レジデンスを旅館業・民泊に転用するとき、税金と並んで確認が必要なのが、登記と建築基準法の手続きです。ご相談の中には「登記は共同住宅のまま」「建築確認は取っていないが、旅館業の許可は取れた」というケースもあります。
そこで出てくるのが、「税務は登記を見るのか、実態を見るのか」という疑問です。この記事では、不動産登記法の建物の種類変更登記、建築基準法の用途変更の確認申請、令和8年5月に国が出した通知を一次情報で確認したうえで、税務上の判断が登記と実態のどちらによるのかを、裁決事例とともに整理します。転用後の税務の全体像はレジデンスを旅館業・民泊に転用したら税務はどうなるかで解説しています。
- 建物の種類が変わったら、1か月以内に種類変更登記を申請する義務がある(不動産登記法51条1項)
- 共同住宅からホテル・旅館への用途変更は、200㎡超なら確認申請が必要。200㎡以下でも法令への適合は必要
- 令和8年5月の国の通知で、旅館業の許可時に確認済証または建築士の証明書の確認を徹底する方針が示された
- 民泊(住宅宿泊事業)は、建築基準法上も住宅のまま扱われる(住宅宿泊事業法21条)
- 税務は税目ごとの基準で実態から判断する。ただし登記・確認・許可は実態を示す証拠として使われる
3つの制度は目的が違う
用途転用に関わる制度は、それぞれ目的が異なります。どれか一つを済ませれば、ほかも済むわけではありません。
| 制度 | 目的 | 転用で必要になること |
|---|---|---|
| 不動産登記法 | 建物の物理的状況と権利関係の公示 | 建物の種類の変更登記(1か月以内) |
| 建築基準法 | 建物の安全性・用途規制 | 200㎡超の特殊建築物への用途変更は確認申請、工事完了の届出 |
| 旅館業法・住宅宿泊事業法 | 宿泊営業の衛生・安全 | 旅館業は許可、住宅宿泊事業は届出 |
| 税法 | 課税の公平 | 税目ごとの基準で、用途・契約・使用状況を判断 |
このほか、消防法令上の用途も共同住宅と旅館・ホテルでは区分が異なり、必要な消防用設備が変わることがあります。用途地域によっては、ホテル・旅館を建てられない地域もあります。
不動産登記:建物の種類変更登記
種類は「主な用途」で決まる
建物の表示に関する登記事項には、建物の種類、構造及び床面積が含まれます(不動産登記法44条1項3号)。種類は、建物の主な用途により、居宅、店舗、寄宿舎、共同住宅、事務所、旅館、料理店、工場、倉庫、車庫、発電所及び変電所に区分し、これに当たらないものは準じて定めます。主な用途が2つ以上なら、その2つ以上の用途で種類を定めます(不動産登記規則113条)。
1か月以内の申請義務と過料
表題部の登記事項に変更があったときは、表題部所有者または所有権の登記名義人は、変更があった日から1か月以内に変更の登記を申請しなければなりません(不動産登記法51条1項)。正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になります(同法164条1項)。
共同住宅の全体をホテルにすれば「旅館」などへの変更、一部の階だけを転用するなら「共同住宅・旅館」のように併記する形が考えられます。実際の記載は、土地家屋調査士と相談して決めます。
区分所有建物の一室を転用する場合
分譲マンションの一室を旅館業や民泊に使う場合は、登記より先に管理規約の確認が必要です。管理規約で住宅以外の用途や住宅宿泊事業を禁止しているマンションでは、許可や届出の前提が崩れます。住宅宿泊事業の届出でも、管理規約で禁止されていないことの確認が求められます。登記・建築・許認可・管理規約のどれか一つでも欠ければ、転用は事業として成り立たないと考えてください。
建築基準法:用途変更の確認申請
200㎡超の特殊建築物への用途変更
建築物の用途を変更して特殊建築物にする場合は、確認申請の規定が準用されます(建築基準法87条1項)。対象は、別表第一(い)欄の用途の特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超えるものです(同法6条1項1号)。ホテル・旅館も共同住宅も特殊建築物ですが、用途が変わる以上、原則として手続きが必要になります。
「類似の用途」の例外に当たらない
政令で定める類似の用途の間の変更は、確認が不要です(建築基準法施行令137条の18)。ところが、同条では「ホテル、旅館」と「下宿、寄宿舎」が別の号に分かれており、共同住宅は類似の用途に挙げられていません。そのため、共同住宅からホテル・旅館への変更は、200㎡を超えれば確認申請が必要になります。確認を受けた用途変更の工事が終わったら、建築主事等への届出も必要です(同法87条1項の読替え)。
令和8年5月28日の国の通知
厚生労働省と国土交通省は、令和8年5月28日付で「旅館業の許可時における建築基準法への適合確認の徹底について」(健生衛発0528第1号・国住指第164号)を出しました。主な内容は次のとおりです。
- 一戸建て住宅・共同住宅からホテル・旅館(簡易宿所を含む)へ用途変更する場合、用途変更する床面積の合計が200㎡を超えるものは建築確認手続きが必要
- 200㎡以下は確認手続きは不要だが、用途変更後の建築基準関係規定への適合は必要
- 旅館業の許可時に、200㎡超なら用途変更に係る確認済証、200㎡以下なら建築基準関係規定に適合している旨の建築士による証明書を求める
旅館業の許可さえ取れれば建築側の手続きは問われない、という時代ではなくなっています。
民泊(住宅宿泊事業)は住宅のまま
