個人と法人・損益通算

国内築古木造の減価償却と損益通算|簡便法の耐用年数、土地の借入利子の制限、売却時の取得費と銀行の見え方

築年数の古い木造アパートは、中古資産の簡便法を使うと耐用年数が4年程度になり、減価償却費が大きくなります。そのため、「築古木造の減価償却で赤字を出し、給与所得と損益通算する」という説明を耳にすることがあります。

しかし、税務上の扱いを正しく理解すると、話はそれほど単純ではありません。土地部分の借入利子は損益通算できず、早く償却した分は売却時に譲渡益として戻ってきます。さらに、決算書では簿価が急速に減り、銀行から見ると債務超過に近づく要因にもなります。この記事では、国内の築古木造の減価償却と損益通算を、税務上の扱い(個人と法人)、会計上の表示、銀行の見え方、公表裁決の順に整理します。

この記事の結論
  • 木造住宅用の法定耐用年数は22年。全部経過した中古は簡便法で4年(22年×20%、端数切捨て)とできる
  • 国内の建物には、国外中古建物のような償却費の損益通算制限はない。ただし土地等を取得するための負債利子に相当する赤字は通算できない(措置法41条の4)
  • 早く償却するほど、売却時の取得費が小さくなり譲渡益が増える。税負担は消えるのではなく、時期と所得区分が移る
  • 法人には損益通算の制限はないが、大きな償却費は営業利益と純資産を削り、銀行の評価に直結する
  • 簡便法は「使い始めた年に算定」「相続取得は不可」など要件がある。裁決でも否認例がある

築古木造の減価償却:簡便法で耐用年数が短くなる仕組み

法定耐用年数と簡便法

建物の耐用年数は、構造と用途ごとに耐用年数省令で定められています。木造の住宅用建物は22年です。中古の建物を取得した場合は、法定耐用年数ではなく、取得後の使用可能期間を見積もった年数(見積法)を使えます。見積もりが困難なときは、次の簡便法で算定できます(耐用年数省令3条1項2号、国税庁タックスアンサーNo.5404 中古資産の耐用年数)。

法定耐用年数の全部を経過した資産:法定耐用年数 × 20%法定耐用年数の一部を経過した資産:(法定耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 × 20%1年未満の端数は切り捨て。2年に満たない場合は2年

築22年以上の木造住宅用建物であれば、22年×20%=4.4年で、4年になります。たとえば築15年なら、(22-15)+15×20%=7+3=10年です。

木造住宅用建物の築年数簡便法による耐用年数
築10年(22-10)+10×20%=14年
築15年(22-15)+15×20%=10年
築20年(22-20)+20×20%=6年
築22年以上22×20%=4.4年 → 4年

簡便法が使えない・変えられないケース

簡便法には、見落としやすい制限があります。

  • 算定できるのは使い始めた年だけ:見積法・簡便法による耐用年数の算定は、取得して業務に使い始めた年(法人は事業年度)にする必要があり、その年に算定しなかったときは、後の年に算定することはできません(耐用年数通達1-5-1。No.5404)
  • 資本的支出が大きい場合:取得後に大規模なリフォームなどの資本的支出をして、その金額が再取得価額の50%を超える場合などは、簡便法は使えず法定耐用年数によります(No.5404。判定基準の詳細は個別に確認が必要です)
  • 相続・贈与で取得した場合:被相続人の耐用年数を引き継ぎ、簡便法は使えないと判断した裁決があります(後述)

詳しくは中古建物の耐用年数(簡便法)と否認された事例や中古物件の減価償却と耐用年数も参照してください。

損益通算の扱い:国内の建物と土地の借入利子

国内の建物には「国外中古建物」のような制限はない

令和2年度の改正で、国外の中古建物については、簡便法などで計算した減価償却費に相当する赤字が「生じなかったもの」とみなされることになりました(租税特別措置法41条の4の3)。国税庁のタックスアンサー(No.1391)で損益通算できないものとして挙げられているのは、別荘などの貸付けの損失、土地等の負債利子、組合・信託の損失、国外中古建物の償却費相当額で、国内の中古建物の償却費についての制限はありません(海外物件については海外不動産の赤字は通算できるか)。

