「この物件、利回りはいいけれど、融資期間が15年しか出ないと言われた」。築年数の古い物件を検討していると、必ずぶつかるのが融資期間と耐用年数の問題です。
多くの金融機関は、建物の法定耐用年数の残りを融資期間の目安にしています。築古物件ほど期間が短くなり、毎月の返済が重くなる。だからこそ「耐用年数超え」の長期融資が魅力的に見えるのですが、そこには落とし穴もあります。この記事では、両者の関係と、銀行の見方、出口のリスクまでを整理します。
- 融資期間は、建物の法定耐用年数の残りを目安に決められることが多い(RC47年・重量鉄骨34年・木造22年など)
- 同じ1億円・金利2%でも、15年返済と30年返済では年間返済額が300万円以上違う。築古物件はキャッシュフローが出にくい
- 耐用年数超えの融資は返済が軽くなる一方、元金が減らず実態BSが傷みやすい。金利も高めになりやすい
- 売却時には次の買い手の融資期間が短くなるため、買い手が限られ、価格が下がりやすい
融資期間は「残りの耐用年数」が目安になる
構造ごとの法定耐用年数
税法で定められた住宅用建物の法定耐用年数は、構造によって次のとおりです。
| 構造 | 法定耐用年数(住宅用) |
|---|---|
| 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造(RC) | 47年 |
| 重量鉄骨造(骨格材の肉厚4mm超) | 34年 |
| 軽量鉄骨造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下) | 27年 |
| 木造 | 22年 |
多くの金融機関は、この法定耐用年数から築年数を差し引いた残りの耐用年数を、融資期間の上限の目安にしています。たとえば築20年のRCなら残り27年、築15年の木造なら残り7年です。
銀行が残りの耐用年数を見る理由
銀行にとって、建物は担保であると同時に、返済の原資である家賃を生む資産です。建物が使えなくなる前に融資を返し終えてほしい、というのが基本的な考え方です。法定耐用年数は建物の実際の寿命ではありませんが、全国共通で客観的に使える物差しとして、審査の目安に使われています。
ただし、目安の置き方は一律ではありません。建物の状態を専門家が調べた経済的耐用年数(あと何年使えるか)の評価をもとに、法定耐用年数の残りを超える期間で融資する金融機関もあります。逆に、残りの耐用年数よりさらに短くする金融機関もあります。金融機関の種類による違いは、信用金庫と地方銀行の違いも参考にしてください。
融資期間で、返済額とキャッシュフローはここまで変わる
融資期間が短くなると、毎月の返済額が大きくなります。1億円を金利2%・元利均等返済で借りた場合の年間返済額を比べてみます。
| 融資期間 | 毎月の返済額 | 年間返済額 |
|---|---|---|
| 15年 | 約64万円 | 約772万円 |
| 20年 | 約51万円 | 約607万円 |
| 25年 | 約42万円 | 約509万円 |
| 30年 | 約37万円 | 約444万円 |
仮に、家賃収入から運営費や固定資産税を差し引いた手残り(NOI)が年600万円の物件だとすると、30年返済なら年156万円ほどのプラスですが、15年返済では年172万円ほどの持ち出しになります。同じ物件でも、融資期間だけで「回る物件」にも「回らない物件」にもなるわけです。
一方で、短い融資期間には良い面もあります。1年目に返す元金は、30年返済なら約246万円ですが、15年返済なら約577万円。借入が早く減り、純資産が積み上がるスピードが速いのです。キャッシュフローを取るか、BSの改善を取るか。融資期間の選択は、この2つのバランスの問題でもあります。
耐用年数超えの融資|メリットとリスク
メリット:返済が軽くなり、キャッシュフローが出る
耐用年数の残りを超える長期の融資を受けられれば、築古でも毎月の返済が軽くなり、手元にお金が残りやすくなります。利回りの高い築古物件を、長期融資で買う。キャッシュフローだけを見れば、非常に魅力的な組み合わせです。
リスク1:元金が減らず、実態BSが傷む
長期の融資は、元金の減りが遅くなります。一方で、築古の建物は、銀行の評価の上では年々価値が下がり、いずれはゼロに近くなります。建物の評価が下がる速さに、借入の返済が追いつかない。その結果、物件単位で見ると借入が評価額を上回る、実質的な債務超過の状態が長く続きます。
銀行は物件を評価し直した実態BSで格付けをするため、こうした物件が増えるほど、会社全体の格付けが下がり、次の融資が受けにくくなります。