住宅宿泊事業法21条は、建築基準法の「住宅」「長屋」「共同住宅」「寄宿舎」には届出住宅を含むと定めています。住宅宿泊事業(年180日以内)として営業する限り、建築基準法上の用途変更は不要です。ただし、事務所など住宅以外の用途の建物で民泊をする場合は、住宅系への用途変更が問題になります。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る税務は登記ではなく実態で判断されるのか
税目ごとの判断基準
| 税目・論点 | 判断の基準 | 登記の位置づけ |
|---|---|---|
| 耐用年数(法人税・所得税) | 使用目的・使用状況などから用途を合理的に判定(耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-1)。期中の転用は転用後の耐用年数(法人税基本通達7-4-2、所得税基本通達49-18) | 証拠の一つ |
| 消費税(住宅の貸付け) | 契約で居住用とされているか、または状況から居住用が明らかか(消費税法別表第二第13号)。契約変更で用途を変えれば変更後は課税(消費税法基本通達6-13-8) | 直接の基準ではない |
| 消費税(居住用賃貸建物) | 構造・設備その他の状況から住宅の貸付けに使わないことが客観的に明らかか(同11-7-1)。課税仕入れの日の状況で判定(同11-7-2) | 証拠の一つ |
| 固定資産税(住宅用地特例) | 専ら人の居住の用に供する家屋の敷地か(地方税法349条の3の2)。市町村が現況で認定 | 直接の基準ではない |
税法は、登記の種類をそのまま課税の基準にしているわけではありません。転用した事実があれば、登記を変えていなくても、税務上は転用後の実態で判断されると考えるべきです。逆に、登記だけ「旅館」に変えても、実態が住宅の賃貸なら住宅として扱われます。
裁決事例:判断の軸は実体、登記は証拠
平成11年8月27日裁決(裁決事例集No.58・161頁)[裁決全文]
- 事案:登記上「鉄筋コンクリート造、瓦葺、2階建、共同住宅」の建物について、請求人は、鉄筋コンクリート造は外壁と内壁の一部だけで、床や階段は木造の折衷様式だから、登記簿上の構造にとらわれず実体で判断して耐用年数を見積もるべきだと主張し、耐用年数の短縮を求めました。
- 判断:審判所は、構造様式は建物の骨格である主要構造部で判定するのが相当として、耐力壁が鉄筋コンクリートである以上「鉄筋コンクリート造のもの」に当たると判断し、短縮申請の却下を適法としました。
- 示唆:結論は登記と同じでしたが、判断の根拠は登記ではなく建物の実体でした。用途についても、税務上は実際の使用状況で判断されると考えておくべきです。
平成7年10月30日裁決(裁決事例集No.50・175頁)[裁決全文]
- 事案:飼料工場の出荷設備の上屋・側壁などについて、請求人は機械装置の一部(耐用年数10年)だと主張しました。
- 判断:審判所は、構造と機能から建物に当たると判断し、その際、請求人自身が建築確認を受け、建物として登記し、不動産取得申告をしていたことも認定の根拠に挙げました。
- 示唆:登記や建築確認は、それだけで税務上の扱いを決めるものではありませんが、納税者自身が示した実態の証拠として重く見られます。
不一致を残さないことが最善の備え
二つの裁決から言えるのは、税務の判断軸は実態であり、登記や確認は実態を裏付ける証拠だということです。登記は共同住宅、建築確認は共同住宅、旅館業許可はホテル、帳簿の耐用年数は住宅用、という状態では、どれが実態かを説明する負担を自ら抱えることになります。転用したら、登記・確認・許可・契約・固定資産台帳の用途をそろえるのが基本です。
会計上の扱いと銀行からの見え方
企業会計では、固定資産台帳の用途・耐用年数を実態に合わせて更新し、減価償却を規則的に行います。転用工事のうち資本的支出は資産計上、原状回復的な部分は修繕費と、内容ごとに区分します。税務上の損金算入の判断と、決算書の表示区分(資産計上か費用処理か、販管費か特別損失か)は別の問いで、取引の実態に沿ってGAAP(一般に公正妥当と認められる会計基準)で判断します。
銀行は、担保物件の適法性を重視します。用途変更の確認を受けていない建物や、登記と現況が大きく異なる建物は、担保評価や融資審査で説明を求められ、次の融資や売却時の買主の融資にも影響しかねません。転用と融資契約の関係は用途転用と融資契約、担保評価と融資期間の考え方は融資期間と耐用年数の関係をご覧ください。
実務のチェックポイント:手続きの順序
- 事前相談:特定行政庁(建築)、保健所(旅館業)、消防、融資先の銀行
- 用途地域・類似用途・床面積の確認(200㎡超なら確認申請)
- 確認済証の取得 → 工事 → 工事完了の届出
- 旅館業の許可(確認済証または建築士の証明書を提出)
- 営業開始から1か月以内に種類変更登記
- 税務:耐用年数の切替え、消費税の課税売上・居住用賃貸建物の調整、所得区分
- 固定資産税:住宅用地特例の扱いを市町村に確認
- 登記・確認・許可・契約・台帳の用途が一致しているかの最終確認
まとめ
- 種類が変わったら1か月以内に種類変更登記(不動産登記法51条1項)。怠ると過料の対象
- 共同住宅からホテル・旅館への変更は、200㎡超なら確認申請。共同住宅は類似の用途に含まれない
- 令和8年5月28日の通知で、旅館業の許可時に確認済証または建築士の証明書を求める方針が示された
- 民泊(住宅宿泊事業)は建築基準法上も住宅のまま
- 税務は実態で判断されるが、登記・確認・許可は実態の証拠になる。用途をそろえておく
用途転用は、税理士だけでなく、土地家屋調査士・建築士・行政書士・金融機関との連携が必要なテーマです。クレフティの不動産投資家向けサービスでは、税務と決算書・融資の観点から、転用計画の段階でご相談いただけます。
