青色申告の承認の取消しは、追徴課税よりも影響が長く続く処分です。取消しの対象となった年からは、青色申告特別控除、専従者給与、損失の繰越し、法人の欠損金の繰越控除といった特典が使えなくなり、さかのぼって税額が計算し直されます。
この記事では、青色申告の承認が取り消される事由と、国税庁が公表している取消しの基準を確認したうえで、国税不服審判所の公表裁決から取り消された事例と、取消しが認められなかった事例、承認のない青色申告に関する最高裁判決を紹介します。最後に、決算書と銀行からの見え方、日頃のチェックポイントをまとめます。
- 取消し事由は、①帳簿書類の備付け・記録・保存の不備、②税務署長の指示に従わない、③隠ぺい・仮装など。法人は④2事業年度連続の期限後申告(無申告)も対象
- 帳簿の「備付け等」には税務職員への提示が含まれる。調査で正当な理由なく提示しなかったことによる取消しは、裁決で繰り返し適法とされている
- 一方、不備が軽微で申告の信頼性が損なわれていない場合や、税務署側が確認の努力を尽くしていない場合に、取消しを不当・違法とした裁決もある
- 承認を受けていない青色申告書は、税務署が受理していても青色申告としての効力はない(最高裁昭和62年10月30日判決)
- 取消しは特典の喪失だけでなく、決算書の信頼にも響く。記帳・保存・期限内申告を淡々と続けることが最大の予防策
青色申告の承認が取り消される事由
法律で定められた取消し事由
個人は所得税法150条1項、法人は法人税法127条1項に取消し事由が定められています。主なものを比較すると次のとおりです。
| 取消し事由 | 個人(所得税法150条) | 法人(法人税法127条) | 取消しの対象となる時期(事務運営指針) |
|---|---|---|---|
| 帳簿書類の備付け・記録・保存が法令に従っていない | 1号 | 1号 | 提示がなかった年分(事業年度)のうち最も古いもの以後 |
| 帳簿書類について税務署長の指示に従わない | 2号 | 2号 | 指示に係る年分(事業年度)以後 |
| 取引の全部または一部を隠ぺい・仮装して記載するなど、帳簿の記載全体の真実性を疑うに足りる相当の理由がある | 3号 | 3号 | 該当することとなった年分(事業年度)以後 |
| 2事業年度連続して期限内に確定申告書を提出しない | (規定なし) | 4号 | 2事業年度目以後 |
法人の4号は、個人にはない事由です。不動産賃貸業の資産管理法人で「決算が間に合わず期限後申告になった」ことが2期続くと、それだけで取消し事由に当たります。申告期限の延長の特例を使っていない法人は、法人税の申告期限と延長の特例も確認しておいてください。
国税庁の事務運営指針が示す基準
国税庁は、取消しの運用基準を事務運営指針として公表しています(個人の青色申告の承認の取消しについて、法人の青色申告の承認の取消しについて)。要点は次のとおりです。
- 趣旨:取消し事由に当たる事実とその程度、記帳状況、改善可能性などを総合的に考え、真に青色申告書を提出するにふさわしくない場合に取り消す
- 帳簿の不提示:帳簿書類の備付け等は、物理的に存在するだけでなく税務職員に提示することを含む。調査で再三提示を求めたのに正当な理由なく拒否した場合は取消し事由に当たる
- 隠ぺい・仮装:更正後の所得金額のうち隠ぺい・仮装に基づく所得金額が50%を超える場合(その金額が500万円未満の場合を除く)や、推計によらなければ適正な所得が計算できない状況にある場合などに取り消す
- 見合わせ:上の基準に当たっても、前7年以内に取消しを受けておらず、既往の調査での不正に係る所得が500万円未満で、今後適正な申告が期待できる(法人は適正申告の申出等がある)場合は、取消しを見合わせる
- 個別の処理:形式基準に当たらなくても、二重帳簿を作るなど計画的に取引を帳簿から外している場合は、国税局長と協議して処理する
調査を受けて修正申告をした場合も、それが更正を予知したものであれば、更正があったものとして基準が当てはめられます。「修正申告に応じたから取消しはない」とは限りません。
取り消された事例:帳簿を提示しなかった
国税不服審判所の公表裁決事例要旨(青色申告の承認の取消し)には、帳簿の不提示を理由とする取消しを適法とした裁決が多く並んでいます。
調査理由が開示されないことは、不提示の正当な理由にならない
昭和58年12月13日裁決(裁決事例集No.26 102頁)は、請求人が「具体的な調査理由が開示されていない」として帳簿書類の提示を拒否した事案です。審判所は、帳簿書類の備付け等は担当職員の求めに応じて提示することを当然の前提としており、調査理由の不開示は不提示の正当な理由にならないとして、取消しを相当と判断しました。