リスク2:金利が高めになり、ICRが下がる
耐用年数を超える融資は、銀行にとってリスクの高い融資です。そのため、金利が高めに設定されることが少なくありません。金利が高いほど支払利息が増え、ICR(利息の何倍の利益があるか)が下がります。金利上昇の局面では、さらに影響が大きくなります。
リスク3:償却が先に終わり、デッドクロスが早く来る
中古物件を簡便法で短い年数で償却していると、償却は数年で終わるのに、返済は20年、30年と続きます。償却が終わると帳簿上の利益が増え、税金が増える一方、元金の返済は経費になりません。黒字なのにお金が残らないデッドクロスが早く訪れます。仕組みと対策はデッドクロスとは?で解説しています。
出口のリスク|次の買い手が融資を受けられるか
耐用年数と融資期間の問題は、買うときだけでなく、売るときにも効いてきます。
著書でも取り上げた例ですが、築20年のRCを買って15年持つと、売却時には築35年、残りの法定耐用年数は12年です。次の買い手が、残りの耐用年数を目安に融資を受けるなら、融資期間は最長でも12年程度。返済が重くなるため、同じ価格では買える人が限られ、売却価格を下げなければ売れない可能性が高くなります。
自分が耐用年数超えの融資で買えたとしても、次の買い手が同じ条件で借りられるとは限りません。融資市況が緩やかな時期なら買い手も長期融資を受けられますが、市況が厳しくなれば、築古物件は「売りたくても売れない物件」になります。
| 買い方 | 保有中 | 売却時 |
|---|---|---|
| 残りの耐用年数内の融資 | 返済は重いが、元金が早く減る | 残債が少なく、売却価格が下がっても対応しやすい |
| 耐用年数超えの長期融資 | 返済は軽いが、元金の減りが遅い | 残債が多いまま、買い手が限られ価格が下がると、売っても借入が残るおそれ |
長く持ち続け、家賃で回収しきって最後は土地として売る、という戦略もあり得ます。その場合も、途中で売る必要が出たときに動けるかを考えておくべきです。
融資期間を延ばしたいときに検討できること
築古物件でも、融資期間について交渉の余地がないわけではありません。金融機関によって扱いは異なりますが、次のような材料が判断に使われることがあります。
- 建物の状態を示す資料:建物状況調査やエンジニアリングレポートなど、専門家が建物の劣化状況や残りの使用可能期間を評価した資料
- 修繕の履歴:外壁・屋上防水・給排水管などの大規模修繕をいつ、いくらで行ったかの記録と、今後の修繕計画
- 自己資金を厚く入れる:借入額が小さくなれば、金融機関のリスクが下がり、条件を検討してもらいやすくなる
- ほかの資産の担保や、会社全体の財務:物件単体ではなく、借り手の格付けや純資産の厚みで判断される部分もある
ただし、無理に期間を延ばすことが正解とは限りません。最終的に問われるのは「この会社に、この物件で、次も貸せるか」です。期間を延ばすために高い金利を受け入れるより、自己資金を入れて期間内で回る計画にしたほうが、会社全体のBSと格付けにとって良い結果になることも多くあります。条件の良い金融機関への借り換えを検討する場合は、借り換えのメリットと注意点も参考にしてください。
融資期間を決める前に確認したい4つのこと
- キャッシュフロー:選んだ融資期間で、空室や修繕が出ても返済が回るか
- 購入後のBS:物件単位で実質的な債務超過にならないか、会社全体の格付けにどう響くか
- 償却期間とのずれ:減価償却がいつ終わり、そこからの税金と返済がどうなるか
- 出口:何年後に、いくらで、どんな買い手に売れるか。その買い手は融資を受けられるか
実際に、築古の木造アパートを、減価償却が早く取れることを理由に、融資がつくまま立て続けに買った投資家の方の事例があります。税金は減りましたが、銀行の評価がつきにくい資産がBSに積み上がり、後に財務の立て直しを迫られる原因のひとつになりました。融資が出ることと、買ってよいことは別の話です。
まとめ
- 融資期間は、建物の法定耐用年数の残りを目安に決められることが多い
- 融資期間でキャッシュフローは大きく変わる。短い期間は返済が重い一方、元金が早く減りBSが強くなる
- 耐用年数超えの融資は、実態BSの悪化・高い金利・早いデッドクロスのリスクがある
- 売却時は次の買い手の融資期間が短くなる。出口まで含めて試算する
耐用年数と減価償却の計算方法は、中古物件の減価償却と耐用年数の計算で解説しています。物件ごとの融資期間の妥当性や、購入後のBSの試算は、不動産投資家向けのサービスでご相談ください。
