「今月末の支払いは大丈夫だろうか」。通帳の残高を眺めて、毎月同じ不安を抱えている経営者は少なくありません。決算では黒字なのに、なぜかいつもお金が足りない。その原因の多くは、資金繰り表を作っていないことにあります。
この記事では、資金繰り表の作り方を、社内で回すための最低限の形と、銀行に見せるときの形式の両方から解説します。融資の審査で資金繰り表がどう読まれるかも、銀行との折衝を数多く経験してきた立場からお伝えします。
- 資金繰り表は「月初の残高+入金−出金=月末の残高」を、経常収支・設備等の収支・財務収支の3段に分けて作る
- 売上・仕入は「計上した月」ではなく「お金が動く月」に入れる。ここを間違えると表の意味がなくなる
- 見落としやすいのは借入の元金返済、納税(予定納税・消費税)、賞与、保険料
- 銀行は資金繰り表で「経常収支がプラスか」「返済原資があるか」「経営者が数字を把握しているか」を見ている
- 不足が見えたら、残高が尽きる3か月以上前に相談するのが鉄則
資金繰り表とは|損益計算書では見えない「お金の流れ」
資金繰り表は、一定期間(通常は1か月ごと)に会社へ入ってくるお金と出ていくお金を並べ、月末にいくら残るかを予測する表です。
損益計算書(PL)との違いは、タイミングにあります。たとえば4月に1,000万円の売上を計上しても、取引先からの入金が6月末なら、4月と5月の現預金は1円も増えません。一方で、仕入代金や給与、家賃は待ってくれません。
| 項目 | 損益計算書 | 資金繰り表 |
|---|---|---|
| 売上 | 納品・役務提供した月に計上 | 入金された月に記入 |
| 仕入・外注費 | 仕入れた月に計上 | 支払った月に記入 |
| 借入の元金返済 | 載らない(費用ではない) | 支出として記入 |
| 減価償却費 | 費用として載る | 載らない(お金は出ていかない) |
| 設備の購入 | 一部(減価償却費)だけ載る | 支払額の全額を記入 |
| 法人税等 | 決算時に計上 | 納付した月に記入(予定納税も) |
特に重要なのが借入の元金返済です。元金返済は費用ではないため、PLにはどこにも出てきません。「利益は出ているのに、なぜか現預金が減っていく」会社の多くは、利益(正確には税引後利益+減価償却費)よりも元金返済のほうが多い状態にあります。資金繰り表を作ると、この事実が一目でわかります。
銀行に見せる資金繰り表の基本形式
社内用であれば、入金と出金を並べるだけの簡単な表でもかまいません。ただし銀行に提出するなら、次の3区分で作るのが一般的です。銀行員が見慣れた形式で出すと、読み取ってほしいポイントがすぐ伝わります。
1. 経常収支(本業のお金の出入り)
| 区分 | 主な項目 |
|---|---|
| 経常収入 | 現金売上、売掛金の回収、受取手形の期日入金、その他の営業収入 |
| 経常支出 | 現金仕入、買掛金の支払、支払手形の決済、人件費、家賃、外注費、その他経費、支払利息 |
| 経常収支 | 経常収入 − 経常支出 |
2. 設備等の収支(投資や臨時の出入り)
固定資産の購入・売却、保険の解約返戻金、法人税・消費税等の納付などを入れます。税金は経常支出に含める形式もありますが、金額が大きく時期が決まっているので、別の行に分けておくと見落としが減ります。
3. 財務収支(借入と返済)
| 区分 | 主な項目 |
|---|---|
| 財務収入 | 新規借入、増資 |
| 財務支出 | 借入金の元金返済(金融機関ごとに行を分ける) |
| 財務収支 | 財務収入 − 財務支出 |
最後に「月初残高+経常収支+設備等の収支+財務収支=月末残高」として、翌月の月初残高につなげます。
経常収支がプラスかどうかです。本業でお金が増えている会社は、借入の返済原資がある会社です。経常収支がマイナスで、それを新規借入(財務収入)で埋めている状態が続くと、「借りて返している会社」と判断されます。
資金繰り表の作り方|5つの手順
手順1:直近の実績を3か月分埋める
いきなり予測から始めず、まず通帳と試算表から過去3か月の実績を入れます。実績を入れてみると、「毎月この程度の経費が出ている」「この取引先は締め後60日で入金される」といった、自社のお金のクセが見えてきます。
手順2:売上の入金予定を「回収条件」で並べる
売上計画を、取引先ごとの回収条件(月末締め翌月末払い、翌々月10日払いなど)で入金月にずらします。売上が伸びている会社ほど、売上の増加と入金のズレで資金が足りなくなることに注意してください。増収局面の資金不足は、運転資金の融資で手当てするのが一般的です(運転資金の融資と必要額の計算で詳しく解説しています)。
手順3:固定的な支出を先に入れる
給与、社会保険料、家賃、リース料、借入の元金と利息など、金額と時期がほぼ決まっている支出を先に入れます。借入は金融機関ごとに行を分け、返済予定表から月々の元金を転記します。
手順4:「年に数回の大きな支出」を拾う
資金ショートの原因になるのは、毎月の経費よりも、年に数回しか来ない大きな支出です。
- 法人税・住民税・事業税の確定申告分と予定納税(中間申告)
- 消費税の確定分と中間納付
- 賞与と、賞与にかかる社会保険料
- 源泉所得税(納期の特例を受けている場合は年2回まとめて納付)
- 損害保険・生命保険の年払い、固定資産税
