インバウンド需要の拡大を受けて、賃貸マンション(レジデンス)を旅館業の許可を取ってホテルに転用したり、一部の住戸を民泊にしたりするご相談が増えています。収益性に目が向きがちですが、住宅の家賃から宿泊料に変わることで、税務の前提がほぼすべて入れ替わります。
この記事では、レジデンスを旅館業・民泊に転用したときの税務を、所得区分、消費税(居住用賃貸建物の制限と転用時の調整)、耐用年数、固定資産税の順に整理し、「税務は登記ではなく実態で判断されるのか」という論点もあわせて考えます。建物の種類変更登記と建築基準法の用途変更の手続きは、用途転用と建物の種類変更登記・建築基準法の用途変更で詳しく扱います。
- 宿泊料は消費税の課税売上。住宅宿泊事業(民泊)も含め、住宅の貸付けの非課税にはならない
- 居住用賃貸建物を第3年度の課税期間の末日までに民泊・旅館業に転用すると、控除できなかった消費税の一部を加算できる
- 個人は、自営なら事業所得(民泊は原則雑所得)、運営会社への一括貸しなら不動産所得
- 耐用年数は用途の実態で判定。RC造なら住宅用47年からホテル用39年(木造内装3割超は31年)に変わる
- 税務は税目ごとの基準で判断し、登記の種類だけでは決まらない。ただし登記・許可・契約は実態の証拠になる
転用で変わる税金の全体像
まず、何が変わるのかを一覧にします。
| 論点 | 転用前(住宅の賃貸) | 転用後(旅館業・民泊を自営) | 判断の基準 |
|---|---|---|---|
| 個人の所得区分 | 不動産所得 | 事業所得(民泊は原則雑所得) | 役務提供を伴うか |
| 売上の消費税 | 非課税 | 課税 | 消費税法別表第二第13号、施行令16条の2 |
| 取得時の消費税 | 居住用賃貸建物なら控除不可 | 第3年度までの転用なら調整で加算 | 消費税法35条の2 |
| 建物の耐用年数(RC造) | 住宅用47年 | ホテル・旅館用39年(木造内装3割超は31年) | 耐用年数省令別表第一 |
| 固定資産税の住宅用地特例 | 対象 | 対象外となり得る | 地方税法349条の3の2(専ら人の居住の用) |
| 登記・建築基準法 | 共同住宅 | 種類変更登記、200㎡超は用途変更の確認申請 | 不動産登記法51条、建築基準法87条 |
なお、建物をホテル運営会社に一括で貸す場合は、自営とは整理が異なります。所得区分は不動産所得のままで、賃料は「住宅の貸付け」ではなくなるため課税になります(消費税法基本通達6-13-8は、契約当事者間で住宅以外の用途に契約変更した場合、変更後の貸付けは課税取引になるとしています)。
所得区分:個人は不動産所得から事業所得へ
部屋を貸して家賃を受け取る所得は不動産所得です。一方、所得税基本通達26-4は、アパート・貸間のように食事を提供しない場合は不動産所得、下宿のように食事を提供する場合は事業所得または雑所得としています。ホテル・旅館の営業は、清掃・リネン・フロント対応など役務の提供が対価の中心になるため、一般に事業所得(規模や継続性によっては雑所得)として考えます。
住宅宿泊事業(民泊)は、国税庁の「住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業により生じる所得の課税関係等について(情報)」で、原則として雑所得とされています。ただし、不動産賃貸業を営む人が、退去から次の契約までの間に一時的に行う場合は不動産所得に含めてよく、民泊で生計を立てているなど事業として行っていることが明らかなら事業所得とされています。
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 所得区分 | 区分なし(すべて法人の所得) | 自営のホテル・旅館:事業所得(または雑所得)/民泊:原則雑所得/一括貸し:不動産所得 |
| 赤字の扱い | ほかの事業と通算、欠損金の繰越し | 雑所得の赤字はほかの所得と損益通算できない |
