「先生、私の持っている物件、表面利回り8%あるんです」。ある投資家の方に、少し得意げにこう言われたことがあります。8%なら、数字としては悪くありません。
でも私は、「その数字、銀行からどう見えるかご存じですか?」と聞き返しました。表面利回りは物件の「値段」に対する家賃の割合です。そこには、その物件にいくら借りているのかという情報がまったく入っていません。融資を受けて買い続けたいなら、見るべきは別の数字です。
この記事では、私が物件の判断でいちばん重視している指標のひとつ「残債利回り」について、計算方法から、銀行の格付けとの関係、買い増しと保有物件の見直しへの使い方までを解説します。
- 表面利回りは「家賃 ÷ 物件価格」。わかりやすいが、借入の重さを示さない
- 残債利回りは「年間家賃 ÷ 融資残高」。借りたお金に対してどれだけ家賃を稼いでいるかを示し、銀行の見方に近い
- 残債利回りが低い物件を積み重ねると、返済比率が上がり、債務償還年数が悪化して格付けの返済能力が下がる
- 物件を買う前に、ポートフォリオ全体の残債利回りが購入後どう変わるかを必ず計算する
表面利回りだけで判断してはいけない2つの理由
表面利回りの計算式
表面利回りは、次の式で計算します。
物件価格5,000万円で年間家賃が500万円なら10%です。計算が簡単で、物件同士を比べやすい。だからこそ、多くの方がこの数字で物件を選びます。ただし、表面利回りには2つの弱点があります。
理由1:分母が「物件価格」なので相場に引きずられる
表面利回りは、物件を安く買えば上がり、相場が上がれば下がって見えます。物件の稼ぐ力は何も変わっていないのに、市場価格の動きによって数字が変わってしまうのです。「5年前に8%で買った物件が、いまの相場だと6%相当」という話はこのためです。
理由2:借入との関係がまったくわからない
より本質的なのはこちらです。銀行が知りたいのは「この物件から、貸したお金を回収できるか」です。ところが表面利回りは、物件価格に対して家賃が何%かを示すだけで、「いまいくら借りていて、それに対して家賃がどれだけあるか」は教えてくれません。
同じ表面利回り8%でも、自己資金を多く入れて買った物件と、フルローンで買った物件とでは、返済の重さがまったく違います。
残債利回りとは:借入に対して家賃をどれだけ稼いでいるか
残債利回りの計算式
残債利回りは、分母を物件価格ではなく現在の融資残高にした指標です。
融資残高1億円の物件で年間家賃が1,000万円なら、残債利回りは10%です。「借りている1億円に対して、毎年10%の家賃が入ってくる」という意味になります。
この数字が高いほど、借入に対して家賃に余裕があり、返済が安定していると考えられます。逆に残債利回りが低い物件は、借入に対して家賃が細く、返済能力の弱い物件ということになります。
家賃は「経費を引く前」の金額で計算する
ここでいう家賃は、管理費や修繕費などの経費を差し引く前の、実際の年間賃料収入です。経費を引いた純収益(NOI)で計算する「NOI利回り」とは別のものです。経費の見積もり方に左右されないので、物件同士を同じ物差しで比べやすいのが利点です。
なお、「残債利回り」は法律や会計基準で定義された用語ではありません。人によってはNOIで計算することもあります。この記事では、私が実際に使っている「家賃÷融資残高」の定義で説明します。
表面利回りとの関係:融資の割合で割ると残債利回りになる
購入直後であれば、残債利回りは「表面利回り ÷ 融資の割合(融資額 ÷ 物件価格)」と同じになります。表面利回り10%の物件を価格の9割の融資で買えば、残債利回りは10% ÷ 0.9 ≒ 11.1%です。
つまり、自己資金を多く入れるほど、また返済が進んで残高が減るほど、残債利回りは上がっていきます。表面利回りが同じでも、買い方と時間の経過によって銀行からの見え方は変わるのです。
3つの物件で比べてみる
ここで、条件の異なる3つの物件を比べてみます。返済比率は、金利2%・期間25年の元利均等返済を仮定して計算しています(年間返済額は融資額のおよそ5.1%)。
| 物件A | 物件B | 物件C | |
|---|---|---|---|
| 物件価格 | 5,000万円 | 1億円 | 2億円 |
| 年間家賃 | 500万円 | 600万円 | 1,600万円 |
| 表面利回り | 10.0% | 6.0% | 8.0% |
| 融資残高 | 4,500万円 | 9,000万円 | 1億9,000万円 |
| 残債利回り | 11.1% | 6.7% | 8.4% |
| 年間返済額(仮定) | 約229万円 | 約458万円 | 約967万円 |
| 返済比率(返済額÷家賃) | 約46% | 約76% | 約60% |
物件A:残債利回りが高く、返済に余裕がある
残債利回り11.1%に対し、年間返済額は残高の約5.1%。家賃のうち返済に回るのは半分以下で、管理費や修繕費、空室に備える余裕があります。
物件B:家賃の4分の3が返済に消える
残債利回り6.7%は、返済額の5.1%に近い水準です。家賃の約76%が返済に回り、ここから管理費、修繕費、固定資産税を払うと、手元にはほとんど残りません。空室が出れば持ち出しになる可能性もあります。
物件C:利回りはそこそこでも、借入の「量」が大きい
残債利回り8.4%は悪くない数字です。ただし融資残高は1億9,000万円あり、買えば会社全体の借入が一気に増えます。率だけでなく、借入の絶対額が格付けに与える影響も確認する必要があります。
