「日本政策金融公庫の創業計画書の書き方がわからない」「記入例を見ても、自分の事業に置き換えるとどう書けばいいのか迷う」。創業融資の準備をしている方から、最も多くいただくご相談の一つです。
創業計画書は、公庫の審査担当者が「この人に貸したお金は返ってくるか」を判断するための資料です。きれいな文章よりも、経験と数字に根拠があるか、そして面談で自分の言葉で説明できるかが問われます。
この記事では、日本政策金融公庫の創業計画書の様式に沿って、項目ごとの書き方と審査で見られるポイントを解説します。審査全体の流れや自己資金の目安は日本政策金融公庫の創業融資で、事業計画書一般の考え方は融資に通る事業計画書の書き方でまとめています。
- 公庫の創業計画書は10項目。審査で特に重視されるのは「経営者の略歴」「必要な資金と調達方法」「事業の見通し」の3つ
- 略歴は勤務先名だけでなく、担当業務・役職・身につけた技能を具体的に書く。創業する事業との「つながり」を示す
- 必要な資金は見積書で裏づけ、事業の見通しは売上を「単価×数量」に分解して根拠を書く
- 書類の完成度より、面談で数字の理由を説明できるかが勝負。書いた本人が説明できない計画書は逆効果
創業計画書の全体像|10の項目
日本政策金融公庫(国民生活事業)の創業計画書の様式は、次の10項目で構成されています。公庫のホームページでは、飲食業、美容業、ソフトウェア開発業など業種別の記入例も公開されています。
| 項目 | 主な記入内容 | 審査での重要度 |
|---|---|---|
| 1. 創業の動機 | 創業の目的、きっかけ | 中 |
| 2. 経営者の略歴等 | 職歴、担当業務、資格、過去の事業経験 | 高 |
| 3. 取扱商品・サービス | 商品の内容、セールスポイント、販売ターゲットと販売戦略、競合・市場の状況 | 高 |
| 4. 従業員 | 常勤役員の人数、従業員数 | 低 |
| 5. 取引先・取引関係等 | 販売先・仕入先・外注先、回収と支払の条件 | 中 |
| 6. 関連企業 | 本人や配偶者が経営している企業 | 低 |
| 7. お借入の状況 | 事業・住宅・車・カードなどの借入残高と年間返済額 | 中 |
| 8. 必要な資金と調達方法 | 設備資金・運転資金の内訳、自己資金と借入れの内訳 | 高 |
| 9. 事業の見通し(月平均) | 創業当初と軌道に乗った後の売上・原価・経費・利益 | 高 |
| 10. 自由記述欄 | アピールポイント、悩み、希望するアドバイス | 中 |
項目ごとの書き方と審査のポイント
1. 創業の動機|「なぜ自分が、なぜ今」を書く
「独立したかった」「好きなことを仕事にしたい」だけでは、審査担当者には何も伝わりません。これまでの経験の中で何に気づき、なぜその事業を自分がやるのか、なぜ今なのかを、具体的なエピソードとあわせて書きます。
2. 経営者の略歴等|事業とのつながりを示す
審査で最も重視される項目の一つです。様式にも「勤務先名だけではなく、担当業務や役職、身につけた技能等についても記載」と書かれています。
- 悪い例:「2015年 ○○株式会社 入社」「2025年 同社 退社」
- 良い例:「2015年 ○○株式会社 入社。法人向け営業を担当し、2020年から主任として新規顧客の開拓を担当(年間売上○千万円規模)。2023年から店舗運営の責任者として、スタッフ5名の採用・教育と仕入管理を担当」
創業する事業に同じ業界での経験があるか、経営やマネジメントの経験があるかが見られます。経験が浅い場合は、修業期間や取得した資格、副業での実績など、事業とのつながりを示せる材料を探して書きます。
3. 取扱商品・サービス|誰に、なぜ選ばれるか
セールスポイント、販売ターゲット・販売戦略、競合・市場などの欄があります。ポイントは、「良い商品です」ではなく、近隣の競合と比べて、誰に、なぜ選ばれるのかを書くことです。立地の通行量、競合店の価格帯、事前に見込める顧客(前職からついてきてくれる顧客など)があれば、具体的に書きます。
5. 取引先・取引関係等|回収と支払の条件
販売先・仕入先の名前と、回収・支払の条件(現金か掛けか、締め日と支払日)を書きます。売上の回収が翌月末、仕入の支払いが即時という事業は、その間の運転資金が必要になります。ここが次の「必要な資金」の運転資金の根拠につながります。
7. お借入の状況|隠さずすべて書く
住宅ローン、自動車ローン、カードローンなども含めて書きます。審査では信用情報も確認されるため、書かなかった借入れが後から判明すると、それだけで信頼を失います。クレジットカードや携帯電話の分割払いの延滞も、事前に確認しておきましょう。
4. 従業員・6. 関連企業|事実を正確に
従業員の欄には、創業に際して3か月以上継続して雇用する予定の人数を書きます。家族を雇う場合も含めて、事業の見通しの人件費と人数が合っているかを確認してください。関連企業の欄は、本人や配偶者がすでに経営している会社がある場合に書きます。資金の流れを確認されることがあるため、関係を説明できるようにしておきます。
10. 自由記述欄|計画の弱点への手当てを書く
