同じ物件を同じ価格で売っても、いつ売るかによって、売却益が入る決算期や申告の年が変わります。法人なら、売却益が今期の決算に入るか来期に入るかで、銀行に出す決算書の姿が大きく変わります。個人なら、年末に売るか年明けに売るかで、長期譲渡・短期譲渡の判定が変わり、税率が倍近く違うこともあります。
この記事では、売却損益の計上時期のルール(引渡基準と契約日基準)、法人と個人の違い、決算期をまたぐ売却の考え方、引渡日が争われた公表裁決と最高裁判決、決算書の表示と銀行の見え方を整理します。
- 不動産の売却損益は、原則として引渡しの日の属する事業年度(個人は年)に計上する。土地・建物は契約の効力発生日を選ぶこともできる(法人税基本通達2-1-14、所得税基本通達36-12)
- 「引渡しの日」は契約書の文言だけでなく、代金の大部分の受領や登記書類の交付など、実質的な支配の移転で判断されるとした裁決がある
- 個人の長期・短期は譲渡した年の1月1日時点で5年超かで判定。年末と年明けで税率が変わることがある
- 法人は、決算期をまたぐ売却でどの期の決算書に売却益・売却損が出るかが変わる。銀行への説明は、売却の計画とセットで準備する
- 計上時期の選択は継続性と実態が前提。利益調整のための使い分けや、実態と異なる日付での計上はしない
売却損益の計上時期のルール
法人:引渡基準が原則、土地建物は契約日基準も可
国税庁の法人税基本通達2-1-14は、固定資産の譲渡に係る収益の額は、原則としてその引渡しがあった日の属する事業年度の益金に算入するとしています。ただし、土地、建物その他これらに類する資産については、法人が譲渡に関する契約の効力発生の日に収益計上を行っているときは、その日を引渡しの日に近接する日として認めています。
個人:同じく引渡日が原則、契約日も選択可
個人の譲渡所得については、所得税基本通達36-12が、総収入金額の収入すべき時期を資産の引渡しがあった日とし、納税者の選択により、契約の効力発生の日で申告することも認めています。同通達の注書きは、引渡しの日は当事者間の支配の移転の事実(たとえば土地の所有権移転登記に必要な書類等の交付)に基づいて判定し、原則として代金の決済を了した日より後にはならないとしています。
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 原則 | 引渡しの日の属する事業年度 | 引渡しの日の属する年 |
| 選択できる日 | 土地・建物などは契約の効力発生日 | 契約の効力発生日 |
| 期間の区切り | 会社が定めた事業年度(決算期) | 1月1日〜12月31日 |
| 所有期間による税率の違い | なし(他の所得と合算) | 1月1日時点で5年超なら長期、5年以下なら短期 |
| 売却損の使い道 | 他の利益と相殺、欠損金として10年繰越し | 他の土地建物の譲渡益とのみ相殺 |
個人の「5年」の判定
個人の土地・建物の譲渡所得は、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで、長期譲渡所得と短期譲渡所得に分かれ、税率が大きく違います。たとえば取得から5年と少し経った12月に引き渡すと、その年の1月1日時点ではまだ5年以下なので短期譲渡所得になることがあります。翌年1月以降の引渡しにすれば長期譲渡所得になる、というケースです。税率と計算の基本は不動産売却の税金で解説しています。
公表裁決と判例:「引渡し」はどう判断されるか
昭和62年1月30日裁決(裁決事例集No.33・63頁):登記書類を渡した日が引渡日
- 事案:法人が土地を売った。契約書では、土地の引渡しと同時に残金を支払うとされていた。法人は、占有を移し、残代金を決済した日が引渡日であると主張した
- 判断:土地の引渡しの日とは、現実の占有移転の時期や契約書上の引渡しの時期に関する文言だけにとらわれず、実質的にその資産に対する支配関係の変動があった時期がいつかという観点から判断すべきとされた。本件では、売買代金の大部分の支払を受け、所有権移転登記の申請に必要なすべての書類を引き渡した日を引渡しの日とするのが相当とされた
昭和58年1月27日裁決(裁決事例集No.25・71頁):テナントの立退き前でも引渡し済み
- 事案:テナントを立ち退かせて引き渡す特約のある土地建物の譲渡で、立退きは未了だった
- 判断:売主は代金の77.8%を受領し、所有権移転登記がされ、買主は権利証を担保に取得資金を借り入れ、売主は買主から委任を受けて物件の賃貸・管理をしていたことなどから、実質的な引渡しは完了しているとして、譲渡益を当期に計上した原処分が相当とされた
(いずれも国税不服審判所 公表裁決事例要旨「土地建物等の譲渡収益」)
最高裁平成5年11月25日判決(大竹貿易事件):収益計上と公正処理基準
不動産の事案ではありませんが、収益の計上時期を考えるときの基本となる判例です。最高裁判所第一小法廷平成5年11月25日判決(平成4年(行ツ)第45号、民集47巻9号5278頁)は、船荷証券が発行されている商品の輸出取引について、船積みの時点で収益を計上する会計処理は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合する一方、取引銀行による荷為替手形の買取りの時点で計上する処理は適合しないと判断しました(裁判所)。
実務への示唆:計上時期は、契約書の文言や代金の受取り時期だけで決まるのではなく、資産の支配がいつ移ったかという実態で判断されます。「決済は翌期だから翌期の売上」と考えていても、当期中に代金の大部分を受け取り、登記書類を渡していれば、当期の計上とされることがあります。また、大竹貿易事件が示すように、計上の基準は合理的で継続的なものでなければならず、都合のよい時点を選べるわけではありません。これらは個別の事実関係に基づく判断であり、すべての取引に同じ結論が当てはまるわけではありません。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと決算書の表示