土地等を取得するための負債利子は通算できない

国内物件でも見落とせないのが、租税特別措置法41条の4です。不動産所得が赤字の年に、必要経費に入れた土地(借地権などを含む)を取得するための負債の利子があるときは、赤字のうちその利子に相当する部分は「生じなかったもの」とみなされます。

土地等の負債利子 > 不動産所得の損失 の場合 → 損失の全額土地等の負債利子 ≦ 不動産所得の損失 の場合 → 損失のうち土地等の負債利子の額

土地と建物を一つの契約で同じ売主から取得し、借入金を土地と建物に区分しにくい場合は、借入金はまず建物の取得に充てられ、残りが土地に充てられたものとして計算することができます(同条2項)。自己資金を入れている場合、この方法によると、土地に対応する借入金が小さくなります。借入利子の処理の全体像は借入金利子の処理と、個人の土地部分の利子の損益通算制限で解説しています。

個人と法人の違い

項目個人(所得税)法人(法人税)
不動産所得の赤字給与所得などと損益通算できる(所得税法69条)損益通算という考え方はなく、全事業の所得を合算
国内中古建物の償却費損益通算の制限なし制限なし
土地等の負債利子に相当する赤字損益通算できない(措置法41条の4)規定なし
減価償却の計上計算した償却費を必要経費に算入損金経理した金額のうち償却限度額まで(法人税法31条)
中古資産の簡便法使い始めた年に算定事業の用に供した事業年度に算定
赤字の繰越し青色申告なら翌年以後3年間(No.2070)青色申告なら10年間(平成30年4月1日以後開始事業年度分。No.5762)
売却益分離課税の譲渡所得ほかの所得と合算

給与所得との損益通算の基本は不動産所得の赤字と給与所得の損益通算をご覧ください。

売却時の取得費:償却した分は譲渡益として戻る

業務用建物の取得費

個人が業務用(賃貸用)の建物を売却したときの取得費は、取得価額から、取得してから売るまでの毎年の減価償却費の合計額を差し引いた金額です(国税庁No.3261 建物の取得費の計算)。早く償却すればするほど、売却時の取得費は小さくなり、譲渡所得が大きくなります。

譲渡所得の税率は、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるか(長期)、5年以下か(短期)で異なります。長期は所得税15%・住民税5%、短期は所得税30%・住民税9%で、いずれも所得税額に2.1%の復興特別所得税がかかります(No.3208、No.3211)。

数字で見る保有中と売却時

仮の数字で、築30年の木造アパートを個人で3,000万円(建物1,800万円・土地1,200万円)で取得し、簡便法の4年で償却する場合を見てみます。定額法の耐用年数4年の償却率は0.250です。

保有中の1年(仮定)金額
家賃収入300万円
減価償却費以外の経費90万円
借入利子60万円
減価償却費(1,800万円×0.250)450万円
不動産所得▲300万円

全額を借入れで購入していた場合、建物先充当で計算すると土地に対応する借入金は1,200万円(40%)で、利子60万円のうち24万円が土地部分です。赤字300万円のうち24万円は損益通算できず、通算できるのは276万円になります。仮に自己資金1,000万円・借入金2,000万円なら、借入金はまず建物1,800万円に充てられ、土地に充てられるのは200万円(10%)なので、通算できない部分は6万円になります。

次に、6年後(4年で建物の償却がほぼ終わった後)に2,800万円で売却したとします。

売却時金額
譲渡価額2,800万円
取得費(土地1,200万円+建物の未償却残高 ほぼ0円)約1,200万円
譲渡所得(譲渡費用控除前)約1,600万円

購入価格より安く売っていても、償却で費用にした1,800万円が、売却時には譲渡益として現れます。保有中の赤字で減った税額と、売却時に増える税額は、税率も所得区分も異なるため一致しません。その差だけを見て「有利」と説明されることがありますが、空室・修繕・売却価格の不確実性、借入の条件、次に見る銀行の評価への影響を含めて判断する必要があります。売却時の税金は不動産売却の譲渡所得税も参照してください。

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会計上の扱い:税務の耐用年数と決算書の表示

税務上の減価償却と、決算書(企業会計)上の減価償却は、目的が違います。

法人の決算書は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP。中小企業であれば「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」)に沿って作ります。中小企業の会計に関する基本要領では、有形固定資産は定率法・定額法などの方法により「相当の減価償却」を行うとされ、耐用年数は法人税法に定める期間などを使うのが一般的とされています。簡便法による4年も法人税法上の耐用年数なので、それを使えば、4年間は毎年大きな減価償却費が計上されます。