残債利回りが下がると、銀行格付けのどこに響くのか
格付けでいちばん重いのは「返済能力」
私が著書で紹介している銀行格付けのモデルでは、129点満点のうち安全性34点・収益性15点・成長性25点、そして返済能力に55点が配分されています。最もウェイトが大きいのが返済能力です。
返済能力を測る代表的な指標が、債務償還年数です。
一般に10年以内が健全とされ、20年を超えるとプロパー融資の継続は難しいと判断されやすい水準です(不動産賃貸業は長期の回収を前提に見られることもあります)。計算の詳しい方法は決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェックで解説しています。
残債利回りの低い物件が債務償還年数を延ばす仕組み
残債利回りが低い物件、つまり借入に対して家賃が細い物件を積み重ねると、式の分子である借入金残高は大きく増えます。一方で家賃が細いので、経費と利息を払った後の利益(分母)は伸びません。結果として、債務償還年数が長くなります。
10年以内が目安のところ、15年、20年と延びていけば、返済能力の点数は大きく下がります。銀行から見れば「借金を返す力が弱い会社」です。物件ごとの残債利回りは、この債務償還年数を左右する入り口の数字だと考えてください。
なお、家賃と返済の関係を見る指標としては、ICR(利息に対する収益の倍率)も銀行がよく使います。あわせてICRとはの記事も参考にしてください。
「利回り脳」で買い続けたケース
この指標を軽視したまま買い進めてしまう例は、実際のご相談でも見られます。
ある不動産投資家の方は、とにかく表面利回りの高い物件を探して買い続けていました。私はこうした買い方を「利回り脳」と呼んでいます。そのころのBSを見返すと、右側の借入残高が積み上がっていく一方で、それに対する家賃は薄いままでした。
あるとき銀行から「融資はちょっと難しいですね」と言われ、初めてポートフォリオの問題に気づいたそうです。格付けを計算してみると、返済能力の点数が著しく低くなっていました。やがて複数の金融機関から融資を断られる事態になります。原因は複合的でしたが、残債利回りを軽視していたことはその一因でした。
こうした状態から抜け出すには、物件の整理と財務の立て直しが欠かせません。融資が止まる構造については2棟目・3棟目で融資が止まる理由でも詳しく書いています。
買い増し前と保有物件の見直しに使う:残債利回りシミュレーション
買う前の3ステップ
物件を買う前には、毎回次の3つを計算してください。30分もあればできます。
- 現在の残債利回りを出す:保有物件すべての融資残高の合計と、年間家賃の合計から、ポートフォリオ全体の残債利回りを計算する
- 購入後の残債利回りを出す:検討中の物件の融資額と年間家賃を加えて、購入後の残債利回りを計算する
- 下がるなら、債務償還年数への影響を確認する:購入後の残債利回りが大きく下がる場合は、経費と返済を差し引いた利益がどうなるか、債務償還年数が何年になるかまで確認する
たとえば、いま物件Aだけを持っている場合で計算すると次のようになります。
| 年間家賃合計 | 融資残高合計 | 全体の残債利回り | |
|---|---|---|---|
| 現在(物件Aのみ) | 500万円 | 4,500万円 | 11.1% |
| 物件Bを買い増した場合 | 1,100万円 | 1億3,500万円 | 8.1% |
| 物件Cを買い増した場合 | 2,100万円 | 2億3,500万円 | 8.9% |
物件Bを足すと、全体の残債利回りは11.1%から8.1%へ大きく下がります。物件Cは率の下がり方は小さいものの、借入残高は5倍以上に膨らみます。どちらを選ぶにしても、「利回りがいいから買う」のではなく、格付けへの影響を確認したうえで、意図して買うことが大切です。
保有物件の「持ち続けるか、入れ替えるか」の判断にも使える
残債利回りは、すでに持っている物件を見直すときにも役立ちます。返済が進むと融資残高が減るため、家賃が変わらなければ残債利回りは年々上がっていきます。物件B(金利2%・25年返済の仮定)であれば、家賃が600万円のままなら、10年後には残高が約5,900万円まで減り、残債利回りは約10%になります。
物件ごとに残債利回りを並べると、ポートフォリオの中で「借入に対して稼げていない物件」がはっきり見えてきます。その物件が今後も家賃を維持できるのか、空室や修繕で残債利回りがさらに下がるおそれはないのかを確認し、場合によっては売却や借り換えで入れ替えを検討します。売却を考えるときは、手取りに影響する税金も事前に試算してください(不動産売却の税金)。
私が2019年からの立て直しで最初に手をつけたのも、毀損した物件の売却でした。全体の数字を重くしている物件を見極めることが、次の融資への近道になります。
まとめ
- 表面利回りは物件価格に対する家賃の割合で、借入の重さを示さない
- 残債利回り=年間家賃 ÷ 融資残高。借りたお金に対する稼ぐ力を示し、銀行の見方に近い
- 残債利回りが返済額の割合に近い物件は、家賃のほとんどが返済に消える
- 残債利回りの低い物件を積み重ねると、債務償還年数が延び、格付けの返済能力が下がる
- 買う前に、ポートフォリオ全体の残債利回りが購入後どう変わるかを必ず計算する
格付けが高ければ融資が出続け、融資が出れば買い続けられる。そのための設計図として、残債利回りを使ってみてください。クレフティでは、物件購入前のシミュレーションや、ポートフォリオ全体の見直しを、銀行格付けの目線からお手伝いしています。