決算書にいつ・どこに計上するかは、企業会計の基準で判断します。ここでいう基準は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)のことで、中小企業であれば企業会計原則、「中小企業の会計に関する指針」「中小企業の会計に関する要領」などが中心です。法人税法22条4項も、収益の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すると定めています。
- 計上時期:会計上も、資産の支配が買主に移った時点(通常は引渡し・決済の時点)で売却損益を認識するのが基本です。契約日で計上する処理を採るなら、毎期同じ方針で継続します
- 表示区分:賃貸用の固定資産の売却損益は、原則として特別利益・特別損失に表示します。販売用不動産なら売上高・売上原価です
- 期末をまたぐ売却:期末時点で契約済み・未引渡しの物件は、まだ自社の資産として計上し、重要であれば翌期に売却予定であることを注記などで説明することが考えられます
税務上の計上時期(引渡基準・契約日基準)と、会計上の計上時期・表示区分は、多くの場合一致しますが、考え方の出発点は別です。決算書の表示区分(特別利益か売上高か)は、企業会計の基準に沿って取引の実態から判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
決算期をまたぐ売却と銀行の見え方
どの期の決算書に何が出るか
法人が物件を売る場合、売却損益がどの期の決算書に載るかで、銀行の評価が変わります。
| ケース | 当期の決算書 | 翌期の決算書 |
|---|---|---|
| 売却益が出る物件を期末直前に引渡し | 特別利益で当期純利益・純資産が増える。借入返済で負債が減る | 物件の家賃収入がなくなる |
| 売却益が出る物件を期末直後に引渡し | 物件と借入がそのまま残る | 特別利益と借入返済が載る |
| 売却損が出る物件を期末直前に引渡し | 特別損失で純資産が減る。借入返済で債務償還年数は改善しうる | 家賃収入がなくなる |
| 取壊しと売却が期をまたぐ | 除却損・解体費用だけが出る | 土地の売却損益が出る |
債務償還年数と純資産で考える
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金 − 現預金)÷(経常利益 + 減価償却費 − 法人税等)」で計算します。物件を売って借入を返済すると、分子が大きく減るため、売却が期末前に完了していれば、その期の決算書で債務償還年数が改善して見えます。売却益が出れば純資産も増えます。
反対に、売却損が出る物件を売る場合は、純資産が減ります。純資産が薄い会社では、売却損で債務超過に陥らないか、どの期に損を出すと影響が小さいかを事前に試算しておく必要があります。売却損の表示と銀行の見え方は不動産の売却損は特別損失?で解説しています。繰越欠損金がある場合の売却益の扱いは繰越欠損金と物件の売却益をご覧ください。
銀行には「次の期の姿」も伝える
売却益が出た期の決算書は、純資産が増え、借入が減り、見た目は良くなります。しかし、銀行は翌期以降の家賃収入の減少も見ています。売却した物件の家賃収入がなくなった後の経常利益の見込み、売却代金の使い道(返済・次の物件の取得・手元資金)を、決算書と一緒に説明できるようにしておきましょう。決算期そのものの選び方は法人の決算期の決め方が参考になります。
消費税と納税資金のタイミング
建物の売却は2年後の納税義務に影響する
課税事業者・免税事業者の判定は、原則として基準期間(法人は2期前、個人は2年前)の課税売上高で行います。建物の売却代金は課税売上高に含まれるため、ある期に建物を売ると、2期後(2年後)に消費税の課税事業者になることがあります。売却の時期は、消費税の納税義務の面からも確認が必要です。詳しくは建物を売ったときの消費税を参照してください。
納税と予定納税の時期
売却益が大きい期は、法人税等の納税額が増え、翌期には中間申告(予定納税)の負担も増えます。売却代金を次の物件の取得や返済に使い切ってしまうと、納税資金が不足しかねません。前期の実績で計算する予定申告と、仮決算による中間申告の違いは中間申告と予定納税の仕組みで解説しています。
実務のチェックポイント
| タイミング | 確認すること |
|---|---|
| 売却の検討時 | 引渡日(または契約日)がどの事業年度・どの年に入るかを確認したか |
| 売却の検討時 | 個人の場合、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるか確認したか |
| 売却の検討時 | 売却益・売却損が出る期の純資産・債務償還年数を試算したか |
| 売却の検討時 | 建物の売却代金が2期後(2年後)の消費税の納税義務に与える影響を確認したか |
| 契約時 | 契約日・決済日・引渡日・登記書類の交付日を、実際の取引の予定どおりに契約書に定めたか |
| 決算時 | 引渡基準・契約日基準のどちらを採るか、毎期同じ方針で処理しているか |
| 決算時 | 期末に契約済み・未引渡しの物件がある場合、計上時期の判断と根拠を記録したか |
| 銀行への説明 | 売却した期と翌期の決算書の見え方、売却代金の使い道を説明する資料を用意したか |
まとめ
- 不動産の売却損益は原則として引渡しの日で計上し、土地・建物は契約の効力発生日も選べる(法人税基本通達2-1-14、所得税基本通達36-12)
- 引渡しの日は、代金の大部分の受領や登記書類の交付など、実質的な支配の移転で判断されるとした裁決がある。大竹貿易事件の最高裁判決は、計上基準が公正妥当な会計処理の基準に適合することを求めている
- 個人は譲渡した年の1月1日時点の所有期間で長期・短期が決まる。年末と年明けで税率が変わることがある
- 法人は、決算期をまたぐ売却で売却損益が出る期が変わる。表示区分はGAAPに沿って実態で判断し、計上時期の選択は継続性と実態が前提
- 銀行には、売却した期の決算書だけでなく、翌期の収益の見通しと売却代金の使い道をセットで説明する
売却の時期と決算期の関係、決算書の見せ方まで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