現在の国税通則法のもとでも、国税庁は、調査の理由は事前通知の法定事項ではないと説明しています(税務調査手続に関するFAQ)。調査の進め方に疑問があるときは、提示を拒むのではなく、税理士を通じて確認・協議するのが筋です。
税理士が録音に固執して提示しなかった
平成24年6月1日裁決は、代理人の税理士がレコーダーで会話を録音することに固執し、録音しない状態での提示の求めに応じなかったため、帳簿が検査されなかった事案です。請求人自身も「税理士に任せている」として提示しませんでした。審判所は、録音の必要性は認められず、請求人が正当な理由なく帳簿書類を提示しなかったことになるとして、取消し事由に当たると判断しました。
代理人の対応であっても、結果は納税者本人が負うことになります。
会計データが読み出せない、誤って破棄した
平成11年10月29日裁決(裁決事例集No.58 107頁)では、会計データを保存したフロッピーディスクの不具合で出力できないことなどを理由に帳簿書類を提示しなかったことが、取消し事由に当たるとされました(この事案では、架空経費の計上などについて重加算税も認定されています)。昭和61年9月30日裁決(裁決事例集No.32 106頁)も、関係会社への刑事訴追のおそれから帳簿書類を破棄したことは、保存義務を免れる特段の事由に当たらないとしています。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る取消しが認められなかった事例
取消しは、事実があれば機械的に行われるものではありません。次の2件は、不動産賃貸業に関係する事案で、取消しが覆されたものです。
不備が軽微で、申告の信頼性は損なわれていない(平成22年12月1日裁決)
平成22年12月1日裁決は、不動産貸付業と農業を営む個人が、調査で「不動産所得に係る帳簿は作成していない」として現金出納帳を提示せず、取引を記載した伝票の存在も明らかにしなかったため、青色申告の承認を取り消された事案です。収入の大部分は、本人と妻が株主の同族会社への賃貸料でした。
審判所は、取消し事由に当たる事実は形式的に存在すると認めつつ、取消しを行うかどうかは、業種業態や事業規模に応じた記帳の状況、提示の状況などを総合的に考え、真に青色申告を維持するにふさわしくない場合に行うべきだとしました。そのうえで、帳簿の不備の程度は甚だ軽微で、伝票・通帳・領収書等を集計して計算した所得金額は十分正確であり、申告納税に対する信頼性が損なわれているとまではいえないとして、取消処分は違法とはいえないものの不当であると判断しています。
簡易帳簿の提示の申出を拒んだ調査(平成25年11月1日裁決)
平成25年11月1日裁決は、建設業と不動産業を営む個人について、総勘定元帳の提示がなかったとして取消しが行われた事案です。審判所は、総勘定元帳の保存がないことが確認された場合には、簡易帳簿(所得税法施行規則56条1項ただし書の帳簿)の提示を求めるべきであったのに、調査担当職員は簡易帳簿の要件を満たす出納帳の提示の申出を拒否しており、確認のための社会通念上要求される努力をしたとは認められないとして、取消処分を違法と判断しました。
2つの裁決から言えること
- 取消しの判断では、形式的な事実だけでなく、記帳の実態と申告の正確性が見られる
- ただし、どちらの事案も請求人に不備がなかったわけではありません。「軽微なら大丈夫」と考えるのは危険で、帳簿を作成し、求められれば提示できる状態にしておくのが前提です
承認を受けていない青色申告:最高裁昭和62年10月30日判決
最高裁判所第三小法廷 昭和62年10月30日判決(昭和60年(行ツ)第125号)は、青色申告の承認を受けていた親族の事業に従事し、事業を継いだ納税者が、自分では承認申請をしないまま青色申告書で申告し、税務署もそれを受理し続けていた事案です。
最高裁は、青色申告の承認は特典を伴う法的地位を与える処分であり、承認の効力は一身専属的であるとして、承認を受けていない以上、青色申告としての効力を認める余地はないと判断しました。また、申告書の受理や税額の収納は申告内容を是認するものではなく、青色申告用紙の送付も承認を意味しないとして、信義則の適用も否定しています(判決は、信義則の適用には税務官庁が信頼の対象となる公的見解を表示したことなどが不可欠だとしています)。
実務への示唆:相続などで賃貸経営を引き継いだ場合、親の青色申告の承認は引き継がれません。引き継いだ人が自分で承認申請をする必要があります。法人を新設した場合も同じです。申請期限の管理は、取消しの予防と同じくらい重要です。
取り消されると何を失うか:個人と法人の違い
