旅館やホテル、民泊を運営していると、宿泊料金と一緒に宿泊税や入湯税を宿泊者から受け取ります。これを「売上」として計上するのか「預り金」とするのか、消費税の計算に含めるのか。小さな金額に見えて、件数が多いと決算書や消費税の申告に影響が出ます。
この記事では、宿泊税・入湯税の処理について、地方税法・消費税法基本通達と、特別徴収義務者でない者の税相当額をめぐる公表裁決をもとに整理します。法人と個人の違い、会計上の表示、銀行からの見え方も確認します。
- 宿泊税・入湯税は、宿泊者・入湯客が納税義務者で、施設側は特別徴収義務者として預かって納める仕組み
- 入湯税は、明確に区分していれば消費税の課税標準に含まれない(消費税法基本通達10-1-11)。区分していなければ含まれる
- 宿泊税は通達に列挙されていないが、同じ仕組みなら同じ考え方で整理されるのが一般的。条例と所轄の確認を
- 特別徴収義務者でない者が税相当額を上乗せしても、それは価格の一部で、消費税の対価に含まれるとした裁決がある
- 会計上は預り金処理が実態に合う。売上に含めると売上高と利益率の見え方が変わる
宿泊税と入湯税の仕組み
まず、2つの税の性格を確認しておきます。
| 項目 | 入湯税 | 宿泊税 |
|---|---|---|
| 根拠 | 地方税法701条以下(市町村の目的税) | 各自治体の条例(法定外目的税) |
| 課税の対象 | 鉱泉浴場への入湯 | 条例で定める宿泊施設への宿泊 |
| 納税義務者 | 入湯客 | 宿泊者(条例による) |
| 徴収の方法 | 浴場の経営者などが特別徴収義務者として徴収・納入 | 宿泊施設の経営者などが特別徴収義務者として徴収・納入(条例による) |
| 税率 | 1人1日150円が標準(地方税法701条の2)。市町村が条例で定める | 自治体ごとに定額・定率などさまざま |
宿泊税は、導入する自治体が増え、税率や対象となる施設(旅館業の施設に加え、住宅宿泊事業の届出住宅を含めるかなど)、課税免除の範囲も自治体ごとに違います。運営する施設の所在地の条例と、自治体の案内を必ず確認してください。
いずれの税も、施設の経営者は税を負担する人ではなく、預かって納める人という位置付けです。この点が、会計処理と消費税の扱いの出発点になります。
消費税:課税標準に含まれるか
入湯税は明確に区分すれば含まれない
消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額です。消費税法基本通達10-1-11は、対価の額には酒税やたばこ税などが含まれるが、軽油引取税、ゴルフ場利用税及び入湯税は、利用者等が納税義務者となっているのであるから対価の額に含まれないとしています。ただし書きで、その税額に相当する金額が明確に区分されていない場合は、対価の額に含むとしています。
つまり、入湯税を宿泊料金と分けて受け取り、領収書や請求書にも分けて表示していれば、入湯税部分に消費税はかかりません。「1泊2食付き〇〇円(入湯税込み)」と一本で表示し、帳簿上も区分していなければ、入湯税相当額にも消費税がかかることになります。
宿泊税の考え方
宿泊税は、通達10-1-11に列挙されていません。ただし、宿泊者が納税義務者で、施設側が特別徴収義務者として預かる仕組みは入湯税と同じです。このため、宿泊料金と明確に区分して受け取っていれば、課税標準に含めないと整理されるのが一般的です。通達に明記された取扱いではないため、施設の所在地の条例で納税義務者と特別徴収義務者を確認し、判断に迷う場合は所轄の税務署に確認してください。
区分の実務
| 場面 | 確認すること |
|---|---|
| 料金表・予約サイトの表示 | 宿泊料金と宿泊税・入湯税を分けて表示しているか |
| 領収書・請求書 | 税額を別に記載しているか。インボイスの記載事項(税率ごとの対価・消費税額)と混同していないか |
| 予約サイト経由の精算 | サイト側が宿泊税を徴収する場合、入金明細で宿泊料と税を分けて把握できるか |
| 帳簿 | 宿泊税・入湯税を宿泊売上と別の勘定で管理しているか |
消費税の課税売上高(基準期間の1,000万円判定など)を計算するときも、明確に区分された宿泊税・入湯税は含めません。
裁決事例:特別徴収義務者でない者の上乗せは「価格の一部」
宿泊税・入湯税そのものの公表裁決は見当たりませんが、同じ「利用者が納税義務者で、特別徴収される税」である軽油引取税について、考え方を示した公表裁決があります。
平成7年3月23日裁決(裁決事例集No.49・460頁)
軽油引取税の特別徴収義務者(特約店)に該当しない一般販売店が、軽油引取税相当額を価格に上乗せして顧客から受け取っていた事例です。審判所は、一般販売店は軽油引取税を徴収する者ではなく、特約店から軽油を引き取る際に自ら納税する者であり、顧客から受け取る税相当額は軽油引取税そのものではなく売却価格の一部にすぎないとして、課税資産の譲渡等の対価の額に含まれると判断しました。
平成9年5月28日裁決(裁決事例集No.53・477頁)
同様の主張に対し、審判所は、特約業者は特別徴収義務者として納税義務者から税相当額を預かったにすぎないので対価の額に含まれないが、一般の販売業者は納税義務者として支払った税相当額を軽油の価格に含めて販売しているのだから、対価の額に含まれると判断しました。通達で個別消費税を列挙しているのは、これらの税が特別徴収で徴収されることを踏まえ、特別徴収義務者に対する定めと解するのが相当だ、とも述べています。
国税不服審判所 平成7年3月23日裁決 公表裁決事例(kfs.go.jp)、平成9年5月28日裁決 公表裁決事例(kfs.go.jp)
宿泊施設への示唆
この考え方を宿泊施設に当てはめると、「税相当額を課税標準から除けるのは、条例上の特別徴収義務者として預かっている場合」ということになります。たとえば、次のような場面では注意が必要です。
