個人と法人・損益通算

不動産所得の赤字と給与所得の損益通算|通算できない部分(土地の借入金利子など)と裁決事例

会社員や公務員が賃貸物件を持つと、購入した年や減価償却費が大きい年には、不動産所得が赤字になることがあります。この赤字は、確定申告をすることで給与所得と損益通算でき、源泉徴収された所得税の一部が戻ります。

ただし、不動産所得の赤字は全額が通算できるわけではありません。土地を買うための借入金の利子に相当する部分などは、法律上「生じなかったもの」とみなされます。この記事では、損益通算の仕組みと通算できない部分を国税庁の資料で整理し、公表裁決事例、法人との違い、そして銀行からの見え方まで解説します。

この記事の結論
  • 不動産所得の損失は、給与所得などと損益通算できる(所得税法69条)。事業的規模かどうかは問わない
  • ただし、①土地等を取得するための借入金の利子相当額、②別荘等の貸付け、③組合の特定組合員の損失、④国外中古建物の簡便法等による償却費相当額は通算できない
  • 土地と建物を一括取得した場合、条件を満たせば借入金はまず建物に充てたものとして利子を計算できる。対価の区分方法が争われた裁決もある
  • 法人には損益通算という仕組みがない。法人の赤字は法人の中で繰り越すだけで、代表者の給与の税金は戻らない
  • 銀行は申告書の所得を見る。赤字の中身(減価償却か、実際の資金流出か)を説明できることが大切

損益通算の基本:不動産所得の赤字は給与所得と相殺できる

所得税では、所得を10種類に区分して計算します。そのうち、計算上生じた損失を他の所得と相殺(損益通算)できるのは、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4つだけです(国税庁 No.2250 損益通算)。雑所得や給与所得の損失は、他の所得から差し引けません。

不動産所得は「総収入金額 − 必要経費」で計算します。必要経費には固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費、借入金の利子などが入ります(No.1370 不動産収入を受け取ったとき)。この結果が赤字になると、給与所得の金額から差し引かれ、所得税・住民税の計算の基礎になる所得が小さくなります。

会社員の場合は年末調整で所得税の精算が終わっているため、損益通算の効果を得るには確定申告が必要です。また、よく誤解されますが、損益通算は事業的規模(5棟10室)でなくてもできます。事業的規模で変わるのは専従者給与や青色申告特別控除などの扱いです(詳しくは個人の事業的規模(5棟10室基準と実質判断))。

青色申告をしていれば、損益通算しきれなかった損失(純損失)を翌年以後3年間繰り越すこともできます。

損益通算できない4つの損失

国税庁は、不動産所得の損失のうち次のものは損益通算の対象にならないと説明しています(No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算、No.2250)。

通算できない損失内容根拠
①土地等の借入金利子不動産所得の計算上必要経費に算入した、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分租税特別措置法41条の4
②別荘等の貸付け主として趣味・娯楽・保養・鑑賞の目的で所有する不動産の貸付けに係るもの所得税法69条2項
③組合の特定組合員民法組合等の特定組合員(業務執行に関与しない個人組合員など)や信託の受益者の、組合事業・信託から生じた損失。他の不動産所得との内部通算もできない租税特別措置法41条の4の2
④国外中古建物令和3年分以後、国外中古建物の損失のうち、耐用年数を簡便法等で計算した減価償却費に相当する部分。国内不動産との内部通算もできない租税特別措置法41条の4の3

①土地等の借入金利子:計算のしかた

土地は減価償却しないため、土地を買うための借入金の利子まで通算を認めると、値上がりを待つ土地投資の利子が給与の税金を減らすことになります。そこで、不動産所得の赤字のうち、土地等の取得に要した借入金の利子に相当する部分は「生じなかったもの」とみなされます。

計算は次のとおりです(租税特別措置法施行令26条の6第1項)。

  • 土地等の借入金利子 > 不動産所得の損失 の場合 → 損失の全額が通算できない
  • 土地等の借入金利子 ≦ 不動産所得の損失 の場合 → 損失のうち利子相当額が通算できない

つまり、不動産所得が黒字なら影響はなく、赤字のときに初めて問題になります。

土地と建物を一括で買った場合の特例

一棟物件のように土地と建物をまとめて買い、借入金が土地分・建物分に分かれていない場合、利子をどう分けるかが問題になります。租税特別措置法施行令26条の6第2項は、一の契約により同一の者から土地等と建物を取得した場合で、借入金を資産ごとに区分することが困難なときは、借入金がまず建物の取得対価に充てられ、次に土地等に充てられたものとして計算できると定めています(e-Gov法令検索:租税特別措置法施行令)。

