個人と法人・損益通算

家族への給与が否認された裁決事例と認められる条件|青色事業専従者給与と法人の親族役員報酬

「物件の管理を妻が手伝っているので、給与を払って経費にしたい」。不動産賃貸業でよくあるご相談です。ただ、家族への給与は、税務調査で否認されやすい項目の一つです。国税不服審判所の公表裁決事例にも、家族への給与が必要経費・損金として認められなかった事例が数多く載っています。

この記事では、家族への給与が否認された裁決事例を4つ取り上げ、個人(青色事業専従者給与)と法人(親族役員・親族使用人への給与)で何が問われるのかを整理します。そのうえで、会計上の扱い、銀行からの見え方、認められるための記録の残し方まで解説します。

この記事の結論
  • 個人の場合、生計を一にする家族への給与は原則として必要経費にならない。例外は青色事業専従者給与だけで、不動産所得では貸付けが事業として行われていることが前提
  • 否認される理由は、主に「事業に当たらない」「専ら従事していない」「金額が労務の対価として過大」の3つ
  • 法人には事業的規模の要件はないが、親族役員・親族使用人への給与も、職務の実態に比べて不相当に高額な部分は損金にならない
  • 鍵は、実際の労務、相当な金額、後から確認できる記録の3点。税負担を減らすことを目的に給与を設計すると、否認されたときの影響が大きい

家族への給与:個人と法人でルールが違う

最初に、個人と法人でルールの骨格がまったく違うことを押さえておきます。

個人:原則は「必要経費にならない」

個人事業者や個人の不動産オーナーが、生計を一にする配偶者その他の親族に給与を払っても、原則として必要経費には算入できません(所得税法56条)。家族の側でも、その給与はなかったものとみなされます。

例外が、青色申告者の青色事業専従者給与です(所得税法57条)。国税庁のタックスアンサー(No.2075)によると、主な要件は次のとおりです。

  • 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
  • その年の12月31日現在で15歳以上であること
  • その年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事していること(一定の場合は、従事できる期間の2分の1超)
  • 「青色事業専従者給与に関する届出書」を、原則としてその年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合や新たに専従者がいることになった場合は、その日から2か月以内)に提出していること
  • 届出書に記載した方法・金額の範囲内で実際に支払われ、労務の対価として相当な金額であること

不動産所得の場合はさらに、不動産の貸付けが事業として行われていることが前提になります。国税庁の取扱い(所得税基本通達26-9、タックスアンサーNo.1373)では、アパート等は貸与できる独立した室数がおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上が目安で、これに当てはまらなくても、賃貸料の収入や管理の状況などからこれに準ずる事情があれば事業として扱われます。事業的規模の考え方は個人の事業的規模(5棟10室基準と実質判断)で詳しく扱っています。

白色申告者の事業専従者控除(配偶者は最高86万円)も、不動産所得では事業として行われている場合に限られます。

法人:損金になり得るが、「相当性」が問われる

法人が家族に給与を払う場合、個人のような「生計を一にする親族への対価は経費にならない」という規定はなく、事業的規模の要件もありません。ただし、次の規定がかかります。

  • 家族が役員の場合:定期同額給与・事前確定届出給与などに当たらない給与は損金不算入(法人税法34条1項)。さらに、職務の内容、法人の収益や使用人への給与の状況、同業類似法人の支給状況などに照らして不相当に高額な部分も損金不算入(同条2項、法人税法施行令70条)
  • 家族が使用人(役員の親族など特殊の関係のある使用人)の場合:不相当に高額な部分は損金不算入(法人税法36条)
項目個人(不動産所得)法人
家族への給与の原則生計を一にする親族への対価は必要経費にならない(所得税法56条)給与として損金になり得る
例外・要件青色事業専従者給与(同57条)。事業的規模、専従、届出、相当な金額役員は定期同額給与等の形式要件。役員・親族使用人とも不相当に高額な部分は損金不算入(法人税法34条・36条)
事業的規模の要件あり(5棟10室が目安。実質判断)なし
主な否認理由事業に当たらない/専ら従事していない/金額が過大職務の実態がない、または職務に比べて高額
家族側の課税専従者給与として認められれば給与所得給与所得(否認されても、受け取った家族の側では給与所得のまま)

法人の場合、法人側で一部が損金不算入とされても、受け取った家族の側では給与所得として課税されたままです。否認されると、法人と家族の両方で税負担が生じることになります。