- 建物を運営会社に一括で貸しているオーナーは、通常、宿泊税の特別徴収義務者ではありません。宿泊税は運営会社の処理の問題で、オーナーの賃料に宿泊税は関係しません
- 運営代行会社に業務を委託している民泊・旅館の事業者は、条例上だれが特別徴収義務者かを確認し、精算書で宿泊料と税を分けて把握する必要があります
- 「宿泊税相当額」として料金に上乗せしているが、実際には条例上の課税対象外の宿泊だった、という場合は、税として納める根拠がなく、価格の一部として扱われる可能性があります
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る法人と個人の処理
仕訳の考え方
特別徴収義務者として宿泊税を受け取った場合の処理は、大きく2つあります。
| 方法 | 受け取ったとき | 納入したとき | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 預り金処理 | 現金/宿泊売上・預り金(宿泊税) | 預り金(宿泊税)/現金 | 実態に合う。売上高に税が含まれない |
| 両建て処理 | 現金/宿泊売上(税込み) | 租税公課/現金 | 利益は同じだが、売上高と費用が膨らむ。消費税の区分を帳簿で別に管理する必要 |
法人税・所得税の所得金額は、どちらの方法でも結果は変わりません。ただし、両建て処理の場合でも、消費税の計算では明確に区分された宿泊税を課税標準から除く必要があるため、帳簿上の区分が不可欠です。
法人と個人の違い
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 宿泊業の所得区分 | 旅館業・民泊の自営は事業所得または雑所得。運営会社への賃貸は不動産所得 | 区分なし |
| 宿泊税・入湯税の処理 | 預り金処理が基本。所得金額への影響はない | 同じ |
| 消費税 | 明確に区分すれば課税標準に含めない。基準期間の課税売上高の判定からも除く | 同じ |
| 納入漏れ | 自治体から不足額と加算金などを求められる | 同じ |
旅館業・民泊の所得区分は、旅館業収入の所得区分と消費税と民泊収入の所得区分で解説しています。
会計上の扱いと銀行からの見え方
決算書の表示
決算書は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って作ります。会社法431条は、株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとしており、法人税法22条4項も、収益・費用の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するとしています。
「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)は、取引価格(収益として計上する額)から、第三者のために回収する額を除くとしています。中小企業では同基準の適用は任意ですが、「中小企業の会計に関する指針」などでも、特別徴収した税を預り金とする処理は実態に合った方法です。宿泊税・入湯税を売上高に含めると、売上高が実態より大きく見え、その分だけ利益率は低く見えます。
税務上は損金・必要経費の問題にならない一方、どの勘定で表示するかは取引の実態で判断する必要があります。顧問税理士・会計の専門家と、処理方法を決めて継続してください。
銀行の見方
- 売上高と利益率:両建て処理だと、売上高に宿泊税が含まれ、営業利益率が低く見えます。預り金処理なら、宿泊事業そのものの売上と利益率が見えやすくなります
- 流動負債と資金管理:期末に未納入の宿泊税は預り金(流動負債)です。著書でも触れているとおり、流動比率は銀行の安全性指標として重視されます。預かった税を運転資金に回してしまうと、納入時に資金が不足します。消費税と同じく、預かった税は別に管理するのが安全です
- 税の滞納:宿泊税・入湯税の納入漏れや滞納は、自治体との関係だけでなく、資金管理の甘さとして見られます
- 返済能力:著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内を健全の目安としています。預り金を含んだ現預金を「自由に使える資金」と見ないよう、銀行への説明でも区分しておくと誤解がありません
実務のチェックポイント
- 施設の所在地で宿泊税が導入されているか。税率、課税対象の施設、課税免除の範囲を確認したか
- 条例上の特別徴収義務者は誰か(自社か、運営会社か、予約サイトか)
- 料金表・領収書・請求書で、宿泊料金と宿泊税・入湯税を明確に区分しているか
- 予約サイトや運営代行会社の精算書で、宿泊料と税を分けて把握できるか
- 帳簿で預り金(または別勘定)として管理し、消費税の課税標準から除いているか
- 期末の未納入額を預り金として計上しているか。納入資金を別に確保しているか
- 建物を運営会社に貸すオーナーの場合、賃料に宿泊税を含める誤りがないか
まとめ
- 宿泊税・入湯税は、宿泊者・入湯客が納税義務者で、施設側は特別徴収義務者として預かる
- 入湯税は、明確に区分していれば消費税の課税標準に含まれない(通達10-1-11)
- 宿泊税も同じ仕組みなら同じ考え方で整理されるのが一般的だが、通達に明記はない。条例と所轄で確認
- 特別徴収義務者でない者の税相当額の上乗せは、価格の一部として消費税の対価に含まれるとした裁決がある
- 会計上は預り金処理が実態に合う。売上高と流動負債の見え方を意識し、預かった税は別に管理する
宿泊事業は、税の預り方ひとつで、消費税の申告と決算書の見え方が変わります。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、運営形態ごとの税務と、融資を見据えた決算書づくりまでご相談いただけます。民泊と旅館業の違いは住宅宿泊事業法と旅館業法の違いと税務もご覧ください。