ここで注意したいのは2点です。

  • 償却費は、計上する区分を選ぶものではない:賃貸建物の減価償却費は、本業の費用として販管費(または賃貸原価)に入るのが通常です。営業利益を守るために特別損失に回すような性質のものではありません。決算書の表示区分は、取引の実態に沿ってGAAPで判断します
  • 利益を見せるために償却を止めるのは別問題:法人税法上、償却は損金経理した金額のうち限度額までなので、償却を少なくしても税務上は問題になりません。しかし会計上は「相当の減価償却」が求められ、銀行は償却不足を調整して決算書を見るのが一般的です(法人の任意償却と償却不足を銀行はどう見るか)

個人の場合は、確定申告書と青色申告決算書(収支内訳書)が銀行に提出される決算書の役割を果たします。

銀行からの見え方:債務超過と償却前利益

築古木造の短い耐用年数は、銀行の評価に次のように映ります。

指標築古木造を短期で償却した場合の影響
営業利益・経常利益償却期間中は大きく減り、赤字になりやすい
償却前利益(営業利益+減価償却費)償却費を足し戻すため、家賃の現金収支が十分なら大きくは崩れない
ICR分子に営業利益を使う場合、償却費が大きいと1.0を割ることがある
純資産建物の簿価が4年程度でほぼゼロになり、借入金は残るため、債務超過に近づく
債務償還年数著書のモデルでは(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)。償却費は足し戻されるが、借入金が大きいと長くなる
融資期間法定耐用年数を超えた木造は、残存耐用年数を基準に期間を短く設定されることが多い

税金が減って現金が残る一方で、決算書上は利益も純資産も小さく見える、というのが築古木造の特徴です。銀行は償却前利益で返済力を見てくれることもありますが、純資産がマイナスの債務超過になると、格付け上は大きなマイナスになります。

2019年、著者が複数の銀行から「あなたには、貸せません」と言われ融資が止まった原因も、減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の価格(簿価)よりも負債の金額のほうが大きくなる債務超過の状態に陥っていたことでした。償却の速さは、税務上は正しい処理でも、銀行から見れば別の評価になります。減価償却と銀行の関係は減価償却費と銀行の見方、減価償却が大きい物件のリスク、融資期間との関係は融資期間と耐用年数で詳しく解説しています。

公表裁決事例:簡便法と土地・建物の区分

築古木造そのものの事例ではありませんが、中古建物の簡便法や土地・建物の区分、土地の負債利子の制限について、国税不服審判所の公表裁決があります。

平成24年3月1日裁決:相続で取得した建物に簡便法は使えない

  • 事案:不動産貸付業を営む個人が、配偶者から相続した鉄筋コンクリート造の賃貸マンションなどについて、簡便法で算定した耐用年数により償却費を計算し、不動産所得を申告した
  • 争点:相続により取得した減価償却資産に、耐用年数省令3条1項の中古資産の耐用年数(簡便法等)を使えるか
  • 判断:相続による取得では、被相続人の取得価額だけでなく、取得時期・経過年数・未償却残高とあわせて耐用年数も引き継ぐことが前提とされており、簡便法等によることはできない。被相続人が使っていた法定耐用年数によるべきとして、更正処分を適法とし、審査請求を棄却
  • 実務への示唆:相続した築古物件を「中古だから簡便法」とすることはできない。購入した物件と相続した物件で扱いが違う
  • 一次情報:国税不服審判所 公表裁決事例(平成24年3月1日裁決)

平成25年12月17日裁決:後の事業年度に簡便法へ変更することはできない

  • 事案:不動産賃貸業を営む法人が、取得した中古建物について法定耐用年数で償却していたが、後の事業年度に見積法等による耐用年数へ変更した。変更は、以前の調査担当職員の誤った指導にもとづくものだった
  • 判断:見積法等による算定は事業の用に供した最初の事業年度に限られ、後の事業年度に変更することはできない。職員の指導を信じたことに納税者の責めはないとしつつ、信義則の適用を認めるほどの特別の事情はないとして、更正処分を適法とし、審査請求を棄却
  • 実務への示唆:耐用年数は取得した年(期)の申告で決まる。後から直せないため、購入時に税理士と確認する
  • 一次情報:国税不服審判所 公表裁決事例(平成25年12月17日裁決)

