固定資産税の上昇や周辺相場の変化を受けて家賃の値上げを求めたところ、借主が応じず、従来の家賃を法務局に供託するようになった。あるいは、借主から家賃の減額を求められ、話し合いがまとまらない。賃料をめぐる争いは、店舗・事務所や古くからの借地・借家で起こりやすく、解決まで数年かかることもあります。
賃料増減額請求と供託された賃料の収入計上は、個人の所得税、法人税、消費税で考え方が少しずつ違うのが特徴です。この記事では、借地借家法の仕組みを確認したうえで、それぞれの計上時期、判決確定時の差額と利息、借主側の処理、会計上の扱いと銀行への説明を整理します。家賃収入の計上時期の基本は家賃収入の計上時期で解説しています。
- 借地借家法32条により、増額で協議が調わないとき、借主は裁判確定まで相当と認める額を払えばよく、不足額は確定後に年1割の利息を付けて支払う
- 個人:賃料の額の係争で供託された金額は契約上の支払日の収入(所得税基本通達36-5)。増額分は裁判が確定した日の年分の収入(最高裁昭和53年2月24日判決)
- 法人:増減額の係争では、契約の内容や供託額を勘案して合理的に見積もって計上する(法人税基本通達2-1-29注2)。賃貸借の存否の係争なら、解決まで計上を見合わせることができる(同注1)
- 消費税も、増減額の係争は合理的な見積りで計上(消費税法基本通達9-1-20)
- 賃貸借の存否を争った判決・和解で受け取る過去の賃料相当額や遅延損害金は、判決・和解等のあった日の収入(所得税基本通達36-5(2)、令和2年4月21日裁決)
賃料増減額請求と供託の仕組み
借地借家法32条・11条
建物の借賃が、租税その他の負担の増減、土地・建物の価格の変動その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の借賃との比較などにより不相当となったときは、当事者は将来に向かって借賃の増減を請求できます(借地借家法32条1項)。地代については11条に同様の定めがあります。
| 場面 | 裁判確定までの扱い | 裁判確定後 |
|---|---|---|
| 増額請求で協議が調わない | 借主は相当と認める額を支払えば足りる(32条2項) | 不足額に年1割の支払期後の利息を付して支払う |
| 減額請求で協議が調わない | 貸主は相当と認める額の支払を請求できる(32条3項) | 受け取りすぎた額に年1割の受領時からの利息を付して返還する |
供託とは
貸主が増額後の家賃でなければ受け取らないと受領を拒んだ場合、借主は、自分が相当と考える額の家賃を法務局(供託所)に供託することで、家賃を支払ったのと同じ効果を得ることができます。貸主は、供託された家賃を供託所から受け取る(還付を受ける)ことができ、その際に「賃料の一部として受領する」などの留保を付けることで、増額の主張を維持するのが一般的です。法律上の手続きは弁護士に確認してください。
税務では、この「供託された家賃をいつ収入にするか」と「増額分をいつ収入にするか」が論点になります。
個人(所得税)の計上時期
所得税基本通達36-5は、不動産所得の総収入金額の収入すべき時期を次のように定めています(所得税基本通達 第36条関係、国税庁 タックスアンサーNo.1376)。
| 区分 | 収入すべき時期 |
|---|---|
| 通常の家賃 | 契約・慣習で定められた支払日(定めがなければ支払を受けた日) |
| 賃料の額に関する係争で、弁済のため供託された金額 | 上と同じ(契約上の支払日など) |
| 賃貸借契約の存否の係争等で、判決・和解等により受けることとなった既往の期間の賃貸料相当額(供託されていたもの、供託されていなかったもの、遅延利息その他の損害賠償金を含む) | その判決、和解等のあった日 |
注1では、賃貸料相当額の計算の基礎とされた期間が3年以上の場合は臨時所得に該当するとしており、一定の要件のもとで平均課税を選べる可能性があります。
供託された家賃は「支払日」の収入
賃料の額だけが争われている場合、借主が供託した家賃は、還付を受けていなくても契約上の支払日の収入です。「争っているから受け取っていない」「還付を受けた時が収入」と考えて申告から外すと、申告漏れになります。
増額分は「裁判確定」の年分
最高裁昭和53年2月24日第二小法廷判決(昭和50年(行ツ)第123号)は、賃料増額請求が争われた場合の増額分の賃料は、原則として、その債権の存在を認める裁判が確定した日の属する年分の収入金額に算入すべきであり、増額分の支払を命じた仮執行宣言付判決に基づいて支払を受けた金員は、受領した日の属する年分の収入金額に算入すべきとしています(裁判所 裁判例検索)。
