容に応じた処理になり、契約書が紙か電子かで変わるものではありません。

変わるのは、印紙税という費用が減ることと、電子契約サービスの利用料が新たに発生することです。いずれも金額は限定的で、営業利益・経常利益への影響は大きくありません。

なお、物件取得に伴う費用の処理(取得価額に含めるか、期間費用とするか)は、税務上の扱いと決算書の表示を分けて考える必要があります。どの区分にできるかは取引の実態次第ですので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

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銀行からの見え方

印紙代の削減そのものが、銀行の格付けを左右することはほとんどありません。銀行が気にするのは、むしろ契約書の提出と確認です。

  • 融資審査での提出:物件の売買契約書、工事請負契約書、賃貸借契約書(レントロールの裏付け)などは、融資審査の基本資料です。電子契約の場合は、電子署名の付いたPDFをそのまま提出できるか、金融機関に確認しておきます
  • 原本確認の方法:紙の契約書のように「原本を見せてください」と言われたときに、電子契約サービスの画面や署名情報を示せるようにしておくと安心です
  • 書類の一貫性:一部が電子、一部が紙という取引では、どれが正本かを説明できるようにしておきます

金融機関によっては、融資の契約手続そのものを電子契約で行えるところも増えています。融資契約書の印紙税にも関係するため、借入れのたびに確認するとよいでしょう。

実務のチェックポイント

  1. 電子契約の対象にする契約書(売買、工事請負、覚書、注文請書など)を決める
  2. 電子で締結した契約について、紙の正本を別途交付しない運用にする
  3. 変更契約・覚書も電子で締結する。紙で作る場合は印紙の要否を確認する
  4. 紙に署名押印してスキャンする方式は、電子契約とは扱いが違うことを社内で共有する
  5. 電子契約データを電子帳簿保存法の要件に沿って保存する
  6. 融資審査で提出する契約書の形式を、金融機関と事前にすり合わせる
  7. 法令改正の有無を、導入時と定期的に国税庁の情報で確認する

印紙を貼り忘れた紙の文書が見つかった場合の手続きは、印紙の貼り漏れと過怠税をご覧ください。

まとめ

  • 電子契約に印紙税がかからないのは、印紙税が紙の文書に課税する税金だから。政府答弁書(平成17年3月15日)と福岡国税局の文書回答事例(平成20年10月24日)で確認できる
  • 印刷した書面を正本として交付する、紙で変更契約書を作る、紙に署名押印してスキャンする、といった場合は印紙税がかかり得る
  • 電子契約のデータは電子帳簿保存法の電子取引データとして保存する
  • 銀行に対しては、電子契約書を確実に提出・説明できる保存体制のほうが大切

電子契約の導入と、契約書・決算書を銀行に提出するまでの書類の整え方は、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。

よくある質問

電子契約に印紙税がかからない根拠は何ですか?
印紙税は、紙の文書に課税する「文書課税」の税金だからです。平成17年3月15日の政府答弁書(内閣参質162第9号)は、電磁的記録により作成されたものには課税されないことを認めています。また、福岡国税局の平成20年10月24日付の文書回答事例では、注文請書の現物を交付せず、PDFなどに変換して電子メールで送信した場合は、課税文書を作成したことにはならないとする照会者の見解が是認されています。
電子契約で締結した契約書を印刷して相手に渡したら、印紙は必要ですか?
印刷した書面を契約書の正本として相手方に交付すれば、その書面が課税文書になる可能性があります。福岡国税局の文書回答事例でも、電子メールで送信した後に注文請書の現物を持参するなどして交付した場合には、現物の注文請書に印紙税が課されるという前提が示されています。社内の控えとして印刷して保管するだけであれば、相手方への交付はありません。
不動産の売買契約も電子契約にできますか?
宅地建物取引業法の改正により、令和4年5月18日から、重要事項説明書や契約締結時の書面(37条書面)を、相手方の承諾を得て電磁的方法で提供できるようになっています。売買契約を電子契約で締結すれば、契約書に係る印紙税は原則としてかかりません。ただし、登記手続や金融機関の要件など、取引全体で紙の書類が必要になる場面もあるため、仲介会社・司法書士・金融機関と事前に確認してください。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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