裁決事例1:貸付けが「事業」に当たらないとされた例

国税不服審判所 平成8年7月31日裁決(裁決事例集No.52 41頁)確認先:国税不服審判所 公表裁決事例

事案の概要

請求人は、所有する建物を1社に貸し付け、年間約1,607万円の賃貸料収入を得ていました。子を青色事業専従者として届け出て、300万円の専従者給与を不動産所得の必要経費に算入しました。請求人は「収入が1,500万円以上あり、空いている2階もいつでも貸せる状態にしている。建物の維持管理や再開発関連の会合にも出ている」と主張しました。

審判所の判断

審判所は、不動産の貸付けが「事業」に当たるかどうかは、賃貸料の収入の状況、貸付不動産の規模と管理の状況、継続して安定した収益を得られる可能性などを総合して、社会通念上事業と称する程度かどうかで判断するとしました。そのうえで、

  • 貸付物件は1棟のみで、借主も1社のみ
  • 貸付面積は22.8平方メートルにすぎない
  • 請求人と子の役務の提供は極めて少ない
  • 1階部分の修理などは借主が行っており、維持管理の程度は極めて低い
  • 地域の再開発が実行されるまでの限定的な貸付けである

ことなどから、賃貸料収入が1,500万円以上あっても事業とは認められないとし、専従者給与の必要経費算入を否認した処分を適法としました。

実務への示唆

収入の金額が大きいことだけでは、事業とは判断されません。貸主側にどれだけの管理業務が実際にあるのかが見られています。借主が修繕を負担し、賃料も振込で入ってくる貸付けでは、家族が「専ら従事」するほどの仕事がそもそも生じにくい、ということでもあります。

裁決事例2:事業的規模でも「専ら従事」が否定された例

国税不服審判所 平成7年5月30日裁決(裁決事例集No.49 76頁)確認先:国税不服審判所 公表裁決事例

事案の概要

請求人は、銀行に一括で貸しているビル、テナントビル、合計54台分の月極駐車場などを持ち、不動産貸付けは事業的規模で行われていると認められていました。配偶者を青色事業専従者とし、年400万〜690万円程度の専従者給与を必要経費に算入していました。請求人は、配偶者が駐車場の台帳記入、領収証の発行、滞納者への督促、預金への入金、契約書の作成、無断駐車の見回り、草取りなどを行い、従事時間は1日10時間以上だと主張しました。

審判所の判断

審判所は、主張された業務を一つずつ検討しました。たとえば、

  • 台帳の記入は、多くても月54台分程度。配偶者が記帳に関与したとされる駐車場ノートも、筆跡の多くは配偶者のものと異なっていた
  • 賃料の振込払いがかなりの割合を占めており、督促や集金の事務量は限られる
  • 預金への入金は月に3〜4日程度
  • 契約書は市販の定型用紙で、借主の入れ替わりも年数件
  • 草取りは別の人に給料を払って行わせていた
  • ビルの入居者選定・賃料交渉は、新築時の一括賃貸の前にほぼ終わっていた

さらに、従事時間について、届出書には1日5時間と書かれ、調査では3〜4時間と述べたあと8時間に訂正していたことから、主張には信ぴょう性がないとされました。結論として、配偶者は事業に専ら従事していたとは認められず、専従者給与の必要経費算入は認められませんでした。

なお、この裁決では、専従者給与が否認された結果、配偶者の所得がゼロになることから配偶者控除の適用が認められ、更正処分の一部が取り消されています。否認されても「何も残らない」わけではありませんが、専従者給与として見込んでいた効果とは大きく異なります。

同じ論点の別の例

事業の種類は弁護士業ですが、平成19年1月18日裁決(裁決事例集No.73 168頁、確認先)では、配偶者が自宅で行っていた確定申告の準備などは「夫婦の相互扶助の範囲内の行為あるいは日常生活の一環」とされ、試算表の作成や銀行での手続きも一時的・臨時的なものとして、専従者とは認められませんでした。配偶者の自宅に置かれた「出勤簿」も、押印の状況が他の事実と合わないことなどから、判断の根拠にならないとされています。

実務への示唆

事業的規模を満たしていても、家族の仕事の量が「専ら従事」と言えるほどあるかは別に判断されます。賃料の振込化や管理会社への委託が進んでいるほど、オーナー側の事務は少なくなります。届出書の記載、本人の説明、実際の記録が食い違わないことも重要です。

