融資・資金調達

M&Aの買収資金を融資で調達するには|銀行の審査ポイントと、協調融資で9,000万円を調達した事例

中小企業のM&Aが身近になり、「後継者のいない会社を買って事業を広げたい」というご相談が増えています。そのとき最初にぶつかるのが、M&Aの買収資金を融資でどう調達するかという問題です。

設備資金や運転資金の融資とは違い、買収資金の融資では、銀行は「買い手の会社」と「買われる会社」の両方を審査します。私はかつてベンチャー企業のM&A仲介会社で役員を務め、いまは税理士として買い手側の資金調達をご支援しています。その両方の経験から、銀行が買収資金の融資で何を見ているのかを整理します。

この記事の結論
  • 買収資金の融資で銀行が最も重視するのは、対象会社のキャッシュフローで、何年で返せるか
  • 審査のポイントは「買収価格の妥当性」「返済原資と資金の流れ」「買い手の経営能力と自己資金」「デューデリジェンスの結果」の4つ
  • 株式譲渡か事業譲渡かで、借り手・返済原資・リスクが変わる
  • 1行で足りない、または条件を良くしたい場合は、政府系金融機関と民間金融機関の協調融資が有力な選択肢

M&Aの買収資金の融資とは

M&Aで会社や事業を買うとき、必要なお金は株式の購入代金や事業の譲受代金だけではありません。

必要な資金内容
買収代金株式の購入代金、または事業譲渡の対価
仲介・アドバイザリー手数料M&A仲介会社やFAへの成功報酬など
デューデリジェンス費用財務・税務・法務の調査費用
登記・契約関係の費用事業譲渡の場合の不動産登記、許認可の取り直しなど
買収後の運転資金引き継ぎ直後の取引条件の変化、システム統合などへの備え

金融機関は、これらをまとめた総額に対して、自己資金と借入をどう組み合わせるかを見ます。買収代金だけを借りて、買収後の運転資金が足りなくなるケースは珍しくありません。

銀行が審査する4つのポイント

ポイント1:買収価格は妥当か

銀行がまず確認するのは、買収価格が対象会社の稼ぐ力に見合っているかです。中小企業のM&Aでは、純資産に、数年分の利益を「のれん(営業権)」として上乗せした価格になることが多く、銀行はその上乗せ部分を慎重に見ます。

のれんは、買収後に事業がうまくいかなければ価値を失います。のれんの割合が大きい案件ほど、担保として当てにできる資産が少ないため、審査は収益力の裏づけを強く求めます。

ポイント2:返済原資があり、その流れが設計されているか

買収資金の返済原資は、原則として対象会社が生み出すキャッシュフローです。次のように、返済に何年かかるかを試算します。

返済に必要な年数の目安 = 買収のための借入額 ÷ 対象会社の年間キャッシュフロー(税引後利益+減価償却費)

たとえば(仮の数字です)、借入額9,000万円、対象会社の税引後利益900万円、減価償却費300万円なら、9,000万円 ÷ 1,200万円 = 7.5年。この年数が、融資期間や買い手の既存の借入と比べて無理がないかを見られます。

株式譲渡の場合、対象会社の利益は対象会社の中にあり、自動的に買い手には来ません。配当、役員報酬、経営指導料、あるいは買収後の合併など、どの方法で返済資金を買い手に移すのか。その方法ごとの税金も含めて、計画に書いておく必要があります。

ポイント3:買い手の経営能力と自己資金

銀行は「この買い手が経営して、対象会社の利益は維持できるか」を見ます。同業や隣接業種の買収は評価されやすく、まったくの異業種では、引き継ぐ経営陣やキーパーソンの残留が問われます。

自己資金は、買い手の本気度と、想定外の事態への耐久力を示すものです。全額借入の計画は、買収後に業績が少しぶれただけで資金繰りが詰まるため、慎重に見られます。

ポイント4:デューデリジェンスの結果

簿外債務、未払残業代、税務リスク、許認可の承継の可否、主要取引先との契約の継続性。銀行は、買い手がこれらを調べたうえで買っているかを確認します。デューデリジェンス(買収前の調査)の報告書は、融資の審査資料としても重要です。

審査ポイント銀行が求める資料の例
買収価格の妥当性対象会社の決算書3期分、株価算定書、基本合意書
返済原資買収後の事業計画、資金繰り計画、返済計画
買い手の能力買い手の決算書、経歴、統合後の体制図
リスクの把握デューデリジェンス報告書、契約書のドラフト

株式譲渡と事業譲渡で何が変わるか

項目株式譲渡事業譲渡
借り手株式を買う人・会社事業を譲り受ける会社
返済原資対象会社の利益を配当などで移す必要がある譲り受けた事業の利益から直接返済
簿外債務のリスク引き継ぐ(調査が重要)原則として引き継がない
許認可・契約原則そのまま継続取り直し・個別の同意が必要な場合がある
手続きの負担比較的軽い資産・契約ごとの移転手続きが必要

株式譲渡は手続きが簡単な反面、返済資金の流れの設計が欠かせません。事業譲渡は返済の流れが素直な一方、許認可や契約の引き継ぎに手間がかかります。どちらが融資を受けやすいかは、案件ごとの返済の組み立てやすさで決まると考えてください。

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事例:専門職の事務所が9,000万円のM&Aを協調融資で実現

事務所でご支援した事例をご紹介します。年商5,000万円規模の専門職のお客さまが、9,000万円のM&Aを行い、その資金を政府系金融機関と地方銀行の協調融資で調達したケースです。