自己資金を入れた場合、その自己資金を土地に充てたことにできるので、土地分の利子を小さくできます。一方、代金の全額を借入金でまかなった場合は、建物にも土地にも借入金が充てられるため、結局は土地と建物の対価の割合で利子を分けることになります。このとき、売買契約書に土地・建物の内訳がないと、対価をどう区分するかそのものが争点になります。

公表裁決事例:通算が否定・修正されたケース

土地・建物の対価の区分と借入金利子(令和4年11月8日裁決)

国税不服審判所 令和4年11月8日裁決は、米国の賃貸用不動産(土地・建物)を一括購入し、代金の全額を借入金でまかなった請求人について、建物の取得価額と、土地の取得のための借入金利子の額が争われた事案です。

  • 事実:売買契約上、土地と建物の各代価は明らかでなかった。請求人は不動産鑑定評価額の割合で区分して減価償却費と利子を計算していた
  • 判断:土地と建物の対価が明らかでない場合は、合理的な方法で区分する必要があるとし、現地の固定資産税評価額の割合で区分する方法を合理的と認めました。請求人が提出した鑑定評価書は、不動産鑑定評価基準に定める手法を守っていない理由が示されていないなどとして採用されませんでした。土地の取得のための借入金利子も、同じ割合で計算すべきとされています
  • 結果:一部の年分については、評価額が事後に変更されたことなどを踏まえて処分の一部が取り消されましたが、区分の考え方そのものは原処分庁の方法が支持されました。前回の税務調査で指摘されなかったことは、過少申告加算税の「正当な理由」に当たらないとされています

土地・建物の区分は、減価償却費だけでなく損益通算できない利子の額にも直結することが分かります。区分の方法については土地と建物の按分方法と争いになった裁決事例も参考にしてください。なお、国外中古建物の損失の制限については海外不動産の赤字は通算できるかで解説しています。

リゾートホテルの客室の貸付け(平成13年5月30日裁決)

国税不服審判所 平成13年5月30日裁決(裁決事例集No.61 268頁)は、医療法人の理事長が著名なリゾート地のホテルの一室を購入してホテル会社に貸し、生じた不動産所得の損失を損益通算していた事案です。

審判所は、所有目的は所有者の主観ではなく客観的事情から判断するとしたうえで、次の点を挙げました。

  • 家具・備品付きで、別荘と同様に保養に使える性質の物件であること
  • 分譲案内書で、ホテルの利用上のメリットと「合理的な節税対策」になることがうたわれていたこと
  • オーナーズルームを無料で何回でも使えるなど、一般客に優先して利用できたこと
  • 賃料は必要経費の2割程度で、管理費にも届かず、経済的に不合理であること

これらから、物件は主として保養等の目的で所有する「生活に通常必要でない資産」に当たり、損失は生じなかったものとみなされ、損益通算は認められないと判断されました。「貸しているから不動産所得、赤字だから通算できる」とはならず、所有目的と収支の合理性が見られることを示す事例です。

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法人と個人の違い:法人には損益通算がない

同じ物件を法人で持った場合は、考え方がまったく異なります。

項目個人法人
赤字と給与所得の相殺損益通算できる(上記①〜④を除く)仕組みがない。法人の赤字で代表者個人の税金は戻らない
赤字の繰越し青色申告なら純損失を翌年以後3年青色申告なら欠損金として繰越し(法人税法の定めによる)
土地の借入金利子赤字のとき、利子相当額は通算できない通常の支払利息として損金。特別な制限はない
別荘等の貸付けの損失通算できない法人の資産・事業として実態があるかが論点(役員の私的利用なら給与認定などの問題)

法人化すると、物件の赤字を給与と相殺して還付を受けることはできなくなります。一方、赤字を前提にしない(償却前の黒字で返済をまかなう)事業計画であれば、法人で利益と純資産を積み上げるほうが、次の融資につながりやすい面があります。個人と法人の比較は個人と法人の税金の違い(不動産)をご覧ください。

会計上の扱いと、銀行からの見え方

赤字の中身を「減価償却」と「資金流出」に分けて見る

損益通算は所得税法上の計算です。帳簿上は、赤字の原因を分けて把握しておくことが大切です。

  • 減価償却費による赤字:お金は出ていかない費用。償却前の収支(不動産所得+減価償却費)が黒字なら、手元の資金は増えている
  • 資金流出をともなう赤字:空室、賃料下落、修繕費、金利負担などによる赤字。償却前でも赤字なら、給与で穴埋めしている状態