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裁決事例3:金額が「労務の対価として過大」とされた例

国税不服審判所 平成21年6月3日裁決(裁決事例集No.77 42頁)確認先:国税不服審判所 公表裁決事例

不動産賃貸業の事例ではありませんが、専従者給与の「相当な金額」をどう算定するかを具体的に示した事例です。

事案の概要

税理士業を営む請求人が、税理士資格のない配偶者を専従者とし、年1,240万〜1,280万円の専従者給与を必要経費に算入していました。原処分庁は、労務の対価として相当な金額を超える部分は必要経費にならないとして更正処分を行いました。

審判所の判断

審判所は、配偶者と使用人の専用パソコンの起動・停止の記録(ログ)から稼働時間を比べ、配偶者の従事時間は、使用人の中で最も長い人の約1.21倍と認定しました。そのうえで、

  • 使用人の給与の状況をもとに算定した金額
  • 業種・規模が類似する同業者の専従者(事業主の妻で資格を持たない者)の給与の平均

の2つを算定し、高いほうを相当額としました。相当額は年約520万〜547万円とされ、これを超える年約720万〜741万円が必要経費に算入できないとされました。

実務への示唆

金額の相当性は、「家族だからいくらでもよい」ではなく、同じ仕事を他人に頼んだらいくらかという基準で見られます。従事時間を客観的に示す記録があったことで、使用人より長く働いていた点は認められました。記録は、否認を防ぐためだけでなく、正当な金額を説明するためにも役立ちます。

法人でも否認される:親族役員の報酬の例

国税不服審判所 平成20年11月14日裁決(裁決事例集No.76 285頁)確認先:国税不服審判所 公表裁決事例

事案の概要

製造業を営む同族会社が、代表者の配偶者である取締役に役員報酬を支払い、損金に算入していました。会社は「経営に常に深く関わり、使用人の相談役や取引先の接待などの重要な職務を行っている常勤役員だ」と主張しました。

審判所の判断

審判所は、

  • 経営方針の決定、製造販売、資金繰りといった重要事項は他の役員が担っていた
  • 使用人が充実してからは、本社への出社は月1〜2回程度だった
  • 会社の作成した勤務実態の一覧でも、接待などに従事した日数は月平均2.5〜3.5日だった
  • それ以外の職務について、裏付けとなる証拠はなかった

ことから、重要な職務には従事していないと判断しました。そのうえで、同じ業種で売上規模が類似する法人の非常勤取締役の報酬の平均額(事業年度により約62万〜197万円。最も低い年度は4か月の事業年度)を適正額とし、これを超える部分は不相当に高額として損金に算入できないとしました(当時の法人税法34条1項・施行令69条1号。現在の法人税法34条2項・施行令70条1号に当たる規定)。

実務への示唆

法人にすれば事業的規模の要件はなくなりますが、職務の実態と金額の釣り合いは個人と同じように問われます。役員であれば、どの職務をどの程度担っているかを、取締役会の議事録、業務の分担表、実際の成果物などで示せるようにしておく必要があります。

会計上の扱いと銀行からの見え方

税務上の否認と、決算書の表示は別物

法人で親族役員の報酬の一部が「不相当に高額」とされても、決算書(損益計算書)上の役員報酬が書き換わるわけではありません。会計上は実際に支払った金額が費用(販売費及び一般管理費の人件費)として計上され、税務上は申告書の別表で損金不算入額を加算する、という処理になります。結果として、法人税等が増え、当期純利益と純資産が減ります。

人件費は、毎期経常的に発生する費用です。企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に照らしても、販売費及び一般管理費に表示するのが通常で、臨時・異常な損失として特別損失に回すような性質のものではありません。

銀行は「人件費」と「否認の履歴」を見る

銀行の目線では、次の点が影響します。

  • 営業利益・経常利益:家族への給与は人件費として営業利益を減らします。実態に見合わない高額な給与は、物件の収益力を実際より弱く見せることになります
  • 債務償還年数・ICR:経常利益や営業利益が分子・分母に入るため、利益の圧縮は返済能力の評価にそのまま響きます
  • 税務調査での否認:追徴税額と加算税で現預金が減り、修正申告や更正の事実は、決算書や申告書の説明の場面で質問の対象になりやすくなります
  • 個人の確定申告書:個人の場合、専従者給与は不動産所得を減らします。銀行が見るのは申告書の所得なので、家族への給与は「物件の収益が低い」と映る面があります

家族に給与を払うこと自体は、実際に働いていれば正当なことです。ただし、税負担を減らすために金額を決めると、否認のリスクと、銀行から見た収益力の低下の両方を抱えることになります。金額は「実際の労務に見合うか」から決めてください。