| 金額 | 個人の収入時期 |
|---|---|
| 供託された従来額(借主が相当と認める額) | 契約上の支払日 |
| 増額分(差額) | 増額を認める裁判が確定した日の年分 |
| 仮執行宣言付判決に基づいて受け取った金員 | 受領した日の年分 |
| 差額に付される年1割の利息 | 判決の確定などにより受け取ることが確定した時(係争の内容による) |
法人・消費税の計上時期
法人は、所得税とは考え方が異なります。法人税基本通達2-1-29の注は次のとおりです(法人税基本通達 第2章第1節)。
- 注1:賃貸借契約について係争(使用料等の額の増減に関するものを除く)があるため使用料等の額が確定せず、その事業年度に支払を受けていないときは、相手方が供託をしたかどうかにかかわらず、係争が解決して額が確定し支払を受けることとなるまで、益金算入を見合わせることができる
- 注2:使用料等の額の増減に関して係争がある場合には注1の取扱いによらず、契約の内容、相手方が供託をした金額等を勘案して使用料等の額を合理的に見積もる
消費税法基本通達9-1-20も、賃貸借契約に基づく使用料等の資産の譲渡等の時期を、契約・慣習により支払を受けるべき日としたうえで、係争(増減に関するものを除く)があるときは解決して支払を受けることとなる日とすることができるとし、増減に関する係争については契約の内容や供託額等を勘案して合理的に見積もるとしています(消費税法基本通達 第9章第1節第5款)。
| 係争の種類 | 個人(所得税) | 法人 | 消費税 |
|---|---|---|---|
| 賃料の増減額の係争 | 供託額は支払日、増額分は裁判確定時 | 合理的に見積もって計上 | 合理的に見積もって計上 |
| 賃貸借の存否の係争 | 判決・和解等の日 | 解決まで見合わせ可 | 解決して支払を受ける日とすることができる |
法人の「合理的な見積り」は、通常は少なくとも供託額を、増額分については契約の内容や交渉・訴訟の状況から合理的に見込める額を計上するという考え方です。見積りと確定額の差は、確定した期で調整します。消費税は、住宅の家賃なら非課税、店舗・事務所の家賃なら課税売上げとして計上します。
減額請求で返還することになった場合
借主の減額請求が認められ、受け取りすぎた家賃に年1割の利息を付けて返還する場合、法人は、見積りの段階で返還の可能性を考慮し、確定した期に差額を調整します。個人が過去の年分に収入として申告した家賃を返還する場合の扱いは、返還の原因や時期によって判断が分かれるため、個別に確認が必要です。
公表裁決事例
昭和55年3月24日裁決(裁決事例集No.19・25頁):増額訴訟中の供託賃料の収入時期
- 要旨:土地の賃料の増額を求める訴訟の係属中に供託された賃料について、請求人は、訴訟が解決するまで還付を受けられない未確定債権だと主張した。審判所は、賃貸借契約の存否は争われず賃料の額の多寡のみが争われている場合、供託された賃貸料相当額の収入すべき時期は、確定している部分は契約等により支払日として定められている日、不確定な部分は賃借人が弁済のため供託した日と解されるとし、請求人が訴訟係属中に還付を受け、超過部分について留保の意思表示をしていた事実も踏まえ、原処分の収入時期に誤りはないとした
- 確認先:国税不服審判所 公表裁決事例要旨(所得税法関係・不動産所得・収入金額の計算)
令和2年4月21日裁決:賃料相当損害金は判決確定の年、遅延損害金は発生の都度
- 事案:土地を無断で第三者に貸し付けられた所有者が、不法行為に基づく賃料相当の損害賠償金と遅延損害金の支払を命じる判決を得た。所有者は申告をしておらず、時効などを主張した
- 判断:所得税法は権利確定主義を採用しており、収入の原因となる権利が確定する時期は権利の特質を考慮して決めるべきである。賃料相当損害金は、判決が確定するまでは権利の有無を正確に判断できない性質のものであり、判決が確定した年分の不動産所得の総収入金額に計上すべきとした。遅延損害金のうち判決確定日までの分は判決確定の年分、その翌日以降の分は日々発生した日の属する各年分の不動産所得の総収入金額とした
- 確認先:国税不服審判所 令和2年4月21日裁決
賃料の額の争いではなく、賃貸借の存否や不法占有をめぐる争いでは、判決の確定が収入の時期になります。判決確定後も支払われないまま遅延損害金が積み上がる場合は、毎年その年に発生した分を申告する必要がある点に注意が必要です。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る借主側の処理