平成12年12月28日裁決(裁決事例集No.60):土地・建物の区分と附属設備

  • 事案:会社員が賃貸用の区分マンションを土地・建物一括で購入し、売買契約書に土地・建物の内訳がなかった。路線価から土地の価額を出して差し引く方法で建物価額を計算していた
  • 判断:一括購入で内訳がない場合は合理的な方法による区分が必要で、この事案では、差引法より、固定資産税評価額の比によるあん分法のほうが合理的とした。あわせて、鉄筋コンクリート造のマンションでは建物本体と建物附属設備を別の耐用年数で計算する必要がある(木造等の附属設備は、耐用年数通達2-2-1により建物本体と一括できる取扱いがあることにも触れている)とした。簡便法の算定や、土地等の負債利子に対応する赤字を措置法41条の4により損益通算の対象外とする計算も示し、更正処分は一部取消しとなった
  • 実務への示唆:土地・建物の区分は、減価償却費の大きさにも、措置法41条の4で通算できない利子の計算にも影響する。売買契約書で内訳を明らかにしておくことが基本
  • 一次情報:国税不服審判所 公表裁決事例(平12.12.28裁決、裁決事例集No.60 157頁)

実務のチェックポイント

  1. 売買契約書で土地・建物(附属設備)の内訳が明らかか。ない場合の区分方法と根拠資料を残す
  2. 簡便法を使うなら、取得した年の申告で算定する。相続・贈与で取得した物件には使えない
  3. 取得後すぐの大規模リフォームは、資本的支出の金額によって簡便法が使えなくなることがある
  4. 赤字の年は、土地等の負債利子に相当する部分を計算し、損益通算から除く。建物先充当の方法も検討する
  5. 売却時は、償却費の累計を差し引いた取得費で譲渡所得を計算する。所有期間5年の判定(売却した年の1月1日時点)も確認する
  6. 法人なら、償却期間中の営業利益・純資産・債務償還年数を試算し、債務超過にならない資金計画と銀行への説明を用意する
  7. 税金の増減だけで判断せず、空室・修繕・融資期間・出口の価格まで含めて検討する

まとめ

  • 木造住宅用の法定耐用年数は22年。全部経過した中古は簡便法で4年とでき、減価償却費は大きくなる
  • 国内の建物には、国外中古建物のような償却費の損益通算制限はない。ただし土地等の負債利子に相当する赤字は通算できない
  • 早く償却した分は、売却時に取得費が小さくなり譲渡益として戻る。税負担は消えず、時期と所得区分が移るだけ
  • 法人には損益通算の制限はないが、短い耐用年数は営業利益と純資産を削り、銀行からは債務超過のリスクとして見られる
  • 簡便法は使い始めた年に限られ、相続取得には使えない。裁決でも否認例がある

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よくある質問

築22年を過ぎた木造アパートの耐用年数は何年になりますか?
木造の住宅用建物の法定耐用年数は22年です。法定耐用年数の全部を経過した中古建物を取得し、使用可能期間の見積りが困難な場合は、簡便法により法定耐用年数の20%(22年×20%=4.4年、1年未満切捨てで4年)を耐用年数とできます。ただし、簡便法を使えるのは取得して使い始めた年に算定した場合に限られ、取得後の資本的支出が大きい場合や、相続で取得した場合には使えないなどの制限があります。
築古木造の赤字は、給与所得と損益通算できますか?
国内の建物については、国外中古建物のような減価償却費に関する損益通算の制限は設けられていません。ただし、不動産所得の赤字のうち、土地等を取得するための借入金の利子に相当する部分は損益通算できません(租税特別措置法41条の4)。法人の場合は損益通算という考え方はなく、ほかの事業の所得と合算されます。
減価償却を早く進めると、売却するときにどう影響しますか?
個人が業務用の建物を売却するときは、取得価額から減価償却費の累計額を差し引いた金額が取得費になります。償却が進んでいるほど取得費が小さくなり、その分、譲渡所得(売却益)が大きくなります。保有中に経費になった金額が、売却時に譲渡益として現れる仕組みで、税負担がなくなるわけではありません。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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