なお、物件の管理を家族が経営する管理会社に委託する方式では、管理料率の水準が争点になります。この論点は不動産管理会社方式と管理料率の争いで扱っています。また、個人と法人で経費にできる範囲全体の違いは個人と法人で経費にできる範囲の違いで整理しています。

認められるための実務チェックポイント

裁決事例で問題になった点を裏返すと、次のチェックポイントになります。

チェック項目個人(専従者給与)法人(親族役員・使用人)
前提貸付けが事業的規模か(5棟10室が目安、実質判断)事業的規模の要件はない
手続き届出書を期限内に提出。金額を変えるときは変更届出役員は定期同額給与等の要件。株主総会等の決議と議事録
労務の実態年6か月超、専ら従事しているか。他の仕事との兼ね合い役員としての職務(意思決定・管理・対外折衝など)の中身
金額同じ仕事を他人に頼んだ場合の水準、他の使用人・同業者との比較職務内容、収益、使用人給与、同業類似法人の水準との比較
記録業務日報、作業記録、メール・通話履歴、作成書類、ログ議事録、業務分担表、稟議・決裁の記録、出社・勤務の記録
支払い届出の範囲内で、実際に家族名義の口座へ振込実際に振込。未払いのまま積み上げない
説明の一貫性届出書の記載・本人の説明・記録が一致しているか登記上の役職、議事録、実際の担当業務が一致しているか

あわせて、次の点も確認してください。

  1. 管理会社に委託している業務と、家族が行う業務が重複していないか
  2. 家族が別の会社に勤めている場合、専ら従事の要件や、役員としての職務の時間を説明できるか
  3. 金額を決めた根拠(時給換算、同種業務の相場など)をメモとして残しているか
  4. 毎年、業務量の変化に応じて金額を見直しているか(物件の売却や管理委託の拡大で業務が減ったのに、給与だけ据え置かれていないか)

家族への給与の基本的な要件は、不動産投資で家族に給与は払える?青色事業専従者給与の要件でも解説しています。法人の役員報酬の決め方は役員報酬の決め方もご覧ください。

まとめ

  • 個人の場合、生計を一にする家族への給与は原則として必要経費にならず、例外は青色事業専従者給与だけ。不動産所得では貸付けが事業として行われていることが前提
  • 平成8年7月31日裁決では、年1,500万円超の賃料収入があっても、貸主側の管理業務がほとんどないとして事業に当たらないとされた
  • 平成7年5月30日裁決では、事業的規模でも、配偶者の業務量が少なく説明も一貫しないとして専ら従事していないとされた
  • 平成21年6月3日裁決では、使用人や同業者の給与と比べて、相当額を超える部分が必要経費から除かれた
  • 法人でも、平成20年11月14日裁決のように、職務の実態が乏しい親族役員の報酬は不相当に高額な部分が損金不算入になる
  • 認められる条件は、実際の労務、相当な金額、後から確認できる記録。税務上の否認があっても会計上の費用はそのまま残り、税負担の増加で純資産が減る

家族の関わり方に応じた給与の設計、個人と法人のどちらで払うかの検討、銀行に説明できる決算書づくりまで、不動産投資家向けサポートでご相談いただけます。

よくある質問

アパート1棟(8室)を持っています。妻に管理を手伝ってもらった分を青色事業専従者給与にできますか?
不動産所得で青色事業専従者給与を必要経費にできるのは、貸付けが事業として行われている場合に限られます。国税庁の取扱いでは、アパート等はおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上が目安で、これに準ずる事情があるかどうかも含めて判断されます。8室では通常は目安に届かないため、収入や管理の状況を個別に確認する必要があります。事業に当たらない場合は、給与を払っても必要経費にはなりません。
法人なら、家族に給与を払えば必ず損金になりますか?
法人には個人のような事業的規模の要件はありませんが、必ず損金になるわけではありません。家族が役員なら定期同額給与などの形式要件と、職務の内容に照らして不相当に高額でないことが必要です(法人税法34条)。役員の親族である使用人への給与も、不相当に高額な部分は損金になりません(同36条)。実際の職務と、それに見合う金額であることが前提です。
家族の勤務の記録は、何を残しておけばよいですか?
誰が、いつ、何の業務を、どれくらいの時間行ったかを、後から第三者が確認できる形で残すことが基本です。業務日報、入居者や管理会社とのメール・通話の記録、作成した書類、パソコンのログ、給与の振込記録などが考えられます。裁決事例では、届出書に書いた従事時間と本人の説明が食い違ったことや、自宅に置いた出勤簿の信用性が低いとされたことが、判断に影響しています。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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