税金が戻ることを目的に赤字を出すのではなく、償却前で黒字かを毎年確認することが、賃貸経営の健康診断になります。築古物件の減価償却と損益通算の関係は国内築古木造の減価償却と損益通算で整理しています。

銀行は申告書の所得と、その説明を見る

個人で次の物件の融資を申し込む場合、銀行は確定申告書(または課税証明書)で所得を確認します。

  • 合計所得が減る:不動産所得の赤字で給与と合わせた所得が小さくなると、返済比率などの評価に影響することがあります。税金が戻った分、審査の数字は弱く見える可能性があるということです
  • 減価償却費の足し戻し:銀行によっては、不動産所得に減価償却費を加えた償却前の数字で返済余力を見ます。収支内訳書や青色申告決算書で、減価償却費と借入金の元金返済の関係を説明できると評価が変わることがあります
  • 後で否認されると信頼を失う:通算できない利子の計算を誤ったり、生活に通常必要でない資産の損失を通算したりして修正申告になると、提出済みの申告書の数字が変わります

赤字の年が続くと、数年後に減価償却費が減って所得が出る「デッドクロス」に向かいます。仕組みはデッドクロスとはで、損益通算全般は不動産投資の赤字と損益通算で解説しています。

実務のチェックポイント

チェック項目確認する内容
確定申告給与所得者でも、不動産所得がある年は確定申告をしているか
借入金の資金使途借入金を土地分・建物分に区分しているか。一括取得の特例(建物優先)を使える条件か
自己資金の扱い自己資金を入れた場合、土地に充てた計算になっているか
土地・建物の対価売買契約書に内訳があるか。ない場合、固定資産税評価額などの合理的な方法で区分しているか
所有目的自己や家族が利用できる物件(リゾートマンション、別荘など)を貸していないか。賃料は経費に見合っているか
国外物件・組合出資国外中古建物や任意組合型の投資商品の損失を、そのまま通算していないか
償却前の収支不動産所得+減価償却費が黒字か。赤字なら資金計画を見直す
銀行への説明資料物件別の収支、減価償却費、元金返済額を一覧にしているか

まとめ

  • 不動産所得の赤字は給与所得と損益通算できる。事業的規模は問わないが、確定申告が必要
  • 土地等の借入金利子、別荘等の貸付け、組合の特定組合員、国外中古建物の償却費に相当する損失は通算できない
  • 一括取得の場合、条件を満たせば借入金はまず建物に充てたとして計算できる。全額借入なら対価の区分方法が争点になる
  • 公表裁決では、固定資産税評価額の割合による区分が合理的とされた例や、リゾートホテルの客室が「生活に通常必要でない資産」とされた例がある
  • 法人には損益通算がない。償却前で黒字かを軸に、個人で持つか法人で持つかを考える
  • 銀行は申告書の所得を見る。赤字の中身を説明できる資料を用意しておく

損益通算の計算や、土地・建物の区分、個人と法人のどちらで持つかの判断は、物件と資金計画によって答えが変わります。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、確定申告から融資を見据えた資料づくりまでご相談をお受けしています。

よくある質問

不動産所得の赤字は、全額を給与所得と通算できますか?
全額とは限りません。不動産所得の損失のうち、土地等を取得するために要した借入金の利子に相当する部分、別荘など主として趣味・娯楽・保養目的で所有する不動産の貸付けに係る部分、一定の組合の特定組合員に係る部分、令和3年分以後の国外中古建物の簡便法等による償却費に相当する部分は、生じなかったものとみなされ、損益通算できません。
土地と建物をまとめて買い、借入金で支払った場合、利子はどう分けますか?
借入金が土地と建物ごとに区分されていないなど区分が困難な場合、一の契約で同一の者から取得したときに限り、借入金はまず建物の取得対価に充てられ、次に土地等に充てられたものとして計算することができます(租税特別措置法施行令26条の6第2項)。代金の全額を借入金でまかなった場合は、結局は土地・建物の対価の割合で利子を分けることになり、対価の区分方法そのものが争点になることがあります。
赤字で税金が戻ると、銀行の評価は下がりますか?
個人で借りる場合、銀行は確定申告書で所得を確認するため、合計所得が減ると返済余力の評価に影響することがあります。一方で、赤字の主因が減価償却費で、償却前の収支が黒字であれば、その点を説明できる資料を用意することで評価が改善する場合もあります。赤字の中身を説明できることが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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