| 決算書・申告書 | 宿泊売上は売上高 | 所得区分ごとに申告。区分が変わる年は按分が必要 |
民泊の所得区分の詳細は民泊の税金と確定申告で解説しています。
消費税①:宿泊料は課税売上になる
住宅の家賃は非課税ですが、旅館業法の旅館業(旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業)に係る施設の貸付けは、利用期間が1か月以上でも非課税になりません。消費税法基本通達6-13-4は、住宅宿泊事業も旅館業に該当し、非課税にはならないと明記しています。
転用によって課税売上が生まれると、次の点が変わります。
- 納税義務:課税売上高が1,000万円を超えると、2年後(個人は前々年、法人は原則前々事業年度が基準期間)に課税事業者になる
- インボイス:法人客や予約サイト経由の取引で、インボイスを求められることがある
- 課税売上割合:課税売上が増えると、建物の修繕やリノベーションの消費税を控除できる範囲が広がる
消費税②:居住用賃貸建物の制限と転用時の調整
取得時は控除できなかった建物
税抜1,000万円以上のレジデンスは、取得時に居住用賃貸建物として仕入税額控除ができません(消費税法30条10項)。ただし、取得した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間(第3年度の課税期間)の末日までに、住宅の貸付け以外の貸付け(課税賃貸用)に供した場合は調整があります(消費税法35条の2)。
国税庁の質疑応答事例「居住用賃貸建物を取得後一定期間内に民泊サービスの用に供した場合」では、民泊サービスは非課税となる住宅の貸付け以外の「施設の貸付け」に当たり、居住用賃貸建物の一部を民泊に使った場合は課税賃貸用に供した場合に該当するとされています。
前提として、第3年度の課税期間の末日に建物を持っていること、その時点で免税事業者でないことが必要です。第3年度を過ぎてから転用しても、この調整はありません。転用の時期が数か月違うだけで結果が変わるため、計画段階で取得日と第3年度の課税期間を確認しておきます。
転用工事の消費税
転用のための改装工事(資本的支出)が税抜1,000万円以上でも、旅館・ホテルなど旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物は居住用賃貸建物に当たりません(消費税法基本通達11-7-1(2))。居住用賃貸建物かどうかは課税仕入れを行った日の状況で判定し、その課税期間の末日までに住宅の貸付けに使わないことが明らかにされたときは、該当しないものとしてよいとされています(同11-7-2)。旅館業の許可申請や設計図面など、用途を客観的に示す資料を工事の時点からそろえておくことが重要です。
なお、居住用賃貸建物に当たらない調整対象固定資産を、個別対応方式で非課税業務用としていた場合に3年以内に課税業務用に転用したときは、別の調整規定(消費税法35条)があります。
法人税での後始末
税抜経理の法人では、取得時に控除できなかった消費税は「資産に係る控除対象外消費税額等」として処理します。その後、第3年度に調整計算で控除税額が増えた場合、仮受・仮払消費税と納付額の差額は第3年度の益金に算入し、取得年度の処理をさかのぼって直す必要はないとされています(国税庁質疑応答事例「居住用賃貸建物に係る控除対象外消費税額等について」)。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る税務は登記ではなく実態で判断されるのか
転用のご相談で多いのが、「登記は共同住宅のままだが、税務はどう見られるのか」という質問です。答えは、税目ごとに法令の基準で判断され、登記の種類だけでは決まらない、です。
- 耐用年数:資産の用途は、使用目的・使用状況などから合理的に判定します(耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-1)。期中に転用したら、転用後の用途の耐用年数を使います(法人税基本通達7-4-2、所得税基本通達49-18)