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 控除・特典 | 青色申告特別控除、青色事業専従者給与 | 中小企業者等の特別償却・税額控除、少額減価償却資産の特例など |
| 損失 | 純損失の繰越控除(3年)・繰戻し還付が使えなくなる | 取消し以後の事業年度に生じた欠損金は繰越控除の対象外。欠損金の繰戻し還付も使えない |
| 手続 | 推計課税が可能になる | 推計課税が可能になる |
| 再申請 | 取消しの通知を受けた日以後1年以内の申請は却下されることがある | 同左 |
取消しはさかのぼって効力を持つため、すでに受けた控除や損失の繰越しも、対象の年分・事業年度について計算し直されます。追徴税額に加えて、過少申告加算税・重加算税・延滞税がかかることもあります。
会計上の扱いと、銀行からの見え方
会計の処理は、青色・白色で変わらない
青色申告かどうかは税務上の地位の問題で、決算書を作るルールそのものは変わりません。法人の決算書は、会社法431条の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」、つまり一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従って作ります。中小企業であれば、中小企業の会計に関する指針や要領がその目安になります。
取消しに伴う追徴税額は、会計上は過年度の税金として処理され、加算税・延滞税とあわせて当期の決算書に現れます。処理の区分そのものは企業会計の基準に沿って判断する必要があり、どの区分になるかは内容次第ですから、顧問税理士と検討してください。
銀行が見るのは「数字の前提が崩れた」こと
| 影響 | 決算書・銀行評価 |
|---|---|
| 追徴税額・加算税・延滞税 | 現預金が減り、著書のモデルで使う債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))が悪化する |
| 欠損金の繰越控除が使えない | 将来の税負担が増え、税引後のキャッシュフローが細る |
| 隠ぺい・仮装の認定 | 決算書の数字そのものの信頼が失われ、格付けの前提が崩れる |
| 帳簿の不提示 | 帳簿を提示できない会社は、銀行の求める試算表や資料にも応じられないと見られかねない |
銀行は、決算書と申告書が正しく作られていることを前提に格付けをします。著書のモデルでも、格付けは安全性・収益性・成長性・返済能力の数字から計算されます。取消しの理由が帳簿の不備や隠ぺい・仮装である以上、銀行はその会社の数字を信じてよいのかという問いを持つことになります。銀行に出す決算書の整え方は決算書を銀行に出す前にやるべきチェックもご覧ください。
実務のチェックポイント
| 区分 | チェック項目 |
|---|---|
| 承認 | 法人の新設、相続による事業の承継のときに、本人名義で承認申請をしたか。申請書の控えを保存しているか |
| 記帳 | 複式簿記(または簡易帳簿)で、家賃の入金、管理会社の送金明細、経費の支払を漏れなく記帳しているか |
| 保存 | 帳簿・領収書・契約書を保存期間中保存しているか(領収書・帳簿の保存期間)。会計データのバックアップはあるか |
| 提示 | 調査で求められたら、帳簿をすぐ提示できる状態か。代理人の税理士と対応方針を共有しているか |
| 期限 | 法人は2期連続の期限後申告になっていないか。決算の締めのスケジュールを決めているか |
| 正確性 | 二重帳簿、売上の除外、架空の経費など、隠ぺい・仮装と疑われる処理がないか |
調査の流れと準備は不動産業の税務調査で見られるポイント、青色申告の特典そのものは不動産所得の青色申告のメリットで解説しています。
まとめ
- 青色申告の承認の取消し事由は、帳簿の不備、税務署長の指示に従わない、隠ぺい・仮装。法人は2期連続の期限後申告も対象
- 帳簿は付けていても、調査で正当な理由なく提示しなければ取消し事由になる。調査理由の不開示、録音への固執、データの消失・破棄は正当な理由と認められていない
- 不備が軽微で申告が正確な場合や、税務署側が確認の努力を尽くしていない場合に、取消しを不当・違法とした裁決もある。ただし不備があったことに変わりはない
- 承認を受けていない青色申告書は、受理されていても青色申告の効力がない。事業の承継や法人の新設のときは本人名義の承認申請を
- 取消しは特典の喪失だけでなく、決算書の信頼を損なう。記帳・保存・期限内申告を続けることが、融資を受け続けるための土台になる
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