年商の2倍近い買収額は、1つの金融機関が単独で引き受けるには重い金額です。こうした案件で協調融資を組むときに、一般に鍵になるのは次の3点です。

  1. 買収後の数字を先に示す:買い手と対象事業の数字を合算した事業計画と資金繰り計画をつくり、返済原資があることを説明する
  2. 引き継ぎに無理がないことを示す:顧客、業務、人材がどう引き継がれるのかを具体的に説明する
  3. 金融機関ごとに情報をそろえる:政府系金融機関と民間金融機関が同じ資料、同じ前提で検討できるよう、並行して相談を進める

協調融資は、1行あたりのリスクを抑えられるため、単独では難しい金額でも検討の土台に乗りやすくなります。仕組みの詳細は協調融資・シンジケートローンの仕組みで解説しています。

使える制度と、相談先の組み合わせ

M&Aの資金調達では、民間金融機関のプロパー融資だけでなく、公的な制度も組み合わせて検討します。

  • 日本政策金融公庫の事業承継向けの融資制度:株式や事業用資産の取得資金など、事業承継・M&Aに使える資金を対象とした制度があります。限度額や利率は制度改定で変わるため、最新の内容は公庫で確認してください
  • 信用保証協会の事業承継向けの保証:事業承継時の資金や経営者保証の扱いに配慮した保証制度があります
  • 民間金融機関との協調融資:公庫と民間金融機関が同じ案件に融資する形。公庫と提携した協調融資の商品を用意している金融機関もあります

どの組み合わせが最適かは、買い手の財務状況と取引銀行との関係によって変わります。買い手側の決算書の見え方は審査の土台になるので、銀行融資の審査ポイントと債務者区分もあわせてご覧ください。

担保・経営者保証と、買収後の資金への備え

対象会社の資産は担保になるか

株式譲渡で買う場合、対象会社の不動産や預金は対象会社のものであり、買い手の借入の担保にそのまま差し入れられるわけではありません。対象会社に担保の提供や保証をさせる方法もありますが、対象会社にとっては自社の事業と関係のない債務を負うことになるため、取締役会での手続きや少数株主への配慮が必要になります。担保の取り方は案件ごとに金融機関と詰める必要があります。

経営者保証の引き継ぎ

対象会社の借入に前の経営者の個人保証が付いている場合、売り手は保証から外れることを望みます。買い手が保証を引き継ぐのか、金融機関と交渉して保証なしに切り替えるのかは、M&Aの交渉でも大きな論点です。経営者保証の扱いは、買収価格や契約条件と一緒に早めに整理しておきましょう(経営者保証を外す方法で解説しています)。

引き継ぎ直後の運転資金を見込んでおく

買収直後は、取引先が支払条件を見直したり、従業員の退職が出たり、システムの統合費用がかかったりと、想定外の資金需要が出がちです。買収代金だけを借りて手元資金がほとんど残らない計画は、銀行からも危うく見えます。買収後の数か月分の資金繰り表をつくり、手元資金がどこまで減るかを確認したうえで、借入額と自己資金の配分を決めてください。

買収後に「次の融資」が止まらないために

M&Aの資金調達でよくある失敗が、買収はできたが、その後の融資が止まることです。買収のために大きく借りると、連結で見た借入は増え、のれんの分だけ純資産は厚くならないまま負債が膨らみます。著書のモデルでいう債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))も、買収直後は悪化しがちです。

M&A仲介の現場にいたころ、価格交渉や契約条件には時間をかけても、買収後の資金繰りや次の融資まで考えている買い手は多くありませんでした。しかし、買収はゴールではなくスタートです。買った事業を伸ばすための設備投資や運転資金が、買収直後に必要になることも珍しくありません。

だからこそ、買収前に買収後のバランスシートと債務償還年数をシミュレーションし、何年で元の水準に戻るのかを銀行に示しておくことが大切です。M&Aは「買えるか」ではなく「買ったあとも借り続けられるか」で判断してください。

まとめ

  • 買収資金の融資は、対象会社のキャッシュフローで何年で返せるかが最大の審査ポイント
  • 買収価格、返済資金の流れ、買い手の能力と自己資金、デューデリジェンスの4点を準備する
  • 株式譲渡と事業譲渡では、借り手・返済原資・リスクが変わる
  • 1行で足りない場合は、政府系金融機関と民間金融機関の協調融資を検討する

クレフティでは、M&Aの買い手側として、買収後の事業計画・資金繰り計画の作成から、金融機関の組み合わせの検討、融資の申込みまでご支援しています。基本合意の前、価格交渉の段階からご相談いただくと、資金調達の見通しを踏まえた判断ができます。

よくある質問

M&Aの買収資金は、全額を融資でまかなえますか?
案件によっては可能性がありますが、一般的には買い手に一定の自己資金を求められることが多いです。自己資金は、買収後の運転資金や想定外の出費への備えにもなります。融資額だけでなく、買収後に手元に残る現預金まで含めて資金計画を立てることが大切です。
買収資金の融資は、買い手と対象会社のどちらが借りるのですか?
株式を買う場合は、株式を取得する買い手(個人または買い手企業)が借りるのが基本です。返済原資は対象会社が稼ぐキャッシュフローなので、配当や役員報酬、合併などでどう資金を移すかまで設計しておく必要があります。事業譲渡であれば、事業を譲り受ける会社が借りて、その事業の利益から返済します。
M&Aの融資は、どの金融機関に相談すればよいですか?
まずは買い手の取引銀行に相談するのが基本です。あわせて、日本政策金融公庫には事業承継・M&Aに使える融資制度があり、民間金融機関との協調融資の形で組むことも多くあります。金額が大きい場合や1行では足りない場合は、複数の金融機関で分担する形を検討します。

※本記事は2026年10月17日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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