- 消費税(住宅の貸付け):契約で居住用とされているか、契約で明らかでなくても状況から居住用が明らかかで判断します(消費税法別表第二第13号)
- 居住用賃貸建物:建物の構造・設備その他の状況から、住宅の貸付けに使わないことが客観的に明らかかで判断します(同通達11-7-1)
- 固定資産税の住宅用地特例:専ら人の居住の用に供する家屋の敷地かどうかで判断し、市町村が賦課期日(1月1日)の現況で認定します
裁決事例でも、判断の中心は実態です。平成11年8月27日の裁決(裁決事例集No.58・161頁、裁決全文)では、登記上「鉄筋コンクリート造、共同住宅」の建物について、請求人が「登記簿上の構造にとらわれず実体で判断すべき」と主張しました。審判所は、構造は主要構造部(耐力壁)で判定するとして、鉄筋コンクリート造に当たると判断しています。結論は登記と同じでしたが、根拠は登記ではなく建物の実体でした。
一方で、登記や許可は実態を示す有力な証拠でもあります。平成28年9月7日の裁決(裁決全文)では、住宅の貸付けかどうかを、契約書の記載や契約時の説明から判断しています。登記・建築確認・旅館業許可・契約書・帳簿がそろって同じ用途を示していれば、税務上の判断は安定します。食い違っていれば、どちらが実態かを説明する負担が生じます。
会計上の扱いと銀行の見え方
決算書の表示
法人がホテルを自営すれば、宿泊売上は売上高です。転用前の家賃収入と同じく本業の収益なので、表示に迷うことは少ないでしょう。一方、転用工事のうち修繕費になる部分を一度に費用にすると、営業利益が大きく下がることがあります。税務上は損金算入が認められるかが論点ですが、決算書の表示区分(販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
耐用年数が短くなるため、減価償却費は増えます。RC造で住宅用47年からホテル用39年に変われば、同じ建物でも毎年の償却費は大きくなります。
銀行の見え方
| 見られる数字 | 転用の影響 |
|---|---|
| 売上高 | 稼働率次第で増えるが、季節・景気・規制の影響を受けやすい |
| 営業利益 | 清掃・リネン・予約サイト手数料・人件費などの運営費が増える |
| 償却前利益 | 償却費の増加は戻して見るが、運営費の増加はそのまま効く |
| 債務償還年数・ICR | 利益の振れ幅が大きいほど、銀行は保守的に見る |
| 担保評価 | 用途の変更、建築基準法・旅館業法の適法性が確認される |
転用は融資契約の資金使途や用途の約定にも関わります。銀行との調整は用途転用と融資契約、償却費と銀行の見方は減価償却費と銀行の見方をご覧ください。
実務のチェックポイント
- 取得日と第3年度の課税期間の末日はいつか。転用はそれまでに始まるか
- 第3年度の末日に建物を保有し、課税事業者(一般課税)である見込みか
- 自営か一括貸しか。個人なら所得区分が変わる年の按分を準備したか
- 転用工事の時点で、旅館業の用途を示す許可申請・図面・契約がそろっているか
- 耐用年数を転用後の用途に切り替えたか
- 固定資産税の住宅用地特例が外れる影響を試算したか
- 登記・建築確認・旅館業許可・契約書・帳簿の用途が一致しているか
- 融資契約上、銀行の事前承諾が必要か
まとめ
- 宿泊料は課税売上。民泊も旅館業も、住宅の貸付けの非課税にはならない
- 第3年度の課税期間の末日までの転用なら、居住用賃貸建物で控除できなかった消費税の一部を加算できる
- 個人の所得区分は、自営なら事業所得(民泊は原則雑所得)、一括貸しなら不動産所得
- 耐用年数・住宅の貸付け・住宅用地特例は、税目ごとの基準で実態から判断される
- 登記・許可・契約は実態の証拠。用途をそろえておくことが税務の安定につながる
転用は、税務・登記・建築・融資が同時に動く判断です。クレフティの不動産投資家向けサービスでは、転用前の税額試算から決算書と融資への影響までご相談いただけます。