自由記述欄は、アピールポイントを書くだけの欄ではありません。審査担当者が不安に思いそうな点、たとえば「業界経験が短い」「立地の集客力が未知数」といった弱点に対して、どう手を打つのかを書くと、計画全体の説得力が上がります。売上が計画を下回った場合の対策(経費の削減、営業時間の見直しなど)を書いておくのも有効です。
「必要な資金と調達方法」の書き方
必要な資金(左側)と調達方法(右側)の合計が一致する表です。
設備資金は見積書で裏づける
店舗の内装工事、機械、車両などの設備資金は、見積書を取り、見積先と金額を書きます。「だいたい500万円くらい」では審査が進みません。
運転資金は「何か月分」を根拠つきで
運転資金は、商品の仕入れや、売上が軌道に乗るまでの人件費・家賃などの支払いに充てる資金です。「事業の見通し」の月々の経費から、売上が安定するまでの何か月分が必要かを計算して書きます。根拠なく多めに申し込むと、かえって計画の甘さとして見られます。
調達方法|自己資金の「出どころ」が見られる
調達方法には、自己資金、親族などからの借入れ、公庫からの借入れ、他の金融機関からの借入れを書きます。
審査では、自己資金の金額だけでなく、どうやって貯めてきたかが通帳で確認されます。直前にまとまった入金がある場合は、その出どころを説明できるようにしておきます。親族からの資金が借入れなのか贈与なのかも、はっきりさせておく必要があります。
「事業の見通し」の書き方|数字の根拠がすべて
「創業当初」と「1年後又は軌道に乗った後」の2つの時点で、月平均の売上高、売上原価、経費(人件費、家賃、支払利息、その他)、利益を書き、計算の根拠を記入します。
売上は分解して書く
| 業種 | 売上の分解の例 |
|---|---|
| 飲食店 | 客単価 × 席数 × 回転数 × 営業日数 |
| 美容室 | 客単価 × 1日の来店客数 × 営業日数 |
| 小売店 | 客単価 × 1日の客数 × 営業日数 |
| IT・受託開発 | 1件あたりの受注単価 × 月の受注件数(または人月単価 × 稼働人数) |
| 建設・内装工事 | 1件あたりの受注単価 × 月の受注件数 |
それぞれの数字に、「前職での実績」「近隣の同業店の価格帯」「すでに内諾を得ている取引先」などの根拠を添えます。創業当初の売上は、軌道に乗った後より控えめに見積もるのが自然です。最初から満席の計画は、審査担当者に疑問を持たれます。
利益から返済できるかを確認する
見落とされがちなのが、利益から借入金の返済ができるかの確認です。様式の利益は、売上から原価と経費を引いたものです。個人事業の場合はここから生活費を、法人の場合は役員報酬を経費に入れたうえで、毎月の返済額を上回る利益が残るかを確かめます。返済額を上回らない計画は、それだけで「返せない計画」と読まれます。
銀行目線で見た、創業計画書のよくある失敗
融資承認累計120億円超の支援の中で、創業計画書でつまずく方には共通点があります。
1. 専門家が書いた計画書を、本人が説明できない
もっとも多い失敗です。面談では、審査担当者が計画書の数字について「この客単価の根拠は?」「この家賃で本当に借りられるのですか?」と質問します。書いた本人が答えられなければ、立派な計画書ほど逆効果です。私たちが計画書づくりを支援するときも、数字は必ずご本人と一緒に組み立て、面談の想定問答まで準備します。
2. 売上だけ強気で、経費が甘い
売上は強気なのに、経費に広告宣伝費や消耗品費、社会保険料が入っていない計画書をよく見ます。経費の抜けは、審査担当者がすぐに気づくポイントです。
3. 提出前の見直しをしていない
提出前に、次の点を確認するだけで、面談での指摘は大きく減ります。
| チェック項目 | 確認すること |
|---|---|
| 金額の一致 | 必要な資金と調達方法の合計が一致しているか |
| 運転資金との整合 | 運転資金の額が、事業の見通しの経費の何か月分にあたるか説明できるか |
| 返済の確認 | 軌道に乗った後の利益が、毎月の返済額を上回っているか |
| 裏づけ資料 | 見積書、通帳のコピー、資格証、物件の資料などがそろっているか |
| 借入れの記載 | 住宅ローンやカードローンを含め、すべての借入れを書いたか |
公庫も「創業計画書セルフチェックリスト」を公開しています。あわせて確認しておくと安心です。
4. 創業融資を「ゴール」にしている
創業融資は、事業のスタートラインです。公庫からの借入れをきちんと返し、1期目・2期目の決算書で計画どおりの数字を出すことが、次に民間の銀行から借りるための最初の信用実績になります。創業計画書は、融資を通すための作文ではなく、創業後に自分が実行する計画として書いてください。
まとめ
- 公庫の創業計画書は10項目。重視されるのは経営者の略歴、必要な資金と調達方法、事業の見通し
- 略歴は担当業務・役職・技能まで書き、創業する事業とのつながりを示す
- 設備資金は見積書、運転資金は何か月分かを根拠つきで。自己資金は貯めてきた過程が見られる
- 事業の見通しは売上を単価×数量に分解し、利益から返済できるかを確認する
- 面談で自分の言葉で説明できることが最大のポイント
クレフティでは、元地方銀行員の資金調達部長と税理士が、創業計画書の作成から面談の準備、創業後の決算書づくりまで一貫してサポートしています。創業融資のご相談はスタートアップ支援、融資全般は融資・資金調達のサポートをご覧ください。
