「運転資金を借りたいが、いくらまでなら申し込んでいいのかわからない」。融資のご相談で非常によく聞く質問です。設備資金なら見積書の金額が根拠になりますが、運転資金は目に見えにくく、金額の根拠を自分で示す必要があります。
この記事では、運転資金の融資の目安となる必要額の計算方法と、銀行が運転資金の申込みをどう審査しているかを解説します。
- 運転資金の必要額の基本は、所要運転資金 = 売上債権 + 棚卸資産 − 仕入債務
- 借りられる額の目安は「月商の何か月」ではなく、所要運転資金と資金繰り表の不足額で決まる
- 運転資金には「経常」「増加」「季節」「決算・賞与」「赤字補填」の種類があり、銀行の見方がそれぞれ違う
- 短期で戻るお金は短期融資、恒常的に必要なお金は長期融資や当座貸越と、性質に合わせて借りる
運転資金とは|なぜ「儲かっていても」必要になるのか
運転資金とは、仕入代金や人件費などを支払ってから、売上代金を回収するまでの間に必要になるお金です。
たとえば、月末締め翌月末払いで仕入れ、月末締め翌々月末回収で売る会社は、支払ってから回収するまでに1か月以上の「立て替え期間」があります。この立て替えに必要なお金が運転資金です。利益が出ていても、立て替えの分だけ現預金は先に出ていくため、売上が伸びるほど資金が足りなくなる、ということが起きます。
運転資金の必要額の計算方法
所要運転資金の計算式
銀行が運転資金の金額を見るとき、基本にするのが所要運転資金です。
これは、「売り上げたのにまだ回収していないお金」と「仕入れたのにまだ売れていないモノ」の合計から、「仕入れたのにまだ払っていないお金」を引いたものです。この差額を、会社は自分のお金か借入で立て替えています。
計算例
月商2,000万円の卸売業の会社を例に計算します(仮の数字です)。
| 項目 | 金額 | 回転期間(月商の何か月分か) |
|---|---|---|
| 売上債権 | 4,000万円 | 2.0か月 |
| 棚卸資産 | 2,000万円 | 1.0か月 |
| 仕入債務 | 2,400万円 | 1.2か月 |
| 所要運転資金 | 3,600万円 | 1.8か月 |
この会社は、常に約3,600万円を立て替えて事業を回しています。この金額を自己資金と借入でどうまかなっているかが、運転資金の融資を考える出発点です。
売上が伸びると、運転資金はどれだけ増えるか
回転期間が変わらないとすると、所要運転資金は売上に比例して増えます。上の会社で月商が2,000万円から2,500万円に増えると、所要運転資金は 2,500万円 × 1.8か月 = 4,500万円。900万円の増加運転資金が新たに必要になります。
「売上が伸びて忙しくなったのに、なぜか資金が苦しい」という会社は、この増加運転資金を手当てしていないことが多いのです。
売上の伸び以上に売掛金や在庫が増えている場合、銀行は「回収が遅れている取引先があるのでは」「売れない在庫が積み上がっているのでは」と疑います。所要運転資金の増加を説明するときは、売上の増加によるものか、回転期間の悪化によるものかを分けて説明することが大切です。
運転資金の種類と、銀行の見方
運転資金と一口に言っても、銀行は資金の性質ごとに見方を変えています。
| 種類 | 内容 | 銀行の見方 | 向いている借り方 |
|---|---|---|---|
| 経常運転資金 | 通常の営業で常に立て替えている資金 | 前向き。事業が続く限り必要な資金 | 短期の継続融資、当座貸越、長期融資 |
| 増加運転資金 | 売上増加にともなって増える資金 | 前向き。ただし売上増の根拠を確認 | 長期融資、短期融資 |
| 季節資金 | 繁忙期の仕入など、一時的に増える資金 | 前向き。回収時期で返済 | 短期融資 |
| 決算・賞与資金 | 納税や賞与の支払いに充てる資金 | 通常の資金需要として検討 | 短期融資(半年程度で返済) |
| 赤字補填資金 | 赤字で減ったお金の穴埋め | 慎重。黒字化の計画が必須 | 長期融資(計画とセット) |
特に注意したいのは赤字補填資金です。資金使途を「運転資金」とだけ書いて申し込んでも、決算書と試算表を見れば、銀行には赤字の穴埋めであることがわかります。隠すよりも、赤字の原因と黒字化までの道筋を正直に示したほうが、結果的に審査は進みます。赤字のときの融資については赤字決算でも融資は受けられるかで解説しています。
手元資金の厚みも「必要額」の一部
所要運転資金とは別に、銀行は手元の現預金がどのくらいあるかも見ています。現預金が月商の何か月分あるかは、売上が急に落ちたときや大口の入金が遅れたときに、どれだけ持ちこたえられるかの物差しになるからです。