賃料を供託する借主の側も、事業者であれば処理が必要です。
| 借主 | 供託した賃料 | 判決確定で差額を支払う場合 |
|---|---|---|
| 個人事業者 | 賃借料の支払日の属する年分の必要経費(所得税基本通達36-5注2) | 債務が確定した年分の必要経費。利息部分も業務に関するものなら必要経費 |
| 法人 | 供託した期の損金 | 債務が確定した期の損金 |
供託は支払と同じ効果を持つため、借主側では、供託した金額をその期の賃借料として処理します。
会計上の扱いと決算書の表示
税務上は、供託された賃料や増額分をいつ益金・総収入金額に計上するかが論点です。一方、決算書の表示は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。法人税法22条4項も、収益の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するとしています。
| 項目 | 主な表示 |
|---|---|
| 供託された賃料(還付前) | 売上高(家賃収入)と、供託金の還付請求権など(未収入金) |
| 増額分(判決確定で受け取る差額) | 売上高。過年度分がまとまって入る場合は、金額により特別利益として区分することを検討 |
| 年1割の利息 | 営業外収益(受取利息など) |
| 遅延損害金 | 営業外収益または特別利益 |
| 減額請求で返還見込みの額 | 返還の可能性に応じて収益の見積りに反映 |
供託された家賃は、還付を受けるまでは供託所に預けられた状態なので、BSでは現預金ではなく未収入金などとして表示されます。過年度分の増額分がまとめて入金された場合、その期の売上高だけが膨らみ、物件の実力以上に見えることがあります。どの区分にするかは取引の実態次第なので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
| 見られる点 | 賃料の係争との関係 |
|---|---|
| 家賃収入の水準 | 係争中は従来額が基準。増額が確定するまで将来の収入として見込みにくい |
| 未収入金・供託金 | 還付を受けていない供託金が資産に滞留していないか |
| 一時的な増収 | 判決確定による過年度分の差額は一過性の収入 |
| テナントとの関係 | 係争が退去や空室につながるリスク |
銀行は、係争中の賃料を「確定した収入」としては評価しにくいため、収支計画は従来額を基準に説明するのが現実的です。判決確定で過年度分の差額がまとめて入った期は、その内訳を説明し、経常的な賃料水準と分けて示すと誤解を防げます。著書のモデルでは債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で見ますが、一過性の収入で一時的に改善した数字は、銀行の側でも割り引いて見られることを前提にしておきます。
実務のチェックポイント
- 係争の種類を確認する:賃料の額の争いか、賃貸借の存否の争いか
- 供託の通知と供託書を保管する:いつ、いくら供託されたか
- 個人は供託額を支払日の収入に計上する:還付を受けていなくても
- 法人・消費税は合理的な見積りで計上する:契約内容と供託額を勘案
- 還付請求の際は留保の意思表示を検討する:法律面は弁護士と確認
- 判決確定時の差額・利息の収入時期を整理する:3年以上の期間分は臨時所得の可能性
- 遅延損害金は確定後も毎年発生分を計上する:判決後に未払いが続く場合
- 銀行には従来額ベースの収支計画で説明する:一過性の差額は分けて示す
まとめ
- 賃料の増額で協議が調わないとき、借主は相当と認める額を払えばよく、確定後に不足額へ年1割の利息を付けて払う(借地借家法32条)
- 個人は、賃料の額の係争で供託された金額を契約上の支払日の収入とし、増額分は裁判確定時の収入とする(所得税基本通達36-5、最高裁昭和53年2月24日判決、昭和55年3月24日裁決)
- 法人と消費税は、増減額の係争では契約内容や供託額を勘案して合理的に見積もって計上する
- 賃貸借の存否をめぐる判決・和解で受け取る過去の賃料相当額は判決等の日の収入。判決後の遅延損害金は発生の都度収入になる(令和2年4月21日裁決)
- 銀行には、係争中は従来額を基準とした収支計画で説明し、一過性の差額は分けて示す
賃料の改定交渉は、法律・税務・資金計画が絡みます。交渉の前から見通しを立てておきたい場合は、不動産投資家向けサービスでご相談ください。地代の扱いは地代収入・底地の税務と借地権の認定課税もご覧ください。