特に予定納税は、前期の業績が良かった会社ほど大きくなります。今期の業績が落ちているのに前期基準で高額の予定納税が来ると、資金繰りを大きく圧迫します。この場合、仮決算による中間申告で納付額を抑えられることがあります。事務所では、年商5〜10億円規模の不動産売買・賃貸業のお客さまに中間申告をご提案し、予定納税を減らして資金繰りに余裕をつくった事例があります。仕組みは中間申告と予定納税の記事で解説しています。
手順5:月末残高の「下限ライン」を決める
月末残高がマイナスにならなければよい、ではありません。月中の入出金のズレや突発的な支出に備え、「これを下回ったら動く」という下限ラインを決めておきます。目安として月商の1か月分程度を置く会社が多いですが、業種や入金サイクルによって適正水準は変わります。
よくある失敗と、精度を上げるコツ
最初に作った資金繰り表は、たいてい楽観的になります。よくある失敗は次の3つです。
- 売上の入金を早く見すぎる:回収条件どおりに入金されない取引先を、条件どおりに入れてしまう。実績の入金日を見て、遅れがちな先は1か月後ろにずらしておく
- 消費税を売上に含めたまま忘れる:入金額には消費税が含まれていますが、そのお金は納付のときに出ていきます。売上の入金が増える月ほど、後の納付も大きくなります
- 作って終わりにする:毎月、前月の予測と実績を比べ、ずれた理由を確認する。この「予実の確認」を3か月続けると、表の精度は目に見えて上がります
予測と実績のずれを毎月説明できるようになると、銀行に出したときの説得力も変わります。「先月は入金が1社遅れたが、今月回収済み」と言える経営者は、数字を把握している経営者として信頼されます。
銀行は資金繰り表のどこを見ているか
融資の相談で資金繰り表を出すと、銀行員は次のような点を確認します。
| 銀行が見る点 | 確認していること |
|---|---|
| 経常収支の水準 | 本業でお金が増えているか。返済原資はあるか |
| 財務支出(元金返済)との比較 | 経常収支だけで約定返済をまかなえているか |
| 売上入金の前提 | 計画の売上が実績と比べて楽観的すぎないか |
| 借入の資金使途 | 申し込んだ融資が、表のどの不足を埋めるものか |
| 試算表との整合 | 資金繰り表の数字と、試算表・通帳がつじつまが合うか |
特に重要なのは、申し込む融資の金額と資金繰り表の不足額が一致していることです。「とりあえず3,000万円借りたい」ではなく、「6月に賞与と納税が重なり、売掛金の回収が7月にずれるため、6月末に約2,000万円不足する。だから2,000万円を運転資金として借りたい」と説明できれば、資金使途の説明として十分な説得力を持ちます。
また、試算表と資金繰り表の数字が合っていない会社は、それだけで信頼を落とします。月次の試算表を早く正確に締めることが、資金繰り表の精度の前提です(試算表を銀行に出すときの注意点も参考にしてください)。
不足が見えたら|残高が尽きる前の打ち手
資金繰り表を作ると、数か月先の不足が見えることがあります。ここで大切なのは、見えた時点ですぐ動くことです。
- 銀行に相談する(3か月以上前に):融資の審査には時間がかかります。保証協会付きや制度融資であれば、さらに日数を見ておく必要があります。直前の駆け込みは「計画性のない会社」という評価につながり、条件も悪くなりがちです。
- 回収と支払の条件を見直す:大口取引先の回収サイトを短くする、前受金をもらう、仕入先と支払条件を相談する。
- 納税の方法を検討する:予定納税の仮決算、源泉所得税の納期の特例など、制度の範囲で支出の時期を整える。滞納は融資審査に大きく響くので、納税自体を遅らせるのは避けます。
- 不要な資産を現金化する:遊休資産や保険の見直し。
それでも返済が難しい見込みなら、早めに返済条件の変更(リスケジュール)を相談する選択肢もあります。影響と正常化までの流れはリスケの影響と正常化までの道筋で解説しています。
資金繰り表は「借りる力」をつくる道具
私自身、不動産投資を拡大していた2019年に、融資が止まった経験があります。減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の価格(いわゆる「簿価」)よりも負債の金額のほうが大きくなる、債務超過の状態に陥っていたのです。いま振り返ると、物件ごとの収支は見ていても、会社全体の「いつ、いくら残るか」を先回りして見ていなかったことが一因でした。
それ以来、資金繰り表は「足りるかどうかを確認する表」ではなく、「いつ、いくら借りるべきかを決める表」だと考えています。資金に余裕がある時期に、半年先・1年先の資金需要を見越して借りておく。現預金が厚い会社は格付けでも評価され、次の融資も通りやすくなる。資金繰り表は、その好循環をつくる起点です。
まとめ
- 資金繰り表は「経常収支・設備等の収支・財務収支」の3段で作ると、銀行にも伝わりやすい
- 売上・仕入は「お金が動く月」に入れる。元金返済と納税・賞与を必ず拾う
- 銀行は経常収支のプラスと返済原資、申込額と不足額の整合を見ている
- 不足が見えたら、残高が尽きる3か月以上前に相談する
クレフティでは、月次の試算表と連動した資金繰り表の作成から、銀行への説明、融資の申込みまで一貫してご支援しています。「数か月先が不安」という段階でのご相談がいちばん打ち手が多い時期です。