現預金が薄い会社は、所要運転資金をぎりぎりで回しているため、少しの入金のずれで資金繰りが詰まります。一方、手元資金に余裕のある会社は、格付けの安全性の面でも評価されやすくなります。「借りられるときに、少し厚めに借りておく」ことが結果的に資金調達力を高める場合もある、ということです。ただし、その場合も「なぜその水準の手元資金が必要か」を説明できることが前提です。
短期で借りるか、長期で借りるか
運転資金の融資でよくある失敗が、本来は短期で借りるべきお金を長期で借りていることです。
経常運転資金は、事業を続ける限り常に必要なお金です。これを5年や7年の長期融資で借りると、毎月の元金返済によって、立て替えに必要なお金がどんどん減っていきます。そして数年後、また同じ運転資金を借り直すことになります。
そのため、経常運転資金は本来、次のような形が理にかなっています。
- 短期継続融資(短コロ):期日一括返済の短期融資を、業況に問題がなければ継続して借り換える形
- 当座貸越:あらかじめ決めた枠の中で、必要なときに借りて返せる形
ただし、こうした形は銀行の信頼を得てはじめて使える借り方です。創業間もない会社や財務に不安のある会社は、まず長期融資で実績をつくり、財務が育ってから切り替えを相談するのが現実的です。それぞれの詳細は短期継続融資、当座貸越で解説しています。
事例:美容室が信用金庫から運転資金1,500万円を調達
事務所でご支援した事例です。年商5,000万円の美容室のお客さまが、信用金庫から運転資金1,500万円の融資を受けました。
美容室のような現金・カード決済が中心の業種は、売掛金や在庫が少なく、所要運転資金の計算式だけでは金額の根拠が出にくい業種です。こうした業種で運転資金を申し込むときは、計算式ではなく、資金繰り表で「いつ、何に、いくら足りなくなるか」を示すのが基本になります。
- 人件費・家賃など固定費の何か月分を手元に置く必要があるか
- 新規スタッフの採用、教育期間中の人件費の先行負担
- 内装の補修や機器の更新など、近い将来に予定される支出
年商5,000万円の美容室にとって、1,500万円は月商の3か月分を超える金額です。こうした規模の運転資金を申し込むときほど、金額の根拠を資金繰り表で具体的に示せるかどうかが審査の分かれ目になります。資金繰り表の作り方は資金繰り表の作り方と銀行に見せる形式で解説しています。
借りる前に、必要な運転資金そのものを減らす
運転資金は、借りて手当てするだけでなく、必要な金額そのものを減らすこともできます。所要運転資金の式を見れば、打ち手は3つです。
| 打ち手 | 具体策の例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 売上債権を減らす | 回収サイトの短縮、前受金・着手金の導入、カード決済や口座振替の活用 | 取引先との関係、決済手数料とのバランス |
| 在庫を減らす | 発注点の見直し、死蔵在庫の処分、受注生産への切り替え | 欠品による機会損失 |
| 仕入債務を活用する | 仕入先と支払条件を交渉する | 一方的な支払遅延は信用を失う |
先ほどの卸売業の例で、売上債権の回転期間を2.0か月から1.5か月に縮められれば、月商2,000万円の会社なら所要運転資金は1,000万円減ります。1,000万円を借りずに済むだけでなく、売上債権の回転期間が改善している会社として、銀行の評価も上がります。
逆に、死蔵在庫や回収できない売掛金を抱えたまま運転資金を借り続けると、借入は増える一方で、貸借対照表の中身は悪くなっていきます。運転資金の融資を申し込む前に、一度、売掛金と在庫の中身を点検しておくことをおすすめします。
運転資金の申込みで銀行に伝えるべきこと
運転資金の融資を申し込むときは、次の4点をそろえると話が早く進みます。
- 金額の根拠:所要運転資金の計算、または資金繰り表の不足額
- 資金の種類:経常・増加・季節・決算賞与・赤字補填のどれか
- 返済の原資と期間:売掛金の回収で返すのか、利益から返すのか
- 直近の業況:月次の試算表で、決算後の売上と利益の推移を示す
「とりあえず多めに借りておきたい」という気持ちは理解できます。実際、手元資金が厚い会社は格付けでも評価され、いざというときの耐久力も増します。ただし、根拠のない金額での申込みは「資金管理ができていない」と受け止められかねません。多めに借りるなら、多めに借りる理由を説明する。それが銀行との上手な付き合い方です(銀行員との付き合い方もご覧ください)。
まとめ
- 運転資金の必要額の基本は「売上債権+棚卸資産−仕入債務」
- 借りられる額は、所要運転資金や資金繰り表の不足額という「根拠」で決まる
- 赤字補填資金は、原因と黒字化の計画をセットで説明する
- 経常運転資金は長期で借り続けるより、短期継続融資や当座貸越が理にかなう
クレフティでは、所要運転資金の計算や資金繰り表の作成から、金額の根拠を示した融資の申込みまでご支援しています。「いくら申し込めばよいか」という段階からご相談ください。
